【レビュー】マキシマム ザ ホルモン、『Deka Vs Deka~デカ対デカ~』の狂人ぶりと天才ぶり

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マキシマム ザ ホルモンが11月18日、7年ぶりの映像作品『Deka Vs Deka~デカ対デカ~』をリリースした。DVD3枚+Blu-ray1枚+CD1枚による3規格全5枚組は驚異のボリュームだが、それ以上に腹ペコ諸君を驚愕させたのは前代未聞の内容だ。先ごろ公開した音楽メディア関係者を対象の視聴会レポートに続いて、同作の本丸に迫るレビューをお届けしたい。なお、この記事には一部『Deka Vs Deka~デカ対デカ~』のネタバレ要素が含まれています。これからご覧になる方はご注意下さい。

◆マキシマム ザ ホルモン 画像

フラゲ日の夕方には完売する店舗が続出し、それと同時に「どう選択しても食われて前に進めない」や「ホッチキスの芯なんてどこにあんだよ」といったロックバンドの映像作品に対する感想とは思えない、まさしく阿鼻叫喚とも呼べるような声がネット上でも駆け巡った問題作、それがマキシマム ザ ホルモンの映像作品集『Deka Vs Deka~デカ対デカ~』だ。DVD3枚、Blu-ray1枚、CD1枚の計5枚組という特大ボリュームだけでも常軌を逸脱しているのだが、それだけでは終わらないのがホルモンたる由縁か。リリース前から告知されていた"狂気の試聴システム"がとんでもなかったのだ。



今作には“この商品は必ず「START UP DISC」から再生してください”と明記されている。それこそが最重要ポイント。待ちきれずに、そこをすっ飛ばして他のDVDやBlu-rayをプレイヤーに入れたとしても、そのまま映像を観ることができない。それはどういうことかというと、ライヴ、ドキュメンタリーやオフショットといった各映像にはなんとパスワードがかかっており、START UP DISCを通してキーワードを手に入れることが必要とされるのだ。

では、そのSTART UP DISCからどういった形でキーワードを手に入れるのかを説明したい。実際、ちょっとニヤッとする仕掛け程度であれば、これほどまでのリアクションは巻き起こらなかったはず。いまだに“よく誰も異を唱えず実現させたな”と感じるのだが、はっきり言って常人では想像できないほどのレベル。これまでリリースされたホルモンの映像作品でも“らしさ”溢れるものは存在していたが、それらとは比べ物にならないと断言できるほどだ。

これこそがすべての元凶とも呼べる存在なのだが、マキシマムザ亮君と同世代ならば、1987年にファミリーコンピューター用に発売された『さんまの名探偵』のようだと説明するのがわかりやすいかもしれない。再生開始から5分23秒後、このSTART UP DISCは音楽映像作品の導入として位置づけられているにも関わらず、CG化されたメンバー4人を主人公として、複数の選択肢から答えを選びながら物語を進める『亮君の超挑戦状』という、いわゆるアドベンチャーゲームが始まってしまうのだ。

そして、そのゲームをクリアしていく毎に少しずつパスワードが明らかになっていく構造は、とことん細部にまでこだわりまくるマキシマムザ亮君ならではであろう。その世界観もマキシマムザ亮君そのものが随所に投影されている。

驚くほど緻密に作り上げられており、間違った選択をするとメンバーが片っ端から死に、どんどんゲームオーバーになる。いろんなフラストレーションと喜びを感じながら乗り越えゲームは進んでいくのだが、キン○マンの名場面やレトロゲームのオマージュ、アイドル業界へのシニカルな視点があったり、オマケやお遊び程度ではなく、ひとつのゲームとして成り立つボリュームを誇っており、“ちょっと合間にやってみようか”みたいなノリではエンディングまで辿り着けないほどの奥行きがある。


先日このBARKSでもレポートした『視聴会』の際、別室にいるマキシマムザ亮君の神の声からヒントをもらいつつ、参加者で順番に操作していった。バカバカしいなと笑いつつ、“これ、誰かが誰かに怒られないのか?”と心配しつつ、真剣に悩みつつ、のプレイであった。それでも4時間程度はかかったであろうか。

はっきり言って、凄い。このこだわりは恐ろしい。人気ゲームであれば制作に数億円の予算が必要であり、今作はそこまではいかないかもしれない。しかし、発売前にマキシマムザ亮君が自費で1000万円を投じたというニュースもあったうえに、それがそれほどプラスになっていないんじゃないだろうかと感じるほど。少なくとも、通常のライヴDVDの数十倍の予算と時間がかけられているように思う。

実際、今作のプロモーションに携わったコピーライターの小霜和也氏は、マキシマムザ亮君にアイデアを提示された際の感想として「ここまでやるかという感心をさらに通り越すと、人は吐き気を覚えるんですねえ」と自身のコラムで記しているのだ。

ただ、体感した際、“ここまでやっていいのだろうか? はたして、どこまで理解されるのだろうか?”といった疑問や不安が頭に過ったのも事実。なかなかチケットを取ることができないホルモンのライヴや他に類を見ないイベントの模様をいち早く体感したファンの中には、これを苦行と捉える人も少なからず出てくることが想像できたからだ。

しかしながら、このシステムは、ただ面白いから、他にやったバンドがいないから、だから実現させたというレベルではないように思う。ある種の暴力性を秘めたアプローチだと自覚しているからこそ、『視聴会』を終えた後、マキシマムザ亮君からの参加者へ対する感謝の言葉があったり、発売後に今作にも登場する"へこみん"のTwitterアカウントを作り、マキシマムザ亮君本人がツイートやDMでSTART UP DISCのヒントをファンに届けたりなど、積極的に手を差し伸べている。


では、なぜここまでやってしまったのか。今に始まったことではないが、ゲームのジャンルに関わらず、まず基本的な操作やシステムを説明するために、ある程度のナビゲーションに従った形でプレイするチュートリアルというものが存在する。これまでもCDの歌詞カードには、届けたいものの補足としてマキシマムザ亮君の解説がついていたのだが、それだけでは伝わりきっていない感触があったのではないか。より深く、この抱えた想いを知ってほしい。そんな気持ちから発展したように思う。このSTART UP DISCを他の言葉で表現するならば、マキシマム ザ ホルモンというバンドを知り、よりその世界観へ身を投じるためのチュートリアルなのであろう。

また、今作のキーワードを手に入るためには7thフルアルバム『予襲復讐』も必要になっている。これはホルモンの旨味を極限まで詰め込んだ作品であり、特にタイトル曲「予襲復讐」はバンドを語る上で絶対に外せない名曲。オフィシャルサイト上では手元にないファンへ向けて、必要な数ページが公開されてはいるが、今作と『予襲復讐』を味わうことが今のホルモンを知るうえで必要不可欠な要素であるということも付け加えておきたい。

そういった難関を越え、手にしたキーワードを打ち込んだ先にある各映像は、近年のホルモンの軌跡をすべからく網羅した素晴らしき内容だ。




恐ろしさすら感じるほどの熱気とファンの興奮で圧倒的なライヴを見せつけられた<『予襲復讐』ツアー>ファイナルとなったZEPP TOKYOの模様は当然として、そのままテレビ番組として放映できるほどのクオリティに驚いたホルモンの原点を紐解くドキュメンタリー『【昭和偉人シリーズ】ドキュメントオブ暴君~今、明かされる真実の与田マコ~』、そのドキュメンタリー内で事務所スタッフが「赤字のイベントオンパレードで全然金になんないっす」と語る驚愕の無料イベント<地獄絵図>の未公開6公演やプレミアム無料イベントとして開催された<MASTER OF TERRITORY ~俺たちにマスはある!~>の様子であったり、全国腹ペコ統一試験の上位者を招待し、とんでもない感動を生み出した『マキシマム ザ ホルモン林間学校』の全貌、真摯にバンドと向き合いながらも楽しむことを忘れないメンバーの素顔が垣間見えるオフショットなど、“やっぱり、ホルモンを好きでよかった。たいへんだったけど、ゲームをクリアした甲斐がある!”と何度も反すうできる場面ばかり。ホルモンの世界に骨の髄まで浸れることは間違いない。




あり得ないアイデアとスケール感で突き進んできた。世間の波を読み、成功者の後ろをひた走ることが求められることも多い今、確固たる信念を持ち、自らのロックを本気で提示するバンドがホルモンだ。誰もが想像したことがない、この音楽映像作品としてはあるまじきアプローチ。もっと言ってしまえば、非難の嵐にさらされる可能性すらあったはず。だが、リスクを恐れず、そこで思いっきり踏み込んできた。今作はその存在証明であり、すべてを背負い切る覚悟に満ち溢れた作品に違いないだろう。

後世まで語られる天才は、世の中の常識から完全に外れたような狂人さや鬱屈した想いを抱えてていることも多い。そのバランスがカチッとハマったとき、通常では到達し得ない絶景を生み出すからだ。とんでもなく濃密ですべてがクライマックス級の『予襲復讐』、そしてこの恐るべき今作を経て、果たしてホルモンはどこまで邁進していくのだろう。破格のロックバンドの行く末に興味が尽きることはない。

取材・文◎ヤコウリュウジ




◆『デカ対デカ』情報まとめページ
◆マキシマム ザ ホルモン オフィシャルサイト
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