【レポート】<RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017>、<DIGGIN' IN THE CARTS>日本のゲーム音楽と電子音楽がクロスオーバーした夜

ポスト

10月22日からおよそ一カ月に渡り開催された<RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017>。そのクロージング・イベントである<DIGGIN' IN THE CARTS>が11月17日(金)に恵比寿リキッドルームにて開催された。

◆<DIGGIN' IN THE CARTS> 関連画像&映像

イベント名は2014年にレッドブル・ミュージック・アカデミーが公開した日本のゲーム音楽史を辿ったドキュメント映像シリーズに由来するよう、日本のゲーム音楽と電子音楽をクロスオーバーさせたライブ&DJイベントとなった。

開場前からエントランスには行列ができ、イベントへの注目度の高さを伺うことができた。日本のゲーム音楽を築き上げたレジェンドが一堂に登場することもあり、開場にはゲーム好きなファンが集結。当日のプログラムはLIQUID LOFTとLIQUIDROOMの2フロアでプログラムが組まれており、夜の7時から深夜まで、数多くのアーティストが参加した。

(C)Keisuke Kato/Red Bull Content Pool

メインフロアのトップバッターはQUARTA 330。のちに登場するKODE 9率いるレーベル、ハイパーダブからもリリース経験があり、任天堂ゲームボーイを使ったトラック・メイキングでも知られる気鋭の日本人プロデューサーだ。8ビットなチープな電子音を織り交ぜつつも、同時にベース・ミュージックのマナーに則った重心の低いビートを繰り出し、ゲーム音楽をダンス・ミュージックとして昇華させるような快演を見せてくれた。

(C)Suguru Saito/Red Bull Content Pool
続いて登場したCHIP TANAKAは、数多くの名ゲームの音楽を手掛ける“たなかひろかず”のライブ名義。全編にわたってポップなシンセ・サウンドのなかに耳を捉えるメロディがあり、ゲーム音楽の作家としての実力を感じさせてくれた。ライブセットらしくCHIP TANAKAの世界観をじっくりと披露するようなパフォーマンスに観客も大いに盛り上がる。

(C)Keisuke Kato/Red Bull Content Pool

プレイステーション用ゲーム『L.S.D.』のクリエイターとしても知られる佐藤理は、事前にこのゲームのプレイ画面のように一人称で歩く映像を世界中から募った映像を展開。ゲームで堪能できるドリーミーでアシッドな電子音楽とともに、独自の世界を披露した。夢物語のようなサイケデリックなセットが終わった瞬間に、会場からは大きな拍手が湧き起こった。


(C)Suguru Saito/Red Bull Content Pool

続いて登場したKODE9は、森本晃二の映像作品を用いたAVショーを披露。KODE9は日本のゲーム音楽の愛好家でもあり、本イベントの名前を冠したコンピレーション作品でも選曲を手掛けている。また、ベース系アーティストとして低音の鳴りという視点でも、当時のゲーム・ミュージックが持つ低域の再生力に魅了されたというKODE9らしい独自の解釈で、ゲーム音楽の新たな一面を垣間見せるセットを披露してくれた。

(C)Keisuke Kato/Red Bull Content Pool

そして本イベントの目玉でもあったのが、ゲーム音楽のコンポーザーである古代祐三と川島基宏のジョイント・ライブだ。格闘アクション・ゲームの傑作として、海外でも評価の高いセガの『ベア・ナックル』は、彼らが制作したゲーム音楽のなかでも、クラブ・ミュージックを先取ったサウンドで多くのフォロワーを生みだした名作として知られる。ライブでは先述作品を中心としたライブ・セットを展開し、ソウルIIソウルなどを彷彿とさせるシリーズ1から、デトロイト・テクノやハウスといった、よりダンス・ミュージックへ傾倒した同シリーズ2や3までを網羅し、ファンにとっては貴重な体験となった。

(C)Suguru Saito/Red Bull Content Pool

暖まりきったフロアに登場したKEN ISHIは、『ベア・ナックル』とも共通する“90年代縛り”のテクノセットを国内にて初披露した。これまでステージに登場したゲーム音楽のプロデューサーたちがライブで聴かせた感じとはまったく異なり、ISHIIは百戦錬磨のDJセットでフロアを煽る姿が印象に残った。テクノのビートを矢継ぎ早に紡いでいくDJプレイに加え、これまた90sなVJの映像が組み合わさり、まるで90年代のレイヴ会場にいるような錯覚を覚える、素晴らしいパフォーマンスを体感することができた。

(C)Keisuke Kato/Red Bull Content Pool

そしてこの日メインフロアを締めたのはDJ/トラックメイカーであり、自身主宰のTREKKIE TRAXよりニューアルバムをリリースする予定のCarpainterが迫力のパフォーマンスを繰り広げる。オープニングをQUARTA 330、エンディングをCarpainterが務め上げ、新世代が解釈する“新しい”ゲーム・ミュージックを身体中に浴び幕を閉じた。このイベントはゲーム音楽のファンにとって千載一遇の内容であったことはもちろんだが、エレクトロ・ミュージックが好きなオーディエンスにとっては、電子音楽という側面から見た、ゲーム・ミュージックの面白さ、カルチャーとしての奥深さを堪能できたはずだ。日本が世界に誇るゲーム文化の魅力について、このイベントに参加したアーティストたちは以下のコメントを残している。

「10年後も100年後も伝えていきたいカルチャー」

突出したオリジナリティやクリエイティビティはどんなジャンルのものであっても永遠に人々の意識に刺さる。──KEN ISHII

10年前の音楽は、普通に聴いています。例えば、音楽家は「おぎゃー」と生まれた時から音楽家であるならば、セロニアス・モンクは今年で、ちょうど生誕100年、いまでも聴くたびにあたらしい発見がある。ちなみに僕が最近リリースした『OBJECTLESS』は35年前に発表したものがオリジナル。65年後に聴かれているかは、僕には確認できないけれど、永遠に聴いてもらえることを願い日夜、創っています。──佐藤理

人間の最も尊い力の1つである、『想像するエネルギー』から発生したカルチャーはこの先も変わらずに残っていくと思う。生活に根付いたものであり、必要不可欠なもの、音楽や文字、絵などと同じくそれらは土着的で普遍的なものであるはずです。テクノロジーの進化だけではなく、人間がもつ五感を刺激するもの。また、名のある人が残したものだけではなく、どこかの誰かのふとした想像力で出来たものが、ジャンルや人種、国境など関係なく、世界全体が共有して幸せになっていくようなカルチャーは残ってほしい。──森本晃司

(C)Suguru Saito/Red Bull Content Pool

後生に残るカルチャーというものは、傑出したオリジナリティを伴うものであるという事実は、上記にある3人のクリエイターの言葉にも共通する。近年、日本のダンス・ミュージックへの評価は世界的に高まっているが、このイベントではゲーム・ミュージックのクリエイター、その影響を受けたアーティストたちが、このムーヴメントの一翼を担っていることが実感できた。その意味でも意義のあるイベントであったと言えるだろう。この記事を読んで、ゲーム・ミュージックに興味を持った方は、イベント名の由来にもなっているレッドブル・ミュージック・アカデミーが制作した映像ドキュメント『DIGGIN' IN THE CARTS』をぜひチェックしてほしい。

取材・文:伊藤大輔



◆<レッドブル・ミュージック・フェスティバル東京2017> オフィシャルサイト
◆<レッドブル・ミュージック・フェスティバル東京2017> BARKS内特設サイト
この記事をポスト

この記事の関連情報