MIYAVI「次の世代の人たちに聞いて欲しい、哲学を感じるアーティストの10曲」/【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュ

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この連載は、音楽家/プロデューサーのトベタ・バジュンが毎回素敵なコンシェルジュをお迎えし、オススメの10曲のプレイリストを通し、コンシェルジュの「音・音楽へのこだわり」を紐解きながら今の音楽シーンを見つめ最新の音楽事情を探っていくコーナーだ。

14回目のコンシェルジュは4月5日にベストアルバム『ALL TIME BEST “DAY 2”』を発表するMIYAVIだ。ギタリストとしてはもちろんのこと、アンジェリーナ・ジョリー監督作品『不屈の男 アンブロークン』で俳優としても世界デビューを果たすMIYAVIに「次の世代の人たちに聞いて欲しい、哲学を感じるアーティストの10曲」をセレクトしてもらった。


●MIYAVI「次の世代の人たちに聞いて欲しい、哲学を感じるアーティストの10曲」

(1)Earth Song / マイケル・ジャクソン
(2)Imagine / ジョン・レノン
(3)Cross Road Blues / ロバート・ジョンソン
(4)Scary Monster with nice spirit / スクリレックス
(5)One More Time / ダフト・パンク
(6)Love Me Tender / エルヴィス・プレスリー
(7)Purple Haze / ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス
(8)Million Miles From Home /キザイア・ジョーンズ
(9)Smells Like Teen spirit / ニルヴァーナ
(10)Rose / ベット・ミドラー

   ◆   ◆   ◆

(1)Earth Song / マイケル・ジャクソン

“音楽を通じて発信する”という意味では、マイケルが一番だと思います。それで「Earth Song」を。これに尽きます。人類の叫びを音に乗せて、「自分たちが、どこに今いて、どこに向かおうとしているのか?」を、僕たちは検問していく必要があると思う。この時期は「Man In The Mirror」とか「Black or White」とか、ほとんどそういうメッセージを持っている。彼のメッセージとポップソングとしてのクオリティーの高さ…これを抜く人はいないです。

(2)Imagine / ジョン・レノン

哲学、生き方を感じるアーティスト。これは、言ってみればぶっちゃけ綺麗事ですよ…だけど、これを僕たちが歌わないで誰が歌うんだ?という。ピアノでぽーんと弾いた曲が、こんなにも人の心を動かす。こういう楽曲を、未来の一部なんだという意識を持って作っていくことが、すごく大事と思います。

(3)Cross Road Blues / ロバート・ジョンソン

この人は、曲がどうというよりも革命家として好き。僕からしたら、彼は元祖ギター侍ですね。「なぜ俺たちは音楽をやっているのか?」ということの大事さを考える曲。特におもしろい曲でもないし録音状況は悪いしサウンドも最悪だけど、「この人たちは、これしかなかったんだ」って思う。生きてて、つらくて、苦しくて、楽しくて、たまにいい女見つけて、ハッピーで、でも振られて、悔しくて、何もできなくて、無力で…。で、言葉になんないからギターを弾いた、みたいな。その、言葉にならない思いが音に乗って、人の心を動かす。で、それをもっとたくさんの人に伝えようと録音し始めたんですね。ここが根本だと思うんです。この人たちのプリミティブな音を聴いていると、「なぜ、俺たちはこれを歌っているのか?」ということの大事さを感じます。

(4)Scary Monster with nice spirit / スクリレックス

これは、デビューしてすぐブレイクした曲ですが、彼は新しい解釈のダブステップを作り出した。彼自身、ものすごい強いものを作ったから衰退するのも早い。模倣品も出てくるしね。そこで彼は、新しくプロデュースをしたり、ディプロと組んでJack Uをやることで時代とともに歩んでいることが分かります。彼もそういう意味では「叫び」で、ロバート・ジョンソンに近い部分があるのかなと思います。

(5)One More Time / ダフト・パンク

同じエレクトロで彼らもやはり開拓者グループ。

(6)Love Me Tender / エルヴィス・プレスリー

彼はスターですね。スターというのは何物にも代えがたいもの。日本にも、松田優作、菅原文太、三船敏郎…いろんなスターがいますけど、人を熱狂させる彼らのパワーは、最終的には人間力なんですよね。どれだけテクノロジーが進化してプロセスがデジタルになっても、聴くのは人間で入り口と出口はアナログなんです。マトリックスみたいな世界がきたとしても、人間が人間の尊厳を忘れない以上、こういう人間力こそがすごい大事だと思います。

(7)Purple Haze / ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス

「ギタリストってカッコいいですね」と言われますが、それはギターがカッコいいのではなく歴史上の「ギタリスト」がかっこよかったんです。だから、みんなギタリストがかっこいいと思ったし、かっこよくなりたいやつらが、そこにみんな集まった。もしかしたら、ジミ・ヘンドリックスがキーボードを弾いていたならば、キーボードのほうがカッコよかったかもしれない。キース・リチャーズ、ジミー・ペイジ…その人たちの生き方がボーカリストとともに大衆に共鳴して、「ギタリストかっこいい」となった。僕たちは、その恩恵を受けてやってるだけの話であって、こういう人たちがいなかったら僕はいないですよね。ロバート・ジョンソンとはまた違う、「象徴」としてのギタリストは本当に尊敬します。

(8)Million Miles From Home / キザイア・ジョーンズ

この人とは面識あるんですが、ナイジェリアの王族の出身なんですよ。全部捨てて、自分の国からイギリスに渡ってストリートでパフォーマンスをしはじめた。パーカッシブなギターをする人ですが、彼も侍だと感じています。自分のスタイル/夢を持って、自分だけの道を歩む。これはすごく大事なことです。

(9)Smells Like Teen spirit / ニルヴァーナ

マリリン・マンソンにも近いんですけど、カート・コバーンのようになっちゃいけないよ、っていう(笑)。僕は、何よりニルヴァーナの元ドラマーでフー・ファイターズのフロントマン、デイブ・グロールを凄くリスペクトしてます。バンド解散後、ドラマーがボーカルになってチャートに出てくる…これはすごいっすよ。その根幹には、人の良さとメッセージ/無骨なまでの熱いものがあるし。単純に男としてかっこいいですね。

(10)Rose / ベット・ミドラー

どれだけ売れてもどれだけ成功しても、結局は「人」なんだと思います。朝飯食ってトイレ行ってセックスして…結局、人。同じくもろいんです。有名になれば有名になるほどもろくなっていく。もろくなってきたときに一番大事なものは何か?「なんで音楽やってんのか」だと思うんです。「有名になりたい。お金を持ちたい。モテたい」だと、多分ダメなんです。カート・コバーンじゃないけど、みんな溺れてしまう。忘れちゃいけないのが「なんで音楽やってんのか」。その先にゴールがあれば、絶対にいいメッセージ/いい作品を作り続けられる。決して大きくなくても。それこそが本当の成功なんじゃないかなと思います。「生きていく痛み」「人の痛み」を楽曲に乗せて、表現していくことが僕たちの責任だと思う。

   ◆   ◆   ◆


――デビュー15周年のベストアルバム『ALL TIME BEST “DAY 2”』、完成おめでとうございます。

MIYAVI:正直、振り返っている暇もないですし、今も次の作品を作ってる最中なので、ベストを喜ぶタイプの人間じゃないです。ただ、15年の中で関わってくれた人たちや、ずっと応援をしてくれている人たちの存在は確実にあって、その人たちがいるから、今の俺がいる。

――うん。

MIYAVI:ぶっちゃけ、昔の曲とか自分では聴けないんですよね。でも否定しないし後悔もしてない。すべての過去の軌跡があるから、今の自分がいて未来を見て挑戦できているからね。いろんな点と点を繋いで線にして、過去と未来を繋げられる作品にしたいなと思ったから、昔の曲を全部新録にしようかとも思ったけど、レコード会社としては過去作ベストが出したかったみたいなので。

――今回のアルバムは、ロスを拠点として作ったんですか?

MIYAVI:そうですね。5曲と新曲、映画『無限の住人』で6曲ですね。

――『無限の住人』の三池監督からは、特に大きなリクエストはなかったんですか?

MIYAVI:なかったですね。「好き放題ぶった切ってください」っていう感じ。強いて言うなら「観てくれた人たちにとって、映画と現実社会を繋ぐ架け橋になるような楽曲であってほしい」というくらいで、そういう意味では、作り手冥利に尽きるというか、すごく信頼してくださっている中で作らせてもらいました。

――映画は観ました?


MIYAVI:CGが入る前の段階で、誰よりも早く一回観させてもらって、そのタイミングでインスピレーションを受けました。今回、木村(拓哉)さんの男としての旅立ち…その一歩目を僕は刀の代わりにギターで戦わせてもらった。木村拓哉が演じる人物自体が、死ねない男なんですよ。不老不死は憧れるものでもあるけれど、周りの人たちはみんな死んでいくという辛さがあって、出会った瞬間に別れが見える。そういう意味で生きる意味を見失った彼が、また守りたいものを見つけて「生きたい」と心の底から願う。これは、自分たちにも「お前、本気で生きてんのか?毎日、何となく生きてねーか?」をすごく問いかけられてる気がして。

――ああ。


MIYAVI:その主人公の葛藤や殺陣のシーンという激しい部分と、凛(杉咲花)という女の子に対する「守りたい」っていう優しさ。そのふたつを、楽曲に共存させるのが俺の中で大きなテーマでした。スロウな優しいメロディーに関しては、時の流れを感じるイメージで作りました。雲って本当は速いスピードで流れているけど、僕たちからはすごく遅く見える。そういう諸行無常感というか、目まぐるしく変わっているけど、俯瞰して見るとすごくゆっくり確実に動いてる…そういうイメージから最初のメロディーが浮かびました。激しい部分は、時代劇とモダンな部分をどうマッシュ・アップできるか。

――アルバムのミックスとマスタリングも素晴らしいですね。とが立体的で。

MIYAVI:最近の曲のミックスはクリス・ロード-アルジという、グリーン・デイとかを手がけているロック系の人。あとはジョン・カップリンっていう人。

――ここにもこだわっているんですよね?

MIYAVI:いや、最近はこだわらないです。それこそ最初は自分で全てやっていましたけど、自分にしかできない部分にプライオリティを置くようになりました。ステージに出てパフォーマンスをすることもそうだし、難民キャンプ行ってギター弾くこともそう。エンジニアにはできないけど俺にはできるから、俺がする。アクティング(演技)もそうですね。最初から最後まで自分がやるのもいいけど、自分の意思とビジョンが共有できていれば、あとは任せることができるようになりました。

――今もなお海外を視野に、侍スピリッツで最前線で戦っているいますよね。


MNIYAVI:もともと音楽やってる中で、オリコン1位ってビルボードで何位なんだ?っていうところから始まってるので。その壁を取っ払って「俺たちどこにいるんだ?」っていう意識ってすげー大事だなって思ってね。世界中に「ワオ!」を与えたいんです。スティーブ・ジョブズがしたように、人をわくわくさせたい。で、自分がわくわくしてたい。そのわくわくを伝えたい/共有したい。

――すごいシンプルなんですね。

MIYAVI:そう。そのツールが、たまたまギターだったっていうだけの話で。

――多感な10代に影響を受けてきた音楽は?

MIYAVI:いっぱいですね。レイ・チャールズはもちろん、たくさんのロックも聴きましたしブルースも聴きましたし。ロバート・ジョンソン、バディ・ガイ、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、ジミ・ヘンドリックス…、見せるという意味ではデヴィッド・ボウイ、T・レックス、バウハウスとかモトリークルーもそうですね。ニューメタルっていうんですか?コーン、ナイン・インチ・ネイルズ、ラムシュタイン、ヘルメットもすごい好きでしたし。

――今回選んでもらった10曲とはまた違う作品がたくさんありますね。

MIYAVI:はい。基本的にはベタなところなんですけどね。これからは海外で活動するアーティストは増えてくると思うんですね。増えなきゃいけないし、対話力を付けていかないとね。エクスポート(輸出)するのはいいけど「何をエクスポートするのか」。これは、日本の音楽だけじゃなくて、世界的に言えることですけど。

――はい。


MIYAVI:今、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)で難民の人たちをサポートするお仕事をアンジー(アンジェリーナ・ジョリー)の紹介でやらせてもらっているんですけど、国連の人たちと話をしていると、チャリティーやボランティアみたいなものがロックやファッションとすごく分離されていると感じるんです。まぁ、政治もそうですよね。

――ええ。

MIYAVI:先輩アーティストと話をすると「僕は政治のことは歌わない」という人もいて、それは「現実からの解放」という意味では、嫌なことを忘れて会場で楽しむエンターテイメントの在るべき姿だとは思います。でも、それって「平和が前提」なんですよね。

――そうですね。

MIYAVI:だって「ギターで、愛する人を戦場で守れますか?」…って無理ですよ。かと言って「何もできないのか」と言ったらそうでもない。俺たちは、そうならない状況を作ることはできる。国連の人は「かっこいい人に、かっこよくやってもらいたい」と言うんです。なるほどと思った。まさか自分が「水色のUNHCRキャップを被って難民キャンプに行く」と思ってなかったけど、でも俺は「これをかっこいいものにしないといけないんだ」って思えた。

――分離じゃなく進化させる。



MIYAVI:「今すぐ難民キャンプに行け」って言っているんじゃなくてね、人それぞれにやれることがある中で、僕は「これがかっこいいことなんだ」と伝えたい。「イジメをするのがカッコ悪いこと」と一緒で、こういう活動自体が、ロックやファッションと同様にかっこいいもので、政治の人間じゃなくてもできるんだってね。みんな人間ですから間違いは犯すけど、そういうことに取り組むことはできるんだって。そういう人たちが増えれば増えるほど、この世界は良くなる。そういう意味で、僕たち音楽家も、歌うことや伝えることの中に、メッセージと自分たちの哲学を入れる必要性があると思う。

――ありますね。

MIYAVI:俺たちが意味分からんことをしたら、意味分からん子が育つ。だから、大人にも教育をすべきだと思いますし、僕たち音楽家も、いろいろなことを学ばなければいけない。そういう意味では、坂本龍一さんとか本当に尊敬してます。そういう意味で、今回の10選は、新しいものを確立した人、メッセージが込められた人を選びました。大きな会場でVIPチケット売るという興行的な成功も大切ですけど、自腹で難民キャンプに行ってアコギで演奏することの価値がとても大きいんです。どっちもやることが僕たちの責任だし、「生きていく痛み」「人の痛み」を楽曲に乗せて表現していくことが、僕たちの責任だとも思うんですね。10代の人たちも、やり始めて影響力を持ったときに、多分そこに気付くと思う。「なぜ俺はやってんのか。なんのために、今このステージに立ってんのか?」…そういうときに、こういうことを考えてみてほしいなと思います。


MIYAVI デビュー15周年記念ベストアルバム『ALL TIME BEST “DAY 2”』

2017年4月5日(水)発売
初回限定盤(2CD+DVD)価格: ¥7,800(tax out)TYCT-69114
・2CD DISC 1(オリジナル14曲+新録5曲+新曲1曲=20曲)/ DISC 2(13曲)全33曲※スリーブケース付き
・DVD MIYAVI Japan Tour 2016“NEW BEAT, NEW FUTURE”Tour Final 幕張メッセLIVE映像(約87分)
・特典Booklet MIYAVI Japan Tour 2016“NEW BEAT, NEW FUTURE” スチール集(20ページ予定)
通常盤(CD)価格:¥2,500(tax out)TYCT-60097
DISC 1 -DAY 1-
1.What's My Name ? - Day 2 mix(新録)
2.Universe - Day2 mix(新録)
3.Ahead Of The Light - Day 2 mix(新録)
4.素晴らしきかな、この世界 -What A Wonderful World - Day 2 mix(新録)
5.Guard You- Day 2 mix(新録)
6.Live to Die Another Day -存在証明-(新曲:映画『無限の住人』主題歌)
7.What's My Name ?
8.Survive
9.Torture
10.Strong
11.Day 1
12.Ahead Of The Light
13.Horizon
14.Secret
15.Real?
16.Let Go
17.The Others
18.Afraid To Be Cool
19.Fire Bird
20.Long Nights
DISC 2 -DAY 0-
1.ロックの逆襲 -スーパースターの条件-
2.Freedom Fighters -アイスクリーム持った裸足の女神と、機関銃持った裸の王様-
3.結婚式の唄-with BAND ver.-
4.セニョール セニョーラ セニョリータ
5.愛しい人(ベタですまん。)-2006 ver.-
6.Dear my friend -手紙を書くよ-
7.君に願いを
8.We Love You~世界は君を愛してる~
9.Selfish love -愛してくれ、愛してるから-
10.咲き誇る華の様に -Neo Visualizm-
11.素晴らしきかな、この世界 -What A Wonderful World-
12.陽の光さえ届かないこの場所で feat.SUGIZO
13.Girls, be ambitious.(インディーズ盤音源)

◆MIYAVIオフィシャルサイト
◆【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュまとめ
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