【インタビュー】真空ホロウ、豊かな音楽性が花開き多彩さと完成度の高さを兼ね備えた新作『いっそやみさえうけいれて』
■“なぜ自分は音楽をやっているんだろう?”と思い返したソロ活動の2年間
■普段の生活からステージに立つ時などもすべてに素の自分を出すことにしたんです
――せつない想いに加えて、文学的な香りがすることも魅力になっています。コラボレーションということでは、「ハートの噛み痕(feat.UCARY & THE VALENTINE)」の作詞を、アーバンギャルドの松永天馬さんが書かれていますね。
松本:今回のアルバムはコラボもしようかという話がスタッフさんから出た日に、たまたま僕はアーバンギャルドのライブを観に行って。それで、コラボするなら天馬君が良いなと思ったんです。こんなに尖った歌詞を書く人に、オブラートに包んでくれと言ったら、どんな歌詞を書くんだろうと思って。それで、さっき話した今回のアルバムのテーマを全部箇条書きにして天馬君に送ったら、一度会おうということになって。カフェで天馬君と話をしていたら、カウンセリングみたいな感じになって、「最近の悩みは?」とか聞いてくるんですよ(笑)。そういう2時間くらいがあってから、天馬君が歌詞を書く作業に取り掛かりました。天馬君が思う、僕くらいの年代の男の子が女の子に対して抱く感情だったりを、アルバムのテーマを通して書いてくれたわけですけど、オブラートを全部はがすと下ネタですよね(笑)。そういう内容だけどオシャレな雰囲気で、すごく良い歌詞を書いてくれたなと思います。
――松永さん、さすがですね。この曲はゲスト・シンガーとしてUCARY & THE VALENTINEが参加されていることも注目です。
松本:天馬君に歌詞を書いてもらうなら、男女混声にしたいなと思ったんです。彼の世界観は女性が加わることで完結する印象があるから。そうなった時に、僕はアンディー・ウォーホールが好きなんですけど、『ヴェルベット・アンダーグランド・アンド・ニコ』のバナナのジャケットがパッと思い浮かんで。それで、モデル、シンガー……UCARYさんだ! ということになった。ただ、全く繋がりがなかったので、スタッフさんに話をして、繋げてもらって。そうしたら、もう二つ返事でやりますと言ってくれました。UCARYさんに歌ってもらうパートに関しては、UCARYさんが思う、この曲の歌詞の主人公の男……要は、天馬君ですよね。彼に対する言葉というのを入れて欲しくて、そこはUCARYさんに書いてもらいました。
――良い形のコラボレートと言えますね。「ハートの噛み痕(feat.UCARY & THE VALENTINE)」は、翳りを帯びたダンス感を活かした曲調も魅力的です。
高原:この曲は、最初はもっとダンスビートっぽいテイストだったのを、途中でシティポップな感じに変えたんです。
松本:そう。それで、元々僕がデモに入れていたベースは外すことにして、その段階で男女混声かということになって。そこで方向性を変えました。
高原:もっと“サイダー感”を出したいね…ということになって。それを踏まえたベースに変えて明人君に送ったら、良いねと言ってくれて、今の形になりました。
――この曲もそうですが、高原さんのベースは黒っぽいグルーブとファットなロック感を併せ持っていることが印象的です。
高原:私はレッド・ホット・チリペッパーズとジャミロクワイの血がわりと濃く混ざっているので(笑)。その結果、そういうベースになっている気がしますね。
松本:それが良いんですよ。洗練されたベースを得意としているけど、ロック感のあるベースも弾ける。それに、ボトムを支えている時も存在感があるし。すごく良いベーシストだなと思う。(高原のほうを向いて)本当に、ありがとうございます(笑)。
高原:いやいやいや(笑)。
――優れたベーシストであると同時に、真空ホロウにフィットしていますよね。ベースということでは、ベースで穏やかな世界を構築しているインストの「いっそやみさえうけいれて(アウトロダクション)」も要チェックです。
高原:この曲はアルバムを締める責任感みたいなものがあったし、最後の「ラビットホール」からもう一度「いっそやみさえうけいれて(イントロダクション)」に繋げる役目を果たすものにしたいというのもあって。そういうことを考えて作りました。ハーモニクスから入って、自分の得意な和音を活かしたフレーズがあって、真空ホロウで私が担うもう一つの役割のコーラスをベースで表現したくてハモリも入れて…という感じになっていて。自分で作ったこともあって、自分っぽさがよく出たものになったなと思います。
――ベースという楽器の表現力の高さを、改めて感じさせる1曲に仕上がっています。コラボレーションはもう1曲あって、伊東歌詞太郎さんが作詞/作曲を手掛けた「さかみち」も収録されています。
松本:僕が書くものは、どうしても僕の色が濃くなってしまうというのがあって。アルバムの流れを考えた時に、最後の「ラビットホール」に繋げるために、もう少し光を広げたかったんです。そのためには、自分ではない色を、ここに入れ込んだほうが良いかなと思って。歌詞太郎君は、普段から飲みに行ったり、ライブを観に行かせてもらったり、観に来てくれたりしている仲なんですね。彼はボカロの人ですよね。ボカロの人は“歌ってみた”というのをいつもやっているから、“歌わせてみた”というのをやって欲しいなと思って。それで、歌詞太郎君の“歌わせてみた”を、僕が歌ってみました(笑)。あと、この曲は一番アレンジに時間が掛かったよね?
高原:うん。他の曲は明人君が作った曲に対するアレンジなのでやりやすいけど、この曲は着地点が見えにくくて。すごくポップな世界観の曲を明人君の色に寄せるということで、自分のベースで陰の部分も出すことを意識しました。それに、「夜明け、君は」から「ラビットホール」に繋ぐための光ではあるけど、明る過ぎる光は違うというのがあって、そのバランスの取り方がすごく難しかった。でも、苦労した甲斐があって、すごく良い曲に仕上がって良かったです。
――楽曲、歌詞ともに他人のものでいながら、真空ホロウに昇華させたのはさすがです。それに、「さかみち」もそうですが、今作は全曲に亘って松本さんのボーカルに一層の磨きが掛かっていることも見逃せません。
松本:それは、ソロ活動をした2年間が大きかった気がしますね。そこで、“なぜ自分は音楽をやっているんだろう?”と思い返したというのがあって。あと、真空ホロウという看板を背負って10年経って、“真空ホロウって、なんだろう?”と思って。その時に、真空ホロウというのは何もない状態を現した言葉なのに、何をそこに自分は固定概念を付けているんだろうと思ったんです。音楽性に限らず、キャラクター云々といったことも含めて。そうじゃなくて、普通に生きている松本明人という人間を出さないと嘘になると思って。それで、普段の生活から、こういう風にインタビューを受けたりする時から、ステージに立つ時から、もうすべてに素の自分を出すことにしたんです。そういう風に内面が変わったら、歌も変わりました。それに、今回のアルバムは、この曲はこういう人に伝えたいということが初めて明確にあって、想いを込めやすかったんです。自分の感情に集中できるから、あとはどう歌うかということだけだった。だから、より伝わる歌になっているんじゃないかなということは自分でも感じています。あとは、冒頭にも言ったように、高原さんが歌いやすいベースを弾いてくれたことも大きかったですね。
――歌うことが本当に好きであると同時に、真摯に歌と向き合っていることを改めて感じます。それに、今作は今までよりもギターがシンプルになっていることも特徴といえませんか?
松本:そう、よく気づきましたね(笑)。全体的にギターは薄くて、「ハートの噛み痕(feat.UCARY & THE VALENTINE)」とかは、もうほぼギターがないんですよ。最初にエンジニアさんがミックスしてくれたトラックを聴いて、「いや、ギターはもっと下げてください」「もっと下げてください」「エレキギターは要らないから、アコギとシーケンスだけにしてください」みたいな感じでした。ただ単に爆音を鳴らすだけのロックバンドをやっていたら、僕らが言いたいことは伝わらないんだろうなというのがあって。今回僕らがテーマに掲げた人々に届けるために大事なのは、良い歌と心地好い伴奏だろうなと。それで、こういう纏まり方になりました。
――とはいえ、「カラクロ迷路」のトリッキーなリフや「さかみち」のエモーショナルなギター・ソロ、それぞれの曲調に合わせたトーンメイクなど、ギターの聴きどころも多いです。こうしてみると、本当に『いっそやみさえうけいれて』は新たな真空ホロウの魅力を満喫できる一作といえますね。アルバム・リリースに伴って7月に行われるツアーも、今までとはまた違ったライブになる予感がします。
高原:そうですね。より多面的で、かつ深度を増したライブになると思います。あとは、私が正式メンバーになって初のツアーなので、よりちゃんと真空ホロウの一部になれると良いなと思っていて。それを目指して、がんばります。
松本:今度のツアーは“いっそみなさえうけいれて”というタイトルなので、みんなは“高原未奈ちゃんを受け入れて欲しい”という意味だと解釈していると思うんですよ。それもあるけど、実はそうではなくて。“みんなが思っている以上に、あなたも闇を抱えていますよ”ということを受け入れて欲しくて、こういうタイトルにしたんです。このアルバムが出てから2ヶ月後にツアーが始まるから、いろんな人に聴いてもらって、“ああ、意外と自分もこういう人間なのかもしれない”とか“自分は、この歌詞の意味がすごく分かる”みたいなことが染みついた状態のツアーになるというのがあって。なので、今までのライブでは、「真空ホロウを観て、泣きそうになりました」とか「胸がいっぱいになりました」と言ってくれる人がいっぱいいたけど、今度のツアーは「ライブを観て、泣いてしまいました」とか「胸が張り裂けました」というところまで持っていけると思います。世の中には、「私、悩んでいます」「私、暗いんです」「会社で嫌なことがありました」みたいな人は多いんですよね。そういう人は、もうその気持ちのままライブに来て欲しい。それで、実は意外とそういう人がいっぱいいるということに気づいて欲しい。それだけでも強みになると思うんです。ライブハウスに来てみたら、私みたいな人がいっぱいいましたと。そこで、それぞれが自分の闇を受け入れて、でもそこからもっと先に進める、強くなれる、自分は光のほうに行けるかもしれない…といったことを感じてもらえるような空間を創りたいと思っています。
取材・文●村上孝之
リリース情報
2017/05/17 RELEASE
BNSU-0001 2,200円(税込)
01.いっそやみさえうけいれて(イントロダクション)
02.レオン症候群
03.ハートの噛み痕(feat. UCARY & THE VALENTINE)
04.#フィルター越しに見る世界 (with コヤマヒデカズ from CIVILIAN)
05.カラクロ迷路
06.「夜明け、君は」
07.さかみち
08.ラビットホール
09.いっそやみさえうけいれて(アウトロダクション)
ライブ・イベント情報
7月15日仙台LIVEHOUSE enn 3rd
問い合わせ GIP 022-222-9999
7月20日大阪Live House Pangea
問い合わせ GREENS 06-6882-1224
7月21日福岡The voodoo lounge
問い合わせ BEA 092-712-4221
7月23日名古屋CLUB UPSET
問い合わせ サンデーフォークプロモーション052-320-9100
7月28日渋谷WWW
問い合わせ SOGO TOKYO 03-3405-9999
関連リンク
◆【連載】真空ホロウの“ひいてみた” 松本明人の見てる世界
◆【連載】真空ホロウの“ひいてみた” 高原未奈の見える世界
◆第一興商
◆clubDAM.com
◆BARKS カラオケチャンネル
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