【インタビュー】リーガルリリー、温かみや透明感を湛えていると同時に陰影に富んだ魅力的な一作『the Telephone』
■「overture」は中学時代の色がテーマになっています
■今の自分が思い返してその色を思いながら書いた曲です
――たかはしさんがデモを作るのではなくて、探りながら作っていったんですね。曲を完成させるきっかけになった歌詞についても話していただけますか。
たかはし:私はずっと実家に住んでいたんですけど、独り暮らしを始めたんです。そこで、母親の存在の大きさに気づいたというのがあって。それで、母親だったり、大切な人に向けて書いたのが「うつくしいひと」です。なんか……弟とか、お父さんがもしも戦争に行ったら、人を殺せないだろうなとか考えながら書いていました。
ゆきやま:「うつくしいひと」は歌詞も良くて、ぜひ聴いてほしいです。あと、私の中では「overture」も印象が強いですね。この曲は最初はもっとテンポが速くて、ギターもずっと同じパターンのストロークを弾いていたんです。それに合わせて私が考えたドラムのフレーズをほのかに送ったら、めっちゃギターを減らしてきたんだよね?
たかはし:うん。ドラムを聴いて、Bメロでアルペジオを使ったりすることにしたんです。
ゆきやま:そういうやり取りを重ねて、どんどん曲の雰囲気が変わっていくのがすごく面白かった。この曲の始めのほうはドラムというよりは、パーカッションみたいなイメージですね。
――「overture」は、ほのかに香るグラス・ミュージック感が心地いいですし、ロックに憧れる10代の心を描いた歌詞とのマッチングも光っています。
たかはし:もろにカントリーみたいにするのは嫌で、この曲もちょっとポストロックを入れました。「overture」の歌詞は、中学時代の色がテーマになっています。人生を生きていると、今過ごしている自分の色というのはわからないんですよね。時が経つにつれて、色というのは鮮明に見えてくる。今の自分が中学時代を思い返すと、絶対に色がついているんですよ。その色を思いながら書いた曲です。私は福生に住んでいて、横田基地の通り沿いをずっとチャリで走っていたし、高校時代のアルバイト先が横田基地のほうだったんです。その頃の自分を結構リアルに描きつつ、福生のことが取り上げられている本を読んで感じたことも混ぜた歌詞になっています。
――たかはしさんが書かれる歌詞は具体的な心情や情景の描写を用いつつ、フワッとしていることが特徴と言えます。
たかはし:そう言われると、そうですね。……言われて思ったんですけど、今回の歌詞は「僕のリリー」と「スターノイズ」以外は全部テーマが一緒なのかもしれない。どの曲も母親を思って書いた気がするんですよ。私の中で、母親はすごく大きな存在なんです。
ゆきやま:ママは偉大だよね。
たかはし:偉大です(笑)。母も自分と同じ人間だと気づいたのが大学1年生のときで、そう気づいてから自分の生み出す芸術とつながるところが多くなったというのがあって。歌詞も母性みたいなものが核になっているから、柔らかい印象になっているんじゃないかなと思います。全部、私の中では愛があるから。
▲ゆきやま(Dr.)
――そこも個性といえますね。話を『the Telephone』の楽曲に戻しますが、マニアック&キャッチーということでは「スターノイズ」も外せない1曲です。イントロは変拍子で、歌中はウォームで、プログレッシブな中間セクションを経て、不安感を煽って終わるという展開に強く惹き込まれました。
たかはし:高校3年生のときに、いろんなジャンルの要素を織り交ぜたバンドしか聴いていなくて、リーガルリリーもそういうバンドにしようと思ったんです。それで、「スターノイズ」を作ったんですけど、みんなの技術が追いつかなくて(笑)。そういう方向性は、これ1曲だけで終わりにしました(笑)。曲調的にも、こういうのは1曲あればいいかなと思ったというのもあるし。
ゆきやま:「スターノイズ」は、私が受験でバンドを個人で活動休止していたときに作った曲なんです。ほのかがパソコンでドラムを作って、それをそのときのサポート・ドラマーに送って、そのドラマーがその人なりの解釈で仕上げたんですね。最初はすごく難しかったらしくて、それをちょっと簡単にしてできた…みたいな。その後私が帰ってきて、この曲を聴いたときは“うわっ!”と思いました(笑)。
たかはし:全然、叩けなかったよね。
ゆきやま:うん、ぜんっぜん(笑)。拍がどうなっているのかわからなかったし、その頃の私は速いビートは苦手だったんですよ。そういう状態から入っていって、かなり練習して、ようやく叩けるようになりました。
たかはし:ゆきやまがこの曲をものにしたときは、“さすが!”と思いました(笑)。「スターノイズ」の歌詞は、星を見ながら自転車を漕いでいたら、『星を追う子ども』という新海誠さんのアニメ映画がフッと浮かんできて。そのときの自分の感覚とアニメの世界がリンクしたので、それをもとにして書きました。
――新海誠さんのアニメも好きなんですね。「スターノイズ」のような曲はもういらないと思われているようですが、本当に魅力的なので、また作ってほしい気がします。
たかはし:わかりました。じゃあ、作ります(笑)。
――ありがとうございます(笑)。『the Telephone』の後半には「僕のリリー」「せかいのおわり」というアッパーな曲も入っていますね。
たかはし:「せかいのおわり」は、珍しくスタジオで作ったんです。私がスタジオでギター・フレーズを弾いていたらジャム・セッションみたいなことが始まって、そこから形にしていきました。
ゆきやま:そうやって作ると、こうなるよという(笑)。この曲を作ったときは、私はNUMBER GIRLさんとかをイメージしていましたね。私たちはストレートなロックも好きだし、こういう曲を入れることでアルバムとしてのバランスも良くなっているんじゃないかなと思います。
たかはし:それは、私も思った。ただ、「せかいのおわり」の歌詞は、なにを言っているのかわからないと思いますけど(笑)。
――たしかに比喩的ですね。個人的には、10代が終わってしまうことに対するせつない心情を描いたのかなと思いました。
たかはし:いえ、違います。これは、もうそのままです。核戦争とか、環境破壊とかで世界が終わる前に、みんなが月に移住するという。なんの比喩も隠されていない(笑)。月に移住したほうがいいのはわかっているけど、地球が捨てられない…みたいな。
ゆきやま:すごく暗示的な歌詞のようで、実は一番ストレートという(笑)。
――そうなんですね(笑)。その辺りからも発想の自由さを感じます。では、続いて、プレイに関する話をしましょう。今作を録るにあたって、プレイや音作りなどの面でこだわったことは?
ゆきやま:ほのかが作った曲をもらうと、“うわぁ、ここはどういうドラムにしよう?”ということが結構多いんですよ。
たかはし:同じ音楽を聴いて育っていればたぶん感覚でわかるんですけど、ツェッペリンとポストロックなので、絶対に合わさらないんですよね。でも、そこでがんばって、がんばって合わさることで独自のものが生まれるんじゃないかなというのがある。だから、曲を作るときは、ゆきやまのルーツとか、好みとかは考えないようにしています。
ゆきやま:私も、それでいいいと思っています。ほのかが作った曲を聴いて、“ああ、あれか”とわかったら、どうしても元になっているものに近寄ってしまいますよね。そうじゃなくて、“どうしたらいいんだろう?”と思って、いろんなことを試して、答えを見つけるのが楽しいから。ドラムのフレーズを考えるときは、温度感をすごく大事にしています。ほのかの温度感とか、盛り上がり方は、肌に馴染むのに時間がかかるんですよ。そういうときは好きな曲をいっぱい聴いて、この辺の温度感が混ざる気がするというのが見つかったら、それを曲に良い感じに合うようにアレンジする。自分の引き出しの中にあるものだけでなんとかしようとは思わないです。
――普通にビートを叩いている場所が少ないという凝ったアプローチやレンジの広さに惹かれました。
ゆきやま:ありがとうございます。ドラムは小さい音で叩くのが難しいんですよね。自分では、それがあまりできていない気がしていたので、そう言ってもらえると嬉しいです(笑)。普通にビートを叩かないのは、リーガルリリーはトリオ形態でライブをしているから、ドラムで埋めないと…と思っているというのもあって。あと、ほのかに「もっと歌に合わせてよ!」と言われたことがあって。
たかはし:ずっとギターに合わせていたんだよね?
ゆきやま:そう。そうじゃなくて、もっと歌ってよと言われてから歌を意識するようになったことも大きいですね。今回のドラムは、そういういろんなことをうまく反映できた感覚があって、お気に入りのフレーズが多いです。
たかはし:ギターは普通にヘタなので、やれることがあまりなくて(笑)。自分の中では最大限のことをしているつもりですけど……どうなんでしょうね。
――埋めないアプローチやモジュレーション・エフェクトを掛けた音色など、自分のスタイルを持っている人だなと感じましたよ。
たかはし:個性だと感じてもらえたなら良かったです(笑)。コーラスはカート・コバーンがELECTRO-HARMONIXのスモール・クローンを使っていたので、自分も使うようになりました。コピーバンドをやっていた頃から私の足元は変わっていなくて、お父さんにもらったRATと友達の従兄のお父さんにもらったBOSSのコーラスをずっと使っています。譲り受けたものを組み合わせたら、ああいう音になったという。つまり、狙ったわけではなくて、偶然なんです(笑)。歌に関しては……いつも適当なんですよね。こだわりとかは、特にないです。自分の中では喋るみたいな感覚ですね。
――温かみや透明感のある歌声が心地いいですし、アッパーな曲でもスタイルが変わらないことは個性になっています。
たかはし:へぇー、そうなんだ。
ゆきやま:他人ごと?(笑)
たかはし:自分では、わからないです(笑)。本当に歌にはこだわりがなくて、どの曲も2~3テイクくらいしか歌わないんですよ。
――早いですね。でも、決して粗い歌ではなくて、歌中で表情を変えたり、微妙な温度感で歌ったりされていますよね。
たかはし:……それは偶然です。歌うたびに温度感は違っているんですよ。
ゆきやま:そう。それを聴き比べて、こっちのほうが雰囲気がいいかな…みたいな感じで決める。細かいニュアンスにこだわって、何度も歌ったりすることはないですね。ほのかは自分で曲を作っているから、どういう歌が合うかは自然とわかるみたいです。
たかはし:それは、ありますね。今回の歌は、どうだろう?……私は、自分の低い歌声のほうが好きなんですよ。なので、「僕のリリー」の“茶色くなった手首で”というところのすごく低い声とかはいいなと思います。今までは高ければいいと思って高い声に挑戦していたけど、今回は低さにも挑戦してみました。
――二人のいろいろなことに挑戦する姿勢もいい方向に出て、『the Telephone』は聴き応えのある一作に仕上がりました。さらに、アルバムのリリースに合わせた全国ツアー『遠距離恋愛』も、6月6日から始まっています。
たかはし:ここまでガッツリまわるツアーは、初めてなんですよ。今までは東名阪ツアーしかしたことがなかったし、3マンとかだったので、いろんなバンドのお客さんがいたんですよね。今回はワンマンや2マン主体なので、大丈夫かなと思って。私は日本中にリーガルリリーのお客さんがいるということが、全然信じられないんです。だから、怖いです。その怖さを払しょくできるといいなと思っています。
――各地で待っている人が沢山いると思いますよ。リーガルリリーのライブは、どんな空気感なのでしょう?
ゆきやま:日によって違うんですよ。明るい感じの曲が多いときもあれば、暗い感じの曲が多い日とかもあるよね?
たかはし:うん。毎回同じような表情のライブをしていると、飽きちゃうので。
――ということは、今回のツアーはいろんな顔を見せていって、ファイナルの渋谷CLUB QUATTROで集大成を見せるという流れでしょうか?
たかはし:あっ、それいいですね。そうします(笑)。
ゆきやま:そうしよう(笑)。『the Telephone』のほとんどの曲は今回のツアーで初めてセットリストに組み込むので、それがワンマンでどう映えるかというのがあって。長尺のライブがいい感じになりそうな気がしているので、ワンマンが楽しみですね。いろんな空気感のライブを重ねていくことで、今の自分たちが本当にやりたいことが見えてくると思うし。だから、すごくファイナルを観てほしい。ツアー先で観た人も、ぜひファイナルにも来てほしいです。
取材・文●村上孝之
リリース情報
2018.06.06(wed) release
BIOTOPE-003/\1,600-( 税抜)
1.スターノイズ
2.うつくしいひと
3.いるかホテル
4.overture
5.僕のリリー
6.せかいのおわり
ライブ・イベント情報
6/06(水) @ 下北沢SHELTER
(出演) リーガルリリー、paionia
6/10(日) @ 札幌Bessie Hall
(出演) リーガルリリー、NOT WONK
6/16(土) @ 新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
(出演) リーガルリリー、さよならポエジー
6/17(日) @ 仙台enn 3rd
(出演) リーガルリリー、SUNNY CAR WASH
6/23(土) @ 福岡the voodoo lounge
(出演) リーガルリリー、teto、ドミコ
6/24(日) @ 広島4.14
(出演) リーガルリリー、teto、ドミコ
6/30(土) @ 池下CLUB UPSET
(出演) リーガルリリー、SAKANAMON
7/01(日) @ 梅田Shangri-La ※ワンマン
7/05(木) @ 渋谷CLUB QUATTRO ※ワンマン
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