【ライヴレポート】VALSHE、「今、目の前に君がいる。それが答え」
VALSHEが3rdフルアルバム『WONDERFUL CURVE』を引っ提げて行った全国ツアー<LIVEツアー「WONDER BALANZA」>を9月29日および30日、東京キネマ倶楽部2DAYS公演にて締めくくった。先ごろ公開したオフィシャルレポートに続いて、詳細レポートをお届けしたい。
◆VALSHE 画像
何度かVALSHEのライヴを見る機会に恵まれたが、記憶する限りでは、こんなに全開の笑顔で「楽しい!」を連発する姿を見たのは初めてだった。そして記憶をコンセプトに制作したアルバム『WONDERFUL CURVE』のツアーを経て、彼女が得たものは想像以上に大きなものではなかったかと思う。ダンサーたちを従え、バックトラックのみの説得力のある声で聴衆を圧倒し、時に笑顔にしたVALSHEの歌は素晴らしく、そのエンターティナーっぷりにも驚かされた。9月30日、千秋楽のライヴのもようをVALSHEの言葉をなるべく漏らさないようにお伝えしよう。
レトロなムードが場内を支配する東京キネマ倶楽部のステージにはアンティークな長椅子やランプ、蝋燭の炎が揺れ、「WONDERFUL CURVE」のミュージックビデオにも象徴的なものとして登場する天秤が置かれていた。アルバムの幕開けのインスト「エビングハウスの忘却曲」が流れ、色とりどりのペンライトが揺れる中、VALSHEがお馴染みの真っ白な衣装で登場。大歓声の中、ミュージックビデオさながらの人形のような動きで、黒いマントを被った謎の男たちに囲まれ、「WONDERFUL CURVE」を歌い始めた。パントマイムのような動きで、虚ろな目をしたVALSHEは手を伸ばせば触れられる距離なのに触れてはいけないアンドロイドのようでもある。電池が切れたように腕をダラーンとさせ、お辞儀するVALSHEに拍手喝采。
「愛する人の隣でただ笑っている。そんな私たちもあったのだろうか。このプロジェクトに携わった私の人生もあとわずか。これは私の描いた願い。願いの世界だ」という3116年の未来の物語の登場人物、博士のナレーションが流れ、場面が転換した。
まさにキネマ倶楽部のムードにピッタリのレトロなシャッフルナンバー「Chain Smoke」ではVALSHEが踊り出し、札束が無造作に置かれたソファーに腰を下ろすと執事のような男たちがお金目当てにお酒や服を持ってきて、宙に舞う札束に男たちが群がる演出で歌って見せた。続いて、人格変換スイッチが入ったようにキュートな声で歌われたのは軽快なダンスチューン「コドモハザード」。上手へ下手へと動きまわりながら歌うVALSHEに歓声が上がり、“転生”をテーマにした曲「TRANSFORM」をHiコールが上がる中、熱唱した。
「“WONDER BALANZA”にようこそ! ついにやって来ました! 東京キネマ倶楽部2デイズ。昨日も熱気がすごかったんですが、今日はまた一段と。もう絶景の予感ですね。今回、VALSHEにとって初めてのアルバムツアーということで、新曲を持っていろんなところに行かせてもらったんですが、その中で楽曲たちが育って、そして自分たちも一緒に成長してこられたと思っているので、その成果をファイナルで存分にぶつけていただければと思うんですが、準備、どうですか!?」──VALSHE
VALSHEの呼びかけに大歓声が上がり、R&B調の「shut out」ではVALSHEの低音の魅力が浮き彫りになり、嵐の予感に怯えるようによろめきながら歌ったドラマティックなナンバー「フロムテンペスト」も新作の曲ではないけれど、アルバムの世界観にみごとにハマっていた。このあたりの流れはVALSHEのボーカルが圧巻。ピアノをバックに歌ったバラード「ガランド」の透明感と哀しみに溢れる歌声が刺さってきた。
ここでいったんVALSHEはステージを去った。スクリーンには森の中の映像が映し出され、博士とVALSHEと思われる会話のやりとりがナレーションで流れ、森の中の妖精が囁いてきそうなアルバムの中の楽曲「embrace」が響きわたった。ファンタジックな雰囲気が会場を包む中、ライヴは再びムードを一変させた。
次の瞬間、VALSHEはキネマ倶楽部下手のサブステージにさっきまでとは対照的な衣装で立っていた。皮のライダース、皮のパンツ、ブーツと上から下まで黒でコーディネートし、羽飾りをまとい、一瞬、鞭のようにも見える短いサイズのマイクスタンドで激しく煽り、階段を降りながら歌ったのはアルバムの中でも挑発的なナンバー「DOPE」だ。ロックに振り切れたVALSHEに歓声が上がり、“そんな人生もアリかナシかでいうとアリだね”の“アリだね”というところを大声で歌うオーディエンス。マイクスタンドを振り回して「もっともっと」と煽り、「拘束」へとなだれ込む流れが場内を興奮させた。
めまぐるしく場面が展開し、オーディエンスをいい意味で振り回すのが今回のライヴだ。バズーカ砲で放たれた銀テープ、サングランスをかけたVALSHE、NAOKI, Kyo-hey, HACHI, TAKAMASAの4人のダンサーたちがコドモ団に扮して登場し、客席をコール&レスポンスで煽る。ハンドクラップの中、ダンスしながらコミカルに見せた「ドミノエフェクト」へ。ダンサーたちが打って変わって不気味な仮面をつけて登場し、VALSHEが悪者たちをなぎ倒していく格闘シーンも盛り込まれた「COUNT DOWN」も見せ場たっぷり。ミュージカルもしくは演劇を見ているような錯覚に陥るステージ運びだ。
「盛り上がってますか?キネマ倶楽部。暑いよ〜。湯気は見えるかな。ここ3階まであるんですけど、昨日、蒸気が立ち昇ってたという3階情報がありまして、今日は昨日よりめちゃめちゃ暑いんですよ。暑いけど、楽しい! 今までも盛り上がったと思うんですけど、VALSHE的には盛り上がりがまだ足りない! ここでみんなで楽しい振り付けをして、もっと楽しい時間を過ごしたいと思うんですけど、どうですか?」──VALSHE
そんな呼びかけからNAOKIによる振り付け指導が行われ、アルバムの中で最もヒップホップ色の強い新境地のナンバー「Show Me What You Got」へ。VALSHEが上手下手に動くとフロアのみんなも一緒に移動し、会場には波のようなうねりが。ステージとフロアの相乗効果が熱を上げていく。
「楽しいですか?」と問いかけ、ウェーブに感動したVALSHEは、「じゃあ今から、人が飲みたがっている時に自慢気に水を飲む、というのをやらせていただきます」と本当に美味しそうにペットボトルからストローで水を飲み、Sっ気を発揮するVALSHEに歓声が飛んだ。
「今回のツアー、全6公演あったんですけど、気持ち的には全部ファイナルのつもりでやってきました。“ここしか来れない”とか“今日は来れないけど、昨日来ました”とか、そういう人たちがいる以上、毎公演、ベストなものを見せたいと思って来たんですけど、やっぱり今日は朝起きた時にこれまでと違った心持ちがあって“ついに来てしまった! 終わっちゃうんだな”って。でも、そんな寂しさ以上にファイナルを心待ちにしていた自分もいて“いちばん最高に盛り上がっているみんなのいちばんの笑顔を見るんだ! みんなのいちばん大きな声を聞くんだ!”って、今日、このステージに立ってます。今回のツアーでは視覚的にわかりやすくドッタンバッタンやってます」──VALSHE
そんなふうにファイナルを迎えた当日の心境を語りながら、VALSHEが“HELLゾーン”と呼んでいる前から6〜7列目までのファンの熱狂ぶりについても言及した。
「大阪の会場では柵があったんですけど、その時は、柵の前でお兄さんたちが人力で頑張って止めてたんですよ。MCの時に“お兄さんがいることを一瞬でもいいから思い出してください”って伝えたんです。そしたら前列の人たちが“大丈夫ですか?”ってすごくお兄さんたちに優しかったんだけど、次に盛り上がる曲やったら、手のひらを返したようになって(笑)。みなさんの安全は前のお兄さんに守られているので、よろしいでしょうか? 言い換えましたら、その分、守っていただいているので、ぶっ壊す勢いで暴れていってほしいと思いますが、いかがでしょうか!?」──VALSHE
このVALSHEらしい煽りに大歓声が上がったのは言うまでもなく、アッパーなナンバー「ツリーダイアグラム」ではステージを走り回り、エンディングで「最高!」と叫び、「まだまだ遊びましょ」と痛快なビートのナンバー「CYCLE×CYCLON」ではタオルを振りまくり、場内のテンションをどんどん上げていく。VALSHEたった1人でステージに立って歌い、ここまでボルテージを高めていくとは頼もしい限りだ。
「最後の曲です。その蝋燭に心の中の熱く赤い想いを灯火に変えて、頭上に掲げてください。真っ赤なひとりひとりの心の火を灯して」──VALSHE
ペンライトの色が一斉に赤に変わり、歌われたのはアルバムの中でも一際印象深い名バラード「a light」だった。みんなの歌う声が会場に響きわたり、会場は完全にひとつに溶け合っていた。アウトロに博士のナレーションがかぶさっていく。
「起きた全てのことを覚えている必要などないと私は思う。喜び、悲しみ、怒り、迷い、憂い、楽しみ、笑い、苦しみ、悩み、愛した記憶の断片こそが現在の自分を、そして未来の自分を作るのではないだろうか」
博士からの答えが提示され、VALSHEが再び、人形のように動かなくなり、これでエンドと思いきや、千秋楽では思いがけないことが起こった。スクリーンに青空が浮かび上がり、本編最後を飾ったのは開放感たっぷりのメロディが、すべての涙を連れ去ってくれるような「GREAT JOURNEY」だった。最後はダンサーたちも登場して、新たな冒険の旅に出るハッピーエンディング。手を振って歌うオーディエンスもまた旅人。そんな気持ちにさせられた幕引きだった。
あまりの熱気で終演後には具合の悪くなった方は挙手するようアナウンスされるほどだったが、すぐにアンコールの声が響き、VALSHEはツアーTシャツ姿で登場。「出張! VALSHE王道メドレー」と題して、代表曲がメドレー形式で披露され、「Butterfly Core」ではペットボトルの水をフロアに巻き、自分も頭からかぶる場面も。
「アンコールありがとう! めっちゃ最高だった」と笑顔を見せ、「バル、魔法が使えるようになったの」と今回のツアーのリハーサルでダンサーのKyo-heyが持ってきたことから、ちょっとしたブームになったらしい“ミニセグウェイ”に乗って、上手から下手へと移動し、一緒に動くオーディエンスを見てさらにハイテンション。スクリーンを使って今後の計画も発表された。
まず、第1弾として映し出されたのは“新曲 鋭利制作中”の文字で、その曲が2018年に発売されるPCゲーム『マジェスティック☆マジョリカル』のエンディングテーマに採用され、キャラクターデザインが映し出されると歓声はさらに大きくなった。イラストを手がけているのがVALSHEの作品でもおなじみの白皙だということもあり、ずっと応援してきたファンは感慨深げ。VALSHEも「デビュー以前から一緒にやってきた。いつか、白皙のキャラクターデザインにバルが歌うような未来があったらいいなって、ずっと言っていたんです。それが今回、やっと叶います! 新曲も楽しみにしてください」と結んだ。そして、第2弾は緊急決定したライヴ情報。11月25日に新宿BLAZEで、“COOKIE’s GHOST CARNIVAL”と題したスペシャルライヴが行われることが発表され、クッキーちゃん主催のライヴであり、クッキーというキャラクターはVALSHEが考案したものだということも明かされた。
そんなワクワクする未来が明らかになった後は10thシングル「MONTAGE」のプロモーション企画として行われた“ダンスコンテスト”受賞者の2人の女子がゲストダンサーとして呼び込まれ、VALSHEと6人のダンサーというスタイルで賑やかに「MONTAGE」を披露。続けて「RIOT」で激しい想いを叩きつけるように歌った。
そして、この後にVALSHEから語られた言葉は、今回のツアーを通して自身が掴み取ったものであり、導き出された1つの答えだった。
「全6公演を経て自分が手に入れたもの、気づいた感情がいっぱいありました。そもそも初めてアルバムツアーで各地に新曲を持っていって、それがどういうふうに育っていくのか、純粋にいちミュージシャンとして楽しみだったり期待もたくさんあったんです。
もともと記憶をコンセプトにしたのは、みんなと過ごした去年、一昨年、そして1stライヴまで遡ると、自分の中で大切な記憶のはずなのにどんどん薄くなってしまう。それはきっとみんなも同じで、今、この瞬間のように鮮明には覚えていないと思うんだよね。それがすごく悔しくて。悔しい気持ちからアルバムの制作がスタートしたんです。いつか忘れちゃうなら、どんなライヴをしたって同じなのかなって。アルバムを作っていざツアーを廻って、また初めての経験をしました。
初日の福岡公演を行なった9月15日は誕生日でした。誕生日に初めてみんなと一緒の時間を過ごすことができて、それが自分が想像していた以上に嬉しくて楽しくて、みんなに歌を歌ってもらっちゃってすごく嬉しかった。9月23日のVALSHEのデビュー日に仙台ライヴがありました。初めて行った仙台でも温かく熱く迎えてくれて。“7周年、おめでとう”ってみんながお祝いしてくれて、その瞬間に今年もみんなと過ごすことができたって。8年目に向けての自分の想いをみんなに直接伝えることができて本当に嬉しかったなって。
そういうふうに、忘れたくないと思う記憶がVALSHEになってからすっごく増えました。だからこそ忘れるのが嫌だって初めて思ったんだと思うんです。そういう意味では自分はVALSHEを始める前に残しておきたいなっていう記憶があまりなかったのかもしれない。みんなと出会って、みんなと共有できることで“こんなに素敵な時間を何で忘れちゃうんだよ”って。この一瞬をずっと切り抜いて残しておきたいと思うようになっちゃったからこそ、疑問がわいてコンセプトが生まれてアルバムを作ったんだと思います。
でも、ツアーでみんなと曲を育てていく中で気づきました。忘れるものなんだって。何のために忘れるのかという自分なりの答えをツアーを通して見つけました。それは全部を覚えてなくても、ひとつひとつ胸に残ってる大切な瞬間がそれぞれにあって、自分にもあって、今、自分の目の前に君がいるんだって。それが答えだって見つけることができました。それにようやく気づけたこと、導き出せた答え。忘れちゃってもいいんだって。忘れることは未来の自分がもっともっと素敵な記録を大切な時間や人や言葉を覚えておくためなんだって思うことができました。
このツアーも終わった瞬間から、みんな少しずつ今日のことが思い出せなくなるかもしれない。一瞬一瞬がぼんやりと薄らいでいってしまうのかもしれない。だけど、それでいいから。明日、未来の君が悩んだり、迷ったり、辛いなと思った時にぼんやりでいい、ほんの少しだけでも今日のこの時間を思い出してくれたらいいなって。自分はそんなささやかなこと、だけど、すごく大切なものをこれからも積み重ねていきたいとこのツアーを通して思いました。本当にありがとう」──VALSHE
VALSHEの声も後半は震えていたが、会場からもすすり泣く声が聞こえてきた。そんな心からのメッセージのあとに「White Prelude」が届けられ、感動の中、最後は光を感じさせてくれる「GREAT JOURNEY」。
「もっと素敵な記憶を作っていこう!」と最高の笑顔を見せたVALSHE。ファンとともに開いた扉の向こうにはまた新しい未来が待っている。
取材・文◎山本弘子
■<VALSHE LIVE TOUR 2017 「WONDER BALANZA」>ファイナル 2016年9月30日(土)@東京キネマ倶楽部SETLIST
01.WONDERFUL CURVE
-Narration SE-
02.Chain Smoke
03.コドモハザード
04.TRANSFORM
-MC-
05.shut out
06.フロムテンペスト
07.ガランド
-SE- embrace
08.DOPE
09.拘束
-Narration SE-
10.ドミノエフェクト
-SE-
11.COUNT DOWN
-MC-
12.Show Me What You Got
-MC-
13.ツリーダイアグラム
14.CYCLE×CYCLON
-MC-
15.a light
16.GREAT JOURNEY
encore
en1.『出張!VALSHE王道メドレー』
Myself/PLAY THE JOKER/君への嘘/Butterfly Core
-MC-
en2.MONTAGE
en3.RIOT
-MC-
en4.White Prelude
en5.GREAT JOURNEY
■<COOKIE’s GHOST CARNIVAL>
(1)OPEN 15:00 / START 15:30
(2)OPEN 18:30 / START 19:00
▼チケット
オールスタンディング¥6,480(税込)
※未就学児入場不可
※入場時ドリンク代別途必要
チケット一般発売日 2017年11月3日(金・祝) 10:00
(問)DISK GARAGE(平日12:00~19:00) 050-5533-0888
【オフィシャルHP抽選先行申し込み】
受付期間:10月13日(金)12:00~10月18日(水)17:59
当落発表・入金期間:10月21日(土)15:00~10月25日(水)23:00
※4枚までお申し込みが可能です。
※お申込多数の場合は抽選となります。
※お申込みの際には、お申込みページに記載されている申込み方法と注意事項をご確認下さい。
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