【インタビュー】ヒグチアイ、かつてなくポップな新作『猛暑です-e.p-』に「いい意味で裏切れると思います」
去年2016年にアルバム『百六十度』でメジャーデビューを果たしたシンガーソングライター、ヒグチアイが、新作『猛暑です-e.p-』を7月5日にリリースした。『百六十度』にも収録されていた表題曲「猛暑です」は、離れていってしまいそうな恋人に対する主人公の不安や葛藤をリアルかつユーモラスな心象描写で描く、『百六十度』収録曲のなかでも異彩を放っていたポップチューン。本EPはそんな「猛暑です」を筆頭に、全ての曲が「夏」をモチーフにした楽曲たちによって構成された、コンセプチュアルでエンターテイメント性に富んだ作品集に仕上がっている。
18歳の頃から音楽活動を始め、既に10年近い月日を音楽と共に歩んできたヒグチアイ。かつてなくポップな新作『猛暑です-e.p-』を通して今まで以上にクリアに見えてきた彼女の素顔に迫った。
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■ 「こういう一面もあるんですよ」っていうことは言いたかった
■ 10日間あったら2日間くらいはこんな私もいますよって
▲『猛暑です-e.p-』 |
ヒグチアイ:そうですね。たしかに、生きていくうえで「外に出たくない」と思ってしまうような根暗な部分って、私にはめちゃくちゃあるんですよ。だけど、それだけじゃない自分もたしかにいて。人に会えばふざけたくなるし、楽しく話もしたいし。「そういう部分も持っていていいじゃん」って思うんですよね。いろんな物事に対して、「全部、それでもいいじゃん」って言いたかったというか。
──なるほど。人間は本来、多面体な生き物ですもんね。
ヒグチ:性格が暗いからといって、ずっと暗いまま生きる必要なんてないし、明るいからって、ずっと明るくなきゃいけないわけでもないし。もし、「ヒグチアイは暗い」と思っている人がいるなら、今回はその人のことを、いい意味で裏切れるかなって思います。まぁでも、このEPは、私的にもちょっと恥ずかしいんですよ(笑)。あの、飛び跳ねているアー写とか……恥ずかしい!
──ははは(笑)。
──ヒグチさんにとって「シンガーソングライターである」ということは、「思うままの自分であること」と直結しているんですね。
ヒグチ:そうですね。もちろん、ひとつの決まったコンセプトのものを見たい人もいると思うけど、私は、こういう人間だから。
──振り返るとヒグチさんは、もう10年近くシンガーソングライターとして活動されてきているんですよね。ご自身が10年も音楽活動を続けることができた理由って、どこにあるんだと思いますか?
ヒグチ:面倒くさがり屋だった、というのが一番の理由かなって思います。音楽以外の仕事を探すのが面倒臭かった(笑)。
──なるほど(笑)。
ヒグチ:でも、人は誰もが「これをやりたい!」っていうことがあって、その為に生きているんですかね? そこは昔からすごく気になるんですよ。私は、親がピアノの先生で、2歳の頃から音楽をやってきたんです。なので、一番得意なことが音楽だから今も音楽をやっているだけで、別にもし音楽がなくなっても別のことをして生きていくと思うんですよね。死ぬのは嫌だから。
──まぁ、そうですよね。
ヒグチ:で、生きていくためには働いてお金を稼ぐか、そうでなければ、誰かに養ってもらわなきゃいけない。でも、そういうことって自分が何かを一生懸命やらなきゃ手に入らないものじゃないですか。それを探すのが大変だから、私は昔から続けている音楽を、今もやっているんだと思うんです。「辞めたいなぁ」と思うことがあっても、「辞めてどうするの?」って自問自答して、結局、「辞めてもどうにもならない」と思う。それで10年やってきたっていう感じです。
──ただ、生きるために必要な経済力を満たすためには、音楽活動は、決して効率のいい方法ではないですよね? 「音楽をやりながら生きている」というのは、すごく大変なイメージもあります。
ヒグチ:でも、普通に働くのだって大変じゃないですか? 私は昔から、朝ちゃんと起きて学校に行くことを週5日間続けることも大変だったので、今は、大変じゃないことをやらせてもらっているなって思います。
ヒグチ:そうかも。ただ、一貫して強くあるのは、私は自分のためだけに生きているわけではなくて、自分の好きな人や、自分を求めてくれる人がいるから生きていけているんだっていう感覚ですね。音楽も、好きでいてくれている人がいるから、続けることができているんだと思う。自分だけが「やりたい」と思っているだけなら辞めていたかもしれないです。音楽も、日常生活も、求めてもらえている……そう思いたいし、そう思ってくれる人達と一緒にいたいと思いますね。
──なるほど。今回のEPの表題曲「猛暑です」の歌詞って、今言ってくださったことに繋がる気がしました。歌詞のなかで<猛暑>と表現される温度は、曲の主人公とその相手との間に起こる出来事から生まれる体感温度とも言えますよね。つまり、ここで描かれるのは、「自分」と、自分を求めていたはずの「誰か」という関係性なんですよね。
ヒグチ:はい。
──ちなみに、「猛暑です」で描かれる未練を象徴するアイテムの扇風機というのは、ヒグチさんの実体験と重なる部分もあるんですか?
ヒグチ:ありますね。前に、恋人とふたりで暮らしていたことがあって。そのとき、扇風機が2台あったんですよ。相手と別れてしまったとき、そのうちの1台を向こうが持って行ってもう1台をどうしようかってなったとき、私は持っていくのが面倒くさくて、捨てちゃって。そのときに、こんなに面倒くさい、しかも夏しか使わないものを人と貸し借りするのって、すごく深くて重たい関係だなって思ったんです。それで書こうと思ったのが、この曲なんです。
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