【ライヴレポート】SUGIZO、Zepp Tokyo公演の衝撃「『音』を末永く愛でていただけたら」
SUGIZOの3年ぶりとなる全国ツアー<SUGIZO TOUR 2016“The Voyage Home”>のファイナル公演が12月4日にZepp Tokyoで開催された。12月10日にはSUGIZOが震災以来、何度も足を運んできた地でもある石巻のBLUE RESISTANCEで追加公演が行われたが、約5年ぶりのフルアルバム『音』を携えてのライヴは、これまでSUGIZOのソロライヴに足を運んできた人にとっても衝撃的な内容となった。
◆SUGIZO 画像
登場を待ちわびる歓声と、エレクトロニック・ノイズと照明の光に胸騒ぎを覚える中、いきなり鳴らされたのはニューアルバム『音』のオープニングを飾るナンバー「IRA」だった。SUGIZOは5年ぶりのアルバムに“怒れる電子音楽”というキーワードを掲げたが、この曲はタイトルからしてラテン語で“怒り”。暴れるリズムが襲いかかってくるようなナンバーだ。ザラザラしたサウンドの感触、ポリリズム、研ぎ澄まされたSUGIZOのギターが空気を裂くように鳴り響き、モジュール・シンセサイザーをリボンコントローラーを操りながらパフォーマンスする姿は魔術師のよう。音の洪水、光の洪水、フロアから数え切れない手が挙がっていく。
続いて鳴らされたのは「TELL ME WHY NOT PSYCHEDELLIA?」。新曲と旧曲が、同じSGZミュージックでありながら、いかに温度感や手法、ベクトルが違うかが伝わり、同時に5年という月日に想いを馳せずにはいられなかった。怒りといっても、今のSUGIZOが表現する感情は「ENORA GAY」や「NO MORE MACHINGUNS PLAY THE GUITAR」における直情的な燃えさかる怒りとは趣を異にしている。ギターを全面に押し出すのではなく、シンセサイザー・ミュージックという方向に振り切れたというのもあるのだろうが、表現しているのは単純な怒りではない。震災後の日本を含む世界的な状況……溢れる難民たち、広がる貧富の差など、出口を見出せないでいる現状への悲しさ、無力感、やるせない想い、いろんな感情が内向きにカオスに渦巻いているのが今のSGZミュージックなのかもしれないと思った。
アルバム『音』が「すべてのネガティブなもの、自分の中に溜まっていた汚いものを吐き出した作品だ」ということに触れ、komakiの強力なドラムがフィーチャーされたサイケデリックトランスナンバー「FINAL OF THE MESSIAH」では美しくも緻密なギターが響きわたり、フロアーは開放のベクトルへ。「NEO COSMOSCAPE」ではSUGIZOがパーカッションを叩き、よしうらけんじがセンターでジャンベを叩くというおなじみの光景が繰り広げられた。
ギターを持ち替えて披露された『音』収録曲「Raummusik」はSUGIZOのルーツが見え隠れする非常に興味をそそられるナンバーだった。ブライアン・イーノやロバート・フリップの影響を感じさせるサウンドはまさに空間美であり、SUGIZOのアンビエントなギターがどこまでも想像力を刺激してくれる。その音の響きは内省的でありながら、個人的にはアフリカの草原を思い起こさせられる部分もあり、“音”そのものの無限の可能性を感じさせてくれた。
イントロで歓声が上がった「ARC MOON」、SUGIZOのヴァイオリンの音色が楽園へといざなうスピリチュアルで壮大なエレクトロ・ミュージック「FATIMA」に心地よく揺らされた中盤戦。が、その空気はデジタルシングル第二弾として配信された激しくもストイックな「Lux Aeterna」で一変した。腐敗した女神のアートワークがスクリーンに映し出され、Origaの美しい声とインダストリアルな変則的なビートが抗うように絡み合うこの曲では、石巻で出会ったというDragon AshのダンサーATSUSHIがゲストパフォーマーとしてステージに登場。SUGIZOのギターとの刺激的なコラボレーションで魅了した。そしてSUGIZOが「NO MORE NUKES PLAY THE GUITAR」と記されたフラッグを掲げた「ENORA GAY RELOADED」では真紅に染まった照明の下、凄まじい演奏を披露。
直後の新曲「Decaying」は、この日、披露されたアルバムの中の曲で最も衝動的でオルタナティブでSUGIZOのロックギターが堪能できるナンバーだった。ゲストのホーンプレイヤー、TOKUとのアドリブの応酬も場内を沸かせ、ジャズやロックのボーダーラインを超えてケミストリーを生むSGZミュージックの醍醐味が詰まったプレイから、一筋縄ではいかないサイケデリックトランス・ナンバー「禊」へ。SUGIZOの凶暴なギターのカッティング、カオティックなサウンド、見ているこちらを簡単に踊らさせてくれないのが『音』の曲たちだが、音への尋常ではないこだわり、自分の中身を吐き出したというアプローチは当時、全くポピュラリティを得ていなかったドラムンベースを取り入れ、美と醜を融合させて見せた1stソロアルバム『TRUTH?』(1997年)と明らかに地続きにあるとも感じた。そして本編はSUGIZOライブの官能的ダンスキラーチューン「DO-FUNK DANCE」で幕を閉じた。
盛大なコールに応えて登場したSUGIZOは新作についてこう話した。
「5年ぶりのアルバムは近年の僕の心の闇というか、毒素というか、腐敗している部分というか、怒ってどうしようもない部分を音楽にして、決して聴き心地がいいものでもないし、みんなが気持ちよく歌えるものではなく、とても醜悪な音の集作になってしまったんですけど……それでも出来てしまったらとても可愛いもので。これからも『音』というアルバムを末永く愛でていただけたら幸いです。闇、毒、腐った部分を全部放出してしまったので、次にSUGIZOが作る音楽はとてもきれいで美しくて心地のいいものになることを僕は……願っています」──SUGIZO
場内から大歓声が沸き、2016年にリスペクトしている様々なアーティストが他界してしまったことに触れ、追悼の念を込めて曲を演奏したいこと、そして2017年にSUGIZOとしてソロデビューして20周年を迎えること、LUNA SEAがデビューして25周年を迎えることを伝え、来年は今年を上回るとんでもない年になりそうだという嬉しい報告も。
復活後のX JAPANをサポートし続けているピアノ奏者MAIKOを迎え、アンコールでは2016年1月に他界し、その喪失感に一時は空っぽになってしまうほどSUGIZOがショックを受けた敬愛するデヴィッド・ボウイに捧げたカヴァー「LIFE ON MARS?」がヴァイオリンとピアノで奏でられ、ESP製SUGIZOオリジナルモデル“プリンス”ギターに持ち替え、富田勲に追悼の意を込めて「JUPITER」を演奏。ラストは自らがヴォーカルをとる「TELL ME WHY?」で締められた。
SUGIZOの魂そのものである『音』の楽曲全ては聴くことができなかったが、このアルバムの楽曲たちもまたライヴを通してさらに進化を遂げていくだろう。愛するアーティストたちにつねに敬意を払い、純度の高い音楽を生み出し続けているSUGIZOと同じ時代を生きていることを誇りに思う。
取材・文◎山本弘子
撮影◎Keiko TANABE
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◼<SUGIZO TOUR 2016 The Voyage Home>
2016年12月4日@Zepp Tokyoセットリスト
2.TELL ME WHY NOT PSYCHEDELIA?
3.FINAL OF THE MESSIAH
4.NEO COSMOSCAPE
5.Raummusik
6.ARC MOON
7.FATIMA
8.Lux Aeterna
9.ENOLA GAY RELOADED
10.Decaying
11.禊
12.DO-FUNK DANCE
encore
13.LIFE ON MARS?
14.Jupiter
15.TELL ME WHY?
■New Album 『音』
2016.11.29[Tue.] RELEASE
¥10,800(税込)
※豪華BOX仕様
※HMV、SGZオンラインで購入可能
▼特典1:Art Photobook B5サイズ
・撮り下ろし写真集
・レコーディングドキュメント写真集
・ライナーノーツ
・ロングインタビュー
・レコーディング使用全機材リスト
▼特典2:BONUS DISC
・「LIFE ON MARS?」
【Regular Edition:1CD(ALBUM「音」)】
2016.12.23[Fri.] RELEASE
¥3,240(税込)
※24Pブックレット
※12/23 iTuens配信
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