【インタビュー】ファンキー加藤「僕独りだけの歌というよりは、みんなの歌になって欲しい」
前作『Decoration Tracks』から約1年ぶりとなるファンキー加藤のニュー・シングルが11月8日にリリースされる。「冷めた牛丼をほおばって」と名づけられた同作は、彼らしさを継承したうえで新たな道を切り拓いた3曲を収録。彼の音楽に対する尽きることのない意欲を感じさせる一作といえる。長いキャリアを経た今なお進化し続けるファンキー加藤をキャッチして、最新作についてじっくりと話を聞いた。
◆ファンキー加藤~画像&映像~
■燃え尽きてもう曲が作れないかもと思っていた僕に
■間寛平さんが一つのきっかけをくれたんです
――新しいシングルに向けた制作は、いつ頃から、どんな風に始まったのでしょう?
ファンキー加藤:去年の11月に『Decoration Tracks』というアルバムを出したんですけど、そのアルバムを作るにあたってものすごい熱量を注いだんです。その結果アルバムを完成させた時点で、燃え尽きてしまいまして(笑)。全てを出し切って、もう楽曲制作はできないんじゃないかという状態になったんです。その後ツアーがあって、ライブは楽しくできましたけど、自分はまた曲を作れるのかなという日々が続いていて。そういう中で、間寛平さんが大阪で開催されている<淀川 寛平マラソン>というイベントのテーマソングをファンキー加藤君に作ってもらいたいという話を、かなりフライング気味に記者会見でおっしゃったんです(笑)。
――フライングということは、聞いてないよ…という状態だったのでしょうか?
ファンキー加藤:一応聞いてはいましたけど、寛平さんではなくて、昔から親しくさせてもらっている、たむらけんじさんが前日にメールで教えてくれたんです。「寛平さんが、どうしても言うらしいわ。迷惑かかったらゴメンな」と。とはいえ、前日ですから、いきなりですよね(笑)。事務所確認もしていません(笑)。急な話で驚いたけど、嬉しい話なので作らせてもらうことにしたんです。つまり、もう曲が作れないかもしれないと思っていた僕に、寛平さんが一つきっかけをくれたんですよね。それで、スタジオに入ったらアイディアが出てきて、まだまだいけるなと思って。そうやって「前へ ~My way~」という曲を完成させた後、じゃあ次のシングルを…という話になって、今回の制作が始まりました。なので、間寛平さんには、本当に感謝しています。
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――事務所同士の話し合いなどではなく、間寛平さん自身が希望されたというのも良いですね。では、新しいシングルを作るにあたって、テーマなどはありましたか?
ファンキー加藤:聴いてくれた人が、ちゃんとポジティブな感情を持ってもらえるような曲を作りたいなと思っていました。それは僕が10数年やってきたことで、いつも通りだねと言われそうですけど。だからといって、ここにきて急に全部英語の歌詞のパーティー・チューンとかを出したりするのは違うと思うんですよ。面白いとは思うけど、“どうした?”みたいなことになってしまうので(笑)。そうじゃなくて、ちゃんと自分が歩んできた道のりの延長線上にあって、なおかつ今までになかったものを調味料で加えられると良いなと思って作ったのが、リード曲の「冷めた牛丼をほおばって」です。
――「冷めた牛丼をほおばって」は歌がリズムを出していくボーカル・アプローチやアコースティック・ギターを活かしたシンプルなサウンド、枯れた味わいのブルースハープなど、狙い通り新鮮さを感じさせる1曲になっています。
ファンキー加藤:歌メロは一緒に曲を作ってくれた大知(正紘)君が、最初にアイディアとして持ってきてくれたんです。ああいうメロは今まで歌ったことがなかったので難しいなと思ったけど、仮歌詞を書いて、スタジオに入って歌ってみた時に、これは上手く歌うと刺さりやすいんじゃないかなと思って。それで、チャレンジすることにしました。僕一人ではなかなか浮かばないアイディアだし、一歩踏み込めない領域だったものを大知君やプロデューサーが先導してくれて、面白いものが出来たなと思います。
――アイディアもさることながら、それを良い形で歌えるのはさすがです。
ファンキー加藤:いや、めっちゃ大変でしたよ(笑)。プリプロの段階ではものにすることが出来なくて、レコーディングはぶっつけ本番みたいなところもあって何回も録り直しました。でも、そういう苦労があるのは、新しいことをしているからこそじゃないですか。だから、やり甲斐があったし、録り終えた時は達成感がありましたね。シンプルなサウンドということに関しては、この曲は良い意味で荒々しいというか、バンドが演奏しているようなサウンドにしたいなと思って。実際レコーディングする時もスタジオ・ミュージシャンではなくて、バンド系の方達に演奏してもらったんです。すごくエモーショナルなオケが録れたので修正とかはせず、多少のズレとかはそのまま活かしています。歌録りをする時もライブ感が強かったですね。僕は元々レコーディングはあまり得意じゃなくて、いかにライブ感を出すかというところで悩むことが多いんですけど、この曲はそういうことが一切なかったです。
――ボーカル、バックのサウンドともに躍動感に溢れています。「冷めた牛丼をほおばって」の歌詞は、「夢を諦めるな、がんばれ!」というメッセージを送りつつ「俺もがんばる」と歌っているのが加藤さんらしいですね。
ファンキー加藤:毎回そうですけど、歌詞は一番悩みました。自分と楽曲の距離感というところで、どこまで今の自分の人生を切り取るかというのがあって。あまりに今の自分の立ち位置を反映させると僕だけの歌になってしまうし、かといって第三者的な視線で見る曲というのは自分らしくないというか、逃げになってしまうなと思って。なので、そこの距離感は、かなり悩みました。
――その結果、絶妙のところに落とし込みましたね。
ファンキー加藤:そう言ってもらえると嬉しいです。本当に、そこは慎重にやったので。僕だけの物語になってしまったら、意味がないと思って。今の僕が背中を押すようなことを歌うと、僕だけの物語だと見られがちなのも分かっていますし。もちろん歌う以上は自分で自分を鼓舞したいという気持ちがあるんですよ。僕はずっと自分の曲に救われてきていますから。歌うことで元気を貰っているところがありますから。でも、僕はすごく淋しがり屋なので、独りだけの歌というよりは、みんなの歌になって欲しいという気持ちがあって。そういう願いのもとに歌詞を書き進めていきました。
――リスナーの共感を得る歌詞になっていると思います。歌詞の内容もさることながら、“冷めた牛丼をほおばって”というタイトルは夢を追い求めていながら、ツラさも感じているという状態を一言で言い表しています。
ファンキー加藤:ありがとうございます(笑)。行間を読んでいただけるような、良いタイトルにはなったかなと思います。
――同感です。それに、この曲はMVも面白いものになっていると聞きました。
ファンキー加藤:なりました(笑)。MVをどうしようかという話になった時に、MVも既存の作品とは違うものにしたいなというのがあって。それで、スタッフを交えていろいろアイディアを出し合っていたんですけど、ちょうどその頃は『24時間テレビ』のマラソンを誰が走るのかということが話題になっている時期だったんですよ。それで、「じゃあ、『24時間テレビ』の裏で、武道館まで走るのはどう?」という話が出てきて(笑)。最初は冗談だったのが、あれよあれよという間に「それって良くない?」みたいになってきて。それで、僕の地元の八王子から東京ドームまで走ろうということになりました。東京ドームは僕にとって夢の場所だし、八王子からだとちょうどフルマラソンくらいの距離になるからということで。
――ええっ? それは結構な距離ですよね。
ファンキー加藤:相当遠いです(笑)。僕は昔ちょっと走ってはいたけど、長距離は苦手なんですよ。今まで走ったことがある最長距離は7キロくらいなんですよね、高校のマラソン大会がたしかそれくらいの距離だったから。なんだけど、八王子~東京ドーム間のマラソンを1ヶ月後くらいに撮りましょうということになって。走る様子をずっと追って、最後に東京ドームの外観を使ってリップシーンを撮りましょうと。ただ、その時期の東京ドームはプロ野球のシーズン中なので、撮影は朝しか出来なくて。で、そこから逆算していくと、夜にスタートすることになるという(笑)。それで、21時半頃に八王子を出発して、夜を徹して東京ドームまで走りました。しかも、ただ走っているだけじゃなくて、途中途中でミッションがあるんですよ。たとえば、八王子には大和田橋というそこそこデカい橋があるんですけど、そこを5往復くらいしたりとか、東京都庁の前で撮りたいですという話になって、わざわざコースを外れて都庁まで行ったりとか(笑)。もうメチャクチャでした(笑)。そんなことをしつつ結局9時間くらいかけて東京ドームまで辿り着いたけど、最後の10キロとかはもう足が痛くて走れなかった。ガチで、そうなったんです。そういう行程を全部ドキュメントで追っているから、前代未聞といっても良いMVだと思いますね。実際にフルマラソンを走った後、そのままリップシーンを撮ったアーティストはいないんじゃないかな(笑)。そんな風に、すごく面白いものになっているので、「冷めた牛丼をほおばって」はぜひMVも見て欲しいです。
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