【インタビュー】スタージル・シンプソン「東京は、この地球で一番好きな街」

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――グラミー賞もあって、お忙しいでしょう?おめでとうございます。

◆スタージル・シンプソン画像

スタージル・シンプソン:どうもありがとう。でも実は今、不思議と静かなんだ。11月の終わり頃にツアーが終わって、ここ数ヶ月は地元にいたもんだから、周りは騒がしくても僕自身は妻と一緒に自宅でのんびり過ごしているという…、2週間前に2人目の子供が生まれたこともあってね。ちょっと妙な感じだけど(笑)。

――そうなんですか! それはまた、おめでとうございます。

スタージル・シンプソン:ありがとう。

――あなたは、日本に住んでいたことがあるそうですね。

スタージル・シンプソン:うん、1990年代の終わりのことだよ。僕はハイスクール卒業後、アメリカ海軍に入隊して横須賀に配属されたんだ。だいたい…18~20ヶ月とかそれくらいだったと思う。1997年から1999年に入ったぐらいまで。

――あなたの作品には日本の地名がたくさん出てきますよね。東京、大阪、川崎、恵比寿…。

スタージル・シンプソン:僕は子供の頃から海外に憧れがあって旅行をしてみたいと思っていた…けれども金は無いし、他に手段も無いし、というところで海軍に入ったもんだから、軍隊では新兵訓練が終わると Advanced Schooling…略してA Schoolといって高等教育を受けるんだけど、その始業時に、クラスのトップで卒業した人から赴任地を選べるという説明があったんだ。だから、それで張り切って一生懸命勉強したんだよ、行きたい場所へ行ける可能性が高くなるように、とね。結果、トップの成績で卒業できて、即、日本行きを希望した。とりあえずアジアに行きたい、アジアで暮らしてみたいというのがあったから。そして横須賀に駐屯している間は、少しでも時間に余裕があればリュックひとつ背負ってフラッと、とにかく基地の外に出て歩き回るようにしていたんだ。週末ごとに手近な東京に出ていって、特に目的もなくうろうろと街をさまよう。東京は広いし、美しいし、興味深いし、何とも魅力的ですっかり惚れ込んでしまった。あの曲に出てくる恵比寿も川崎も、そうやって訪ね歩いた場所なんだ。あと<フジロックフェスティバル>にも行ったよ。そのあと確か日本では冬季オリンピックもあったんだよね。できることは何でも体験してやろうと、あらゆる場所へ出かけて行った。

――そうだったんですね。そもそも、どうして日本やアジアに興味があったんですか?

スタージル・シンプソン:自分でもよくわからないんだけど(笑)、たぶん文化的な関心だったんじゃないかなあ。日本の文化や芸術に対して、とても美しくて穏やかな印象を持っていたのと、音楽的な面で言えばハイスクール時代に当時のJ-POPを聴いたのも印象に残っていたのかも。

――J-POPを聴いてたんですか?

スタージル・シンプソン:そういうものがあるということを知った、という程度だけどね。夢中になったという点では黒沢監督の映画は、ハイスクール時代にすごく好きになった。多分、その関連で日本のアートや音楽に興味を持ったんだろうな。とにかく、ケンタッキーって東京とは似ても似つかないところなんで、日本文化に触れたことは僕なんかからするとカルチャーショックもいいところで、すっかり圧倒されるような新しい体験だったんだ。だから日本に行ってからは思い切りそれに浸ることにした。

――『A Sailor's Guide To Earth』というアルバムタイトルは、その体験そのものを表しているように感じますが。


スタージル・シンプソン:うん、あのアルバムは最初から最後まで通してひとつのストーリーを語るコンセプトに基づいて作られているんだ。1曲だけ例外があって、それは 「オー・サラ」という、けっこう前に僕の妻のために書いた曲なんだけど、それも今回のストーリーに合っていると思ってね。つまり、息子に語り掛ける形をとっているという意味では、彼の母親についての曲もあってしかるべきだと考えたんだよ。僕らの関係や音楽業界での僕の生き方が家族にどんな影響を与えてきたか…みたいなことを説明する曲になっているからね。それとニルヴァーナの曲を除けば、最初から最後まで今回のコンセプトに向けて書いた曲ばかりだよ。

――ニルヴァーナは「イン・ブルーム」ですね。

スタージル・シンプソン:あれは物語の中休み的な意味合いであそこに入れたんだ。

――アルバムのコンセプトはどんなきっかけから生まれたんですか。

スタージル・シンプソン:さかのぼれば、それは祖父の手紙を読んだことがインスピレーションになっている。僕の祖父というのが第二次世界大戦に従軍していた人で、戦時中はどこか遠方にいて恐らく自分は死ぬものと思っていたんだろうね、それで僕の祖母に手紙を書いていたんだよ。愛してるとか、一緒にいられなくてごめんとか。で、もうずっと昔のことだけど、亡くなった僕の叔(伯)母がそれを全部とっていたんだ。彼女の葬式の時、彼女の家のゲストルームでその手紙を僕が見つけた。聞いたら家族は誰もその手紙を読んだことがない…というか、読みたがらなかったらしい。当時、僕はまだ若かったから、祖父のこともあまりよく知らず、興味で読んでしまったんだけど、その手紙1つで僕はたくさんのことを教えられた気がした。手紙の中の彼は若者で、愛する人に対して思いのたけを溢れるままに何枚もの紙に言葉で綴っている…命の危険に怯えながらね。その後、僕の長男が生まれた時、ちょうど僕は…前作の『METAMODERN SOUNDS IN COUNTRY MUSIC』がとても好評だったのをうけて、およそ1年半、休みなしでツアーに出ることになってしまい、その間、長男との最初の1年をほとんど一緒に過ごすことができなかった。妙な罪の意識とかホームシックとか、家族のためにやっていることなのにすごく複雑な思いを抱えることになった。そんな気持ちや感情に対処するためにも、それをレコードという形で表に出すべきだと考えたんだ。こういう僕の生き方…やりたいことをやっていくことを許してくれている妻と長男への感謝の表現さ。このレコードは僕なりに、アルバムという形をとって息子に送る手紙、ということ。人生、生きていくことの大変さ、そして人生は時に苦しくてつらいけれども愛の力が常に導いてくれるよ、というような。

――日本で撮ったという「Railroad of Sin」のミュージックビデオを拝見しましたが、楽しいビデオですよね。日本人からすれば見慣れた景色ですが、あなたの視点から見ている気分になるせいか、なんかちょっといつもと違って見えて。

スタージル・シンプソン:だろ? それが狙いだったんだ。僕が考えていたのは、例えば初めて東京に降り立ったアメリカ人が色々と経験していく、という視点からの撮影だったんだけど、たぶん彼らもその線で制作してくれたはずだよ。あれは楽しかったなぁ。2013年だったと思う…日本へ行って街の中をGoProを持って5~6日ウロウロと。実に楽しかった。相当連れ回されてけっこうキツかったけど(笑)。

――あなたが考えたストーリーを日本のクルーが形にした、ということでしょうか。

スタージル・シンプソン:うん、そんな感じだね。僕からは、おおよそこんなものにしたいというラフなアイデアを伝えただけで、日本に到着してみたらもう予定表がすっかり出来上がっていた。行きたいと思っていた場所もひととおり網羅されていて、たぶん僕はあの数日間で、その前の2年間にひとりで見て回った以上の東京を見ることができたんじゃないかな。やっぱり、行くべき場所とか見るべきものをちゃんとわかっていないと見逃してしまうものも多いし、わからないまま見て回ってもせっかくの経験を自分で把握しきれないんだよね。あの時は築地とか、えぇと…なんだっけ、あの大きなロボット…

――ガンダム?

スタージル・シンプソン:そうガンダム!あの辺りは僕が前に住んでいた頃はまだ無かった。見たことなかったからね。電車に乗ってガンダムのところまで行ったのは初めてで、あんなものがあることすら知らなかった。とにかくスゴイ(marvelous)街だよね。文句無しでこの地球で一番好きな街だ。


――「コール・トゥ・アームズ」という曲は、ある意味政治的なメッセージを帯びていますね。

スタージル・シンプソン:そういう取り方もできるね。ただ僕としては、むしろ社会が無視していること、あるいは見えなくなっていること…、次から次へと起きている事象なのに、気をそらされて気づかずにいるうちにいつの間にか…つまりはそれが戦争の兆しというやつだと僕は思うんだけど、であれば誰もが真剣にそれを避けて通る道を探らなければいけないのではないか、というのがあの曲で僕が言わんとしていることなんだよ。

――収録楽曲の「ブレース・フォー・インパクト」についても教えてもらえますか。

スタージル・シンプソン:あれは僕から息子に、いつかはおまえも死ぬんだから…人はみんな死ぬんだから、生きているうちに人生を余すことなく体験することが重要だと、そして恐怖に怯えながら生きるのではなく充実した日々を送るべきだと歌いかけている。と同時に、自分の周りにいる誰に対しても善良であることを心掛けるんだぞとね。まあ、人生すべてがバラ色というわけにはいかず、どんな体験にも終わりがやってくるのだから、怖がっていないで面と向かってぶつかっていけというのがあの曲のメッセージだ。

――さっきも話に出た<フジロック>体験ですが、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやレッド・ホット・チリ・ペッパーズを観たそうですね。

スタージル・シンプソン:あぁ。1997年か1998年かな。とりあえずレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを観たのは確かだよ。忘れる方が難しいようなショウだったから覚えている。

――そんなに良かった?

スタージル・シンプソン:というかあんなに大勢の人が集まるコンサート自体、初めて観たんでね。大観衆が一つの大きな生き物みたいに音楽に合わせて飛んだり跳ねたりする姿が、僕にはものすごい衝撃だった。前もって予定していたわけじゃなくて、ギリギリになって行くことにしたから泊まる場所もなかったし大変だったけど(笑)、なかなか面白い経験だった。

――アメリカの地元でも大きなコンサートには行かなかった?

スタージル・シンプソン:行かなかったね。ケンタッキーに住んでいたんじゃあんなのは全然…、僕の家の近くではあの規模のコンサートはまったくなかったし、高校生時代は遠出する金もなかったから。そうやって憧れていた大きなフェスティバルに自分で出演できるようになったんだから、僕がどれだけ興奮しているか説明できないくらいだよ。もう発表されたけど、僕らは<フジロック>にも出演が決まったんだよ。

――はい!

スタージル・シンプソン:一巡してここまで来たか、と自分でも信じられないくらいだ。この5年間…プロとして活動するようになってからずっと、マネージャーに「いつか日本でやりたいんだ」って話してきたんだ。日本で何度かコンサート会場に足を運んで、オーディエンスが音楽を本当に愛している様子を目の当たりにしてきたからね。それが<フジロック>という形でとうとう実現することになった。最高だよ。

――私たちも楽しみにしていますが、その際に何か楽しみにしていることはありますか。

スタージル・シンプソン:そうだな…食べることかな(笑)。あとはとにかく歩き回りたい。日曜日のハラジュク・パーク(代々木公園)がお気に入りなんだ。早朝の築地フィッシュマーケットも大好きだし。まあ、どれだけ自由な時間をもらえるかわからないのと、あと、今となっては僕も六本木で夜騒ぐには歳を取り過ぎた気がするんだけど…どうかな(笑)。

――そんなことないんじゃないですか(笑)?

スタージル・シンプソン:いやあ、色々あったからねえ、クレイジーなことが、あそこでは(笑)。

――2013年のビデオ撮影で来日した以来ですか?

スタージル・シンプソン:そうだよ。すごく忙しくなってしまって、時間が取れなくなっていたから…、今度は本当に嬉しい機会だ。アルバムのプロモーションで来日すれば、また新しい友達もできるだろう。

――グラミーにノミネートされるというのは、どんなものでしたか?

スタージル・シンプソン:ものすごい衝撃だったよ。まったくもって想定していなかったから。パブリシストから電話がきて目が覚めたのが朝の7時で、寝ぼけた状態で聞かされたニュースだったから夢に違いないと思った、と言えばわかる? どんな感じだったか。最初はからかわれてるんだと思ったくらいでね。グラミーに限らず、授賞式にどれだけ意味があるのか疑問視する人も多いのは知っているけど、今回のは自分の同業者たち…アーティストやソングライターやプロデューサーの投票で決まるものなんだから、仲間が僕に1票入れてくれて、「これは素晴らしい芸術作品だから認められてしかるべきだ」と言ってくれたんだと思うと絶対に軽んじることはできない。とてつもなく光栄ことだよ。ノミネートされていない人たち、これからもそのチャンスがないかもしれない人たちのことを思うと、こういうものを軽視するのはよくないと思う。恐れ多いよ。

――奥様も一緒だったのですか?

スタージル・シンプソン:いや、彼女は家に残った。自分がいない方が僕のパフォーマンスはうまくいく、と彼女は思っているらしい。自分がいると僕が緊張するから、と。

――そうなんですか?

スタージル・シンプソン:確かにそのとおりで、家族が誰かいると落ち着かない。客席に知り合いが誰もいない方が僕はうまく演奏できるような気がするよ。

――じゃあ、フジロックは最高?

スタージル・シンプソン:そのとおり(笑)、それでなくても最高のショウになるに違いないけどね。

――ありがとうございました。

スタージル・シンプソン:みんなのために僕らが用意したものを楽しんでもらえたら嬉しいな。とにかくレコードを喜んでもらえることを祈っているよ。そして、日本のファンを僕らがどれだけ愛しているかを伝えたい。日本にまた行って、今度は演奏できるのをとても楽しみにしている。音楽を演奏することで暮らしていけるなんて、それだけで大変な栄誉だけど、それを異文化の人たちと分かち合えるんだからなおさら光栄なことだ。

――来日を楽しみにしています。

インタビュアー:染谷和美
編集:BARKS編集部



『A SAILOR'S GUIDE TO EARTH』

2016年4月15日発売
1.Welcome to Earth(Pollywog)
2.Breakers Roar
3.Keep It Between The LinesSea Stories
4.Sea Stories
5.In Bloom
6.Brace For Impact(Live A Little)
7.All Around You
8.Oh Sarah
9.Call To Arms

<FUJI ROCK FESTIVAL'17>

2017年7月28日(金)29日(土)30日(日)
会場:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
http://www.fujirockfestival.com/
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