【ライブレポート】Nell、ロックバンドの枠を超えた才能を見せつけた一夜
2013年1月にアルバム『Slip Away』で日本デビューを果たした韓国のロックバンド、Nell(ネル)が3月16日(土)、東京・原宿アストロホールでショーケースライヴを開催した。2008年の<SUMMER SONIC>大阪など、これまで何度か来日をしているが、単独公演はこれが初となる。1999年に結成以来、メンバー・チェンジをすることなく、走り続けてきた彼らは、ここ東京で新たな扉を開いた。
◆Nell画像
UKロックを思わせる音楽スタイルと叙情的な世界感で独自の方向性を見出し、韓国のロックシーンを代表するバンドと言えるのがNellだ。圧倒的な歌唱力もさることながら、ライブ・バンドとしても定評がある。ボーカルのキム・ジョンワンは、以前からことあるごとに「一番やりたいのはライブツアー」と言っていた。そんな彼らが日本の初ワンマンで、どんなライブを見せてくれるのか? この日のチケットが即ソールドアウトだったことからも期待値の高さがうかがえる。
開演前、ざわざわというよりは、ふわふわとした、何とも言えない空気が漂う。この日を長年待ち続けていた人もいるだろうし、同じ事務所のアイドル、INFINITEをきっかけに興味をもった人もいるだろうし、純粋に韓国ロックを聴きに来た人もいるだろう。とにかく、400人しか入れない貴重なショーケースのチケットを手にした幸運な人たちの入り交じる思いが会場にあふれ返っていた。
キム・ジョンワン(Vo、G)、イ・ジョンフン(B)、イ・ジェギョン(G、Key)、チョン・ジェオン(D)が登場すると、歓声が上がり、一瞬、静粛に。そこへ隙入るようにピアノの音色が響き渡る。オープニングは、意表をついてバラード「Afterglow」からスタート。キム・ジョンワンの透き通る歌声とともに、4人のシルエットが浮かび上がる、ゾクゾクする幕開けだった。続いて、デビュー・アルバムから「Beautiful Stranger」を披露。静の中に激しさのある楽曲で徐々にロックの表情を見せつけていく。最初のMCは2曲目のあと。「はじめまして、皆さんに会えて嬉しいです。私たちはバンド、Nellです」と、ベースのイ・ジョンフンが日本語で自己紹介。日本語を勉強してきたメンバーたちに、オーディエンスは大喜び。さらに「かわいい~!」という声も飛び交い、一気に和む。ここからはNellの真骨頂。キラー・チューンとも言える「유령의 노래(幽霊の歌)」、「오후와의 대화(午後との対話)」と懐かしい曲でたたみかけ、会場を大いに沸かせた。
中盤、ボーカルのキム・ジョンワンから英語のMCで「東京に来た時にイメージが浮かび、韓国に戻って作った曲を、ここ東京で歌うことができて感激です」というエピソードが明かされた。その曲「Tokyo」が演奏されると、さらにヒートアップ。「Promise me」でどんどん加速し、「Cliff parade」でテンションは最高潮に達した。続く「Standing in the rain」では、ハンド・クラップで一体化。いつの間にかNellは会場を掌握し、そこにいた全員が彼らのステージに引き込まれていた。
そして終盤、楽しいライブに時間を忘れ、まだまだ続いてほしいと思っていたその時、キム・ジョンワンの口から「ラストワン!」と告げられる。最後にふさわしい選曲、インディーズ時代から歌っていた「믿어선 안될 말(信じてはいけない言葉)」で本編が終了。アンコールでは、2008年に発表した名曲中の名曲「기억을 걷는 시간(記憶を歩く時間)」を披露してくれた。この曲を生で聴けただけでも価値がある。不意打のような贈り物に、涙腺がゆるんだ人も多いはず。実はこのあと、「Good night」が用意されていたのだが、ステージ上でキム・ジョンワンがイ・ジョンフンとイ・ジェギョンに耳打ちを始める。長いこと何を話しているのかと思えば、イ・ジェギョンから「会場の雰囲気がとても良いので特別に曲を変更します」とキム・ジョンワンの言葉を観客に伝えると、「Cliff parade」のイントロが鳴り響いた。再び演奏された「Cliff parade」は、一回目よりもっと良くて、温かい空気が場内を包み込む。会場がひとつになった瞬間の観客の笑顔と満足そうな4人の表情。その光景に胸がジーンと熱くなる。彼らがステージを去ったあとも拍手が鳴り止まなかった。
この日は日本デビューのお披露目とも言える、ショーケースだったため、公演時間は1時間ちょっと。時間にすると短いが、とても濃密なライブだった。日本デビュー・アルバムでは、「ロックバンドの枠を超えた才能がある」と紹介されているが、彼らの本当の凄さはライブを観なければ伝わらないのかもしれない。ボーカルのキム・ジョンワンが作り出す音楽世界、独特の感性、表情豊かな美声、包容力と切れ味を自在に見せる3人の楽器隊、そして静と動のバランス感覚。Nellの音楽は、大成功を収めた今回のショーケースをきっかけに、大きく広がっていくだろう。次回の来日公演が今から期待でいっぱいだ。
文:北島恭子
photos by yuki kuroyanagi
<2013.03.16 Nellショーケースライヴ@原宿アストロホール>
1.Afterglow
2.Beautiful Stranger
3.유령의 노래(幽霊の歌)
4.오후와의 대화(午後との対話)
5.Tokyo
6.Promise me
7.Cliff parade
8.Standing in the rain
9.백색왜성(White Dwarf)
10.믿어선 안될 말(信じてはいけない言葉)
―encore―
11.기억을 걷는 시간(記憶を歩く時間)
12.Cliff parade
◆Nellオフィシャルサイト