【ライブレポート】沖ちづる、初の弾き語りワンマンに垣間見たストーリーテラーの才

シンガーソングライターの新星･沖ちづるが1月18日、渋谷7th Floorにて＜1st mini album “はなれてごらん”リリースツアーファイナルワンマン 君と遠く＞の追加公演を行なった。

◆沖ちづる 画像

新世代のフォーク女子として注目を集めている沖ちづる。2014年9月5日に発表されたライブ会場300枚限定の1stミニアルバム『はなれてごらん』をわずか2ヶ月で完売させるなど（その後追加プレス）、ここ最近、じわじわと評判を高めてきている新進気鋭の19歳だ。リリースツアーの最終公演となったこの夜のライブは、昼の部でのバンドセットから一転、普段の弾き語りスタイルで行われた。

ひと声発するだけでフロアの空気を独自の世界観にひき込む沖ちづるの歌を、ワンマンライブでじっくり味わえるとあってフロアはほぼ満席。繊細に紡がれるアコースティックギターの音色を合図に、ステージは「きみのうた」で静かに始まった。瑞々しく、ややハスキーな声で“悪魔みたいなそれ”と、ドキリとするフレーズを口にする。時折、聴こえるブレス（息つぎ）も魅力的だ。オープニングの歌を終え、一瞬目を伏せ、そこから顔をあげて笑顔に。緊張感を持って見守っていたフロアの空気が和らいでいく。

今夜の沖ちづるには、自分だけを観に来てくれた観客が集まっていることもあってか、リラックスした雰囲気が漂っている。矢野顕子のような茶目っ気のあるスウィート・ビター・ソング「土にさよなら」、ジョニ・ミッチェルら王道のシンガーソングライターの系譜を感じさせる「いとまごい」、ほっこりとさせるショートソング「やきにくのうた」、女子の世界にあるややこしいアレやコレをちょっとした皮肉を交えながら描写したコミカルな「まいにち女の子」、母親との間に横たわる引っ掻き傷のような愛憎を歌った「母さんと私」。1曲ずつ、歌を書くきっかけになったエピソードや心情を語りながら、ステージは進んでいく。そのMCからは、ちょっとした日常からストーリーを紡げるストーリーテラーの才を垣間みることができ、“やはりただ者ではないな”とあらためて認識させられる。ちなみに「いとまごい」は高校1年の頃、おそらく2曲目くらいに書き上げた歌だという。

あっと言う間にステージは中盤戦へ。ファニーでアップテンポな新曲「わるぐちなんて」が披露される。“怒りなんてちっぽけなもの”、“優しい言葉にできるでしょ”、“君のことを笑うやつもいる”、“君の好きなところをもっと知ってる”といったフレーズを早口で発するこの歌を聴いているうちに、どことなく、RCサクセションの名ラブソング「君が僕を知ってる」を連想した。そして、「君が僕を知ってる」で描かれる“相手への肯定感”を、沖ちづるは自らを励ますために歌っているのかな？　そんな印象も抱いた。MCでもコンプレックスが強いと語っていたが、沖ちづるは一生懸命歌うことで、身の周りの見晴らしをよくしようと日々、奮闘しているようだ。

ささやかなお祝いの夜に相応しい「あたたかな時間」、ミニアルバムのタイトルトラック「はなれてごらん」を挟んで、現時点での代表曲といえる「光」をもってステージはクライマックスを迎える。圧巻のパフォーマンスで、研ぎすまされた言葉が繰り出される。“醜くていい、醜く歩け”、“信じろ自分を、信じろ声を”、“声よ高く外に響け。笑われ貶されそれでも歌え”……。歌い続けることこそ生き続けること。そんな決意にみなぎった「光」は、ただただ感動的。この決意の先にどんな歌が生まれるのか楽しみだ。「光」の余韻に浸りながら、情景描写に敏感な沖ちづるらしい「景色」、終わりの時を幻想的に綴った「blue light」でステージは幕を閉じた。静かながら強い拍手が会場を包む。深々とおじぎをしてから、感無量といった表情を見せ、沖ちづるは舞台を降りた。

2月25日には初の全国流通盤となるシングル「光」がリリース、3月3日には東名阪ツアーのファイナルワンマンライブが下北沢440で開催される。1年前のライブにはほとんどお客がいなかったという沖ちづるの2015年は忙しくなりそうだ。末恐ろしい才能がどのように開花していくのか、これからも見続けていきたい。

取材・文◎山本貴政　撮影◎木村泰之

■＜1st mini album “はなれてごらん”リリースツアーファイナルワンマン 君と遠く ～追加公演～＞夜の部
2015年1月18日＠渋谷7th Floor セットリスト
01. きみのうた
02. 土にさよなら
03. いとまごい
04. やきにくのうた
05. まいにち女の子
06. 母さんと私
07. わるぐちなんて
08. あたたかな時間
09. はなれてごらん
10. 光
11. 景色
12. blue light




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