【ライブレポート】ソルスターフィア&アナセマ、初の日本上陸
英国モダン・プログレッシヴ・ロックの旗手アナセマと、アイスランド語の歌詞をフィーチュアしたポスト・メタルの雄ソルスターフィアが2015年8月31日・9月1日、東京・恵比寿LIQUID ROOMで来日公演を行った。『伊藤政則のロックTV!プレゼンツ ROCK OF CHAOS Vol.2』として行われた両バンドのライヴは、共に初の日本上陸だ。デビュー20年を超えるベテランで、熱狂的なファンを擁するアナセマが名盤『ディスタント・サテライツ』を引っ提げて待望の初来日、しかも最新作『オウッタ』がジワジワと支持を得ているソルスターフィアを帯同という公演は発表から話題を呼び、会場の指定席チケットは2日ともソールド・アウトとなった。
▲ソルスターフィア
「ソルスターフィアの音楽は、アイスランドの大自然から影響されている」…アザルビョールン・トリッグヴァソン(Vo、G)はそう語る。彼らのサウンドのアンビエンスは、北大西洋に浮かぶ島国アイスランドの寒々しい空と広大な大地を彷彿とさせる深みをたたえたものだ。
同時に、アイスランドの自然には火山の噴火や地震、台風級の吹雪など、激しさにあふれる側面もある。そんな“深み”と“激しさ”を両輪に、バンドは緩急をつけながら観衆を悠久の大地へといざなっていく。
ヨーロッパ・ツアーではmono(日本)とジ・オーシャン(ドイツ)をサポートにしてヘッドライナー・ツアーを行うなど、確固たる人気を誇るソルスターフィアゆえ、「バンドを結成したときの目標のひとつ」だったという日本での初ステージであっても、決してよそ行き仕様とはならない。初日のライヴの1曲目を飾ったのは日本未発売の前作『Svartir Sandar』からのタイトル・トラックだった。この曲は10分を超えるロング・ヴァージョンで演奏され、ドラマチックかつプログレッシヴな躍動感が、『オウッタ』で彼らを知った観客のハートをも捉えている。
▲ソルスターフィア
今回の来日でわかったのは、ソルスターフィアというバンドのアイデンティティのひとつとして、マカロニ・ウェスタン映画への傾倒があることだ。それは彼らのファッションにも表れているし、メンバー達とオフステージで会話していると、しばしばマカロニの巨匠セルジオ・レオーネの名前が出てくる。「オウッタ」ではサイソア・マリウス・サイソアソン(G)がバンジョーの腕前を披露、アイスランディック・ウェスタンとでも形容できそうなスタイルを生み出していた。
40分足らずのショータイムで初日は4曲、2日目は5曲という短めのセットだったが(2日目は「Svartir Sandar」の代わりに『オウッタ』からの「ダーグマウル」「ラウーグナイッチ」が演奏された)、ソルスターフィアのハードにロックしながら幽玄ですらあるサウンドは日本の観衆に鮮烈なインパクトを与えた。
バンドの演奏もレベルの高いもので、ベーシストのスヴァーバル・オイストマンとツアー・ドラマーのハリグリムル・ハルグリムスンによるリズム・セクションも、絶妙なドライヴ感をもたらしていた。
ラストに演奏された「Goddess Of The Ages」は2009年の『Kold』からの楽曲だ。英語による歌詞の、いわば過渡期のナンバーだが、10分以上にわたり寄せては返す劇的な大曲は言語の壁を越える迫力を持っていた。
一方、アナセマのヴィンセント・カヴァナー(Vo)は日本初ライヴについて「アナセマのモダンな側面を表現した」と語っている。
アナセマはさまざまな表情を持ったバンドだ。1992年にドゥーム/デス・メタル・バンドとしてデビューした彼らは耽美的ゴシック・メタルを経てプログレッシヴ、アンビエント、シューゲイザーにも通じる世界観を構築してきた。近年ではアコースティック・ライヴや歴代の楽曲をプレイする“レゾナンス・ツアー”、教会や大聖堂でのスペシャル構成のステージなど、異なった形式でのライヴを行ってきた彼らだが、初めての日本公演では最新作『ディスタント・サテライツ』のアプローチと同様の、現在のバンドのありのままの姿をさらけ出してきた。
薄暗いステージにメンバー達が上がり、徐々にライトが明るくなっていく中、湖中から浮き上がるように「アナセマ」のイントロが奏でられ、ヴィンセントが歌い始める。
『ディスタント・サテライツ』が日本で高評価を得ていたとはいえ、初めてのステージでどんな反応が返ってくるか、バンド自身もナーヴァスになっていたという。だが、「アナセマ」の後半の昂ぶりと共に場内が熱気を帯びていき、エンディングと共に噴き出すような声援と拍手が送られる。世界中で観衆の大きなレスポンスに慣れているメンバー達だが、曲中は席に座ってじっくり聴き入っていたお客さん達の盛り上がりに、安堵したかのような笑みを見せた。
▲アナセマ
現在カヴァナー3兄弟を擁するアナセマ。長兄のダニエル(G)、ジェイミー(B)とヴィンセントの双子(ヴィンセントが18分遅く生まれたため、戸籍上は弟となるそうだ)がそれぞれ異なった個性を持ったミュージシャンだ。
ダニエルはハードなリフとセンチメンタルなリード・ギターを弾くかたわらでリーダーの自覚によるものか、観客に話しかけ、煽り立てるなど、盛り上げる役割も担っている。ニルヴァーナのカットTシャツというロック野郎なヴィジュアルは“モダン・プログレッシヴ・ロック”の洗練とは一線を画するものだが、「プログレなんて大嫌い」と語る彼ゆえ、ある程度意識したものかも知れない。
バンドにいなかった時期があることもあり、一歩引いた形で寡黙にベースを弾くジェイミー、全身からエモーションを振り絞るようなヴォーカルを聴かせるヴィンセントと、まさに三者三様のトライアングルを成している。
そしてもう1人、現在のアナセマで欠くことの出来ない存在が女声ヴォーカリストのリー・ダグラスだ。続いて演奏された「アンタッチャブルPart 1」「Part 2」では彼女とヴィンセントのヴォーカルが陰翳の美学を生み出す。この2曲は日本盤がリリースされなかった『Weather Systems』からのナンバーだが、イントロのアルペジオが鳴り響くと同時に、大きな歓声が起こった。自分たちの音楽が日本のオーディエンスを掌中に収めたことを悟ったダニエルは、彼らに立ち上がることを要求。次の瞬間、場内はオールスタンディングとなった。
前々作『We’re Here Because We’re Here』からの「Thin Air」に続いて、今回のライヴの“核”といえるであろう、新作からの「ザ・ロスト・ソング」がPart 1からPart 3まで一挙プレイされる。15分を超えるライヴ・テイクは、ハードなエッジと憂いのあるメロディが、シンセとプログラミングを取り入れた厚みのあるサウンドと相乗効果を成し、スタジオ・ヴァージョン以上の高揚感をもたらしていた。
ライヴ本編の終盤、「Universal」で場内を暗転、観衆が携帯電話のライトを左右に振る趣向も、幻想的な効果を出していた。そしてヴィンセントがヴォコーダーを通じて語りかける「Closer」で、バンドはいったんステージを後にした。
▲アナセマ
アンコールは「ファイアーライト」の長いイントロから、「ディスタント・サテライツ」へと繋がっていく。アナセマ史上で最もエレクトロニカに接近したこの曲は、ジャンルとしての“プログレッシヴ”でなく、“革新的、進歩的”という本来の意味でのプログレッシヴ・ミュージックだ。日本のファンも彼らの意図を理解しており、大きな声援で迎えられた。
再びリーを前面にフィーチュアした「A Natural Disaster」に続いて、真のラストは1998年の『オルタナティヴ4』からの「フラジャイル・ドリームス」となった。長くファンから愛されてきた曲で、今やアンコールの定番であるこの曲は、クライマックスに相応しい熱気あふれる演奏が日本のファンに贈られた。
なお2日目のライヴでは一部演奏曲目を差し替えて、「エーリエル」や「Lightning Song」も披露。1999年の『Judgement』からの「Deep」にはひときわ大きな歓声が送られた。
一種の宗教体験にも似た荘厳なエクスペリエンスから一転、リヴァプール出身の同郷バンドであるビートルズの「ツイスト・アンド・シャウト」が流れ、ショーは終わりを告げた。
アナセマの抒情的なプログレッシヴ・サウンドは日本のファンの全身に染みこんでいき、バンド・観衆を含め、彼らが再び日本を訪れることに疑問を抱く者は、場内にはいなかった。帰途につくファンは口々に、今回のライヴの素晴らしさと、次回どのような形式で来日公演が行われるかを語っていた。
両バンドとも初の来日公演ということもあり、演奏・パフォーマンスともに非常に力の入ったステージとなった。そんな彼らがステージの合間にバンドのことや今後の活動に関して熱く語ってくれた。次回はそれぞれのインタビューを紹介したい。
取材・文:山崎 智之
Photo by Mikio Ariga
ソルスターフィア最新アルバム『オウッタ』
【通販限定CD+Tシャツ】4,000円+税
【CD】2,300円+税
http://wardrecords.com/SHOP/WRDZZ124.html
アナセマ最新ライヴ映像作品『ア・ソート・オブ・ホームカミング』
【初回生産限定盤DVD+2CD】6,000円+税
【Blu-ray】5,000円+税
【DVD】4,000円+税
http://wardrecords.com/SHOP/GQBS90074_6.html
アナセマ最新アルバム『ディスタント・サテライツ』
【初回生産限定盤CD+Blu-ray(オーディオのみ)】3,800円+税
【CD】2,400円+税
http://wardrecords.com/SHOP/VQCD10374.html
▲ソルスターフィア
「ソルスターフィアの音楽は、アイスランドの大自然から影響されている」…アザルビョールン・トリッグヴァソン(Vo、G)はそう語る。彼らのサウンドのアンビエンスは、北大西洋に浮かぶ島国アイスランドの寒々しい空と広大な大地を彷彿とさせる深みをたたえたものだ。
同時に、アイスランドの自然には火山の噴火や地震、台風級の吹雪など、激しさにあふれる側面もある。そんな“深み”と“激しさ”を両輪に、バンドは緩急をつけながら観衆を悠久の大地へといざなっていく。
ヨーロッパ・ツアーではmono(日本)とジ・オーシャン(ドイツ)をサポートにしてヘッドライナー・ツアーを行うなど、確固たる人気を誇るソルスターフィアゆえ、「バンドを結成したときの目標のひとつ」だったという日本での初ステージであっても、決してよそ行き仕様とはならない。初日のライヴの1曲目を飾ったのは日本未発売の前作『Svartir Sandar』からのタイトル・トラックだった。この曲は10分を超えるロング・ヴァージョンで演奏され、ドラマチックかつプログレッシヴな躍動感が、『オウッタ』で彼らを知った観客のハートをも捉えている。
▲ソルスターフィア
今回の来日でわかったのは、ソルスターフィアというバンドのアイデンティティのひとつとして、マカロニ・ウェスタン映画への傾倒があることだ。それは彼らのファッションにも表れているし、メンバー達とオフステージで会話していると、しばしばマカロニの巨匠セルジオ・レオーネの名前が出てくる。「オウッタ」ではサイソア・マリウス・サイソアソン(G)がバンジョーの腕前を披露、アイスランディック・ウェスタンとでも形容できそうなスタイルを生み出していた。
40分足らずのショータイムで初日は4曲、2日目は5曲という短めのセットだったが(2日目は「Svartir Sandar」の代わりに『オウッタ』からの「ダーグマウル」「ラウーグナイッチ」が演奏された)、ソルスターフィアのハードにロックしながら幽玄ですらあるサウンドは日本の観衆に鮮烈なインパクトを与えた。
バンドの演奏もレベルの高いもので、ベーシストのスヴァーバル・オイストマンとツアー・ドラマーのハリグリムル・ハルグリムスンによるリズム・セクションも、絶妙なドライヴ感をもたらしていた。
ラストに演奏された「Goddess Of The Ages」は2009年の『Kold』からの楽曲だ。英語による歌詞の、いわば過渡期のナンバーだが、10分以上にわたり寄せては返す劇的な大曲は言語の壁を越える迫力を持っていた。
一方、アナセマのヴィンセント・カヴァナー(Vo)は日本初ライヴについて「アナセマのモダンな側面を表現した」と語っている。
アナセマはさまざまな表情を持ったバンドだ。1992年にドゥーム/デス・メタル・バンドとしてデビューした彼らは耽美的ゴシック・メタルを経てプログレッシヴ、アンビエント、シューゲイザーにも通じる世界観を構築してきた。近年ではアコースティック・ライヴや歴代の楽曲をプレイする“レゾナンス・ツアー”、教会や大聖堂でのスペシャル構成のステージなど、異なった形式でのライヴを行ってきた彼らだが、初めての日本公演では最新作『ディスタント・サテライツ』のアプローチと同様の、現在のバンドのありのままの姿をさらけ出してきた。
薄暗いステージにメンバー達が上がり、徐々にライトが明るくなっていく中、湖中から浮き上がるように「アナセマ」のイントロが奏でられ、ヴィンセントが歌い始める。
『ディスタント・サテライツ』が日本で高評価を得ていたとはいえ、初めてのステージでどんな反応が返ってくるか、バンド自身もナーヴァスになっていたという。だが、「アナセマ」の後半の昂ぶりと共に場内が熱気を帯びていき、エンディングと共に噴き出すような声援と拍手が送られる。世界中で観衆の大きなレスポンスに慣れているメンバー達だが、曲中は席に座ってじっくり聴き入っていたお客さん達の盛り上がりに、安堵したかのような笑みを見せた。
▲アナセマ
現在カヴァナー3兄弟を擁するアナセマ。長兄のダニエル(G)、ジェイミー(B)とヴィンセントの双子(ヴィンセントが18分遅く生まれたため、戸籍上は弟となるそうだ)がそれぞれ異なった個性を持ったミュージシャンだ。
ダニエルはハードなリフとセンチメンタルなリード・ギターを弾くかたわらでリーダーの自覚によるものか、観客に話しかけ、煽り立てるなど、盛り上げる役割も担っている。ニルヴァーナのカットTシャツというロック野郎なヴィジュアルは“モダン・プログレッシヴ・ロック”の洗練とは一線を画するものだが、「プログレなんて大嫌い」と語る彼ゆえ、ある程度意識したものかも知れない。
バンドにいなかった時期があることもあり、一歩引いた形で寡黙にベースを弾くジェイミー、全身からエモーションを振り絞るようなヴォーカルを聴かせるヴィンセントと、まさに三者三様のトライアングルを成している。
そしてもう1人、現在のアナセマで欠くことの出来ない存在が女声ヴォーカリストのリー・ダグラスだ。続いて演奏された「アンタッチャブルPart 1」「Part 2」では彼女とヴィンセントのヴォーカルが陰翳の美学を生み出す。この2曲は日本盤がリリースされなかった『Weather Systems』からのナンバーだが、イントロのアルペジオが鳴り響くと同時に、大きな歓声が起こった。自分たちの音楽が日本のオーディエンスを掌中に収めたことを悟ったダニエルは、彼らに立ち上がることを要求。次の瞬間、場内はオールスタンディングとなった。
前々作『We’re Here Because We’re Here』からの「Thin Air」に続いて、今回のライヴの“核”といえるであろう、新作からの「ザ・ロスト・ソング」がPart 1からPart 3まで一挙プレイされる。15分を超えるライヴ・テイクは、ハードなエッジと憂いのあるメロディが、シンセとプログラミングを取り入れた厚みのあるサウンドと相乗効果を成し、スタジオ・ヴァージョン以上の高揚感をもたらしていた。
ライヴ本編の終盤、「Universal」で場内を暗転、観衆が携帯電話のライトを左右に振る趣向も、幻想的な効果を出していた。そしてヴィンセントがヴォコーダーを通じて語りかける「Closer」で、バンドはいったんステージを後にした。
▲アナセマ
アンコールは「ファイアーライト」の長いイントロから、「ディスタント・サテライツ」へと繋がっていく。アナセマ史上で最もエレクトロニカに接近したこの曲は、ジャンルとしての“プログレッシヴ”でなく、“革新的、進歩的”という本来の意味でのプログレッシヴ・ミュージックだ。日本のファンも彼らの意図を理解しており、大きな声援で迎えられた。
再びリーを前面にフィーチュアした「A Natural Disaster」に続いて、真のラストは1998年の『オルタナティヴ4』からの「フラジャイル・ドリームス」となった。長くファンから愛されてきた曲で、今やアンコールの定番であるこの曲は、クライマックスに相応しい熱気あふれる演奏が日本のファンに贈られた。
なお2日目のライヴでは一部演奏曲目を差し替えて、「エーリエル」や「Lightning Song」も披露。1999年の『Judgement』からの「Deep」にはひときわ大きな歓声が送られた。
一種の宗教体験にも似た荘厳なエクスペリエンスから一転、リヴァプール出身の同郷バンドであるビートルズの「ツイスト・アンド・シャウト」が流れ、ショーは終わりを告げた。
アナセマの抒情的なプログレッシヴ・サウンドは日本のファンの全身に染みこんでいき、バンド・観衆を含め、彼らが再び日本を訪れることに疑問を抱く者は、場内にはいなかった。帰途につくファンは口々に、今回のライヴの素晴らしさと、次回どのような形式で来日公演が行われるかを語っていた。
両バンドとも初の来日公演ということもあり、演奏・パフォーマンスともに非常に力の入ったステージとなった。そんな彼らがステージの合間にバンドのことや今後の活動に関して熱く語ってくれた。次回はそれぞれのインタビューを紹介したい。
取材・文:山崎 智之
Photo by Mikio Ariga
ソルスターフィア最新アルバム『オウッタ』
【通販限定CD+Tシャツ】4,000円+税
【CD】2,300円+税
http://wardrecords.com/SHOP/WRDZZ124.html
アナセマ最新ライヴ映像作品『ア・ソート・オブ・ホームカミング』
【初回生産限定盤DVD+2CD】6,000円+税
【Blu-ray】5,000円+税
【DVD】4,000円+税
http://wardrecords.com/SHOP/GQBS90074_6.html
アナセマ最新アルバム『ディスタント・サテライツ』
【初回生産限定盤CD+Blu-ray(オーディオのみ)】3,800円+税
【CD】2,400円+税
http://wardrecords.com/SHOP/VQCD10374.html