【イベントレポート】上妻宏光、市川猿之助や由紀さおりらと強力な異種コラボ
三味線プレイヤーの上妻宏光が、国内のトップアーティストを集結させたイベント<日本流伝心祭 クサビ 其ノ四 -伝統と革新->を8月29日(土)に渋谷公会堂にて開催した。今回BARKSでは、そのオフィシャルレポートをお届けしたい。
◆<日本流伝心祭 クサビ 其ノ四 -伝統と革新->画像
ソロデビュー15周年を迎え、伝統的な津軽三味線をベースに、ジャンルを超えたセッションを重ね進化を続ける上妻宏光。「日本の文化や風土に立脚しながら、世界に通じる新しい価値観を発信したい。」という上妻の想いに賛同したアーティストを集め、2011年に立ちあがった「クサビ」は、開催4回目を数える今年も、例年に劣らない豪華なラインナップを揃え、満員御礼の公演となった。
公演は静寂を打ち破るかのように上妻宏光と歌舞伎囃子方・田中傳次郎の二人による「大蛇」(おろち)にて開演した。この曲は昨年2014年、市川海老蔵氏の自主公演<ABKAI 2014>のために上妻が書き下ろした楽曲だ。会場中が三味線と小鼓のコラボに惹きこまれたという。
その後、和装に着替えて登場した上妻は、フラメンコギタリスト・沖 仁とのジャンルを越えたコラボによる「卯月花嵐」(うげつはなあらし)を披露。東西の撥弦楽器が出会い、それぞれの違いと共通性を浮き彫りにし、ぶつかり合うさまは圧巻だ。
さらに、真っ赤なきらびやかなドレスに身を包んだ由紀さおりがステージへ。上妻との交流について由紀さおりは、「もともとラジオで上妻さんのアルバムを紹介してからお友達になりました。このあと登場する猿之助さんのプロデュース公演でコンサートを行った際に猿之助さんに三味線で一緒に歌わせて欲しいという希望をかなえていただいたのが縁で、以前に共演もしました。」と語る。そして、ピンク・マルティーニがコラボし大きな話題となった2011年発売のアルバム『1969』収録の「マシュ・ケ・ナダ」を披露。続いて上妻の最新アルバム『伝統と革新-起-』にボーナストラックとして収録されている美空ひばりのカバー「リンゴ追分」を披露した。昭和が誇る大歌手へのリスペクトを感じさせながらも、上妻の勢いのある三味線の音色と由紀の透明感のあるボーカルにより、まさに伝統と革新のふたつの要素が封じ込まれた「りんご追分」に、会場一体が惹きこまれた。
和太鼓の第一人者、林英哲と、上妻、沖仁のトリオによる「YOSARE」は、豪放な和太鼓のリズムと、三味線、フラメンコギターによるまさに異種格闘技のセッションで、筋書き無しの一本勝負の様相を呈した熱いステージに観客の熱は最高潮に達した。
そんな中、いよいよ後半のクライマックスに差し掛かったところで市川猿之助が登場。歌舞伎の演目「春興鏡獅子」にインスパイアされて制作された上妻の楽曲「荒獅子」を、市川猿之助の“獅子の舞”と共に披露するコラボレーションを行なった。獅子の姿に身を包んだ猿之助が登場すると会場は沸きに沸き、その後は上妻、そして林英哲の和太鼓、さらに、田中傳次郎率いる囃子方による、圧倒的な熱を帯びた演奏が繰り広げられ、猿之助のパフォーマンスと一体化。上妻がプロデュースする「クサビ」の本質がここで最高のかたちで提示されることとなった。
日本の文化、「和」を世界に発信するために今できることとは、一体なんであろうか。きっとそれは、伝統に根ざしながら、新たなカルチャーやジャンルを取り入れ飲み込む蛮勇を持ちつつ、聴衆を自然と熱狂させるエンターテイメント性も忘れない、ということでもあろう。今回の公演は、そんな離れ業をオーガナイズする上妻の発信力を、まざまざと見せつけた一夜となったのである。
COCQ-85261 3,000円+税/
1.越天楽(えてんらく)弦奏曲
2.獅子の風 尺八:藤原道山
3.六本の伎 *六本木歌舞伎『地球投五郎宇宙荒事』(2015年)
4.津軽おはら節
5.風 2015ver. 謡:山井綱雄
6.大蛇(おろち)~ABKAI~ ※市川海老蔵 第二回 自主公演
「ABKAI 2014」新作舞踊劇『SOU~創~』(2014年)
7.津軽じょんから節
8.荒獅子 鼓:亀井広忠、田中傳次郎
9.解脱(げだつ) ※初春花形歌舞伎『通し狂言 壽三升景清』(2014年)
10.津軽よされ節
11.<ボーナストラック> リンゴ追分 ヴォーカル:由紀さおり
由紀さおり(歌手)/藤原道山(尺八演奏家)
亀井広忠(葛野流能楽師大鼓方)・田中傳(でん)次郎(じろう)(歌舞伎囃子方)/山井綱(つな)雄(お)(金春流能楽師)
杵屋勝(かつ)松(まつ)・杵屋勝(かつ)国(くに)悠(はる)(長唄三味線方)/望月太(た)喜(き)之(の)助(すけ)(歌舞伎囃子笛方)
◆上妻宏光 オフィシャルサイト
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