【インタビュー】千聖、過去と未来を繋ぐソロデビュー20周年ベスト
■「じゃあ、久々に歌おうか」って
──これも素朴な疑問なんですけど、千聖さんは今、PENICILLINとCrack6を並行させて活動していますよね。ソロとしての千聖とCrack6の違いってどこにあると思っていますか?
千聖:これは答えるのが難しい質問ですね。僕は20代の時はPENICILLINと千聖の活動を並行させていたんですよ。1996年にリリースした1stアルバム(千聖/『ORGANIC GROOVER』)は時間がない中、デジロック、メタル、ハードロック、ファンク、ポップス、ジャズっぽい曲とか…とにかく、新しいおもちゃを与えられた子供みたいに面白がって夢中にやってたら出来ちゃったって感じです。実際2、3ヶ月くらいしか費やしていないと思う、メチャハードだったけど(笑)。それに対して1999年にリリースした2ndアルバム(千聖/『CYBER SOUL PAVILION』)はレコード会社の移籍やら何やら、色んな事情が重なり、もはやリリースできるの?って思い悩みながら、約2年かけて作り上げた作品なんです。もちろん歌も成長しているし、ある程度自分の中でソロのセオリーとスタイルが固まった上で作っているんですね。熟考を重ね、こだわりにこだわった食材をたっぷり煮込んだシチューみたいなのが2ndですね。
──『CYBER SOUL PAVILION』のコンセプトとは?
千聖:近未来的な。ちょうど21世紀に向かっていく時期だったので“サイバー”という言葉を使ったんです。その前に出したシングル「VENUS」、「KICK!」や「CYBER ROSE」、「WAKE UP!」も入るし、これは1stシングルを更に進化させた、自身の中で最高で最強の完璧なアルバムができるなって。
──そこまではサイバーとかデジタルな新しいロックっていうイメージがあったわけですね。
千聖:そう。で、結局「WAKE UP!」は同時発売のシングルCDとしてこの世に出ることになり、2ndには収録されなかったんですよね。そして2ndのツアーが終わった時に「日本武道館でのライヴもあるし、3rdを出さないか?」って言われたんですよ。2ndでやりたいことをやっちゃったから相当迷ったんですが、考えた末に目に止まったのがエックスゲームとかのインラインスケートで、「動きがカッコいいし、こういうスポーツと千聖の音楽って合うんじゃないかな」って。当時の自分はヴィジュアル系っぽい格好というより、もっとカジュアルでスポーティーな感じだったので。
千聖:そう。今回の写真で使っているのも当時、撮影で使ったスケボーなんだけど、「だったらエックスゲームズの選手とコラボしてみるのはどうだろう?」って。それがシングル「電撃ミサイル2000」という曲や日本武道館にハーフパイプを作ってインラインスケートの選手たちとコラボするライヴに繋がっていくんです。今度は当初のデジロックとは真逆の綺麗で派手なシンセサイザーサウンドはいっさい使わず、DJや激しい打ち込み音を中心にゴリゴリなロックサウンドで勝負したのが3rdミニアルバム『SURF SIDE ATTACK!』。千聖としては当時、今後はこの路線を踏襲してやろうと思っていたんですけど、事務所の移籍だったり、まわりの環境が変わったこともあって、ラスベガス公演をする2000年でほとんど活動が止まっているんです。
──なるほど。
千聖:そうなんですよ。で、さっきの質問の答えなんですけど、あれは2002年くらいかな? 僕の中学〜高校時代の親友に「もう歌わないのか?」ってある日言われたんですね。彼の奥さんはその辺りでガンで亡くなってしまったんですけど、闘病中に自分の2ndアルバムを聴いて勇気が出たって言ってくれていたらしくてね…。SHIGEさんにも「ここまでせっかく良いものを作ってきたんだから、また自分が歌う作品を出したら?」って言われて「じゃあ、久々に歌おうか」って始めたのがCrack6(2003年〜)なんです。
──親友の言葉に背中を押された形で始まったのがCrack6。
千聖:でも、1stや2ndの音楽のスタイルはちょっと違うんですね。3rd『SURF SIDE ATTACK!』のまさに延長線上のロックサウンド。
──後期の千聖をCrack6が引き継いでいるとも言えますかね。
千聖:そうですね。ただCrack6も『Butterfly Effect』というアルバムを境に前半と後半に分かれている感じですね。あのアルバム以降は、JIROさん(O-JIRO)とSHIGEさん(SHIGE ROCKS)とTENちゃん(TENZIXX)の4人の固定で作っていると言ってもいいスタイルなので、千聖とはまた違う意識のソロプロジェクトが今のCrack6ですね。
──話は戻りますけど、千聖として活動していた時期って世紀末ですよね。ヴィジュアル系でいうとダークでヘヴィなバンドが台頭してきた時代だと思うんですけど、千聖さんのロックはメロディもギターリフもキャッチーで、青い空が似合うというか、希望がある。
千聖:根が明るいんでね(笑)。小説や映画にしてもハッピーエンドじゃなくても、最終的にはどこかで希望が欲しいなと思うタイプなんですよ。エンターテインメントに絶望だけを残すのは自分はあまり好きじゃなくて、どんなに激しくてもどこか美しかったり、明るくてもどこかに陰りがあったり、バカっぽくてもロジックがちゃんとしていたり、ダイナミックなのに繊細だったり、対極にあるものをぶつけてみたくなるタイプですね。人生自体にそういう感覚を持っているのかもしれない。
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