【連載】フルカワユタカはこう語った 第18回『ザ・タイムルーズブルース』
午前6時起床。ツアーなどで地方に行く時はどうしても朝が早い。18時、19時からのライブでなぜそんなに早く起きる必要があるのかと疑問に思う人もいるだろうが、機材の搬入から照明音響の準備、そしてリハーサル、本番までにやらなければならないことが沢山あり、19時スタートのライブでも大抵の場合は13時とか14時には会場に入らなければならない。さらに、「週末だから渋滞も考慮しつつ余裕を持って出発」ならば、“当日入りで大阪”は「朝7時に事務所集合で」という具合になるわけだ。
◆フルカワユタカ 画像
ドーパン時代、チームの隠語で“ティータイム”という言葉があった。地方遠征の際の事務所での待ち合わせ。僕が6時50分に事務所に着いたとして、隼人がオンタイムに到着、それから遅れること10分、7時10分に威風堂々とタロティーが現れるのだが、そのアディショナルな10分間を僕らは“Tタイム”と呼び、各々コンビニに行ったり、トイレにいったりする時間にしていた (後からタロティーもコンビニに行くけどね)。冗談みたいな話だが、ある時マネージャーが試しに10分ほど前倒して集合時間を伝えたところ、はたしてタロティーはオンタイムに現れた。ようは気の持ちようで、来ようと思えば来れんじゃねえかよ、と(笑)。
タロティーとは逆に僕は時間に対してスーパータイトな人間だ。基本的に10分以上前には待ち合わせ場所にいるので、時間直前になっても僕が現れなかったりすると、集合場所や待ち合わせ時間を疑ってしまう人もいるくらいだ。30分以上前に着いてしまい、喫茶店から待ち合わせ場所を見張っていることもよくある。「すみません!ちょっと遅れます!」とメールしたのに自分が一番乗りで現場にたたずんでたりして、恥ずかしい思いをしたりもする。知人のライブに遊びに行くときなんかも、いつも必要以上に早く会場に着きそうになるので、目的駅前に電車を下車して歩いて向かったりする。以前、the band apartのライブを新木場スタジオコーストに見に行った際、早く着き過ぎそうになったので、2駅前の国際展示場から歩いたのだが、区間距離が都心の間隔とまるで違っていて、開演に間に合わなかったという事があった。
しかしながら、よくよく考えると、これも僕の気持ち次第で、30分遅い集合時間を自分に思い込ませればみんなと同じ時に集まれるはずだが (実際そういう努力を試みたことが何度かあるのだが)、そうは簡単にはいかないから性分というのはなんとも不思議だ。ある程度の性格は環境やら努力で変えることは出来ても、時間に対する感覚というものは永遠に変わらないのではないだろうかと思う。待ち時間や移動時間で僕はどれだけ人生を無駄にしてるのだろうと時々ため息が出るが、案外そういう時にじっくり音楽を聴いていたり、面白いアイデアが浮かんだりしているので、実は大事な時間なのかもしれない。ルーズな人達は家を出る前にその時間を設けすぎているというだけなのだろう。なるほど、全然納得いかねえよ。
というわけで、午前6時起床。眠い目をこすりながらライブの衣装を選び、アイロンをかけ、パンを焼きつつ髪をセットする。寝る前に準備していれば毎度毎度こんなに早くに起きてバタバタしなくても良いのだけれども、一日の作業終わりと晩酌の始まりに境目のない僕には事前準備はハードルが高い。この日は、LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERSツアー初日の福岡。12時半羽田発の飛行機に乗って福岡へ。性分だからいたしかたない、早すぎると分かっていても、僕くらいになると6時半に起きて準備“しないといけない” (“しないといけない”としか言いようがない)。恐らく羽田には10時過ぎには着いてしまうだろう。そこから保安検査場を通るまで、1時間半くらいあるから、ゆっくりスタバで歌詞でも書こう。もしかしたら品川の先で京急が止まってるかもしれない。もしかしたら途中で凄くお腹痛くなってトイレに籠ってしまうかもしれない。早く着く分には何の問題も無いじゃないか。
村田シゲという男がいる。ソロ活動開始から、ずっとお世話になっている敏腕ベーシストで、NONA REEVES、ORIGINAL LOVEなど色々な所で大活躍をしているので、僕のファンに限らず、その存在を知っている人も多いだろう。
今から約5年前、僕は渋谷クアトロ3daysでソロのキャリアをスタートした。この時、会場限定販売したミニアルバムがあるのだが、それは僕と村田シゲ、それにドラムのカディオの3人で、旧ドーパンスタジオを使いセルフRECしたものだった。スタジオは僕のプライベートスタジオだったので、本来いくらでも時間をかけられるのだが、ドラムレンタルの都合上、2日間で6曲録らならなければという日程で、「1分1秒が惜しい!」というほどでもなかったが「調子良くは進めたいな」というのが本音ではあった。
迎えたREC初日、待てど暮らせどシゲが来ない。もともとシゲは自他ともに認めるタイムルーザーで、遅刻してメンバー分のコーヒーを手土産に現れる、といったことがリハーサルなどではよくあるので、始めの30〜40分くらいまではさほど心配もしていなかった。が、1時間、2時間、いよいよ3時間と時間が過ぎてゆき、普段なら届くはずの「向かってはいるのでご安心ください」とか「ああ、遅刻ですね」といったユーモアたっぷりな“いま、会いにゆきますメール”が届かないので、これはさすがに遅刻ではなくて彼の身に何かあったのでは、と心配になってきていた。そこから2時間後、都合5時間の遅刻を経て、夕方18時にシゲは現れた。スタジオの近くにあったサンマルクカフェの袋を手に (その日はコーヒーにチョコクロをプラスして) 神妙な面持ちではあったが、腫れぼったい瞼が遅刻の原因を隠しきれずにいた。
話はそれるが昔、湘南の野外イベントにドーパンで出演したことがあって、それこそタロティーが待てど暮らせど集合場所に現れず心配になり、よみうりランドの実家まで迎えにいったことがある。呼び鈴を押しても誰も出ず、玄関の鍵も空いていたので、胸騒ぎがして部屋に乗り込んだら (僕は何度か泊まった事があったので彼の部屋を知っていた)、暗闇の中から半裸のタロティーがもの凄い勢いで起き上がってきて (ようは寝てたということ)、息が出来なくなるくらい笑ったのを覚えている。
といった具合に、僕は他人の遅刻ではあまり頭に来たことがない。『DANDYISM』(※2006年4月発売)を録ってる時にハードディスクを届けるはずのディレクターが寝坊して連絡が取れず、オーケストラバンドを待たせた時はさすがに怒った、とか、二十歳の時にデートの待ち合わせで半日待ったあげく相手が現れなかった事があって、その時もさすがに (色んな意味で) 頭にきた、とか。僕が記憶しているのはせいぜいその2つくらい。自分の遅刻にはあれだけシビアなのに不思議なもんだ。
「まあ、遅刻は遅刻で仕方ない。シゲちゃんならパパッと録れるでしょ。今日は2曲くらい録れればいいよ」──フルカワ
「いやぁ、申し訳ないっ」──シゲ
エンジニアもいないプライベートスタジオなので、ギターを構えたまま自分でRECボタンをクリックする。カディオのドラムフィルからスタート。「雨がやんだら」というミディアムバラード。ハネたリズムと7th主体のコード進行がキモで、硬くソリッドなビートが持ち味だったバンド時代とはまた違う、柔らかでグルーヴィーなシゲとカディオのコンビネーションが心地良い。やはりこういうソウルフルなラインを弾かせれば天下一品。浮遊感もありつつ時にはどっしりと……き、今日はやけに浮遊するのね……、どっしりっていうより、ふんわりっていうか……、あれ……ちょ待てよ……ちょまれょ、シゲちゃん……、指はビシビシ動いてるし、相変わらずメロウなラインはさすがだけど……、この曲そんなに頭ふる必要なくないすか……、スレイヤーみたいになってますやん……、てか船こいでますやん……面舵いっぱ~い!って、ベースがオールみたいになってますや~ん~!!
「ねえ、まさかだけど……、眠いの? シゲちゃん……、寝坊してきたのに……、たっぷり寝ちゃったから遅刻したのに……、シゲちゃん! まだ、眠いの!?」──フルカワ
「ああ、申し訳ない。信じてもらえないかもしれないけど、すっげー眠いんだ」──シゲ
初日はそれにて終了。結果、2日目にバリバリのシゲベース入れてくれたから最高だったんだけど、アレにはビビったさ、シゲちゃん。でもなんか良い思い出よね。あれから5年。ライブの通しリハに遅刻して、急いでリハスタに駆け込んできた新井君が、2曲目の頭から、まるで演出のように、信じられないくらい華麗に合流したこともあったよね (ちなみに新井君はタイムルーザーではございません。時間きっちりです。が、ごくたまにデカイのをやります)。
ザ・タイムルーズブルース。あんまりカチカチ生きるよりいいんじゃないかね、楽しくて、おかしくて、愛おしくて。僕が言うのもなんだけど。
最後にもう一つ。大学の軽音楽部に僕の3つ上、タロティーの2つ上の先輩で、古堅さんって超絶タイムルーザーなベーシストがいたんだけど、彼の迷言。「今日のリハ、10時からか11時からか覚えてなかったから、間とって10時半で対応したら結果10時からだったつうの」。いやいや、10時に来いよ。という思い出話、タロティーがすげえ気に入ってるってのが何か皮肉でおかしいよね。
■<フルカワユタカ SHELTER 3days>
11月29日(水)下北沢 SHELTER「フルカワユタカはこう弾き語った」
11月30日(木)下北沢 SHELTER「無限大ダンスタイム’17」
▼チケット
全公演 前売り¥3,500(税込、D別)
※3日間連続ご来場のお客様にはプレゼントあり
【オフィシャルHP先行(先着)】
7月28日(金)22:00~8月16日(水)23:59
http://eplus.jp/rockstar17hp/ (PC・携帯・スマホ)
※イープラスの会員登録(無料)が必要です。
※受付に関する詳細は受付画面にてご確認下さい。
※先着制の受付になりますので、予定枚数に達し次第販売終了となります。
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888(平日12:00~19:00)
■<フルカワユタカ 5×20 (ファイヴ バイ トゥエンティ)>
※出演者を含む詳細は後日発表
◆【連載】フルカワユタカはこう語った
◆フルカワユタカ オフィシャルサイト
◆フルカワユタカ オフィシャルTwitter
この記事の関連情報
【ライブレポート】LOW IQ 01、<Solo 25th Anniversary チャレンジ25>日比谷野音公演を豪華ゲストも祝福「25周年、楽しいお祭りができました」
【ライブレポート】<貴ちゃんナイト>、fox capture plan、フルカワユタカ×木下理樹、CONFVSEの共演に和やかな音楽愛「笑っててほしいよ」
フルカワユタカ × 木下理樹 × 岸本亮 × 山﨑聖之、<貴ちゃんナイト>共演に先駆けてラジオ番組対談
<貴ちゃんナイト vol.16>にfox capture plan、フルカワユタカ×木下理樹、CONFVSE
フルカワユタカ(DOPING PANDA)、the band apart主宰レーベルより新曲「この幸福に僕は名前をつけた」リリース
フルカワユタカ(DOPING PANDA) × 荒井岳史(the band apart)、ソロ10周年記念Wアコツアーを5月開催
ACIDMAN主催<SAI 2022>ライブ映像を出演者らのトークと共に楽しむ特別番組生配信
フルカワユタカ(DOPING PANDA)、周年イベント<10×25>出演者最終発表
フルカワユタカ(DOPING PANDA)、5thアルバム発売日に周年イベント<10×25>開催発表