【インタビュー】葉加瀬太郎、「<情熱大陸フェス>はピクニックであると同時にお祭りである」
■何年か前に、フミヤさんに言われたんですよ
■「こんな最高にダサくて、最高にカッコいいフェスは他にないよ」って(笑)
──そういう意味でも、誰か特定のアーティストを目当てに<情熱大陸 Special Live>へ行くことで、初めて出会う音楽がたくさんあるというのは楽しいことですよね。
葉加瀬:もちろん! 僕って高校生くらいの時から、そういった“お祭り”と“音楽を作ること”以外、他のことはほとんどやってないんだよね(笑)。大学時代は学園祭の企画委員長をやっていたし、高校生の時も生徒自治会をやって、自治会主催のコンサートを月1回開くということが自分のライフワークでしたから。
──当時から、そういった活動を積極的に行なっていたのですか?
葉加瀬:そうなんです。そもそも高校に入ったら学生主催のコンサートがあるもんだと思っていたんです。そうしたら生徒会も自治会もなかった。だからまずそこから作ったんです。1年生なのに自治会の会長になって、運営資金を学校からもらえるように体制を整えて。それで学生有志を集めて、室内楽を中心としたコンサートを開きました。だからすべての言いだしっぺは僕で、司会進行もするし、演奏もするし、周りはポカンとしてましたよ(笑)。高校生ってそういうことをするもんだと思っていましたから、それを3年間続けました(笑)。
──そういった活動は、大学では?
葉加瀬:当時、これまた大学生はタテカン(立て看板)を書くものだと思っていたんですよ。イメージとして“大学生=タテカン”って。ところが、僕が18歳で東京藝術大学に入った時はバブル絶頂期で、みんな浮かれていましたね。そんな東京の大学でタテカンとか誰も書かないわけですよ。これは困ったなと(笑)、“じゃあ芸術祭を作ろう”と思ったんです。僕がやったのは“四芸祭”といって、全国に4つある国公立の芸術系大学がひとつになって、美術と音楽の学部が交流することをテーマにしたお祭りです。分かりやすく言えば、それまで歌ったことのない、美術の油絵科、彫刻科、建築科の連中が、みんなで第九をレッスンして最後は一緒に歌うといった、学部を超えた交流ですね。そういったことをタテカンに書いて、メガホンを持って告知して(笑)。学生時代はとにかく企画会議と音楽作り、そしてお祭り作りばかりやっていました。
▲<情熱大陸 SPECIAL LIVE SUMMER TIME BONANZA'14> |
葉加瀬:昔の仲間に、「お前って本当に変わらないな。やってることがずっと一緒だ」って言われます(笑)。自分でも、たぶん15歳の頃から何も変わってないと思いますね。
──葉加瀬さんをそこまで惹きつける“お祭り”の魅力って、何なのでしょうか?
葉加瀬:客観的に自分を振り返ると……小学生、中学生時代は、ヴァイオリンの練習以外は何もしていなかったんです。野球とかのスポーツも、もし突き指をして楽器が弾けなくなったら僕の人生は終わると思ってやりませんでした。自分が一番大切にしているものを失いたくないですから。朝学校に行って、そこでもずっと音楽のことを考えていて。学校が終わったらダッシュで帰って、5時から9時まで練習。それから晩ご飯というのが日課でした。夏休みなんかは朝起きてからずっとヴァイオリンを弾いて、お昼ご飯を食べたら、また練習。毎日10時間くらいは練習してました。
──練習漬けの毎日だったんですね。
葉加瀬:毎年受けていたコンクールが9月に予選、10月が本選で、11月に全国大会というスケジュールでしたから、小学校4年生から高校1年生まで毎年これに賭けていたんです。そうすると7月末から9月までは、ひたすらヴァイオリンと向き合う日々なわけですよ。ところが盆踊りの日だけは、ヴァイオリンを持たずにずっと遊ぶんですよ。盆踊りは小さい頃からもの凄く好きで、しかも設営からずっと見てるんです。櫓が組まれて、夜店が出てきて、そして一緒に踊って。お祭りが終わってから、バラすところも好きだった。さっきまでの夢のような時間がパッとなくなって、電気が消えて、提灯もなくなり、櫓も片付けられて、普通の広場に戻る。僕は今でもコンサートが終わった後、スタッフたちの撤収作業を見るのが好きなんです。また明日、次の街に行くんだなと思うとワクワクするんですよ。つまり、そうやって子供の頃に見ていた盆踊りを今は自分がやる側になったという感覚なんです。
──なるほど。よく分かります。
葉加瀬:だから僕って、コンサートはお祭りだと考えているんです。その最たるものが<情熱大陸 SPECIAL LIVE>。ピクニックであると同時に、お祭りである。僕は毎年盆踊りのつもりでやっているんです。
──最初に伺った“世界中から音楽のお祭りに人が集まってくるというグローバルな感覚”と、日本的な盆踊りという感覚がひとつになっている点が、とてもユニークですね。
葉加瀬:しかも、そういったコンサートに出演してくださる方々で、何か独特のファミリー感が生まれていって。初めて出演される方も、そこに新しく入ってこようとしてくださることがすごく嬉しいんです。その絆の強さって、他のどのフェスとも違う味わいです。そうできたのはやっぱりオンステージだけでなく、バックステージも命がけで作っているからだと思います。
──ファミリー感という部分で、とても象徴的なのが<情熱大陸 SPECIAL LIVE>ならではのハウスバンドの存在ですよね。
葉加瀬:最初はとにかく僕が憧れているミュージシャンたちに、上から順番にお願いしていったんです。ただそうは言うものの、<情熱大陸 SPECIAL LIVE>を始めて4~5年くらいは出演者のみなさんが「自分のバンドを連れてきたい」とおっしゃるわけです。それは当たり前ですよね。僕だっていつも一緒にやっているメンバーと演奏したいと思いますもん。だから当初は、「どうぞどうぞ。でも、素晴らしいハウスバンドもありますよ」と言っていたんです。それが次第にみなさんのほうから「ハウスバンドで歌いたい」と言っていただけるようになった。「あのバンド、スゲェよ!」ってね。今は自分のバンドを連れてくる人っていませんから。あともうひとつ、バックステージのホスピタリティにも命をかけていて。その雰囲気の良さは、ステージからお客さんにも伝わっていると思うんです。お客さんに対するのと同じように、バックステージにも最高の料理を用意して、出演者に楽屋でリラックスしてもらいたい。ミュージシャンの社交場にしたいんです。そうするとレーベルとか、事務所といった垣根を超えた話ができるんですよ。やっぱりみんな看板を背負っているアーティストですから、そういったフラットに話すことって実はなかなかできないんですよ。でも、このバックステージから、たとえば誰かをプロデュースすることになったとか、ユニットを組んだりといった話が生まれたら素敵だなと思っています。
──普通のロックフェスだと、楽屋からステージに行って、出たら終わりという状況も少なくないですからね。
葉加瀬:何年か前に、(藤井)フミヤさんに言われたんですよ。「太郎さー。コンサートの最後にラインナップ全員で、同じTシャツを着て“ラーラー”って歌ってるような。そんな最高にダサくて、最高にカッコいいフェスは、ここの他にないよ」って(笑)。
──出演者のみなさんがいい意味で“素”の表情になっている様子は、観ている側にとっても幸せな気持ちになります。
葉加瀬:あの雰囲気は、劇場とはまったく違うものですよね。野外ならではの、あの中でしかできない音楽の作り方、楽しみ方、演奏の仕方というのがあると思います。そして僕はアーティストのみなさんに、「お客さんとピクニックをしてるんだから、お客さんが主役。我々はBGMですよ」と言っているんです。これは本当に。ピクニックの最高のBGMを演る。だからたとえば家族連れで来ていて、ぴょんぴょん飛び跳ねて遊んでいる子供の相手をしている旦那さんが「お前、子供の面倒見ろよ」「ダメよ。次はフミヤさんなんだから」とかって会話している雰囲気が、僕は最高に素敵だと思っているんです。
──しかも東京で開催されながら、いい意味でのローカル感も大きな魅力ですよね。
葉加瀬:昔、立川(国営昭和記念公園)で開催していた時期があって、あそこもよかったですね。もちろん今の夢の島公園陸上競技場も最高。しかも最近は<WORLD HAPPINESS>と一緒にできていて、我々の音楽会と、彼らの音楽会という、これまたまったく違うものが同じ場所で2日間行われるというのも、東京のミラクルですよ。
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