【インタビュー】グランド・メイガス、猛々しく勇敢なメタル・サウンド
スウェーデンのへヴィ・メタル・トリオ、グランド・メイガスが通算8枚目のアルバム『ソード・ソングス』を完成させた。様々な次元での「戦い」をテーマにした楽曲の集積である本作は、今現在において彼らにとっての最高傑作と呼ばれるに相応しい完成度を誇っており、猛々しく勇敢なイメージのメタル・サウンドには更なる磨きがかけられている。豊かな声量を活かした朗々たるリード・ヴォーカルとメロディアスでアイディア豊富なギター・プレイを兼務するフロントマン、JBクリストフェルソンが3月中旬に取材応じてくれた。
◆グランド・メイガス画像
――前作『TRIUMPH AND POWER』は日本リリースが見送られました。なぜリリースされなかったのか、その辺りの事情はご存知ですか?
JBクリストフェルソン:わあ、まずそのことすら知らなかったよ(苦笑)。何と言っていいのやら…。俺もNuclear Blastに訊いてみるべきだろうな(苦笑)。
――日本の熱心なファンは輸入盤を手に入れたでしょうが…。
JBクリストフェルソン:うん、そうだといいんだが。
――2011年12月、カテドラルのロンドンでの最後のショウでサポートを務めた時に観ましたが、グランド・メイガスはイギリスでとても人気があることがわかりました。このバンドが特に受け入れられている国や地域というのはありますか?
JBクリストフェルソン:そうだな…イングランド、スコットランド、アイルランド…。UKとアイルランドと言うべきかな、その地域がとても良いのは言うまでもなく、ドイツもそうだと言えるだろうし、恐らくフランスも…。ある程度はそういう傾向があるかな。うん、恐らく、UKとアイルランドとドイツが恐らく最も強力なファンベースだと言えるだろう。
――何年か前に、誰だか忘れましたがスウェーデンのミュージシャンから聞いたことです。『「スウェーデンでライヴをやっても、観に来るのはミュージシャンが多くて、そんなに熱狂的な反応は返ってこない」とのことでした。今でもそんな感じなのでしょうか?
JBクリストフェルソン:ああ、確かにそういう事実はある。どういうタイプの音楽をプレイしているかにもよると思うよ。メタル・バンドだったら、間違いなくそういう種類の聴衆がいて、純粋なヘヴィ・メタル・ファンというより、こちらをジャッジしに来ている奴らがいるんだ。スウェーデンにはバンドでプレイしている奴も物凄く多くいるから、そういう奴らの中には、「そこでプレイしているのは俺であるべきだ」と思っているのがいるわけだ(苦笑)。だが、そういう聴衆が全くいないバンドもスウェーデンにいる。非常に成功しているバンドだね。だからバンドによって違うんだよ。俺達はスウェーデンでそれほど力のある地位に就いたことはない。俺達は常にヨーロッパの他の国で成功を収めている。しかし、スウェーデンのメタル・バンド、ハード・ロック・バンドにも、国内でも大成功を収めているバンドはいるよ。スウェーデンのバンドであってもね。だから一概に言うことはできない。バンドによっても違うし、プレイしているタイプの音楽によっても違うし、どういうメンバーのバンドかによっても違う。
――3年前にスピリチュアル・ベガーズが来た時、ラドウィッグ(ヴィット/Dr)から「なぜグランド・メイガスは日本に来られないのか? 事情を知ってる?」と訊かれました。レコード会社のサポート次第だと思いますが、この新作リリースで期待したいです。あなたはスピリチュアル・ベガーズでニ度来て以来、こっちには来ていませんから。
JBクリストフェルソン:ああ、そのとおりだ。そもそも最初の質問にあった『TRIUMPH AND POWER』が日本でリリースされなかったというのが俺には謎だよ。勿論、俺はスピリチュアル・ベガーズで日本に二度行っていて、とても素晴らしい経験をしている。日本でプレイすること自体もだが、ミュージシャンとして日本に行って、旅行者としてではない立場で色々な経験ができるのは本当に光栄なことだ。グランド・メイガスが日本に行ってプレイできたら最高だと思う。俺達の音楽は日本で受け入れられると思うからだ。だから、うん、俺にできる限りの最善を尽くすよ(笑)。
――日本でディオと共演して、ロニー・ジェイムズ・ディオにレインボーかブラック・サバスのアートワークにサインをもらった時、「君と共演できて嬉しい」といったコメントを書いてもらったようですね。あなたはそのアートワークを見ながらしばらく感無量だったそうですが、その時のことは覚えていますか?
JBクリストフェルソン:ああ、覚えている。そのレコード・スリーヴも自宅のCD棚にあって、時々眺めているよ。ディオは俺にとって最大の影響源の1人であり、音楽のヒーローの1人だった。そんな彼と日本で一緒にプレイできて、実際に会えたのは、信じられないような出来事だった。しかも、彼のサインをもらい、嬉しい言葉まで書いてもらえたんだから、何と言えばいいかわからないほど感動したよ。俺はレインボーとブラック・サバスの大ファンだ。スウェーデン人の子供として彼が歌うのを初めて聴いた時からの。夢に見ていたことだったんけど、本当に信じられなかった。
――どのアルバムにサインをもらったかは覚えていますか?
JBクリストフェルソン:ああ。ディオの『THE LAST IN LINE』とブラック・サバスの『MOB RULES』とレインボーの『LONG LIVE ROCK 'N' ROLL』を持っていったんだ。その全部にサインをしてもらったよ。
――その後、彼に会うことはありましたか?
JBクリストフェルソン:あのツアーの最後の日に同じレストランでディナーをとっていた時に、彼が俺達のところにやって来て声をかけてくれて、数分話をしたよ。あれも本当に現実とは思えない経験だった。自分が彼と実際に喋っているなんてね。だが彼はスーパー・ナイスな人で、地に足の着いた人だった。ヒーローの中には実際に会ってみると期待していたのと違っている人もいたりするけれど、彼はそうじゃなかった。彼は本当に真摯な人で、俺がこういう人であって欲しいと願っていたとおりの人だったよ。あれは本当に俺にとって特別なことだった。
――歌唱のテクニックやステージでのパフォーマンスの面でも、彼から受けた影響は大きかったですか?
JBクリストフェルソン:ああ。俺はとてもとても幼い時から彼が歌っているアルバムを聴いていたからね。それで培ったものは、自分の音楽をやるようになった時に滲み出てくると思う。特に彼は非常にパワフルな声の持ち主だったから、俺は特にそこに感銘を受けていたし、自分もそうありたいと思っていた。だが彼を真似ようとは思わなかったね。彼は真似できない存在だと思う。非常にユニークな声の持ち主だったから。彼の歌唱全体が俺を感動させて、自分でもやってみたいと俺に思わせたんだ。
――さて、素晴らしい新作『SWORD SONGS』が完成しました。幾つかの曲についてコメントをいただけますか?
JBクリストフェルソン:喜んで。
――まず、1曲目の「Freja's Choice」。
JBクリストフェルソン:まず前作『TRIUMPH AND POWER』は…何と言えばいいかな…荘厳な印象のアルバムだったから、今回のアルバムの曲は全体的に少し速めにして、もう少しアグレッションのあるものにしたかったんだ。「Freja's Choice」は間違いなくそういう曲の1つだよ。俺達がこのアルバムに持たせたかったタイプのエネルギーを捉えている曲だと思う。だから、このアルバムにとって非常に重要な曲の1つだよ。最初に書いた曲の1つでもあり、俺達が作り出したいタイプのエネルギーの青写真にもなったからね。それに、非常に強いBATHORYからの影響がプリ・ソロ・セクションに出ている曲でもある。あの部分のギターのメロディは、俺がこのアルバムに入れたかったタイプのもので、それは他の曲にも登場するものだ。
――ここ最近のアルバムの曲を聴いていると、ギター・リフ主導というより、ヴォーカル・メロディが先に浮かんだのでは?と思うことがあります。新作では、例えば「Freja's Choice」とか。実際のところいかがでしょうか?
JBクリストフェルソン:ああ、当たっている部分もある。曲作りの焦点はリフから強力なメロディを軸にすることにシフトしているんだと思う。確かにそのとおりだ。但し「Freja's Choice」は実際には(笑)リフから書いた曲なんだが。だけど通常、俺は楽器のパートよりも、メロディとヴォーカルに重点を置いている。まず強力なコーラスやヴァースのメロディが生まれて、その周辺にリフを構築する。最初にリフを思いついて、それらをパズルのピースのように組み合わせて、そこにヴォーカル・メロディを乗せようとする…そういう手順ばかりではないね。
――「Varangian」はいかにもノルディックなメロディが印象的です。ギリシャや東スラヴから見たヴァイキングについての曲ですか?
JBクリストフェルソン:ああ。ヴァランジアンというのは、ビザンチン帝国(東ローマ帝国)時代の皇帝のエリート衛兵達のことなんだが、元々は北欧のヴァイキングだったのが南下して、皇帝を守るために皇帝に雇われた者達なんだ。だから、神話ではなく史実が元になっている。非常に魅力的なアイディアだと思ったし、ヴァイキングにまつわる、略奪したり破壊したりするだけの者達というイメージは事実とは違うという証明にもなっている。彼らは遙か彼方まで移動して、世界中の様々な地域に定住し、新たな住民として生活を始めていたんだよ。それも歴史の一部なんだ。
――「Born For Battle(Black Dog Of Broceliande)」については? ミドル・テンポの曲で、音楽自体がアンセミックです。Broceliandeというのはフランスの伝説的な森、実在したどうかも定かでない場所のことですか?
JBクリストフェルソン:いや、実は、実在の人物を基にした曲なんだ。ベルトラン・デュ・ゲクラン(Bertrand du Guesclin)という人物で、彼はヨーロッパの百年戦争時代のフランスの将軍だった。だから大昔ではあるけれど、ヴァイキングの時代よりは新しい。彼は大きな成功を収めた将軍だったけれど、背が低くて醜くて、彼にできるのは唯一戦うことだけだった。子供の頃から、彼は戦闘するために生まれたと言われていた。俺は彼のそういう運命と人生に魅了された。だから、この曲は彼のことを書いたものだ。だが勿論、困難な状況にあるどんな人物にも当て嵌めることができるから、この曲を聴いて「よし、自分にもやり遂げる力がある」と感じてくれたら嬉しいと思っている。その彼は、Black Dog of Broceliande(ブロセリアンドの黒い犬)として知られていた。ああ、そこが恐らく彼の出身地なんだろう。
――「Everyday There's A Battle To Fight」については? アルバムの終わりに相応しい曲だと思います。ブラック・サバスの「Heaven And Hell」のようなテンポとベース・ライン、グルーヴの曲です。この曲のタイトルは市井の人々の日常生活にも直結するものだと思いますが、この曲のテーマは?
JBクリストフェルソン:ああ、まさにそれがテーマで、このアルバム全体を1つにまとめているテーマでもあるよ。結局のところ、人間は誰しも、どこにいようと、いつも何かと戦わなくてはいけない。武器を持った戦いかもしれないし、病との戦いかもしれないし、トラブルに対処しなくてはいけないのかもしれないし、毎朝ベッドから起き出すことだって戦いかもしれない(笑)。俺達人間にとっては、どんなものでも戦いなんだ。この曲の背景にあるのは、この曲からエネルギーを受け取って、厳しい状況に置かれていたり、凄く良い感覚が持てないことがあったりしても、強さを見出して対応しなくてはいけないことに向かっていけるようになって欲しい、という考えだよ。
――ボーナス・トラックであるディープ・パープルの「Stormbringer」のカヴァーについては? 素晴らしい仕上がり、グランド・メイガスらしい仕上がりだと思います。オリジナルの良さを損なわず、あなた方らしいアレンジが施されていて素晴らしいです。リッチー・ブラックモアの最初の脱退前のアルバムで、リッチー自身、全く気に入っていないようですが、アルバムとして聴く分には良い作品ですよね。
JBクリストフェルソン:ああ、そうだよ。実際、俺が時代を超えて大好きなアルバムの1枚だし、特にあの曲が好きだ。恐らく俺が認識した最初のハード・ロック曲だったんじゃないかな。まだ凄く凄く幼い時でね。俺にはかなり年上の兄が2人いるんだが、1人が『STORMBRINGER』を持っていだ。俺は多分4歳か5歳だったと思う。あのアルバム・カヴァーに凄く惹かれたんだ。そして、あの曲を初めて聴いた瞬間、俺の好みのタイプの音楽はこれだと思った。
――そうでしたか(笑)。
JBクリストフェルソン:ああ(笑)。そしてこの数年、ラドウィッグが入ってからは、いつもインストゥルメンタル・ヴァージョンの「Stormbringer」をサウンドチェックでやっている。ショウをやる前にね。だから、曲は熟知しているし、全員が大好きな曲だから、これをさっさとレコーディングしてしまうべきじゃないか?ということになった。それに、俺も、この曲をちゃんと歌ってみたいとずっと思っていた。この曲には特別な縁があるからね。だから全員でこれをやることに決めて、仕上がりにも全員がとても満足しているよ。
――この曲のキーボードとオルガン・ソロを弾いたのは誰ですか? スピリチュアル・ベガーズのペル・ヴィバリですか?
JBクリストフェルソン:そう、彼だよ。これをやると決めた時、とても上手くやれるだろう人物で、俺達がやってもらいたいと思ったのはペルだけだ。それで俺達から彼に頼んだら、彼も「勿論喜んで!」と受けてくれた(笑)。彼のプレイは文句なしに凄い。あまりにも素晴らしすぎるよ。この曲を聴くと、俺達がやったヴァージョンの中でも俺達が一番気に入っている部分にすらなっている。それくらい上手く弾いているから。それに彼は良き友人だというのもこのヴァージョンに特別な意味をもたらしている。まるでグランド・メイガスとスピリチュアル・ベガーズのコンビネーションのようになっているから、それも俺をハッピーにさせてくれているよ。
――新作発表後のグランド・メイガスとしての予定を聞かせてください。ラドウィッグは3月後半から4月にかけてスピリチュアル・ベガーズのツアーに出るようですが、グランド・メイガスとしてはその後に何かの活動を控えていますか? 夏にはフェスティヴァル出演、秋から冬にかけてヘッドライナーとしてのツアーでしょうか?
JBクリストフェルソン:ああ、今年の夏にはヨーロッパで10回か11回フェスティヴァルに出演して、その後、大々的なヨーロッパ・ツアーを年末にやる。恐らく2ヵ月のツアーになるだろう。それは、あるビッグなバンドをサポートするツアーになるんだが、どのバンドのツアーかは今はまだ明かせない。2週間ほど後に発表される予定だ。そのツアーでヨーロッパのほぼ全部の国に行くことになるからクールなものになるだろう。そして多分、来年の早いうちにヘッドライニング・ツアーをやるだろう。上手く行けばその前に日本に行けるかもしれない。
取材・文:奥野高久/BURRN!
【メンバー】
ヤンネ“JB”クリストファーズソン(ヴォーカル/ギター)
マッツ“フォックス”スキナー(ベース)
ルートヴィヒ(ドラムス)
グランド・メイガス『ソード・ソングス』
【通販限定CD+Tシャツ】¥5,000+税
【CD】 ¥2,500+税
1.フレイヤズ・チョイス
2.ヴァランジアン
3.フォージド・イン・アイアン - クラウンド・イン・スティール
4.ボーン・フォー・バトル(ブラック・ドッグ・オブ・ブロセリアンド)
5.マスター・オブ・ザ・ランド
6.ラスト・ワン・トゥ・フォール
7.フロスト・アンド・ファイア
8.フーガー
9.エヴリデイ・ゼアーズ・ア・バトル・トゥ・ファイト
10.イン・フォー・ザ・キル※ボーナストラック
11.嵐の使者(ディープ・パープル カヴァー)※ボーナストラック
◆グランド・メイガス『ソード・ソングス』オフィシャルページ