【インタビュー】沖ちづる、ライブ作品発表「“わたしのこえ”を“みんなのうた”に」

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沖ちづるが8月19日、初のフルアルバム『わたしのこえ』をリリースした。2014年から本格的に音楽活動をスタートした彼女の同作は、2015年2月のシングル「光」、同年6月のミニアルバム「景色」に続くものであり、2015年5月10日の北沢タウンホール公演を収録したライブ音源だ。また9月19日には、同公演を収録した初の映像作品『わたしのこえ』も発売となる。

◆沖ちづる 画像

この一年は、自分の声と自分のギターで自分の射程距離をひたむきに歌い続けてきた。5月10日に行われたライブを収録したこの2作品は、彼女の現在位置を、そのステージの空気感とともに収録しようという試みである。“わたしのこえ”を“みんなのうた”に。19歳のシンガーソングライターの現在位置と葛藤に迫る。

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■演出で大きなことをしていなくても
■その歌が持っている力で動いていくものがある

──1stアルバムをライブ音源にしようというアイデアには、最初はどんな印象を持ちましたか?

沖:活動をスタートしたばかりの今の自分、19歳の私が初めてのアルバムで記録されるっていうのは面白いな、とすぐに思いましたね。スタジオ録音でできるような音で重ねていくこと、足し算していくようなことがライブアルバムとなるとできないじゃないですか。そういうプラスの要素がない私が記録されるっていうことに対して、怖さよりは、面白く感じるほうが勝っていましたね。

──当然ですが、普段のライブとは少し違った心境になりますよね。

沖:ライブは本当に生なので、その場でお客さんに聴いてもらったもの、記憶してもらったものは、そこにいなかったお客さんには共有してもらうことはできないじゃないですか。でもCDは、その場にいなかった方がライブの臨場感を味わいながら聴く、そういう作品だと思いますので、生で聴くことが出来なかった方にいかに生っぽく聴かせるか、そこは考えて制作を進めました。今回はその後の編集作業もあったので『こういうライブだったんだ』とか、『空気感がダイレクトに伝わってくるものがあるな』とか、いつも以上に感じたのはありますね。他のライブよりは残っているイメージが色濃いというか。どういう絵を映像に残すべきか、などスタッフの方と一緒に悩みながら作ったこともあり、何回も見直したので。

──録音が決まっていたライブですが、ステージには平常心で挑めましたか?

沖:実は、このライブの4週間ぐらい前に喉を痛めてしまって……、声が出ない状態が一週間ぐらい続いたんですよ。キャンセルしてしまったライブもあったし、このライブの一週間前に大阪で時間が短いライブをしたんですが、駄目だったら5月10日のライブをキャンセルするような話もあって。だから収録することに対する緊張というよりは、自分に戻ってきた声というのを自分でも最大限に味わいたい、自分の声でその日を楽しみたいという気持ちが強かったんです。歌うっていうことがより大切なことに感じられるというか、いつも以上に貴重なものだという感覚になっていました。

──結果的に、記録として残すのには適したタイミングになったんですね。

沖:あのタイミングだったからこそいいライブにもなったし、自分のなかの心持ちとして素直に歌を楽しむんだというスタンス、気持ちが作れたと思います。別に狙って自然体を意識してやったわけではなかったので、喉を痛めて、歌を歌うことの貴重さを感じてのライブが、たまたま録音されたみたいな感じです。だから自分自身にとっても、よりいい作品に感じているのは確かですね。もちろん、声が全く出なかったときは本当に不安でしたけど……、「黙っているしかないね」とお医者さんに言われてたので(笑)。

──出来上がったものを聴いて、ご自身ではどんな感想を持ちましたか?

沖:やっぱり面白いなというか。もちろんレコーディングスタジオで録る音源もいいんですけど、それとはまた全然違う場所にあるというか。修正が効かないものなので、自分で綺麗に絵を書いてパッケージングしてというよりは、そのままの自分。“わたし”っていう部分が、より濃く出ているっていうか。レコーディングでは出ない自分の芯みたいなものが、ライブ音源、映像ということでより出ているんじゃないかなと思います。

──“自分の芯みたいな”部分について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?

沖:5月10日のライブは、照明とかもすごくシンプルな感じで、大きな展開とかではなくゆったりとした演出の仕方でした。セットも椅子とギターがあるだけですごくシンプルだったんですけど、だからこそ、歌の変化みたいなものが見えやすいというか。演出で大きなことをしていなくても、その歌が持っている力で動いていくものがあるんだなというのは、音源や映像を見ても感じてもらえると思います。その日は歌を歌うっていうことにすべて委ねていたからこそ、音源や映像で振り返った時に歌が強く見えるというか。歌が持つものが、その場の空気を動かしてくれていることを感じられやすくなっていると思います。

──会場の空気感みたいなものは、実際に感じ取りながら演奏していたんですか?

沖:けっこうビビリなので(笑)。ライブの空気感はわりと感じる方なので、その場の雰囲気で歌は変わってきますね。単純にのどかな高原のなかだったら声が広がっていくように歌えるし、逆に緊張感のあるライブハウスでは出方が違いますよね。場所や心境によって詩も強く歌う部分は違ったりしますので、そういうものを聴き手の方が感じてくれているなら嬉しいですね。レコーディングは自分が試行錯誤した結果が見せられるので、委ねるというよりは、自分で行く先を狙いながら考えて作ることの方が多いので。それとは違うなと思います。

──本作は、2部構成だったライブから選曲した内容となっていますが、どんなポイントで選曲を行いましたか?

沖:5月10日には居なかった人、それ以降に私を知ってくれる人にも届けたい作品というのもあったので、伝わりやすさというか、聴きやすさというか、こういう空気感を持っているアーティストなんだと、伝わるような流れにしたいなと思いました。今の私の武器や強い部分って、ライブで出す空気感だと思っているんですよ。特に声の張り方なんかが、始めから終わりまでで変化していく様は、絶対にライブアルバムじゃないと出ないと思うんですよね。その時々の感情で、声だったりギターだったりが変化していく。そこから感じる空気感みたいなもの、今の自分の強みと感じている部分を収めるには、今回選んだ楽曲だったと思います。

──ひとりでのパフォーマンスや選ばれた楽曲も含めて、これまでの活動の区切りのように感じました。

沖:偶然なのか、必然なのかはわからないですけど、節目を感じるライブにはなったと思います。5月10日が終わってから、一本一本のライブの向き合い方が変わったなというのは、自分でもすごく感じてて。これからどうやっていくべきなのかということを、ライブが終わってすごく考えました。これからの自分というものが見えるきっかけになったので、それが音と映像になったのは嬉しいことですね

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