【インタビュー】フルカワユタカ、3rdアルバム完成「“わかられてたまるか”と思ってましたから、その真逆です」
■「自分の欠点をファンの前で歌えばいいんだよ
■それを僕は見たいんだ」って(笑)
──意外で、でも、それがすごくよかった曲が「デイジー」です。'60年代ポップスのようなハーモニーとか、管楽器とか鍵盤楽器の陽性な音色が入ってくるような、こんな感じも持っていたんだなと。
フルカワ:この曲は「明るい」とよく言われますね。ただ、シャッフル調のロカビリーとパンクが合体したリズムは、インディーズ時代に幾つか作っているんですよ。この曲は音のイメージもそうですけど、歌詞がかなり前向きなので一層明るく感じさせるのかもしれないですね。そういう自覚はあります。
──歌詞に関してTGMXさんは?
フルカワ:TGMXさんが普段プロデュースをするとき、歌詞には何も言わないんですって。KEYTALKをプロデュースしたときもそうだったみたいで。「歌詞は人のものだし、自分は英語詞だからわからない。ただ、ひとつお前には注文がある」と。
──その注文とは?
フルカワ:「俺は音楽的なことしかしないプロデューサーだけど、お前の日本語詞はいつも、ちょっとスケベだ」と。「小エロい」と言ってましたかね(笑)。僕的には、人生のいろんなことを男女関係にたとえて、セクシャルに表現することで、音楽にグロさとか深みを出すというか、そういう解釈でやってるんですけどね。それがTGMXさんの好きな音楽にはないみたいで、「なんでわざわざそういう表現をしないと伝えられないのかわからない。特にお前は最近、市川くん(LOW IQ 01)と一緒にやっているわけで、パンクキッズも相手にしているんだから、こういう歌詞では伝わらないし、拳を上げられないから。普段は歌詞のことは言わないし、こういうことは言いたくないが、そういう表現はやめてほしい」と。
──随分とはっきりと言われたんですね。
フルカワ:ホントに。最初は“これが自分の表現だから”ってムッとはしましたけど(笑)。でも今回はTGMXさんと一緒にやると決めていたので、自分に縛りをつけてチャレンジしてみたら、僕の歌詞って、思ったより小エロいんですね(笑)。書けないんですよ、小エロくしないと(笑)。たとえば好きな本も、グロいもの、怖いもの、ヒューマンサスペンスなものだから、その暗さみたいのが滲み出すぎていたんだなというのは勉強になりましたね。その縛りを念頭に置きながら書いたら、やっぱり世の中の人に一番近い歌詞になったのかなと。
──違和感ないですし、それが今回は歌の良さとして伝わってきますね。
フルカワ:今までの僕にはふたつしかなかったんです。小エロと怒り。その怒りも、なんでうまくいかないんだ、みんなが悪いんだっていうようなもので。DOPING PANDAの「Crazy」の歌詞が大好きだって言ってくれるファンも多いんですけど、あれ、世の中に対する悪口ですからね。“こんなに素晴らしい俺なのに、うまくいかなくてごめんね”みたいな。不思議なことに、今歌うと真逆の意味、自分の弱さを歌ってるように聞こえるんです。
──ははは(笑)。確かに。
フルカワ:なので僕の歌詞は、怒りとエロっていう中二病みたいなやつです(笑)。で、そういう歌詞って、人に聞かせるためのものではないんですよ。それに、BARKSでコラムを執筆している流れもあるんですけど、前アルバムくらいから活字に対する欲求というか、楽しみがあって。だから、いいタイミングで“縛り”をもらったなと。今回の歌詞は全体的に好きなんですよね、自分で。「シューティングゲーム」はちょっと小エロいですけどね。
──そういう歌詞の変化が発声にも影響してますよね。柔らかな曲はより柔らかくというか。先行シングルから想像すると、ロックで都会的な方向のアルバムなのかなと思いきやドラマがあって。エモーショナルで繊細だと感じました。
フルカワ:歌い方も変わりましたしね。キーも下げたし、昔に比べたら自然なんです、いろんなことが。一生懸命高い声を出して歌うのも、それは美しさなんだけど、今の自分に合った、歌詞に合った、曲に合ったキーでの歌い方。それもあまり意識してないというのがミソです。収まるところに収まろうとしている。
──「DAMN DAMN」は髭の須藤さんが作詞で参加していますが、これはどんな経緯だったんですが。
フルカワ:僕は須藤くんの声が大好きだから、歌で参加してもらうカタチでも全然よかったんですけど、不思議とそれは今じゃないなと思ったんです。あと、GATARI(須藤のソロプロジェクト)に僕は楽曲提供しているし、彼にも僕の作品に関わってほしいと思っていたなかで、パッと浮かんだのが歌詞。僕は彼の歌詞も歌と同じくらいリスペクトしていますから。
──独特の感覚を持ってますよね、須藤さん。
フルカワ:このアルバムのインタビューはこれまで何本かしているんですけど、「最初から須藤さんに歌詞を書いてもらうつもりで曲を書いたんですか?」って言われるんです。
──髭の曲っぽいですもんね。
フルカワ:たしかに、デモの段階から“須藤くんが歌詞を書いたら面白い”と思ってた曲だったんで、ぴったりでしたね。でもね、ひどい話があるんですよ。まず、LINEで長ーい歌詞が送られてきたんです。頭のなかでメロディを流しながらその歌詞を読んで、「すげえ、いい!」って返信したんですよ。で、そのあとすぐに気づいたのが、“あれ、これ歌うの俺だよな?”ってことで。
──ですよね、須藤さんが思うフルカワさんについて書いた歌詞だと読み取れます。“その眼鏡もとても似合うよ”とか。
フルカワ:しかもちょっと揶揄した感じですよね(笑)。須藤くんが歌うなら、愛あるコミックソングとしていいなと思うんですけど、“僕自身が歌うってどういうこと?”って。「この歌詞を僕が歌うっていうのは、どういうふうにとらえて、どう演じればいいんですか?」って須藤くんに聞いたら、「自分の口から、自分の欠点を、ファンの前で歌えばいいんだよ。それを僕は見たいんだ」って。
──仕掛けてきましたね(笑)。
フルカワ:「サイテーだな」って言いましたけど、とても愛と友情が感じられる(笑)。ただ、実際にアコースティックライブで初披露したら、会場がクスクスクスクス笑ったんですよ。歌い終わったら、スタンディングオベーションが起こるんじゃないかっていうくらい拍手でワーッ!となるという。須藤くんも作詞は「楽しかった」って言ってましたね。まあ楽しいでしょうね、この歌詞は(笑)。
──曲としての完成度も高いですから。
フルカワ:音楽的なことを言えば、須藤くんはリズムに対する言葉の当て方が上手なんです。しっかり歌詞が聞こえながらも洋楽のリズムになる。そもそもこの曲のデモは、スペシャルズみたいなイメージだったんですよ。アメリカンポップっぽいスカやレゲエのコード進行ですね。そうしたらTGMXさんが、「たしかに、レゲエはカッコいいけど、お前がレゲエをする意味がわからない。これ、なんでレゲエアレンジなの?」って事あるごとに。で、「一回、ウィーザーっていうかベン・フォールズ・ファイヴっていうか、大ノリのドラムにパワーコードでディストーションみたいのやってみない?」って言われてやったみたら、全然こっちだなと自分でも思って。それがたまたま髭っぽかったんですよね、不思議な巡り合わせです。
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