【ライブレポート】水曜日のカンパネラ、総合アートに大躍進。
水曜日のカンパネラが11月18日(水)に赤坂BLITZにて、ニューアルバム『ジパング』のリリースツアー<ワンマンライブツアー~ジパング~>の初日公演を行った。いま、俄然注目を浴びる水カンのポテンシャルの高さを、そして、まだまだまだまだ未知数な水カンの可能性をまるっと体験したこの夜のレポートをお届けしたい。
◆水曜日のカンパネラ ライブ画像
45分も待ちに待った開演だったが、「お待たせしましたぁー!」と言い放ち登場したコムアイの姿を観た瞬間、「いや最高だ、最高だよ!」と思ってしまった。カレーのルーが入っているあの黄金の容器がシンボリックに現れるオリエンタル調の映像が展開する中、「ラー」を歌う彼女は一瞬で私達の心を奪った。時にキレよく時に形容しがたい動きで踊り狂いながら。演奏は北海道の珍しい地名を羅列する「シャクシャイン」にそのまま続くが、ラップのようなお経のような歌唱にある強烈なそのトランス感は、説明も何も要らないでしょという享楽を爆発させていた。コムアイは、格段に表現者として地に足がついており、その成長を早くもライブ序盤で感じせてくれた。もちろんそれが水カンの得体のしれない面白さにつながっていたが、以前のコムアイがまとっていた“ドール感”みたいなものは消え、表現が借り物ではなくなったのが現状だろう。
それと同時に、非常にシャープな音像のトラックが鳴り響くこの空間において、たったひとりで強烈な歌を歌い踊るコムアイのあまりの度量にたじろぐ自分もいたのも事実だ。だって、いつもライブハウスで観ているライブの光景とはまるで違う。こんなにステージを一手に引き受けるパフォーマーが成立するなんて単純に驚きだ(ご存知の通り、「コムアイ=主演・歌唱、ケンモチヒデフミ=作曲・編曲、Dir.F=上記以外、すべて」から成るのが水曜日カンパネラだ)。
コムアイは、「シャクシャイン」のあと、待たせてしまった時間について感情を込めて謝った。そのMCで「2年面白いことをやってウケなかったら辞めよう、それでいいと思ってたけど、こんなに人が来たら辞められなくなるものです。ありがとうございます、本当に」そして「やりたいこと、いっぱいあるんですアタシ!」と、どこまでも本音で語る彼女の言葉に大きな楽しみをもらった気分だった。
そして、マニアックにお風呂愛を歌う「ディアブロ」、実は桃太郎はゲーマーだったという仮説を立てる「桃太郎」というキラーチューンが立て続けに飛び出しながら、敢えてじっとアンニュイに佇み続けた「マルコ・ポーロ」は静的な演出で魅せた。現場にいなければ絶対に味わえない映像と音楽による創造的なかけ算が、めくるめく広がっていく。そしてその根底にあるのは、昔話や歴史上の人物という固定概念を新解釈し、再構築し、楽曲に昇華してしまうという果たしないオリジナリティとユーモアだ。どこまでが振り付けでどこまでが反射神経のたまものなのかわからないコムアイの身のこなしも、神がかっていた。この日も悲鳴に近い熱狂的な歓声を贈っていたファンの心情にも、同意せざるを得ない。
続いて、『ジパング』からの楽曲を多数。MCでは、いかに自分が『ジパング』でやりたいことをやれたかを村上隆の五百羅漢図展に赴いた時のエピソードを交えて語った。そして、「(関係者席を見て)上の人達はわかりますよね? ミュージシャンってやりたいことやってる人ばっかりじゃないんだよ。でも、客商売だからしょうがないんだよ……だけど私は、本当にやりたいことをやれるようになってきたし、それで評価されていきたいなって思うんですよ」と、話した。まさに“アーティスト”として脂が乗っている彼女の現在地を象徴する発言だろう。その一方で、「ライト兄弟」の曲前に観客をあおろうとして、「自分の兄弟のことを思い出しながら聴いてくださいっ!……なに言ってるんだろう、あたし(苦笑)」と、一人でツッコむ様子がかわいくて親近感も覚えてしまった。
ヤフオク!でお馴染みの「ツイッギー」では、スポットライトを浴びながらお立ち台でアッパーなパフォーマンスを見せると、一気にこの日1番ハードコアなナンバー「ウランちゃん」へ。アニメーションの動きがバグっているようなコワカワ映像がバックに映し出され、映像と音によるその異様なグルーヴは強烈な体験として身体に焼き付いている。また、「メデューサ」では頭上からシャンデリアがゆっくりとお出まし。コムアイが光るシャンデリアを手にしながら都会でナイトクルージングする同曲のミュージックビデオとの楽しいシンクロニシティが目の前で起こった。
それにしても、「『ジパング』というアルバムの全体像には、“西からシルクロードを渡り東京まで来る”というコンセプトがある」と平然と作品説明をした姿が印象深い。Jポップのシーンには、日常における心象風景の描写といった生活感のある音楽が多いものだが、水曜日のカンパネラはJポップレベルの親しみやすさをまといながら、こうして唯一無二のアイデアを形にするユニットなのだ。「小野妹子」のピークタイムである「フロムジャペン/パンにはやっぱり遣隋使」という摩訶不思議なパンチラインが成り立ってしまうのは水カンだけが成せる離れ業だろう。このユニットに対して、「作品性が高い」という形容は使い倒されているかもしれないが、やはり敢えてそう讃えたい。そして、たとえば「猪八戒」ではスポーツブランド「Kappa」の服を登場させるというギャグも織り交ぜるのが水カンだ。そんなコミカルな面は、自身のエンターテイメントの入り口の敷居を下げ、扉を広く開けるための大切な要素のようにも見えたのだが。
アンコールを受けてもう一度やった「ラー」は前時とまったく趣向が異なり、ステージ上で約30人のダンサーを従えた。集団芸による圧巻の狂騒的パフォーマンスであった。かつては、ライブのステージ上で、水曜日のカンパネラについて「出落ちなんです」と冗談交じりで自己紹介したコムアイ。だが、この日体験したオリジナリティー、創造性、情熱、アイディアの数々は総合アートの域に達していると感じられるものであった。ツアーはまだ初日。各地で起こるであろう熱狂を想像すると、実に痛快な気持ちになる。
◆ ◆ ◆
text by RYOKO SAKAI
photo by NoboruMiyamoto
水曜日のカンパネラ<ワンマンライブツアー『ジパング』>
2015年11月18日@赤坂BLITZ セットリスト
1. ラー
2. シャクシャイン
3. ディアブロ
4. 桃太郎
5. マルコ・ポーロ
6. ライト兄弟
7. ツイッギー
8. ウランちゃん
9. ユタ
10. メデューサ
11. ナポレオン
12. 小野妹子
13. 猪八戒
14. ドラキュラ
~アンコール~
15. ラー
◆水曜日のカンパネラ・オフィシャルサイト
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