【ライブレポート】ゲスの極み乙女。は、今こんなにも時代を駆け抜けている
ゲスの極み乙女。が、アリーナツアー<ゲスチック乙女 ~アリーナ編~>を昨日10月14日(水)の横浜アリーナ公演をもって大盛況のうちに終えた。今回BARKSでは、このファイナル公演の詳細レポートをお届けしたい。
◆ゲスの極み乙女。横浜アリーナ公演ライブ画像
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ゲスの極み乙女。にとって初のアリーナツアーは、この横アリまでに、9月17日(木)の大阪・大阪城ホール公演、9月23日(水・祝)の北海道・北海きたえーる公演を巡ってきた。自分の目では観ていないのに、大阪も北海道も、きっとアリーナ公演に相応しいダイナミズムと、それとは相反する彼ら特有のシュールでユーモラスなアイデアに溢れていたんじゃないかと容易に想像できる、しっかりとゲスの現時点を着地させたファイナル公演であった。
それはひと言で言うと、息をつく暇もないライブだった。「盛り上がった」とか「感動した」とか「祝祭的だった」とかいうのとは少し違う。前述したように、ステージの世界観は相変わらずシュールだしユーモラスだし、そしてもちろんポップだったが、1万2千人の前で繰り広げたライブはもっと狂騒的な雰囲気のものだった。それはまるで、約3年半前に結成してからあっと言う間にポップシーンで快進撃を続けてきた彼らの月日がそのままステージに現れたようだったのだ。
オープニングは、このライブ当日にリリースされた両A面シングル「オトナチック/無垢な季節」より、「無垢な季節」。川谷絵音がハンドマイクを手にして発した歌声の、あまりに通りのいいこと。アリーナとライブハウスとは、実際に足を運ぶとサウンドも歌も響き方がまったく違って聴こえてくるものだが、彼らの最新作がアリーナという広がりのある空間を十二分に満たすものだということが一発で伝わってきた。彼らの今を初っ端から聴かせてくれた。
息をつく暇がなかったのは、純粋にバンドのアンサンブルにあまりにも圧倒されたからでもある。1つ1つが完全に隔離されクリアに聴こえてくるその音からは、本当に次から次へと刺激を食らう。タイトかつ超攻撃的なドラム、美しさが狂気めいて聴こえる鍵盤、見た目以上にどっしりとロウを支えるベース。その全てがどれも際立っているのだから、落ち着く暇などない。他のことを考えさせない、有無を言わせないこの感じは、ゲスのライブの真骨頂だ。バンドは、4曲目の「私以外私じゃないの」まで、一気に強烈にテクニックもギミックも歌も披露した。そしてである、突然の高音の「コポゥ!」……。あんまりスムーズには行かなかった(笑)、そんなちゃんMARIによるコポゥのコール&レスポンスや、ほな・いこかの女王様キャラをまずは最初のMCで軽く披露した。だが、4人は演奏の再開へと急いだ。
ライブ中盤、メンバーの着替えの時間には『HERO』のパロディ映像が流されたものの(メンバーがいろんなバージョンの“……あるよ?”をやってみるというもの)、この日のライブはかなり音楽そのものを聴かせることに集中したように思う。楽曲の演奏こそがゲスを集約しているし、一番の魅力だ。そんなメッセージを勝手に受け取らせてもらった。実際にライブ終演後、アリーナを出てから「すごい歌ってくれたね」と喜ぶファンの姿も目にしたのだ。そして、「まだまだ、いけますか?」と川谷がそっと語りかけ、ライブは「猟奇的なキスを私にして」で再開。女性のコーラスワークが切なさに拍車をかけるポップなナンバーだ。流麗なピアノが印象的に曲間を繋ぐと、「デジタルモグラ」「サイデンティティ」というシリアスな世界へ。川谷の切実な歌声の説得力と求心力が、異常に高いことを証明する2曲だ。私はゲスの歌詞から、そこはかとない悲しみややるせなさ、そして社会と相容れない自分の存在を描きながら、それをこうして公に歌うことでネガティビティを暴き出していくことの勇気を知る。そんなメッセージがよく届いた場面だった。だから、非常にプログレッシブな演奏の中、「ゲスゲス!」というコーラスが入り、いこかが「ゲスの4箇条」を唱え挙げるという全体的にアヴァンギャルドな楽曲「ホワイトワルツ」も、悪ふざけ的な感じよりエンターテイメント性をまとっているように思えた。
メンバーの着替え中、パロディ映像ののちに「無垢な季節」のミュージックビデオのフルバージョンの初解禁も行われていたのだが、大阪と北海道ではその代わりに違う企画映像が流れていたのだという。“金の亡者になった課長が除霊をされる”というその茶番は、ゲスのライブハウスのノリをそのままアリーナでも繰り広げたいが為でもあったようだが、前の2カ所では親子連れがヒイタらしい。だが、フェスならまだしも、ゲスのワンマンに家族連れが多くやってくるようになっているという事実、そして実際にこの日の横アリでも「ゲスのライブに初めてきた人~」という問いかけに割と多くの手が挙がっていたことは、ポップフィールドにおけるゲスの急速的な広まり方をそのまま物語っていた。
続くMCでは、ゲス結成当初のメンバーについての回想が。1年強ほど前までは会社勤めだった課長は身元がバレないように「ぶらっくパレート」のミュージックビデオではサングラスをかけるも、完全にバレていて会社の会議室であの、銃撃戦もしている映像がデカデカと流されたり、休日課長の実際の上司の課長に「お前、課長なんだって?」という鋭いひと言も浴びたという(でも実際の課長はとても理解のあるかただったそうです)。と、ライブハウスで行われるMCのように身近な雰囲気の中で、というか割とグタグタと思い出話をしていたが、「何が言いたいかというと、ここまで来たっていうことです」と川谷は言った。2014年4月のメジャーデビュー以降ゲスは、その強烈なバンド名を邦楽のバンドシーン発として最も世に広めながら、ポップな歌とアート性のある音楽という“中身”をいろんな場所でいろんな出し方で発信してきた。CMソングも映画のタイアップも、そのどれもが新しくて練り上げられた内容であり、同時にバンドの音楽歴における変化や進化をいつも汲み取ることができるのに、どこを取っても“ゲスの極み乙女。の表現”以外の何物でもなかった。彼らの音楽がこれほどハイスピードで届けられる日本の音楽シーンは、楽しいし希望があるなぁということも感じた。
いつもは「川谷さん」と呼ぶのにステージでは「えのぴょんさぁ~」とキャラのスチッチを入れるいこかの裏話など、ひと通りMCが続いた。「僕らのライブに毎回来てる人ならわかると思うけど、ライブハウスと変わらないでしょ? 最初は、アリーナだからMCもキメキメで、“見えてるよー!”とかやろうと思ったんだけど、どうもグタグタしちゃう。でも、それがゲスの極み乙女。なのかな?……って暗くなってきたから、「オトナチック」っていう曲やります」と、演奏は再びスタート。本編はあっと言う間にクライマックスを迎えていく。<大人じゃないからさ 無理をしてまで笑えなくてさ>という吐露が美しいメロディに乗り、そんな繊細な世界観を可憐な鍵盤とコーラスが助長させる。こちらの最新シングル曲も歌をじっくりと聴かせるナンバーだ。
観客の胸が高まりながらもジーンとしているその矢先、いこかの怒涛のドラムソロ。好戦的でドヤな表情も含め、魅せてくる。川谷の「横アリ行けるかー!」という煽りと共に、とてもサイケデリックな「Ink」へ。無力感と焦燥感と冷静さが入り交じるという感情のカオスが、そのまま音像の化け物を創りだしてしまったような、すさまじいプレイだった。そこから間髪入れずにドラミングが曲間を繋ぎ、「餅ガール」の上モノの高速リフが鳴り響いた。この曲が終わったあとの、課長といこかのセッションが非常に興味深くて。音でなら合う、という感じが二人からは醸し出されていたからだ(笑)。話し始めると全然噛み合わないのに、ベースとドラムでは絶妙なタイミングを計りながら嬉々として呼吸を合わせてセッションする二人。MCなどで見せるふたりの関係性が本音なのか、キャラの設定上のものなのか、真意はわからない。もし後者だとしても、相容れない人間同士でも音が鳴り出せばリスナーを熱狂させるアンサンブルを行ってしまう、という妙技までプロデュースしているこのバンドは、音楽的なエンターテイメント性に溢れ過ぎている。
それに続いた「アソビ」は、この曲の破壊力と情報量の多さって本当に凄いなぁと、笑っちゃうほど改めて感心した。得体の知れないリズムだし言葉なのに、こんなに誰もが問答無用に楽しいと感じる1曲は、本当にそうそう無い。これはゲスの歌に一貫していると思うが、Aメロはボーカルも高速で矢継ぎ早で、まるでバンドアンサンブルの一部のように聴こえる。そこからサビで一気にメロディが花開き、曲が歌モノに豹変する瞬間にリスナーの心を一層、掌握してしまう。本編ラストは、「キラーボール」だった。ジャズにある熱狂性みたいなものをギュッと抽出したハイブリットなプレイだった。
盛大なアンコールの拍手に招かれた4人が早速始めたのは、初披露の新曲。「オトナチック」「無垢な季節」の流れに沿うような、叙情的かつ広がりのある曲で、悲しげな恋が描かれているようだ。川谷といこかがまるで男女が会話しているように歌うという、演劇的もしくは昭和歌謡曲的な見せ場もあった。また、川谷はボーカルに専念し、ギターサウンドの鋭さはちゃんMARIのシンセが代弁するように激しく鳴っていた。切なさが美しさに繋がるという類の名曲だと思った。だが、さらにこの日の横アリ公演は、ゲスの極み乙女。というバンドが今までいかに猛スピードで駆け抜けてきたたかを伝えるものだったのだ。
アンコール2曲目「ノーマルアタマ」を演奏し終わり4人がステージから姿を消すと、会場のヴィジョンにはアンコールの演奏を終えたばかりの4人がLINEしているようなスマホの液晶が映った。「何かやり忘れたことがある」と発言する川谷。そして、「インディーズの曲やってなくない?」という会話ののちに始まったのが、1stミニアルバム『ドレスの脱ぎ方』の5曲をまるまる曲順通りに再現するというものだった。ここまでシーンを突っ走って進化してきたバンドが、記念すべき初のアリーナツアーのファイナル、そのダブルアンコールでやりたいと願ったのが、彼らのインディーズ時代の記録だ。いかに彼らの音楽がはじめから完成されていて、そしてその事実に対して自分達が自覚的だったかを、私は理解できた気がした。最初から、自分達の音楽を信じきっていたからこそ、ミュージックビデオでマシンガンをぶっ放したり、メンバーにキャラクター設定をするという遊びや演出を楽しみながら凝ることができたのだろう。
アルバムの曲順通りに「ぶらっくパレード」の緻密なアンサンブルがダブルアンコールの口火を切ると、4人の磨かれた力は次々と確実な名演を見せていった。何度も聴いている曲なのに、4人による生々しいグルーヴは何度でも発見と興奮を与えてくれた。「どう、なんか新鮮じゃない?」と川谷は語り、「モニエは悲しむ」は前回いつ演ったかわからないくらいらしい。「ゲスの極み」に至っては、この日初めてライブで演奏されたのだが、「最後、怖いじゃん? “もっと気持ち悪いこと考えてるくせにさー”なんて、アリーナでやる曲じゃない(笑)。けど、ここでやれてよかった」と話した。
『ドレスの脱ぎ方』で一番人気があるという「momoe」は(本当に名曲!)、川谷が大好きだと公言し、2月に京都磔磔でも共演している京都のインストバンドNabowaの景山奏がギターとして加わった。ちなみに景山は、ゲスの未発表の新曲のレコーディングにも参加しているということ。「momoe」は、川谷のメロディーメイカーとしての素質に間違いのないことを証明する1曲だ。思いつめた感情を表現するようなカッティングエッジなギターや、流涙そのものに聴こえる水滴が垂れる音のような鍵盤も、溜息が出るほどに美しく、切なさという感情にある言葉にならない美しさを描き切っていた。
そして、これが本当に最後だ。「ドレスを脱げ」が始まった。課長がオーディエンスと共にコール&レスポンスをひとしきり楽しむと、約2時間半にわたる圧巻のショウを締めるのに相応しい大団円が繰り広げられた。彼らは「また来年、武道館で会いましょう」と、2016年3月に行われる武道館2daysでの再会を誓い、さらに終演後に流れた映像では、この日の4日後に千葉LOOKというキャパ200のハコのイベントに出演することも突然発表した。
常に大胆かつ冷静に、自分達の冴えたアイデアをしっかりと形にしてきたゲスの極み乙女。は、一体これからどこまで進んでいくんだろう? 彼らのことはいつも追っていたい。そんな破格の存在感を確かめさせた、勢いと創造性をパッケージングしたライブだった。ゲスは凄いや。
◆ ◆ ◆
Text by RYOKO SAKAI
Photo by 橋本塁(SOUND SHOOTER)
ゲスの極み乙女。ワンマンTOUR<ゲスチック乙女~アリーナ編~>
2015.10.14.(WED) @横浜アリーナ
[SET LIST]
M1.無垢な季節
M2.星降る夜に花束を
M3.パラレルスペック(funky ver.)
M4.私以外私じゃないの
M5.ロマンスがありあまる
M6.だけど僕は
M7.スレッドダンス
M8.猟奇的なキスを私にして
M9.デジタルモグラ
M10.サイデンティティ
M11.ホワイトワルツ
M12.オトナチック
M13.Ink
M14.餅ガール
M15.アソビ
M16.キラーボール
EN1.新曲(タイトルなし)
EN2.ノーマルアタマ
DEN1.ぶらっくパレード
DEN2.モニエは悲しむ
DEN3.ゲスの極み
DEN4.momoe
DEN5.ドレスを脱げ
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