【インタビュー】シンフォビア、ポップ×クラシックのリテラシーに新たな息吹をもたらした『Noc-Turn』
いつの時代も絶えず愛され続けるクラシック。それはすべての規範であり、1つの完成型。その芸術性の高さゆえに、普遍的な魅力を放ち続けているその音楽に新たな可能性を提示した男、ジオ。
◆シンフォビア~画像&映像~
バッハの「G線上のアリア」を大胆にサンプリングし、稀代のポップスへと昇華させたスウィートボックスの「Everything’s Gonna Be Alright」。1997年に発表されたその楽曲は一躍世界的ヒットとなり、その後も彼らは同様の手法でヒット曲を量産。ポップ×クラシックの可能性を広く世界に知らしめた。そんなスウィートボックスのプロデューサーがジオである。
今でこそポップ×クラシックの方程式は1つの手法として確立され、数多くの楽曲が生まれているが、そのパイオニアたるジオは2007年にホームであったスウィートボックスを離脱。その後、シンガーとして類い稀なる実力を備えながら、ラッパーとしてのポテンシャルも高いアディーシャとともに新プロジェクト:シンフォビアをスタートさせた。
そして、このたび彼らの処女作となる『Noc-Turn』(ノクターン)をリリース。タイトルから連想されるショパンの「ノクターン」はもちろんのこと、ベートーヴェンの「運命」、チャイコフスキーの「白鳥の湖」、さらには再びバッハの「G線上のアリア」と、今作も誰もが耳にしたことのあるクラシックの数々を取り入れ、画一的になりつつあったポップ×クラシックのリテラシーに新たな息吹をもたらしている。あらゆるジャンルの音楽性を駆使し、モダンかつエネルギッシュに、さらなる進化を遂げたそのサウンドについて、さらにはシンフォビア結成の経緯やポップ×クラシックの起源まで、ジオとアディーシャ、2人にたっぷりと話を伺った。
■ジオとアディーシャが出会い、シンフォビア結成
■変わらぬクラシック、絶えず変化するモダンのせめぎ合いを完璧な形へ
──シンフォビアの構想はいつ頃からあったんですか?
ジオ(以下、G):はっきりとは覚えていないけど2011~12年頃かな。最初はインストゥルメンタルのプロジェクトとして始まって、ボーカルを入れる予定もなく、コンセプトとしては“シンフォニーと現代音楽の出会い”だったんだ。ただ、その頃アディーシャが現れてね。当時、彼女は違うプロジェクトをやっていたんだけど、僕の音楽にアディーシャのラップやボーカルを入れたらどんな感じになるか試してみたくなって彼女に頼んだんだ。
アディーシャ(以下、A):それでアルバムが1枚分できちゃったのよね。やってみると私がのめりこんでどんどん曲を作っているうちに、“インストは忘れてボーカル入りで作ろう”ってことになって。
──そもそもジオはボーカリストのどこに魅力を感じ、自分のプロジェクトのメンバーに選んでいるんですか?
G:それは難しい質問だね。どこから始めるかによるかな……。シンフォビアの場合は、元々はインストゥルメンタルのプロジェクトで、その後アディーシャが入ってきた。そうやってボーカリストに出会ってからアイディアが生まれることもあるし、プロジェクトありきでそれに見合った声を探す時もある。これという基準はないかな。重要なのは耳を澄ませて多くのボーカルを聴くことだね。
──では、今回アディーシャをシンフォビアのボーカルに選んだ理由は?
G:美人だからさ、ってそれは冗談(笑)。一番の理由はラップも歌もできることだね。彼女はどちらもできて、一瞬で切り替えることができる。歌とラップのボーダーがない、そこが気に入ったんだ。
──アディーシャは、ジオと制作することになっていいかがでした?
A:とにかく制作を楽しんでいるわ。彼はクリエイティブな人だし、いつでも私のことを助けてくれるから、プレッシャーなくスタジオに入ることができるの。もちろん、常にお互いの意見が合うわけじゃないし、彼は自分が正しいと思ったことは絶対に曲げないタイプの人だから、それがときどきイヤになるときもあるけど(笑)。
G:それはなぜかわかるかい?僕が正しいからさ(笑)。
A:こんな感じ(笑)。だから、意見が対立したときはもう私の負け。家に帰って、次の日はもしかしたら考え直してくれるかなって思ってる(笑)。とはいえ、結局はいつもうまくいってるわ。何かあれば必ず話し合える関係だし、そんなに大変なことはないかな。何より、ジオは仕事が素晴らしいからね。これまで何人かのプロデューサーと仕事をしてきたけど、彼の仕事ぶりには本当に驚いたわ。クラシックとアーバンの融合ってことだけじゃなく、全てが素晴らしい。スゴい才能がある人だってことは間違いないわ。
──当初は“シンフォニーと現代音楽の出会い”とのことでしたが、アディーシャが加わったシンフォビアで目指す音楽とはどんなものでしょう?
G:シンフォビアでは、クラシック、シンフォニーと現代音楽の完璧なブレンドを確立したいんだ。それは、オーケストラと現代の楽器の戦いとも言えるね。クラシックと違い、モダンは常に変化している。僕の中でもクラシックがありつつ、もう一方で自分の音があって、それも常に変わっていく。この2つの要素のせめぎ合いを、僕らは完璧な形にしたいと思ってる。
──ジオはこれまでスウィートボックス、エタニティといったユニットで活動してきましたが、それらとシンフォビアの大きな違いは?
G:スウィートボックスに関しては始動したのがかなり前で、音楽のスタイルも様々な変遷があった。最終的にはクラシック・ポップというスタイルと、ジェイドのボーカルがあって、シンガーソングライター・タイプのクラシック・ポップだったね。一方でシンフォビアは、アディーシャが加わって、音楽性も彼女のスタイルが色濃くなった。それが一番の違いだね。シンフォビアはすべて彼女と一緒に動いていて、今までよりも音楽が密接に溶け合い、よりモダンで、オーガニックというよりはポップスになったかな。そもそもアプローチも違うしね。ビートもかなり強いし、激しさもある。
A:スウィートボックスにエタニティ、そのどちらも素晴らしいプロジェクトだと思ってる。今回シンフォビアとしてスタートする前、彼にいろいろと教わった後にもう一度全部聴いてみたけど、それは変わらなかったわ。全ては繋がっていると思うし、私は全部大好き。
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