【インタビュー(ギター解説付き)】いちむじん、クラシックから飛び立ち染め直された名曲達がパッケージされた多彩かつエモーショナルな最新作『恋むじん』

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土佐弁で“一生懸命”という意味の名前を冠したクラシックギター・デュオ、いちむじん。2006年にメジャー・デビューを果たした彼らは、卓越したテクニックやクラシックの枠に捉われない音楽性などで注目を集め、2012年からは海外での活動も精力的に行なっている。そんないちむじんの最新作『恋むじん』は、彼らにとって初のカバー・アルバム。いちむじんのカラーに染め直された名曲達がパッケージされた、多彩かつエモーショナルな一作に仕上がっている。彼らの最新の声を、たっぷりとお届けしよう。

◆いちむじん~拡大画像~

■100万人くらいの方がいちむじんを当たり前のように知っている状況にしたいと思っている
■その一環として今年からYouTubeにカバー曲をアップするということをやり始めました


――BARKSには初登場ですね。まずはいちむじんを結成した経緯などを話していただけますか。

山下俊輔(以下、山下):僕は、中学校2年生の頃にフォークギターを弾くようになって、高校2年生の時からクラシックギターを始めました。僕らが通っていた高校にギター部があったんですけど、顧問の先生が<スペイン音楽コンクール>で、全国1位になったことがある方だったんです。それくらいすごい人がギターを教えてくれるということで、ギター部に入ってみることにして。ギター部に入ってから、クラシックギターにのめり込んでいきました。

宇高靖人(以下、宇高):僕は、元々はエレキギターを弾いていたんです。なので、クラシックギターを始めた時は大変でした。もう、音もタッチも全然違うから。でも、逆にそれが新鮮だったし、楽しくて、ハマりましたね。元々は、エレキギターを弾くうえで役に立つことがあるだろうというイメージでクラシックギターを始めたんですけど、エレキギターを弾く時間はどんどん減っていきました(笑)。


▲山下俊輔。
山下:それは、僕も同じでした(笑)。僕が中学生だった頃は、ゆずさんとかヴィジュアル系とかが流行っていたし、ストリートも流行っていたから、自分もギターを弾きたいなと思うようになって。本当はエレキギターが欲しかったけど、父親に不良になるからダメだと言われまして(笑)。でも、僕は歌手になりたかったので、弾き語りをすれば良いかと思って、フォークギターを始めて。ずっと伴奏楽器としてギターを弾いていたから、指が速く動くということに対する憧れがあったんです。それで、僕もクラシックギターをやると、ギターの上達につながるだろうと思って始めました。

――人生は、なにが待っているか分かりませんね。

宇高:本当に(笑)。

山下:そうやって2人共高校2年からクラシックギターを始めて、翌年のコンクールで入賞して。その後、大学に進学した時に高校時代のギター部の顧問の先生に、二重奏でやってみたらどうかというアドバイスをいただいて。日本では、二重奏でプロとして活躍されている方はあまりいないんですよね。それもあって、2人でやるのは面白いかもしれないと思って、2004年にいちむじんを結成しました。

――ガットギターのデュオというのはバンドや弾き語りなどよりも名前を広めていくのが難しいような気がしますが、その辺りはいかがでしたか?

山下:そこに関しては、バンドとかとは方法論が違っていて。バンドというのは、ほとんどお客さんがいない状態でもライブ活動を始めるじゃないですか。クラシックの人達というのは、基本的に赤字でライブをしないんです。必ず人を集めてライブをする。そういうプライドみたいなものが昔からあるみたいで、そこがバンドの人達とは違うんです。僕らもそういう価値観で始めたし、人を集めるのはそれほど難しくなかったです。高知で2人で最初にライブをした時も400人ほど集めて、満員になりましたし。東京ではオペラシティの近江楽堂というキャパ100人の会場でライブをしたんですけど、満員になって追加公演をすることになったりしたんです。それで、面白いヤツらがいるということで話題になって、前のレコード会社もコンタクトを取ってきてくれました。それに、1回1回コンサートをする度に仕事が入ってきて、それは今でも変わらないです。


▲宇高靖人。
宇高:ただ、いちむじんを始めた頃は、ずっと悩んでいました。“これで良いのかな?”と思って。というのは、僕らには先輩がいないんです。いわゆる教本みたいなものがなくて、なにが正しいのか分からない。自分達が新しい一歩を踏み出していかないといけない環境だったから、おぼつかない感じがして、いつも悩んでいました。

――ひな形がなかったんですね。

山下:そう。ソロで活動されている方はいますけど、そういう方達と僕らがやっている音楽は違いますし。僕らならではの方法論を見つける必要があった。それに、クラシックギターで難しいことを2人でやっていても、評価をしてくれる人がいないんですよ。

――えっ、なぜでしょう?

山下:クラシックギターの世界は、最近になってようやくプロの方が出てきた状態で、まだ歴史が浅いんです。9割はアマチュアの方で、中間層もそれ程いない。だから、評価してくれる人がいない。クラシック・ギタリスト自身も、たとえばソロで活動されている有名な方がライブで即席デュオとかをする時に、僕らのレパートリーはすごく難しいので、やる意味はあると思うんです。でも、いちむじんの曲には手を出さない。だから、ギタリストにも評価されたことがないんです。ロックの人とか、クラシックのことを知らない畑の人とかが聴くと、“すげぇな!”という話になるんですけど(笑)。僕らはテクニックよりも先の芸術的なニュアンスも踏まえて演奏しているのに全く評価されないので、なんか虚しくなって。それで、3枚目のアルバムを出した2009年頃から、いろんな変更をしました。

宇高:ずっとレコード会社の人と、クラシックで攻めようかとか、カバーをしようか…みたいな話し合いをしながら活動していって。その後、2010年辺りからようやく自作曲を書くようになったんです。それまでは提供していただいた楽曲を演奏したり、カバーを編曲したりしていたんですけど、自分達の中に伝えたいものがあるなら自作曲のほうが良いだろうということになって。それがターニング・ポイントになって、良い方向に変わったと感じています。

山下:その後、キングレコードに移籍することになって。カバー・アルバムを作ろうという話が出たんです。僕達としても、いちむじんという名前を伏せた企画物でも良いからカバー・アルバムを出したかったんです。今回のアルバムの前にインディーズで出したアルバムが全曲オリジナルだったので、それとは真逆のものをやりたいという想いがあった。コンサートで演奏してもカバーの反応がすごく良いし。だから、カバー・アルバムを作りたいと思って。それを、ちゃんといちむじんという名前を出して作れることになって嬉しかったです。

――最新アルバム『恋むじん』は、スタッフも含めた皆さんの思うことが一致していたんですね。

山下:そう。僕の中では、いちむじんが演奏しているということが大事で、楽曲に関してはあまりこだわりはないんです。リスナーの皆さんが望むことをやれれば良いので。いちむじんの活動としては、どれだけ世間の人に存在を知ってもらえるか…ということが重要な事項になっていて。100万人以上の人に認知してもらわないとブランドにはならないという話を聞いたことがあって、とにかく100万人くらいの方がいちむじんを当たり前のように知っている状況にしたいと思っているんです。そういうことの一環として、今年からYouTubeにカバー曲をアップするということをやっていて。最初はどうかなと思ったけど、4月くらいにアップした「レット・イット・ゴー」の視聴回数が10,000ちょっとくらい行っているんですね。でも、1月にあげたオリジナル曲は、まだ何百なんですよ(笑)。そういうところで、100万人に知ってもらうための方法はカバー曲だと分かっていたんです。だから、今回カバー・アルバムを…という話をいただいた時は、“よっしゃ!”と思いました。

宇高:どんな音楽をやってもいちむじんの色が見えるようなアーティストを目指しているので、僕も楽曲にはこだわらない。さっき話したオリジナル曲だけのアルバムというのは、自分達にとって新しい一歩だったんですね。自分達は今までプロデュースされた作品をいっぱい作ってきたけど、オリジナル・アルバムで初めて自分達で第一歩を踏んで。そこで、今度は真逆のカバー・アルバムを作ることは、第二歩目になるなと思って。そういう感覚があったので、今回の話は大賛成でした。

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