モノ作りの祭典<Maker Faire Tokyo 2016>レポ、コルグの新真空管「Nutube」、自作のシンセやMIDIコントローラーが多数出展
世界最大のDIYイベント<Maker Faire Tokyo 2016>が8月6日・7日、東京ビッグサイトで開催された。ロボット、3Dプリンタやレーザーカッターなどのパーソナルファブリケーション技術、電子工作、クラフトなど多種多様な出展から、楽器・音楽関連の出展をピックアップしてお届けする。
<Maker Faire Tokyo>は、Makerムーブメントのお祭り。人々が自分で作った物を見せ合う場所であり、学んだことをチェアする場所でもある。研究成果の発表やホビー、アート作品の展示・販売など、さまざまなテクノロジーを使ったモノづくりを楽しむ一般の個人(グループを含む)、企業が参加するが、主役は個人の方。市販の製品には見られないあっと驚くようなアイディアに触れることができる。また、スポンサー企業はそうした個人をサポートする製品を多数出展している。
▲約400組が出展した「Maker Faire Tokyo 2016」。今年新しく登場した、未来のMakerを育てるエデュケーション・プログラムには多くの親子連れが。カンタンな工作からはんだ付けまで、さまざまな体験ができるブースが多数。
■蛍光表示管技術を応用したリアル真空管サウンド、コルグの新真空管「Nutube」
▲ピラミッド風ディスプレイされ、これでもかと並べられたNutube。
楽器・音楽関連で、オーディオファンとギタリストの注目を集めていたのが、コルグの新真空管「Nutube」。一般発売に先駆け、会場のみの先行販売が実施された。
「Nutube」は、ノリタケ伊勢電子の蛍光表示管の技術を応用したデバイスで、完全な3極真空管として動作、豊かな倍音を有した真空管独特のサウンドが楽しめる。従来の真空管に比べ、大幅な小電力化、小型化、品質向上に成功している。ブースでは、ギターアンプ、オーディオアンプ、フォノEQアンプ、ヘッドホンアンプなど、実際に試せる試作機を用意。ギターアンプでは、ピッキングへの反応なども含め真空管ならではサウンドが確認できた。Nutubeを使用すれば、電池駆動する真空管アンプさえ作成可能。ただしスピーカーを直接駆動するのは難しく、オーディオアンプ試作機ではD級アンプを別途使用しているとのこと。先行販売はNutube単体(5,000円)のほか、ヘッドホンアンプキットも台数限定で用意(10,000円、1日45台)。Nutube単体はイベント初日取材中、次々と売れていくほどの人気。ヘッドホンアンプキットも限定数が完売。
▲ヘッドホンアンプキットはケースさえ用意すればOKのほぼ完成品。オシロスコープにより音量による波形の変化も見られる形でデモ。真空管ならではの音の変化を目と耳で確認できる。手前左はケース加工参考例。
▲上段からギターアンプヘッドとストンプタイプの歪み用エフェクター(左)。本物の真空管アンプのサウンドが楽しめる。写真右のオーディオアンプは2つのNutubeを使っているが、Nutubeはステレオ仕様なので1つでも作成可能とのこと。下段は6つのNutubeを搭載したフォノEQアンプとヘッドホンアンプ。いずれも試作機。
■個性際立つシンセ、世界最小クラス8bitシンセやArduinoやRaspberry Piで動くシンセも
楽器関連で目立ったのは、個人制作によるシンセサイザーの出展。しかも昔ながらのアナログシンセサイザーとは異なるテクノロジーを使ったシンセを見ることができた。
akira matsui氏による「8bit Micro Synth Module」は世界最小クラスのシンセサイザー。8bit CPUによるMoogタイプのバーチャル・アナログ・シンセサイザーを、切手よりも小さな8ピンDIPでモジュール化。シリアル入力(MIDI準拠)とオーディオ出力などを備え、Arduinoなどでコントロールが可能。Roland Boutique A-01の8ビットシンセサイザーに採用されたものと基本は同じで、現在のバージョンはそれを発展させたものとのこと。
▲とにかく小さい「8bit Micro Synth Module」は手軽に配線が試せるブレッドボード上で動作デモ(写真左)。また、ハガキ大より一回り小さなスペースに16ステップ・シーケンサーやキーボード、OLEDのオシロスコープ、MIDI INを収めた「8bit CPU Synth III S3a」もあわせて展示(写真右)。
▲ローランドのK-25mをハックし、ユーロラック・サイズのパネルが実装できる実験用キーボードも。こちらには8bit CPU Synthを4つ使い4音ポリにしたモジュールやオシロスコープなども。
気軽に電子工作が楽しめるマイコンArduinoを使った3音疑似ポリフォニックシンセサイザー「Digital Synth VRA8-P」を出展したのはISGK Instruments。パソコンに比べて非力なArduinoの限界に挑戦、ソフトウェア処理でシンセを鳴らしている。スケッチはフリーで公開、Arduino Uno本体と抵抗、コンデンサー、オーディオジャックだけで作ることができる。
▲Arduino Unoとブレッドボードで動作するシンセ(左)。MIDIコントローラと、音色エディットができるWeb MIDI APIによるプログラムでデモ。
とある会社のもの作り同好会というR-MONO Labのブースでは、R社の元サウンドエンジニア(現シンセ仙人)という人物によるRaspberry Pi(ラズパイ)を使ったハイレゾ(24ビット/96kHz)/6音ポリフォニックのシンセサイザーを展示。独自の位相制御/位相変調型シンセサイザーで、過激な変調を行ってもエイリアス・ノイズが非常に少ないのが特徴。
▲ローランドのK-25mに収められたラズパイシンセ。そのサウンドはウェブサイトでチェックできる。右の写真はその内部。
DigiLogは、8つのノブだけでシーケンスとシンセのパラメーターをコントロールできるコンパクトなガジェット系シンセ「OCTA」をハンズオン。ソフトウェアを入れ替えてシーケンサー内蔵のシンセのほか、ドラムマシンとしてもプレイできる。複数台での同期にも対応、コルグSQ-1、volcaとも同期可能。
▲クールなデザイン&ツマミの触り心地も抜群の「OCTA」(左)に加え、ユーロラック対応のモジュラーシンセ「Super Euro Boy」(写真左奥)も展示。アグレッシブなサウンドに実際に触ってプレイする来場客多数。
■バラエティに富んだカスタマイズできるMIDIコントローラー
シンセサイザーや音源を操るMIDIコントローラーも個人の好みによる部分が大きく、DIYに向いた分野。ユーザーがパラメーターを割り当てられるのはもちろん、操作子そのものをカスタマイズできるコントローラーが目立った。
会社の同僚4人によるモノづくりユニットWOSKの「Custom MIDI Controller CC-1」は、ボタンやノブ、フェーダー、ロータリーエンコーダーをブロック感覚で自由にレイアウトできるMIDIコントローラー。各ブロックにはRGB LEDを搭載、その色はWeb MIDI APIを使用したエディタから設定可能となっている。PCとの接続はUSB。そのまま製品化できそうなほど完成度が高い。
▲左が最新モデル。各ブロックのMIDIアサイン、色変更はウェブブラウザで動作するエディターで行える。写真右は昨年までのモデル。毎年機能が追加・拡張されているとのこと。ソフトシンセのエディットはもちろんDJ/VJなど幅広く活用できる。
株式会社ドラプロは「ReMINE」(リマイン)というワイヤレス接続・電池駆動のMIDIコントローラーを出展。配線が不要なのは非常に便利。ノブ、フェーダー、パッド、ON/OFFスイッチ(LED付き)の配置を自由に変えることができる。使用には専用アプリが必要で、現在iPadのみの対応。製品化までにはiPhoneやAndroidのスマホ・タブレット、Mac(OSX)用のアプリを製作する予定とのこと。
▲パッドは圧力センサーにより、押した時の強さに応じて動作を変えることができ。出力するMIDIパラメーターは写真左奥の専用アプリで設定する。
六角形のタッチ型鍵盤「ハニカムベル」、リコーダータイプの電子吹奏楽器「MagicFlute」を出展したのは奇楽堂&Company。ハニカムベルは4個の六角形が連なった形状で、最大6ユニット並べると2オクターブの演奏が可能。斜め上は半音、横は短三度の音程移行。音源はRaspberry PiにオリジナルのFMソフトシンセを組み込んだモジュールが使われている。「MagicFlute」は、独自の運指による6穴のタッチスイッチを持ち、息の量で音量を、楽器の傾きでビブラートをコントロールできるリコーダータイプのコントローラー。iPhone上で動作する専用アプリで発音する。どちらも汎用的なUSB MIDI Controllerで、作り方は奇楽堂のウェブサイトで紹介されている。使われているのは、10カ所のはんだ付けでカンタンにMIDIコントローラーが作れるTouchMIDIという基板。こちらはSwitch Scienceで購入が可能だ。
▲LEDの光も楽しいハニカムベルとMagicFluteの中身(写真左)。MagicFluteを実際に演奏してもらったのが右の写真。写真にはうまく写らなかったが、先端のフルカラーLEDが音階によって色が変わる。
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