【潜入レポ】中田裕二、初のニコ生は至福の歌と気さくなトーク。
続いてVTR明けには、EPの他の収録曲「en nui」「ROUNDABOUT」「イニシアチブ (Live at Billboard Live TOKYO, 17th April 2015)」について、相越が訊ねていった。その間もずっと、ふたりの息は合ってるのか合ってないのかわからない(笑)。どちらも熊本出身ということで、「本当に熊本の女は面倒くさい……」と中田が小声で毒づきながらも、相越により番組は軽快に進行。会場のファンからの質問コーナーは、一層フランクな空気に包まれた。中田のライブにまだ足を運んだことがなくステージ上のMCの雰囲気を知らなかった人も、作品上のスマートなイメージとはまた違った新しい一面を垣間見ただろう。
そしてお待ちかね、いよいよ生ライブへと移った。1曲目の「en nui」が始まると途端に繊細な音楽世界が会場に広がり、驚いた。“あの街”を回想する心の声、もう叶わない愛しさが、歌声の細かいニュアンスと共に切実に届いてくる。こういった心が痛むほどに強いメランコリーは、中田の歌の大きな持ち味だ。「STONEFLOWER」の演奏では、これぞ中田裕二流のアーバンソウルとでも言おうか、スピーディーなリズムにあるスリルと気だるい歌声の色気のマッチングが最高である。続く南佳孝の「モンロー・ウォーク」のカバーは、まさに薫り立つような名演だった。この曲はいかにも昭和のポップスの表情を持っていて、たとえば「気を持たせてウィンク」といったロマンチックで表現の“濃い”歌詞でも、中田が美しく歌い上げて曲の世界へと誘うと、不思議なことになんの気恥ずかしさも感じなくなる。というか、名曲の魅力にどっぷりと浸ることができる。昭和のポップスに対する中田からのリスペクトと、歌い手としての中田の魅力が見事に輝いていた。
本人は「着物で歌うのって不思議な感じです(笑)」と話していたが、その後に続いたオリジナル曲「誘惑」まで、会場のファンはもちろん、カメラ越しで観ていたたくさんの人が中田の歌に魅了され続けたはずだ。中田裕二の歌声、作品、佇まいにある求心力は本当に高く、一瞬で人を引き込む。実際に『水曜歌謡祭』でも2曲の出演で、それまで中田に馴染みのなかった人々に「気になる」と思わせるものだ。だから、歌い出すと中田の存在はなんだか急に遠くなる。それは全く悪い意味ではなくて、人々が憧れたり夢見たりする存在であった頃のミュージシャン像を、彼が継承しているからなのだと思っている。艶が出るまで磨き上げられた丁寧で上質な演奏を目の当たりにして、これからも、こうやって味わい深い音楽を届けて欲しいと改めて感じたのであった。
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