【ライブレポート】三木道三改めDOZAN11、12年のブランクを経て人生賛歌を歌い上げた一夜
三木道三改めDOZAN11が約12年ぶりのライブを行う。2014年秋からそんなニュースが流れてきた。しかもビルボードでの単独ライブである。三木道三は2002年に発表され、レゲエとしては異例のヒットとなった「Lifetime Respect」と同名のアルバムをリリースし、47都道府県ツアーを敢行した後、無期限の活動休止に入った。
レゲエという当時アンダーグラウンドの存在をヒップホップに続き、オーバーグラウンドにした立役者であり、ボブ・マーリィ以降のレゲエを知らない人々に、ダンスホール・レゲエなどの新たな潮流を伝え、関西弁の巧なリリックを歌いこなし、ジャパニーズ・レゲエを確立させた功績は非常に高い。そのような音楽シーンを知らない人でも、「一生一緒にいてくれや」と言えばすぐに思い出せる時代の歌を作り出したことは、未だ追随するレゲエミュージシャンでも成し遂げられていない。
三木道三が売れている絶頂期に休止し、しかもこれほどの長い期間何をしていたのか、まったく不明であったため、死亡説も含めて諸説流れたくらいである。当人の弁から推察するに、休止した初期においては怪我の後遺症などを含む体調の悪化が一番大きいようだが、その後はBESやMUNEHIRO(鈴木紗理奈)を含めた若手ミュージシャンに楽曲を提供し、レゲエ仲間とも交流を続けてきたようだ。
そして2014年、満を持してアルバムをリリースした。アルバムタイトルは『Japan be Irie‼』(※アイリーはジャマイカの言葉で“素晴らしい”等の意味)という、「Japan一番」でデビューした三木道三にとっては原点回帰のようなテーマである。しかし、12年を経て変わったことはたくさんある。
レゲエのDeeJay(ヒップホップで言えばラッパー)としてデビューし、関西弁の巧な韻を踏むことで定評のあった三木道三だが、同時に歌の要素も含んだSingJayとしての資質も高かった。今回のアルバムはシンガー色が強く、歌詞も韻を踏むことよりも、歌の流れを重視しているように思える。それには歌いたい内容に加え、レゲエの本場ジャマイカが近年メロディを重視したルーツ・レゲエに回帰していることも影響しているようだ。非常にバラエティに富みユニークな内容については後述する。
楽曲的な質の高さもさることながら、三木道三はバンドとの掛け合いを得意とするエンターテイナーとして注目されていたことはあまり知られてないかもしれない。特にレゲエの場合は、ターンテーブルが主体のヒップホップと違って、HOME GROWN BAND(日本を代表するレゲエバンド)などの活躍により、生バンドをバックに歌う機会が多かった。そのため歌の途中でMCを入れて中断したり、演奏に緩急をつけたりするなど自在に楽曲をコントロールできた。その分、レゲエは歌手のパフォーマンス能力が問われるジャンルであり、ライブに根強い人気がある理由にもなっている。
ビルボードでのライブでは、この日のために用意した総勢9名ものバックバンドを揃え、ホーンやコーラスもついた豪華な編成であった。これはレゲエのフェスでもほとんど見られない大編成であり三木道三の復活に相応しい破格の規模だった。そして、黒いスーツに黒いハット、サングラスを身に着け、三木道三はDOZAN11として帰ってきた。
バンドが演奏する華やかなイントロに乗っかりメジャーデビューシングル「斬る!Japanese」を歌いながら登場。待ち望んでいた観客の大きな歓声に包まれ、90年代から歌っている「道三スタイル」「むちゃくちゃやんけ」などの人気曲をメドレーで歌う。しかもそれらを、その日仕様の歌詞に変形させながら、かつ軽妙なMCを合間に叩き込む。三木道三時代を思い出させる時間で頭から大いに盛り上げた後、これが歌いたいがために戻ってきたという「かしこみかしこみ」へ。「かしこみかしこみ」は、神社で神様に奉上する祝詞(のりと)の一節で、畏敬の念を表した言葉だ。DOZAN11が地元の神社に参拝にいく道中の出来事を題材に日本を想って作った曲で、シングルカットされている。
ジャパニーズ・レゲエは、レゲエのリズムに日本語で韻を踏む技法が格段に進歩したが、ジャマイカ人が頻繁に歌うJah(ジャマイカ人の信仰の対象。ヤハウェの略という説もある)などを歌うソウルの根幹がなかなか表現できないという課題があった。「かしこみかしこみ」はそこに踏み込み、祝詞を現代風にアレンジするという、かつて誰もしようとしなかったことを実現した。そこに三木道三がレゲエを真摯に捉え、「日本語」で歌うことから、「日本のソウル」を歌うことにDOZAN11になって進化したことが伺えた。
引き続いて歌われた「ギャーテーギャーテー」についても同様なことが言える。こちらは共作したEVISBEATSの歌唱したバージョンが先に発表されており、評判が高かった曲である。「ギャーテーギャーテー」とは、大乗仏教の重要な経典であり、日本でもよく知られた般若心経の最後の一節で、煩悩にまみれた此岸(しがん)から悟りの世界である彼岸(ひがん)へ行こう、という呪文である。般若心経の内容と奈良のお寺に行く体験をシンクロさせ、ユーモアを交えつつも高度に洗練された曲に仕上がっている。これもDOZAN11がレゲエを本質的なところまで突き詰め、日本で表現する形を模索した成果である。ブラック・ミュージックの根底にある神への賛歌を彼なりに解釈し深いレベルで日本化したといえるだろう。
もともとMCの上手いDOZAN11だがこの日も冴えていた。自分の歌のテーマや世界観を雄弁に語る。その説教的な言い回しは、ゴスペルの牧師に似ているともいえる。ゴスペルは説教と歌が連続的に続いており、説教が興にのった時点で歌に移行するのだが、即興性のあるゴスペルのスタイルを踏襲するためには、自分が常日頃から思っていないと出来ない。DOZAN11はもっともそれに近い形を体現しているのではないかと思えた。
さまざまな形で日本を題材にしているDOZAN11だが、ジャマイカ、トリニダード・トバゴ、ブラジルなどに頻繁に通い、英語、ポルトガル語を使いこなす、マルチリンガルであることも注目すべきだろう。アルバムにはジャマイカの大御所エンジニアSteven Stanleyなど複数の外国人が参加し、ソカやサンバなどさまざまな要素が加わっている。
ライブは、前作アルバムから外国での淡い想い出を描いた人気曲「肌の色」の後、沖縄を代表するバンドMONGOL800のボーカルの上江洌清作がゲストで登場し、大ヒット曲「あなたに」を共演。さらに、アルバム挿入曲であり、DOZAN11のDeeJayを重ねた「ヨロコビノウタ」を共演し、幅広い音楽的交友と世界観の広さを示した。
日本を代表するサウンドシステムINFINITY16が制作に参加した「大仕事」では、DOZAN11がこの12年間で病気や怪我に泣かされ、苦労してきたこと、それでも立ち上がってきたこと、これからの決意がはっきりわかるメッセージソングになっていて勇気を与えられた。
そして、おそらくライブで初めて聞く人も多かったであろう「Lifetime Respect」で会場は一体感に包まれた。プロポーズの言葉とも解釈され、結婚式の打ち上げなどでも何度も歌われたであろう曲だ。しかしその後のストーリーは書かれていない。実はその次に歌われた「おやすみ」では、子どもの寝ている姿に親の思いを重ねる歌詞になっており、「Lifetime Respect」の続編歌として聞けた。当然、「Lifetime Respect」のファンの多くも家族を持っているだろうし、家族連れの観客が目立ったのもレゲエのライブには見られない興味深い現象であった。DOZAN11のメッセージにところどころ泣いている母親(かつての若者)も見受けられたのも印象的だった。
アンコールでは、注目の若手レゲエアーティストBESが参加し、尊敬し合う先輩後輩が互いを称え合う新作「誇り」が胸を打った。そして、現在はBESがカバーしたことでよく知られている「明日の風」を一緒に歌い、大歓声の中で幕を閉じた。
12年間のブランクのあるパフォーマンスは全く衰えてないばかりか、歌詞に深みが増し、より人生の機微を捉え、レゲエの本質に踏み込む進化が見られた。楽曲もバラエティが増し、ライブ全体が“友情”“先輩と後輩”“恋人”“親子”“外国人”“故郷”“母国”…などさまざまな人々や自然、目に見えないものに対する尊敬や営為を称える内容だったといえる。DOZAN11は12年の時を経て今なおたくさんの可能性を秘めていることを証明した。そしてさらに新しい世界に連れていってもらいたいと思わせる一夜であった。
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なお、DOZAN11は、新たな主催ライブイベント<Apprecilove~The IrieVibes~>をスタートさせることを告知しており、イベント初回を3月21日に大阪 心斎橋SUN HALLにて開催する。
◆DOZAN11オフィシャルTwitter
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