【ライブレポート】スーサイド・サイレンス、暴力とリスペクトに彩られた70分

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暴虐のメタル・サウンドの塊が襲う。スーサイド・サイレンスの初来日公演は、抗いがたい破壊衝動をかき立てるものだった。

◆スーサイド・サイレンス画像

2007年にアルバム・デビュー、“デスコアの新星”として日本上陸が待たれていた彼らだが、2012年にヴォーカリストのミッチ・ラッカーが事故死。後任にオール・シェル・ペリッシュのエディ・ヘルミダを迎えて『ユー・キャント・ストップ・ミー』で復活を果たし、2015年10月には来日が発表されたものの、スケジュールの都合で中止となってしまう。

そんな紆余曲折を経て遂に実現したジャパン・ツアー。初日を待ちわびていたファン達は会場に集結、開演前にしてすっかり“出来上がって”いた。サポート・バンドのニューロティコスの終演からしばらく間を置いて場内が暗転、「レヴェレイションズ」のテープが流れると、彼らはドドッと前方に押し寄せていく。

「アンアンサード」「ノー・ピティ・フォー・ア・カワード」という初期のナンバー2連打からスタート。日本のファンはミッチの生ヴォーカルを聴くことができなかったが、オール・シャル・ペリッシュで来日経験のあるエディは獣のようなシャウトと巧みなステージ運びで盛り上げていく。早くも2曲目でフロアにはサークル・ピットが生まれ、汗まみれになってグルグル走り回る姿が見られた。

そしてテープ(同期)で「M.A.L.」が流れ、最新アルバム『ユー・キャント・ストップ・ミー』から「インへリット・ザ・クラウン」へと突入。“王座を継承し、前進していく”というバンドの気概を表現したこの曲に観衆は歓声だけでは足りないとばかり、ひたすら暴れることでバンドの演奏に対峙した。


クリス・ガーザとマーク・ヘイルマンのツイン・ギターがリフの応酬で殴打し合い、アレックス・ロペスのドラムスとダン・ケニーのベースの音圧が顔面を蹂躙する。「ファック・エヴリシング」「シーズ・トゥ・エグジスト」など、しばしば“憎しみ”を燃料としてテンションを上げ、グルーヴを強めていくスーサイド・サイレンスだが、決してネガティヴに走ることがないのが彼らの特徴だ。それはファン達も同様である。この手のヘヴィ・ロックのライヴではおなじみのウォール・オブ・デスが発生、フロアの左右両端に分かれた観客が曲のイントロと共に真ん中で激突するこの“死の壁”は、暴力衝動をポジティヴな形で発散する儀式だ。

彼らのライヴが単なるヘイトに終始することがないのは、会場にリスペクトの念が漂っているからだ。バンドは観客を、観客はバンドを、そして観客同士もお互いに敬意を持ちながら暴れる。そんなリスペクトはバンドの先達にも向けられ、「彼らがいなかったらメタルは現代のようにはなっていない」とエディが語るKoЯnの「ブラインド」イントロも奏でられた。もちろん観客はそれに「アー・ユー・レディ?」で応える。

「ユー・キャント・ストップ・ミー」「ディストラクション・オブ・ア・スタチュー」でライヴ本編を終えた彼らだが、アンコールに登場。「ブラジェンド・トゥ・デス」、そして必殺の「ユー・オンリー・リヴ・ワンス」で締めくくった。

人生は一度きり。かけがえのない友を失った彼らだからこそ、そのメッセージは説得力を増す。そしてそれは、感情のすべてを解き放ち、暴れることをファンに促すことでもある。スーサイド・サイレンスの日本初ライヴは、暴力とリスペクトに彩られた70分だった。


文:山崎智之@2016年8月17日/東京・渋谷クアトロ
写真:増田勇一
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