【ライブレポート】谷山浩子、ギタリスト押尾コータローを迎えて意外な曲が楽しめた<猫森集会>
谷山浩子ファンにとって、それはすでに9月の季語。16回目を迎える<猫森集会>が今年も開催され、A~Dの四つのプログラムのもと、5人のゲストと共に一期一会の心あたたまる演奏が繰り広げられた。BARKSがお送りする猫森集会2017特別レポート、その第一弾は9月17日に行われたBプログラム。初共演となるギタリストの押尾コータローをゲストに迎え、“ギターに恋する日曜日”と題したコンサートの模様を振り返ろう。
四方を客席に囲まれた、こぢんまりとした空間に置かれたピアノとシンセサイザー。いつものように前半は谷山浩子と相棒の石井AQの二人だけで、秋の訪れをしみじみと感じさせるスローナンバー中心の穏やかな幕開けだ。凛としたピアノの音色が胸に沁み入る「ひとりでお帰り」、淡く青い照明が浅い海の底を思わせる「冷たい水の中をきみと歩いていく」と、シンプルな演出と歌の力だけで一瞬で観客を非日常へと引きずり込む、その手際の鮮やかさ。マイナーなフォークソング調の「鳥籠姫」から快活に弾むリズムの「ポプラ・ポプラ」「無限マトリョーシカ」へ、ガラッと変わって石井AQのホラーめいたシュールなシンセ使いが冴えわたる「螺旋人形」へ。音と言葉が右脳と左脳を自由に行ったり来たり、物語性の強い谷山浩子の楽曲は、目と耳と心で楽しむ寓話やショートショートの趣がある。
ここで本日のゲストが、目にも爽やかな赤いシャツと黒ジーンズ、アコースティック・ギターと共にステージに呼び込まれた。谷山浩子と押尾コータロー、ステージどころかプライベートの接点もこれまでなかったそうだが、押尾のギターの師匠は谷山浩子ファンにはおなじみの岡崎倫典。「一方的に知っておりまして」と、柔らかく軽快な関西弁で招かれたことに感謝する押尾に対し、「早速すごいギターを弾いてもらいましょう」とハードルを上げる谷山浩子。まずは指慣らしのように、おもむろに演奏された、映画『戦場のメリークリスマス』主題歌「Merry Christmas Mr.Lawrence」がいきなりすごい。押尾のギタースタイルは右手の饒舌なフィンガリングに加え、左手でプリング、ハンマリング、タッピングを縦横無尽に使いこなし、そこにエフェクターやボディを叩くビートを加えた、まるでギタリストが3~4人いるかのように複雑なハーモニーを奏でるもの。初めて見るであろう観客が息を呑んで見守る中、次はCMソングにもなったオリジナル曲「Together!!!」を。押尾の手拍子のリクエストに応えて観客が一体となり、思わず「ブラボー!」と叫びたくなる超絶技巧でいながら豊かで親しみやすい音楽に、驚きに満ちた熱烈な拍手が贈られる。さらに押尾が「谷山さんとコラボしたかった」といって選曲した、母親への感謝を込めて書いたというバラード曲「MOTHER」から、「桜・咲く頃」へ。
「ここから、押尾さんが選んでくださった谷山浩子の曲をやりますが、すごく意外でびっくりしました」
本人が驚くくらいだからファンはもっとびっくり、選んだ曲はなんと「銀河系はやっぱり回ってる」。45年前、谷山浩子15歳のデビュー曲の押尾コータローによる新解釈は、ジャズやブルースの要素を思い切り強調した上にスマートでアダルト、モダンなシティポップスと言ってもいい素晴らしい仕上がり。続く「てんぷら☆さんらいず」もAORめいた斬新なアレンジで、谷山浩子の音楽にこんな要素があったとは!と、目からウロコのかっこよさ。体をくねらせてダイナミックなグルーヴを生み出す押尾のプレーを、満面の笑みで見つめる谷山浩子。この2曲を体感できただけでも、来た甲斐があったとしみじみ思う名演だ。
次の曲は懸案の…と、谷山浩子のMCはどこか頼りなさげ。なぜなら次の曲「誰そ彼」は、押尾のオリジナル曲「黄昏」にインスパイアされ、あの伊勢正三が歌詞を書き下ろしたもの。元々がギター・インストのためメロディが異常に難しく、ビビっていたという谷山浩子だが、いざやってみればこれが絶品。ボサノヴァ調のリズムに豊かなメロディ、しっとりと語るような谷山浩子の歌声が絡み合い、お洒落でいながら素朴な民謡のような味わいを感じる素晴らしいものだった。
お次はポップに弾む「Christmas Rose」、そして“青い曲のコーナーです”と前置きして押尾の「Big Blue Ocean」と谷山浩子の「Blue Blue Blue」を2曲続けて。爽やかなフュージョン・ポップ調の押尾の曲と、爽快に空へと舞い上がる谷山浩子の楽曲のマッチングはばっちりだ。そして「Big Blue Ocean」の間奏ではなんと、“猫森集会始まって以来のウェーブです!”と呼びかけ、ステージをぐるりと取り囲む観客を巻き込んでの波乗り大会に突入。客席を何周もするウェーブを見ながら、ステージ上の3人はすごいすごいと大興奮。まさに一期一会、後にも先にも(たぶん)ない珍しい光景を体感した、この日の観客は本当にラッキーだ。そして本編ラスト曲は、押尾のリクエストによる「風になれ」。岡崎倫典もライブでプレーしたこの名曲に挑む押尾に、「師匠越え!」とエールのようなプレッシャーをかける谷山浩子、それに見事に応えて涼やかなアコースティック・ギターの妙技を堪能させてくれた押尾コータロー。名曲名演と呼ぶにふさわしい、しとやかで美しいフィナーレだ。
アンコールは1曲、押尾のギターが叩き出す力強いグルーヴで、よりフィジカルでアッパーに生まれ変わった「ドッペル玄関」。押尾の奏でる力強いラテン調のビートがうねり、会場全体の空気が心地よくスウィングする。すべての演奏が終わったあと、出演者に贈られた興奮気味の拍手は、これまでの猫森集会にはあまりなかったエモーショナルなものだった。ゲストの音楽性や人間性によって、柔軟に形を変えてゆく猫森集会、次はどんなゲストと共にどんな音空間を作ってくれるのか? BARKSによる猫森集会2017特別レポート、第二弾の掲載をお楽しみに。
取材・文●宮本英夫
<セットリスト 猫森集会 2017.9.17>
02.冷たい水の中をきみと歩いていく
03.鳥籠姫
04.ポプラ・ボプラ
05.無限マトリョーシカ
06.螺旋人形
07.Merry Christmas Mr.Lawrence
08.Together!!!
09.MOTHER
10.桜・咲く頃
11.銀河系はやっぱり回ってる
12.てんぷら☆さんらいず
13.誰そ彼
14.Christmas Rose
15.Big Blue Ocean
16.Blue Blue Blue
17.風になれ-みどりのために-
EN.ドッペル玄関
ライブ・イベント情報
10月04日(水)18:30/19:00 名古屋市千種文化小劇場
お問合せ:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100 http://www.sundayfolk.com/
10月14日(土)17:00/17:30 広島ゲバントホール
お問合せ:夢番地(広島) 082-249-3571 https://www.yumebanchi.jp/
10月15日(日)16:30/17:00 神戸酒心館
お問合せ:夢番地(大阪) 06-6341-3525 https://www.yumebanchi.jp/
10月21日(土)17:00/17:30 小樽GOLDSTONE
10月22日(日)16:30/17:00 札幌KRAPS HALL
お問合せ:WESS 011-614-9999 http://www.wess.jp/pc/
11月03日(金祝)17:00/17:30 福岡ROOMS
11月04日(土)17:00/17:30 福岡ROOMS
11月05日(日)16:30/17:00 福岡ROOMS
お問合せ:BEA 092-712-4221 http://www.bea-net.com/
11月11日(土)17:00/17:30 仙台市戦災復興記念館記念ホール
お問合せ:ノースロードミュージック 022-256-1000 http://www.north-road.co.jp/
11月18日(土)17:00/17:30 高知ライラホール
お問合せ:デューク高知 088-822-4488 http://www.duke.co.jp/
11月19日(日)17:00/17:30 松山MONK
お問合せ:デューク松山 089-947-3535 http://www.duke.co.jp/
11月25日(土)17:00/17:30 鎌倉歐林洞ギャラリーサロン
お問合せ:キャピタルヴィレッジ 03-3478-9999 http://www.capital-village.co.jp/
12月03日(日)17:00/17:30 新潟県民会館小ホール
お問合せ:FOB新潟 025-229-5000 http://www.fobkikaku.co.jp
12月09日(土)17:00/17:30 大阪ザ・フェニックスホール
12月10日(日)16:30/17:00 大阪ザ・フェニックスホール
お問合せ:夢番地(大阪) 06-6341-3525 https://www.yumebanchi.jp/
「谷山浩子コンサート2017」
日時:2017年12月16日(土) 開場17:00/開演17:30
会場:江東区文化センターホール
チケット料金:全席指定 \5,800 (税込) 10月10日(火)発売
お問合せ:ネクストロード 03-5114-7444(平日14:00~18:00)
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