【インタビュー】DJ KRUSH「持っているものを下の世代に与えるのは惜しまない、逆に彼らから刺激を受けて先に進める」

■聴く方もちょっとやそっとじゃ刺激を受けないし
■そんな中でやっていくのはやっぱり大変ですよ

──今回ラッパーとのやり取りではどのくらいキャッチボールがあったんですか？

DJ KRUSH　人によって違うけど、2〜3回送り合ってできた感じですね。でも、時間がかかったのは志人くんので（「結ーYUIー」）、言葉であれだけのことを言っているから、後ろでドラムを差し換えたりすると、集中できなくなってしまう。完全に言葉を活かさないといけなかった。あの曲に関してはもう全面に志人くんを出して、後ろでいい景色を作ることに徹底しました。

──彼は、ビートがなくてもいいような、朗読のようなスタイルでやってもいましたよね。だから、この曲ではちゃんとビートに乗せているのが逆に驚きでもありました。

DJ KRUSH　倍で乗せているんだよね。よく口が回せるなと。彼はあれだけ力を持っているし、リズム感もすごいから、ビートの抜き差し、スネアの位置が云々じゃなくて、どういう景色を彼に出したらいいか、ビートがなくても彼、ほんとうに大丈夫だからね。でも僕はビートを入れたいし、そこでのやり方は絶対にあるから、それを探るのに一番やり取りをしたかな。行こうとする場所がお互いに見えたらやれたんですよ。

──RINO LATINA llの参加は？

DJ KRUSH　彼は若い人からのプロップスが凄くて、最近のライブもよく見てたからね。あ、昔よりよく喋るな、って（笑）。あまり深く考えず、もう一回やってみようかなと思った。そしたら、ラップの内容が昔のドゥルーピー（・ドゥルワーズ）とか、ホンダくん（DJ HONDA）やライムスターの名前が出てきたりね、で、トラックはあえてブレイクビーツじゃなくて808系の音をぶつけてみた。

──こうやって昔のことをラップで語られるのは良いですね。

DJ KRUSH　うん、ちょっと思い出しちゃうよね、いろいろと。あの時そう思っていたのか、RINOは、って。RINO曰く“この辺のことを語ったらこの1曲じゃ終わらないから”って。だからパート２があるかもしれない。

──5lackの曲も普段の彼とは違う世界でしたね。

DJ KRUSH　彼が自分たちでやってる音は結構メロウなんで、それに近い、俺なりのメロウ、ちょっとリズムがズレてるメロウなトラックと、ヘヴィーなやつと、もう一つは割とイケイケなやつを送ったんだけど、そうしたら俺が一番やって欲しかったヘヴィーなやつを選んでくれた。“普段、自分のファンはメロウな感じを聴いているので、今回はこれで行きます”と言ってくれた。ビートと言葉を置いていく感じが面白いね。

──ほんと、置いていく、という感じですね。

DJ KRUSH　そう、隙間を見つけて、ちゃんとズレてない。そこは上手いなって思いましたね。他の人もみんな、自分なりの上手さをちゃんと持ってる。それに凄い刺激もされましたね。これは俺が持ってないリズム感だとか。それはラップでなくても、生楽器でも楽しいですよね。

──ラップの中身に関しては希望は出したんですか？

DJ KRUSH　曲のコンセプトは伝えても、ラップに関しては今までも一切言ってこなかったですね。

──あと、一曲だけ入っているインスト曲（「夢境」）が実は凄いなと思ったんです。いろんな音が詰まっていて。

DJ KRUSH　いままでにない感じでしょ。いろんな音がガーンって鳴ってて。あれは絶対入れたかった。このアルバムのことが一段落付いたら、またインストのアルバムを作って今年中に出そうと思ってます。

──KRUSHさんのように90年代に活発に活動をしていた人こそ、2000年代に入ってから変化を余儀なくされるような状況に直面したと思います。KRUSHさんが再びリリースを始めたこともそうですが、2010年代に入ってからまた変化してきて、下の世代との交わりも新たに生まれているように感じるんです。

DJ KRUSH　90年代はDJプレミアのようなビート職人という独特の立ち位置がありましたよね。でもいまはラップが主体で、拡がりが出た分だけ、聴く方もちょっとやそっとじゃ刺激を受けないし、そんな中でやっていくのはやっぱり大変ですよ。でも、俺らが持っているものを彼ら（下の世代に） に与えるのは惜しまないし、逆に彼らの持っているものから俺らは刺激を受けるし、先に進むこともできるからね。そういう部分も今回の『軌跡』にはあるかな。

取材・文：原雅明
撮影：西角郁哉


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