【インタビュー】陰陽座「僕たちの思う王道は世間では覇道と呼びますが、それで十分なんです」
■バラードを1曲は入れるという予定調和を今回は廃してみてもいいんじゃないか
■だから、黒猫が「いらないでしょ」と言ってくれるのを待っていた(笑)
──今作は、「覇王」から始まって「無礼講」で終わるこの流れは完成されたものがあります。メロディの起伏という点においても、アルバムを通して聴いたときの気持ち良さが格別なんですよ。
瞬火:ありがとうございます。「覇王」から「覇邪の封印」のワンツーの流れは、最初からこのポジションに来る曲だという作り方をしているとぐらいで、そこからこの流れをどんな曲が引き継いで、どういうふうに流れていって、締めはこう、と考えていって。特に今回は10曲というちょうどキリの良い曲数だし、ひとつ違ったら大きく印象が変わるので、最高の流れになるように一生懸命考えました。
黒猫:勢いがありながら、陰陽座らしいメロディの起伏というのが存分に楽しめるような流れになっていますし、特に今回はバラードが1曲もないんですよね。それも、このタイトルでこの10曲という中においては本当にこれでよかったなと思っていて。最初、瞬火は収録候補にバラードも1曲作っていて、それもすごく良い曲で、この中に入っていたとしても別に勢いが削がれるということはないだろうとは思うんですけど、今回はあえてなくてもいいんじゃないかということを私のほうから背中を押して、こういう形になりました。
瞬火:10曲と決めていたこともあり、1曲外してバラードを入れるか、あるいはバラードを入れて11曲に増やそうかと悩んで。バラードを1曲ぐらい聴きたいというファンの人もいれば、なくてもカッコよければいいという人もいるでしょうけど、僕らとしてはバラードを1曲は入れるという予定調和を、今回は廃してみてもいいんじゃないかと。候補曲を作っておきながら僕もなしでいこうかなとは思っていたんですけど、僕が頭ごなしに「今回はバラードを入れないから」と言うと、そのバラードで自分の見せ場を作るであろう黒猫に対してパワハラになってしまうかなと思って。
黒猫:ふふふふふ。そんなことはないです(笑)。
瞬火:だから、黒猫が「いらないでしょ」と言ってくれるのを待ったという(笑)。
黒猫:あ、そうだったんだ(笑)。まんまと引っかかった。でも、本当にこれでよかったと思います。
──実は僕もアルバムを聴き終えるまで「バラードが1曲もない」と気づかなかったくらいで。
黒猫:でも、そうかもしれないですね。すごくヘヴィなアルバムではあるんですけども、メロディアスな部分もまたさらに広がっていると思うので、そういう意味では美しいメロディも堪能しながらヘヴィな世界観に没頭できる作品じゃないかと思います。
──そのメロディアスさがバラードに似た感情的な部分を引き出していると思いますし。それにしても10曲という潔さは、ここ最近の作品にはなかったものですよね。
瞬火:そうですね。CDというのはたくさん入れようと思えば入れられる媒体なので、もうちょっと入っていても聴く人は嬉しいのかなと思って、ここ何作かは12曲ぐらいでやっていたんですけど、むしろ昨今は「CDの時代」というのをとっくに過ぎているなと。最近はダウンロードやサブスクリプションが利用されていて、多様な音楽の聴き方が溢れてきています。その中で自分が好きなものを楽曲単位で、海の中を泳いで探すかのように見つけて聴く、そういうスタイルが主流のようですが、自分自身はあくまでアルバムという単位で手に取って、流れに沿って聴くという世代。でも、最近の若い方はそのアルバムに自分が気に入る曲が何曲入っているかに興味があるとすれば、それが10曲入りだろうが18曲入りだろうが好きな曲が3曲だけだったらまったく同じ話なので。だったら自分たちが一番すっきりする10曲というアルバム構成で、とにかく良い曲がぎっしり入っていればそれでいいだろうと、良い意味で開き直った感じですね。
──デジタル中心になるとジャケットやブックレット、解説、歌詞に目に通して音楽を楽しむという、アナログ盤やCD時代の風潮もなくなっていくんじゃないかと思うんです。特に陰陽座のようにアートワークまでしっかり作り込むアーティストにとっては、そのへんは歯がゆいんじゃないでしょうか?
瞬火:寂しくはありますよね。ジャケットもここのところずっと野波浩さんにこれほどの写真を撮ってもらっているのに、「ジャケットとか別にいい」とか言われると悲しさしかないですし。それでも、ジャケットも別にいらないしアルバム単位では捉えないと言われる時代にあっても、陰陽座のファンの方はCDというものだったり、ちゃんとジャケットやブックレットを物理的に手に取る形で聴いてくれている方が多いんじゃないかと思っています。だから自分達としてはアートワークまで含めた作品作りを大切にしていますし、大事なのはなんとなくフラフラ探していたら良い曲を見つけたと言うような聴かれ方をしても、1曲聴いた時点でとりこになってもらえる音楽を作ればいいわけですし、長年応援してくださっている方には歌詞カードをガン見しながら楽しめるようにフィジカルの作品をしっかりと届ける。つまり今までやろうとしてきたことをそのまま進める以外に、やるべきことはない、という気持ちですね。
──アートワークから受けるイマジネーションというのも、音楽を楽しむ上では非常に重要だと思いますし、今作のようにジャケットから感じられる迫り来る怒りを、どんな音で表現しているんだろうと感じてほしいですものね。ここまで緻密なアートワークだからこそ、前作『迦陵頻伽』同様にアナログ盤の大きいジャケットで見たいですよ。
瞬火:そういう意味ではアナログLPがCDにその座を奪われたときに、LPを愛していた人は「(CDは)ちっちゃいな」と思ったんでしょうね。
黒猫:うん、そう思いましたね(笑)。
瞬火:1枚のLPを買って家に帰るまでのその重さが嬉しい、というような物理的な感覚や喜びは、回線を伝ってデータで落ちてくるものでは味わえないものではありますけどね。
黒猫:家まで待ちきれなくて、電車の中で歌詞カードだけ見たりとか、ああいうことも今はできないですし。
瞬火:もっとも、今の10代の方からすれば、そういうものがない時代に生まれたんだから、そんなこと言われてもしょうがない、という感じだと思いますし、フィジカルで聴かなければダメなんていうことはないですけどね。でも、久しく聴いていないCDを10何年ぶりに引っ張り出してきて「ああ、これ!」と感じるあの哀愁は、MP3でも起こり得るのかなと。もしあるなら、iTunesの中だとしてもプレイリストで陰陽座を久しぶりに見つけた人が、特別な感情を思い起こすようなことがあったら嬉しいですね。
──そう考えると、陰陽座が結成された1999年から現在までの約20年って、音楽シーンがその構造含めて大きく変化したタイミングでしたよね。そもそも、このバンドを始めた頃はいつまで続けようとか、そういう意識で活動していたとは思いませんが。
黒猫:想像もしてなかったですよね。とにかくバンドをやろうっていう衝動があって、ただみんなと楽しくやっていたらデビューの話が来て。そのデビューの話もアルバムを1、2枚出させてもらえるだけかな?みたいな気持ちでいたので、まさか20年経って今も歌っているとは本当に想像してなかったので。音楽業界的にも激動の時代だったとは思うんですけど、そこで何枚も先を見据えるリーダーのもと、みんなで心をひとつにして着いていってここがあるというのは、本当に奇跡としか言いようがないですよね。
瞬火:そうですね。本当にひたむきに、ブレることなく一生懸命続けていたからこそここまで続いたと思いたいですけど、例えば一生懸命音楽と向き合って頑張ってさえいれば好きなだけ続けられるというわけではないですよね。僕たちが20年近く自分たちの信念だけで、言ってみれば姿勢としてまったく柔軟性を欠くこんなやり方でこれだけやらせてもらえたのは、ひとえに素晴らしいファンの方に選んでもらえたということに尽きます。リスナーは自分で聴くバンドを選べるけど、バンド側はこういう人にライブに来てほしいとかこういう人に聴いてほしいとか一切選べないですからね。ということは、どんなファンの方に選んでもらえるかは本当に出会いの妙でしかない。だから、20年近くも陰陽座を歩ませてくれたファンの人たちに出会えたことが奇跡、という言葉が安っぽく感じるぐらい縁を感じます。
取材・文●西廣智一
リリース情報
発売日:2018年6月6日(水)
【初回限定盤】KICS-93715 \3,200+税
-初回盤限定特典-
特製スリーブ・ケース
カラー・フォトブックレット
【通常盤】KICS-3715 \3,000+税
■収録曲(全10曲収録)※初回限定盤・通常盤共通
1.覇王
2.覇邪の封印
3.以津真天
4.桜花忍法帖(覇道MIX)
5.隷
6.腐蝕の王
7.一本蹈鞴
8.飯綱落とし
9.鉄鼠の黶
10.無礼講
ライブ・イベント情報
8月24日(金)福岡DRUM LOGOS 開場:18:00/開演:19:00
8月26日(日)佐賀GEILS 開場:17:30/開演:18:00
8月29日(水)松山W studio RED 開場:18:30/開演:19:00
9月1日(土)大阪なんばHatch 開場:17:00/開演:18:00
9月8日(土)青森QUARTER 開場:17:30/開演:18:00
9月11日(火)仙台Rensa 開場:18:30/開演:19:00
9月14日(金)札幌PENNY LANE24 開場:18:15/開演:19:00
9月21日(金)富山MAIRO 開場:18:30/開演:19:00
9月23日(日)名古屋DIAMOND HALL 開場:17:00/開演:18:00
9月25日(火)岡山CRAZYMAMA KINGDOM 開場:18:30/開演:19:00
9月29日(土)東京TOKYO DOME CITY HALL 開場:17:00/開演:18:00
◆インタビュー(1)へ戻る