【対談】沖ちづる×北澤ゆうほ(the peggies)、「十代の最後に残しておきたい」

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■多感な女子校時代と決意■

沖:高校生活もある程度すぎると、周囲のみんながバタバタしていた記憶があるんだけど、ゆうほちゃんにとって“たいへんだったなあ”って思い出はある?

北澤:バンドとの両立っていう点では、私はまともな学校生活を送ってなかったからたいへんじゃなかった。6時間目に登校してワーって授業を受けて、すぐに帰ったり、本当に学校ではテキトーにすごしてたからね(笑)。ただ、うちの学校は、ライブ活動は黙認されてたけど禁止事項が多くて。芸能活動や、自分に利益が入ってくることはNGだったんだよね。

沖:お金をもらうことがダメだったんだ。

北澤:そうそう。で、たいへんだったことでいうと、高校2年の時に自主音源のCDをディスクユニオンに置いてもらったんだけど、それを誰かの親が先生にチクッて学校に呼び出されちゃって。私たちの親と校長と教頭と生活主任の先生を交えての9者面談。すごく怒られた。でも、私も“それ、違うと思います!”ってヒートアップしちゃって。途中で“まずい退学になる”って思ったなあ。そんなこともあって学校では目をつけられてたから、あまり派手なこともできなくて地道にライブ活動をしてた。



沖:そういう地道な努力はあったよね。私の学校も厳しかったから、なんとか先生の目を盗んでやってた。高校3年になると進路の話も出るけど、バンドをどうしていこうかっていう話はバンド内であった?

北澤:ほかの2人は、私が続けるって言えば続けてくれる感じだったから、バンドについてどうするかっていう話はなかった。進学については付属高校だったし、最初は大学に行くつもりだったけど、大学に入ってバンドと両立できるのかなっていう迷いもあって。そもそも大学自体が私に合わない気がしたし。両親は絶対に行かないと思ってたみたいだけど。

沖:“行け”と言われることもなく?

北澤:うん。進路調査書も私が何も書いてないうちに、両親が名前を書いて印鑑を押してあった。でも、その付属の学校には幼稚園の頃から親が通わせてくれたわけだし、知らないことを最初から拒否するのもどうかと思って、結局進学したんだけど、すぐにやめちゃった(笑)。

沖:音楽のある方に導かれていったのかもしれないね。私は美術系の学校だったから、みんなにとっては美術が中心で、あくまで娯楽として音楽がある感じだったなあ。みんな“デザイナーになりたい、建築家になりたい”っていう思いがあって。だから、軽音楽部を引退する時は、バンドの今後についての話し合いもなく、それぞれの道を歩んでいくことに……。私はそこで“これからはひとりで歌っていこう”って決めた。“沖ちづるという単体で見られるっていうのはどういうことなんだろう”って。そこに突き進んでいこうとした気持ちがあったのかもしれない。この前、久しぶりにバンド時代のメンバーに会ったら「沖は、絶対音楽の道に進むと思ってたよ。決まりきったところで何かをこなすよりは、自分から“これをやりたい”ってやっていくタイプだったから」って言われて。自分では、そんなタイプじゃないって思ってたから、びっくりしたんだけど。

北澤:私は「ゆうほは自由な人。将来、何をしててもびっくりしない」って思われてた(笑)。

沖:いいねえ。私は“あんた、絵の道に進むためにここにきたんでしょ。なのに、自分の曲とか書いちゃって”って見られているところもあったから。でも、そういう微妙な居心地の悪さからは、卒業して振りほどかれたし、自分の気持ちも広がった。前は“嫌われている”って気にしていて、隠れるようにしてところもあったけど、今は誰とでも話せるようになったし。

北澤:まあ、高校時代はみんな多感だからね。

沖:女子校だし。

北澤:そうなんだよねえ(笑)。



■『NEW KINGDOM』に込めた思い■

沖:the peggiesのニューアルバム『NEW KINGDOM』を聴いたよ。1曲目の「グライダー」から“やり切ってるなあ”って思った。

北澤:ははは(笑)。

沖:同世代として、同じく音楽をやっている人間として、“やられたな”って。どの曲にも今までのthe peggiesのよさと、新しく広がっていく感じというか、何かに立ち向かっていく強さをすごく感じたんだけど、『NEW KINGDOM』というタイトルはどういう思いでつけたの?

北澤:直訳すると“新しい王国”って意味だけど、アルバムのタイトルは絶対にこれだと思ってた。自分でいうのは何だけど、the peggiesみたいなバンドって周りにいない気がするのね。だから、これから音楽を続けていくにあたって、the peggiesが新しいシーンの先頭に立てたらいいなっていう思いを込めてる。みんなを引き連れていけるくらいの勢いを持ちたいし。

沖:そういう決意表明みたいなものも強く感じた。「グライダー」には“好きだったものを嫌いになっていく寂しさ”っていう一節があるけど、大好き(笑)。ゆうほちゃんの歌詞には絶望感はあるんだけど、“何てきれいなんだろう”っていう真っ直ぐな思いも重なってる。だから前向きな気持ちにさせてくれる。そこがすごくいいなあって思う。

北澤:ありがと。リアルだよね。

沖:何かを始めようと決意した時には苦労もあるし、自分が嫌なヤツになってしまうこともあるけど、そこに向き合って書いた曲なんだなって。

北澤:すごく聴いてくれてる(笑)。

沖:「青春なんかに泣かされて」(※2曲目)はタイトルに“青春”っていうワードがあるけど、ゆうほちゃんにとって青春はどういうイメージ?

北澤:高校時代は青春らしい青春を送れなかったの。何でも話せる友達もいなかったし。でも、みんなが絵に描いたような青春のなかにいる姿が、すごくきれいにみえて“青春っていう感じ”に憧れてた。いまだにそう。だから自分のなかの憧れを、自然に歌詞にしてるんだろうなって思う。“若いね”って感じの、青春っぽい若さやキラキラしたものを象徴する文化ってあるじゃない?

沖:特に女の子はそうだよね。

北澤:私はそういう若さをバカにしたくない。どんな大人も昔は若かったわけだし。そういうことを堂々と言える人間になりたいし、大人になったら若い人を純粋に応援できる人間になりたい。

沖:すてきな曲だな。「P/F」(※9曲目)は両親に向けた歌って聞いたけど、二十歳になるにあたって両親への思いに変化があったのかな?

北澤:二十歳になるって大きなことで、いろいろなことを考えるきっかけになるよね。私は両親とお姉ちゃんと甥っ子と5人で住んでるんだけど、家族みんな仲がよくて。私には子供っぽいところがあるからぶつかったりはするんだけど、この歳になってあらためて家族の愛情って何だろうって考えた。だから「P/F」は、今後何が起こっても“両親を尊敬してる。大好き”という今の気持ちを、十代の最後に残しておきたいと思って書いた曲なんだよね。

沖:最近、家族や周りの人のことを何かしら思うことが多かったから、すっと自分のなかに入ってきた。

北澤:嬉しい。ありがとう。

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