【インタビュー】CIPHER [D'ERLANGER]、「まとわりつくものを振りほどいて刺す」
■あの……あれ憶えてます?
■「駄作のようなアルバムが歴史上あってもいいんだよね」って話をしたこと
──そして、L.A.での様子について。デラックス・エディションに付属のDVDに収められた映像からも、それは察することができました。大人の修学旅行か、みたいな(笑)。
CIPHER:ホントにね、ええオッサンが(笑)。おのぼりさんですよね(笑)。正直、あそこまで楽しくなるとは想定外でしたね。
──べつにL.A.への憧れとかもなかったわけですよね?
CIPHER:いや、ありますよ。まずはやっぱ、10代の頃に憧れた人たちはここで生まれたんだ、というのがあったし。MÖTLEY CRÜEとかね。たとえばウィスキー・ア・ゴーゴー(ハリウッドにある由緒正しいライヴハウス)の目の前に立ちながら、「うわっ、俺、今ここに居るんや」みたいな。そういうロック少年ハートなんて、もうキュンキュンでしたもん(笑)。そういうのは、すごいありましたよ。きっとそれは、俺のことを好きなやつが京都の三条大橋に立つようなもんでしょ。……いや、一緒にしたらアカンな。生意気言い過ぎた(笑)。で、俺は、Tetsuからもいろいろ聞いてたり、ちょっと前に旅番組でL.A.の回をやってたのを見てたりもして。その番組で紹介されてたヴェニス・ビーチのサンセットが素敵でね。RED HOT CHILI PEPPERSがあそこで演奏してるビデオとかもあるじゃないですか。そんなこんなもあって「ヴェニス・ビーチに行きたい!」って言って。それで実際に行ってみたら、あの夕暮れの風景(=DVDに収録の映像を参照のこと)を喰らって、もうヤバいのなんのって。俄然、住みたくなりましたからね、マジで。
──そこまで気に入っちゃいましたか!
CIPHER:1年、もしくは2年ぐらい、あのへんに住みたいです、俺。「曲、できそう!」と思ったもん(笑)。都内某区とは違うわやっぱり、と。だってあの夕陽が毎日あるんですよ。……飽きるかな(笑)。半年もしたら「べつにもういいや」ってなってるんですかね?
──だって、ヴェニス・ビーチに住んでいてもつまらない曲しか作れない人はきっといるはずです。
CIPHER:ワ~オ!(笑)。
──ははは! でも、そこまで気持ちを上げてくれる場所だったんですね。
CIPHER:うん。あの、事前に「こんなとこかな?」と想像してたのとは全然違いましたね。もっと都会やと思ってたんですよ。ニューヨークや東京とまではいかないにしても、もっと都会感があると思ってたんです。もうちょっとスピード感があるというか。あそこまでのどかだとは思ってなかったですね。あのテンポ感というか空気感というのは、すっごい気持ち良かった。
──波長が合った、ということなんでしょうね。逆に、ニューヨークのスピード感のほうが曲が出てくるという人もいるんでしょうし。
CIPHER:そうなんでしょうね。もちろんこれは今だから思えることではあるんですよ。仮に10年前に行ってたとしたら、そこでどう感じるかは、ねえ。とにかく47歳にして初めて行ったL.A.の空気感というのがすごく心地好かった。
▲@L.A.レコーディング |
CIPHER:そうですね。ただまあ如何せん、英語喋れないですから。しかも通訳がずっと電話してて、その場に居らんのですよ(笑)。なんやねん、と思って(笑)。でもそれがむしろ好都合だったというか。だからもうエンジニアのコリンとも、フェイス・トゥ・フェイスで。彼は彼でなんとかして伝えようとしてくれるし、俺も俺で伝えようとするから、そこが結果的には良かったんじゃないかなと思いますね。短い期間ではあったけど、一緒にやったなかでの必要なワードみたいなものもわかったしね。もちろんホントはガーッと喋れたらいいんですけど、喋れないなかでのコミュニケートがだんだんとれるようになってきて。だからコミュニケーションの部分でのやりづらさというのは皆無でしたね。
──そんな話を聞いてしまうと「次はアルバム1枚まるごと録ってきてくださいよ!」と言いたくなりますけど。
CIPHER:ホントですよ。ホントにホントに。半年滞在させてくれとまでは言わないですけど(笑)。
──本当に価値のある経験だったといえそうですね。今作にとって重要だっただけじゃなく、バンドの今後にとっても意味があるんじゃないかなと思えます。
CIPHER:うん。あの……あれ憶えてます? いつぞやかのライヴの打ち上げの時に一緒に話をして。要は、なんつーか、「駄作のようなアルバムが歴史上あってもいいんだよね」っていう話をしたことがあったじゃないですか。
──ええ、憶えてますよ。
CIPHER:あれを言われた時、なるほどねと思ってて。その時の会話がすごく俺のなかで残ってるんですよ。だから余計にね、なんか……。今回の場合、特に25周年なんていう冠付きのアルバムだったりするわけじゃないですか。気負いますよね、普通は。だけどそんなんがまったくなかったのも、そういう会話があったから、という部分が俺にはあるんです。もちろん、敢えて駄作を作ろうっていう話ではなかったじゃないですか。まあ、あの会話そのものを振り返ると長くなりますけど、あの時に俺が「ああ、そっか」と感じたことというのが、結果、ここのタイミングでの気負いをなくすことに繋がってるんですよ。べつにそんなに気負わなくていいよな、と。それでなんか、すごくワーッとイケたというか。
──僕が言ったのは、常に“立派な作品”ばかりじゃなくてもいいし、過渡期がそのまま音になったものがあってもいいはずだ、みたいなことでしたっけ?
CIPHER:そうそう。だから変な話、シングル曲の集まりみたいなものにしようとしなくてもいいし、苦労して毎回そんなアルバムばっかり作らなきゃいけないってのはどこかナンセンスだよね、という話をして。確かあの時は、デヴィッド・ボウイとかを例にしながら話をして……。
──変化を重ねていくなかで、発表当初は駄作と呼ばれるものも出てくるんだけども、それを好きだという人も確実にいて、しかも時間が経ってみたらそれが名盤と呼ばれるようになっていたりもする。だから名盤が生まれる途中過程みたいな作品だって聴きたい。そんなことを言った気がします。
CIPHER:うん。それはもちろん何枚、何十枚と歴史を持ったところで話せることではあるんですけどね。でも、そう、そんな話をした時の“なるほどな”というのが今になって生きてるんですよね。
──すごいじゃないですか。俺、役に立ってる(笑)。
CIPHER:立ってますよ!(笑)。それこそあれは『#Sixx』が出た後ぐらいのタイミングやったかな。「さあ、次は何年後に出すんだ?」みたいなところからそういう話になったんですよ。で、俺は「3年は出ない」とか言って(笑)。そうこうしてるうちに25周年やぞ、みたいな。
──思い出しました。それに対して「オリンピックみたいな周期で超大作ばかり出さなくてもいいんですよ!」とおそらく僕は言ったはずで。
CIPHER:そうそうそう!
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