【座談会】椎名へきる × JILLE × lasah、ボカロP・keeno楽曲を歌うことの魅力と難しさを語る

■ それぞれの歌声が全然違う色をしているのに、驚くほど重なりがいい

▲『keeno song collection -feat. female singer-』

──本当に、浄化されるような感覚があります。今お話していただいた曲以外に、個人的に思い入れが強い曲、レコーディングエピソードはありますか？

JILLE：「yours」「madder」「bitter」「depth」の4曲を歌わせていただいたんですけど、「たとえば、ピアノと歌だけでやってみたいな」とか「途中でテンポアップして歌ってみたいな」とか、レコーディングしながらライブが想像できて。「ライブで歌いたいです！」って、隣のkeenoさんにずーっと言っていました（笑）。

lasah：私は、keenoさんの楽曲の中で一番好きなのが「fix」なんですけど、それを歌わせていただけて嬉しかったのと、以前、英訳して歌わせていただいた「morning haze」を、今回は日本語詞で歌わせていただいて。どちらも歌うのは難しかったんですけど、とても好きなのでやりがいがありました。

椎名へきる：私は、「glow」が最初にレコーディングをした曲なんです。keenoさんのメロディラインにまだ慣れていない中、ボカロっぽい、少女のイメージを今回一番濃く描きながら歌わせていただきました。サビはきちんと、でもわざと頼りなく歌うことも意識して、どこまで不安定さを残すかという試行錯誤をしました。

──だから、儚さを感じるんですね。

椎名へきる：そう感じていただけたならよかったです。ものすごくいい曲なので、歌ってみて本当に大好きになりました。個人的には、普段は今回のようなボカロ独特の歌い回しって一切しないので、どれもこのアルバムだけでしか聴けない歌だと思います。ボカロ曲って、本当に独特だなぁって感じました。

lasah：その中でも、keenoさんのボカロがまた独特なんですよね。ボカロの調声がすごく細かくて……。

椎名へきる：そうそう！

Lasah：ボカロでなかなか表せないメロディのうねりなんかも、きれいに表現されていて。歌う側として、そのうねりを無視できないとは思うものの、それがすごく難しいんですよね。

JILLE：わかります！

椎名へきる：keenoさんの曲が歌えればどんなボカロ曲でも歌えるんじゃないか、って思いましたもん。

──そういった汲み取りができるみなさんだからこそ、素敵な作品に仕上がったのだなと納得です。さらに、keenoさんが今回のアルバムのために書き下ろし、椎名へきるさん、JILLEさん、lasahさんの3人で歌う「ruth」は、それぞれの歌声が放つ異なる輝き、重なったときのあまりの美しさに感動してしまいます。

椎名へきる：私が最初にレコーディングして、お2人の声がミックスされているものはまだ聴いていないんですけど……早く聴いてみたい。

lasah：私も同じくです。

JILLE：私は聴かせていただいたんですけど、言っていただいた通り、それぞれの歌声が全然違う色をしているのに、驚くほど重なりがよくて。

椎名へきる：でも、きっとお2人はやりづらかったんじゃないかな……最初に歌う私としては、後から歌うlasahさんとJILLEさんのためにガイド的な役割を果たさなきゃいけないなとも思って、ちゃんと切るところは切って伸ばすところは伸ばそう、っていう暗黙のルールを作って録ってはいたんですけど。

JILLE：そのお心遣い、感じました。おかげで、気持ちよく歌わせていただきました！

lasah：私もです、ありがとうございます。あと、他の曲に比べて、人が歌うことを前提にkeenoさんが書かれたのかなっていうことを……。

JILLE：そう、それ私も思いました！

椎名へきる：確かに、息継ぎの場所がちゃんとありますもんね。「keenoさん、ありがとう」と感謝しながら歌っていたりもしました（笑）。

──これだけ違う個性を持つだけに、3人はお互いに刺激される部分もありましたか？

▲JILLE

JILLE：私はもう、刺激受けまくりですよ。lasahさんやへきるさんのモノマネ芸人になれるんじゃないかっていうくらい、家で2人のパートを繰り返し聴いてモノマネしていますもん（笑）。

lasah：確かに、あまりに違いすぎてマネしたくなります（笑）。

椎名へきる：私はまだモノマネはしていないけど（笑）、それぞれのよさが出ていますよね、本当に。

──耳がとことん贅沢できてしまいますから。素敵な歌声を持つということ以外、なにか共通点はありそうでしょうか。

椎名へきる：今日初めてお会いしたけど、みんなひとりの時間が好きということがお話していて判明しました。夜中とかね？

lasah：大好きです。

JILLE：私も。夜中に、映画を観たり、曲を作ったり作詞したり。韓流ドラマのDVDを20枚くらい借りて、泣きながら歌詞を書くこともよくあります（笑）。

lasah：私も、夜中は作詞をしたり、本を読んだり。あと、ひたすら片付けたりします。

JILLE：lasahさんの部屋、めっちゃきれいそうだもん。へきるさんはどう過ごすんですか？

椎名へきる：夜中はリラックスタイムなので……そうそう、私も韓流ドラマ観ますよ。

JILLE：へきるさんと一緒、めっちゃ嬉しい！（笑）

──シンクロ率がまた高まりましたね（笑）。さて、12月24日にはタワーレコード渋谷店にてレコ発のスペシャルイベントが開催されます。3人が一堂に会して歌声を披露するそうですが、みなさん自身、どんな期待感がありますか？

lasah：CDと生とでは、やっぱり違う気がしますよね。

JILLE：ですよね。フレーズの力の入れ方とか、気持ちの重なり方とかは、その日その瞬間だけのものだと思うし。

▲椎名へきる

椎名へきる：3人で歌う「ruth」は、特にですよね。

lasah：そうですね。……私は今回のイベント、楽しみ半分、不安半分です。でも、おふたりはよくライブされていますもんね？

椎名へきる：いやぁ、1人で歌うのとは全然ちがうと思いますよ。いつも3人でレコーディングとかをしていれば、誰がどう出る（歌う）とかも察知できると思うんですけど、今回はそういうわけでもないですし。3人の息がどう合うか、いい意味での緊張感もありつつなので……私たち自身も楽しみなんです。ただ、現実的にライブでは絶対に歌えないという曲も、このアルバムには何曲か入っていて。それだけ全精力を注ぎ込んだアルバム──これ以上の完成形は私にはない、というところまで作り上げた作品なので、アルバムをぜひ聴いていただきたいですね。

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取材・文＝杉江優花