【インタビュー】キズ、来夢を苦しめる8つの誤解(前編)
キズは2017年に始動したヴィジュアル系バンドだ。始動してわずか10ヶ月でTSUTAYA O-WEST公演を2階席までソールドアウトさせ、順調に活動しているように見える。しかし、作詞作曲、ボーカルを務めるいわばバンドの首謀者の来夢は「誤解されている」と嘆く。
◆ミュージックビデオ
その嘆きは予想以上に強かった。来夢は今回行ったインタビューで「バンドの最期」まで口を開いてしまったのだ。「リリースされたばかりのニューシングルについて」というインタビュー内容にとどめておけば、時代が求める「親しみのあるV系バンド」でいられたのではないか。
このインタビューが原因で、キズを「V系バンドのひとつ」として単純に楽しめなくなってしまう可能性はある。だが、キズというバンド、そしてその首謀者である来夢の考えの一端に触れることで、新しい音楽の楽しみ方が浮かび上がってくるかもしれない。
◆ ◆ ◆
■【その1】キズはビジネスロックであるという誤解
――本日は来夢さんより「誤解を解きたい」との依頼でインタビューのお時間をいただきました。
来夢(Vo):実は僕、インタビューってすごく嫌いだったんです。キズのことは誰もわかってくれないんじゃないかと思っていたので。
――そうなんですか?
来夢:普通のインタビューだと、「このシングルの聞き所は?」とか仕事で来ているのが透けて見えて、僕は「このひとに真実を言いたくない」と思ってしまうので。そう考えたときに、純粋に僕のことを知ろうとしてくれるひとに、全部を話したいと思ったんです。だから、最初はファンに「俺をインタビューしてくれ」と思っていたんです。そんなときに『ヴィジュアル系の深読み話』というブログを書いている神谷さんの記事を見て「ここにベストの人がいた!」と思ったんです(笑)。
――そんな経緯で僕がインタビュアーに選ばれたんですね!僕が一番最初にキズを知ったのは、1stシングル「おしまい」リリース前に行われていた「アナタノ傷キカセテクダサイ」という電話相談の企画(※)でした。電話は通じませんでしたが…。
(※正体が誰か明かされないまま、電話番号だけを公開し3日間にわたって相談を受け付けた企画)
来夢:あ、電話してくれたんですか!
――80回とか90回とかかけたんですけど。
来夢:ほんとですか!どうしよう(笑)。あれはプロモーションというよりも、単純にやりたいことだったんです。あのきっかけもインタビューとかで話はしていたんですけど、それもあまり伝わりませんでした。僕があの企画でやりたかったのは、“どんな過去や傷を持っている人”に“何のために”歌うのかを再確認することでした。いい人生経験になりました。
――いまはインストアイベントなどで、ファンの方とコミュニケーションをとれる機会の量も質も上がっているように見えるのですが。
来夢:インストアイベントでは「誰と話しているか」が明確だから、言葉を選びますよね。でも電話企画では、僕の正体をわからないままファンの方は僕に悩みを打ち明けるわけで。そういった真の意味で、“人間と人間”で話せたのが一番の収穫でした。ファンもバンドに愚痴とか不満とかあると思うんですよ。僕も好きなアーティストに対して「このアルバムあまり好きじゃない」と感じることもありましたが、そういうことって本人を目の前にすると言えないじゃないですか。でも顔も名前も出さないで行なった電話企画で、ダイレクトなファンの方の言葉を聴けたことが、いまのキズの活動の支えにもなっています。
――あえて素性を隠したんですね。時流であるファン参加型企画なんだと思っていました。
来夢:「売れるかどうか」というビジネスの考え方ではなく、「誰のために歌うかを深く知りたい」と願う自分の本音に従いましたね。キズは僕も含めて馬鹿しかいないので、ビジネス的なことを思いつける人間はいないですね(笑)。「おしまい」の電話企画や、今回のシングル「傷痕」に収録されている「怨ミ節」の「ソノ怨ミ拝聴シマス」企画は情報拡散的なビジネスをやっていると言われることもあるんですけど、僕はビジネスの人間ではないので、それは誤解です。バンドマンからすると「うまくやってる」って思うのかもしれないし、こういう業界ってよく真似するじゃないですか。真似してもいいんですけど、真の意図を理解した上でやってほしいですね。
――売れるから、と思ってやったら、売れないかもしれないですね。
来夢:売れるために企画を行なっている、という誤解が生まれていますね。意図を理解しないまま真似するというのが、モノマネと本物の差なんじゃないかと思います。
※現在はこの企画は行われておりません。
■【その2】来夢は昔のファンを裏切っているという誤解
――1stシングル「おしまい」に収録されている「天誅」では、表面上のコピーを否定する歌詞を書かれていますよね。
来夢:実は、僕がこのバンドで一発目に本当に言いたかったことは「天誅」の歌詞に書いたことだったんです。なぜ僕がここにいるか、なぜここでバンドをやるかという意味を、事細かに説明する義務があると思ったんです。天誅の歌詞は、本当は原稿用紙5枚くらいありました。
――歌詞カードも見開きの半分使ってますもんね。
来夢:「天誅」は歌詞を削るのが大変で。本当は5番、10番まであってもいいんじゃないかと思うくらいです。
――いつか完全版を聴きたいですね。
来夢:30分くらいになるかもしれないです(笑)。でもそれもおもしろいかもしれないですよね。
――1人のリスナーとしてですが、曲がリリース日から数ヶ月経ってあまり聴かれなくなって過去の作品になってしまうのが、すごく悲しいといいますか。
来夢:キズもそう思っていて、歌詞も変えていこうと思っています。いま「おしまい」の歌詞では「自分自身 救った人生だ」、「この手でお前を救うことはできない」とはっきり言ってるんですけど、今は意見が変わっているのでライブのときその箇所は歌わないようにしているんです。でも聴いてる人たちはそういうところにも気づいてないと思うんですよ!「疲れて歌ってない」と思われてるのかも。
――キズは変わっていくんですね。
来夢:そうですね。僕は素直に歌詞も変えていこうと思います。時代ではなく自分に合わせて書いていきます。
――そう思うようになったのには、何かきっかけがあったんですか?
来夢:いま僕はさっき話した歌詞の部分を、「救われたい奴だけついて来い」って歌っていまして。最初は「おしまい」の歌詞にあるとおり“自身が自分で自分を「救った人生」”なんだから、僕がファンの方を救えるわけがないと思っていましたけど、キズをやっていくうちに誰かを救えそうな気がしてきたんです。キズが届けられる救いは小さな救いかもしれないけど、僕の中での唯一の希望が見えたんです。でも「おしまい」のときは「ファンを救える」という可能性を否定しているんです。「自分で生きていけ」と突き放したようなメッセージになり過ぎました。あのときといっても数ヶ月前のことなんですけど、誰かの思いを背負いたくないという恐怖心があったんだと思います。そのときは謝るのが本当にいやだったんです。
――謝るのが嫌というのは?
来夢:僕としては自分の非を認めたくないから謝りたくないのではなくて、バンドの終わりを「ごめんね」にしたくないという意図があるんです。キズはいつ終わるかはわからないですけど、絶対僕は「ごめんね」で終わりを迎えたくない。そのためにはファンの方や世間に媚びてはいけないと思ったので、媚びない姿勢が「おしまい」の歌詞にダイレクトに影響されたんでしょうね。
――1枚目のシングルの収録曲は、どれも鋭くて、“日本刀が鞘に入ってない”と感じました。
来夢:まったくそのイメージ通りです!前のバンドで作り上げた僕のイメージがあるので、昔から僕を知っているひとは「天誅」を聴いてショックでしょうね。前のバンドで歌っていたこととは真逆のことを歌ってますから。
――間違いなくショックですね。
来夢:でも僕は逆に嬉しかったですね。そこでショックの涙を流してくれたのもある意味、感動なんだと思うんですよ。僕が「天誅」の歌詞をtwitterでつぶやいていたら炎上していたはずです。
――だと思います。
来夢:でも歌にすると自然に聞こえてくるんですよね。それがバンドの説得力だというのが最近いたった結論です。あれは紙一重のところで、“なぜキズを始めたのか”をやっと伝えられたと思っています。
――「天誅」もただ嘘や綺麗事を攻撃しているというよりも、来夢さん自身も傷つけていますよね。天罰が一番下る先は来夢さん。
来夢:あぁ、そうですね。あの曲は自分を更生させてくれた曲でした。
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