ライブバンドとしてぶれない、K-ROCKの雄:NELL

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学生時代の同級生が集まって結成されたNELLは、メンバー4人とも1980年生まれ。今年で結成17年・デビュー15年になる、韓国でトップランナーのバンドだ。“テレビ至上主義”と言われる韓国の音楽シーンにおいて、テレビには年に数回出るか否かだが、この夏に出場した5つのフェスティバルは全てヘッドライナー、例年クリスマスのワンマン・ライブは5000人級アリーナを2~3日連続、今年はライブハウスで毎週末連続公演を1ヵ月にわたり開催…と、“ライブバンド”として確固たる地位を築いている。

◆NELL映像&画像

過去2回の東京公演に続き、2年ぶりの来日をまもなく控える。今回は大阪も加えた東阪2都市での日本ツアー開催を前に、リーダーでボーカルのジョンワンの話とともに紹介する。

筆者がNELLを知ったのは13年前のことだ。ダンス音楽がほとんどの韓国チャートの中に、珍しくバンドがランクインしていたのがNELLの「Thank You」だった。幻想的ながらもロック然としたサウンドと愁いを帯びたボーカル。どことなくUKロックのようなアンニュイさが心地よくて気に入った。そこで同曲のミュージックビデオを見たのだが、一見文科系に見える色白のメガネ男子が熱唱し、韓流ドラマのような悲劇的シーンがメンバー演奏の間に差し込まれる。洋楽PVに近い映像を想定していただけに、勝手なイメージとのギャップに驚きつつも、この文科系男子(に見えるボーカルの)バンドはどんなライブをするのだろう…と気になってライブを観に行った。驚いた。音源だけだとNELLはソフトロックの認識であったのが、あまりにロックだった。楽器音がガッツリ前に出るハードなプレイ、そして気になるあの“色白文科系メガネ男子”は、小さな身体からパワフルな歌声を放ち、ときにデスな歌声も発するものだから、圧倒されながら見入ったのを覚えている。


NELLの曲制作は、ボーカルのジョンワンが詞曲を手がけ、メンバー4人で編曲する。失礼ながらも筆者が“色白文化系メガネ男子”と先入観を持ったジョンワンは、非常にクレバーで才能あふれるNELLの要である。メンバーによると、ジョンワンは曲の全容ができていなくとも、メロディを口ずさんでいるかと思うと、曲と並行して歌詞もできていくことが多々あるという。そのインスピレーションはどこから生まれてくるのだろうか。

「見て、聴いて、感じるものすべてが音楽に影響を与えます。歌詞の場合、日常的に書きためておいた言葉をきっかけにすることもありますね。もちろん良い映画や本、良い音楽を聴いた時も曲を書きたくなります。いずれも、何か僕の中で強烈な感覚を受けた時には、音楽で表現したいと思うようですね」──ジョンワン


そうした音楽制作面も含めて、より自分たちの音楽を追求すべく、昨年春に10年間所属していた事務所から独り立ちをしてSpace Bohemianという事務所を立ち上げた。スペース=宇宙、ボヘミアン=社会の規範にとらわれずに自由気ままな人という意味から、「宇宙のように無限の可能性のもとで、何にもとらわれないで自由にやっていく」という意志を込めたという。

「独立をしたときに皆で最初に話したことは、デッドラインを定めて何かをしないようにしようと。自分たちが納得するまで、時間がかかっても作り上げようということでした」──ジョンワン

独立というと大きく環境が変わるものと思われがちだが、長年彼らを担当していたマネージャーをはじめ、ライブ制作やレコーディングに関わるスタッフはほとんど変わっていない。外枠の環境が変わっても、NELLはチームを変えなかった。

「独立して最も変わった点を挙げるとすれば、僕たちが全ての責任を持つことで、より思い切って決断を下せるということでしょうか。もし金銭的なマイナスがあったとしても、それは意味があって、僕たちがやりたいことであれば果敢に進められるということです」──ジョンワン

事務所内に基本的なレコーディングもできるスタジオを併設、場所もメンバー4人の地元であるソウル南部の住宅地につくり、いつでも音楽制作ができる環境を整えた。そんな環境だからこそできたともいえるのが、2017年7月にリリースした「Broken」だ。インディーズ時代に作った曲だが、5月のライブで披露すると反応が高かったこともあり音源化に至ったと話す。

「まだどの事務所にも所属していない、自分たちだけでやっていた2002年ごろに作った曲です。今になって音源化できたことの良さは、曲ができてから現在に至るまでの15年の間に、豊かになった僕たちの音楽経験をこの曲に込められたことですね。もし曲ができた当時にレコーディングをしていたら、今よりはちょっと荒っぽく出来上がってたいたんじゃないかな」──ジョンワン


ライブにおいても当然のことながら、彼ら自身で全てをプロデュースしている。毎年クリスマスに行っているアリーナ規模のライブでは、華やかなライティングや演出で魅せる圧倒的な世界観が見ものだ。その一方で、今年の5月には1000人以下のライブハウスで、毎週末(金土日)連続公演を1ヵ月にわたって開催した。ここ数年NELLのライブを振り返っても、これだけ長くライブハウス公演を行ったのは久しぶりのことだった。

「大きな会場は、照明や映像、そして舞台セットなどを含めて、ライブをよりダイナミックで多彩に見せられるという点が魅力ですよね。そのぶん準備期間も長くて大変ですが、そのライブを成功させた時に感じる満足度もすごく大きい。対してライブハウスは、音楽だけで通じ合えるやり甲斐があります。それにオーディエンスひとりひとりの感情が伝わってくるほどの近さなので、そのフィードバックから得られるエネルギーは本当に大きいです。僕たちを待っている人がいる限りどこへでも音楽を届けたい。日本のライブでも音楽を通じて、きっとお互いに感じ合えるものがあるでしょう」──ジョンワン

“色白文化系メガネ男子”と思ってしまったあの日以降、飽きずにNELLを見続けている。韓国の音楽界は以前にも増してダンス系が強くなってバンドの数は減り、日本にも多くのK-POPチームが上陸するようになった。そんな中でもNELLの音楽はブレていない。韓国音楽といえばダンス系、まともなバンドなんて居ないでしょう?と思っている人ほど見て欲しい。筆者もライブを目前にして、その先入観を覆されたのだから。

Text by 筧 真帆(日韓音楽コミュニケーター)

<NELL来日公演>

2017年11月13日(月)
@恵比寿LIQUIDROOM
開場 18:00 / 開演 19:00
全自由: 6,800円(税込・整理番号付・ドリンク代別)※未就学児入場不可
[問]LIVE NATION JAPAN(e-mail info@livenation.co.jp)

2017年11月14日(火)
@BIGCAT
開場 18:30 / 開演19:00
全自由: 6,800円(税込・整理番号付・ドリンク代別)※未就学児入場不可
[問]キョードーインフォメーション(TEL: 0570-200-888(10:00~18:00)http://www.kyodo-osaka.co.jp)
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