【インタビュー】トゥライ、デビューアルバムは「まさかやると思ってなかった冒険の始まり」

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■箱の中には汚いものが詰まっているんだろうって思い込んでいた
■でも、ホントは何が入っていたかわからないよねっていう

──アルバム『ブラックボックス』はストリングスやピアノをフィーチャーしたバラードが収録されていたり、ジャズ風ナンバーだったり、トゥライさんの洗練されたポップセンスが伝わるメロディアスな楽曲が多いですよね。

トゥライ:ありがとうございます。

──さっき、「パンドラ」の話に触れましたが、「パンドラ」と「ブラックボックス」の違いとは?

トゥライ:まず、「パンドラ」は2年半ぐらい前、アルバムを作ろうという話になったときに表題曲の候補として作った曲なんです。その後、いったんアルバム制作がストップして再開したら、少し別の形になったのが「ブラックボックス」という曲。似たように映るかもしれないけれど、自分の中では対照的なんです。

──「ブラックボックス」の主人公は迷ったあげく、箱の中身をすべて捨ててしまうんですもんね。

トゥライ:そうですね。ネガティブなワードが散りばめられていて……まぁ、アルバム全体に言えることなんですが(笑)。実は「パンドラ」より「ブラックボックス」のほうが前向きな曲なんですよ。

──そうなんですね。「パンドラ」のほうが前に進む決意を歌ったポジティブな曲なのかと思いました。

トゥライ:「パンドラ」は張り詰めているというか、ブチッと切れてしまいそうな状態の中で作った曲なんですが、「ブラックボックス」は一歩引いて自分のことを客観的に見ている曲です。活動していく過程で、いろいろなことを経験していくうちに、Aさんに見せる顔、Bさんに見せる顔、Cさんに見せる顔、ってだんだん自分の顔が増えていって、どれが本当の自分だかわからない状態に陥ることが多くなっていったんです。どの顔も嘘じゃないと思いながらも、“全部いらない”、“もう1人になりたい”ってなったり。「ブラックボックス」はそういう自分を描いた曲ですね。“1人になったときは、こんなこと考えてるよ”っていう。

──客観的に見ながらも自分の心の内を表せた曲?

トゥライ:考えてみたら、こうやってアルバムを作ったり、新しい活動をしていくこと自体、何が出てくるかわからないっていう意味でブラックボックスなんですよね。だから、ネガティヴなワードは出てくるけれど、自分でも想像しなかったものが出てくるんじゃないかっていう期待もあったりして。

──では2年半前に「パンドラ」を書いた頃は自分のアイデンティティについて悩んでいたけれど、今は肯定ができるようになったということでもありますか?

トゥライ:“自分はこうなんだ”って決めつけるんじゃなくて、見てみるまではわからないっていう。「ブラックボックス」では“箱の中身はきっとグロテスクさ”って歌っているんですが、それまではきっと中には汚いものがいっぱい詰まっているんだろうって思いこんでいた。でも、ホントは何が入っていたかわからないよね、っていう。

──アルバムにはVALSHEさんに提供した「ハルノハテ」やGeroさん、りぶさんに提供した楽曲も収録されていますが、新たに書き下ろした曲との違いは?

トゥライ:まず、書き下ろし曲は自分のことを歌った歌詞だというのと詞先で作ることが多かったです。今まではVALSHEの楽曲にしても曲を先に書いていたんですが、今回のアルバムに収録されている「全心麻酔」や「スプーンと波紋」、「もうひとりの僕へ」は詞を先に書きました。

──メッセージを伝えたいという想いが強かったから、そういう作り方になったんですか?

トゥライ:そうかもしれないですね。歌詞を全面に出したかったし、“こういうことを歌いたい”というのが自分の中に明確にあったので、詞に合うメロディーを考えようって。

──さっき、ネガティブな言葉が多いという話をしてくれましたが、収録曲の中でも、特に自分を赤裸々にさらけ出している曲は?

トゥライ:「全心麻酔」と「スプーンと波紋」ですかね。それこそ、さっき話した“いくつもある顔”の1つなんですけれど、「全心麻酔」はネットをずっと見ていると、こういう精神状態になるなぁという歌詞です。

──カオスな状態ですか?

トゥライ:例えばTVや週刊誌は嘘が多くて、ネットの中には真実があるって思っている人がけっこう多いと思うんです。でも、どっぷり浸かっていた人間からすると、ネットにもたくさんの嘘があるし、本当のこともいっぱい書いてある。情報量が多い分、ずーっと使っていると感覚が麻痺してくるんですよ。何が本当で何が嘘かわからない。いろいろなことも言われるし、何か言うと憶測や誤解も生まれる。

──炎上しちゃったりね。

トゥライ:ははは。そういうことを含めて文字だけのコミュニケーションの危うさがあるというか。感覚が麻痺して“嘘でも本当でもどっちでもいいよ”っていう気持ちにだんだんなっていくときの心境を書いた曲ですね。光か闇かと言ったら、思いきり闇の部分。ツールとしてのインターネットは好きなんですが、どっぷり浸かりすぎると酔っちゃうよっていう(笑)。

──では、「スプーンと波紋」のほうは?

トゥライ:この曲の歌詞も近しいんですが、何かひと言発したことによって、ワーッて波紋が広がるじゃないですか。例えば透明な水に黒い絵の具を一滴落とすと黒が広がるけれど、それは薄まったものであって、最初に落とした絵の具とは全然違うものになっていたりする。その恐怖を描いていますね。

──“「他人に良く見られたい」「外れ者になりたくない」「馬鹿にされるのはごめんだ」全部が僕の裏返し”という歌詞が印象的です。

トゥライ:きっと、裏を返せばこういうふうにみんな思ってるんじゃないかと感じたんですよね。自分も含めて。普段はこんなにストレートな言葉では書かないんですが、曲調的にもバラードでありながら激しさがあるので、叫ぶような感覚で歌っています。心の嘆きみたいな。

──これまで活動してきた中で生まれた気持ちの裏側まで描いているというか。

トゥライ:そうですね。こういうふうに思うときもあるって。

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