TASCAM、Wi-Fi接続でレコーダーをスマホから操作できシンプル操作で高音質の録音ができる「DR-22WL」レビュー

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ティアックのTASCAMブランドから10月にWi-Fi(無線LAN)接続に対応したリニアPCMレコーダー2モデルがリリースされた。コンパクトで、初心者でも使いやすいユーザーインターフェイスを備えた「DR-22WL」(市場予想価格 17,800円前後)と、XLR/TRS外部入力を備え、4チャンネル同時録音、MTRとしての利用も可能な「DR-44WL」(市場予想価格 35,800円前後)をラインナップ。いずれも24ビット/96kHz対応、X-Y方式のステレオコンデンサーマイクを搭載、そして、Wi-Fiによるリモートコントロールによりこれまでのレコーダーにはない使い勝手を実現している。スマートフォンやタブレットで専用アプリを利用することで、本体から離れた位置から、さまざまな設定、操作が可能となるこの機能。今回は「DR-22WL」でWi-Fiコントロールの魅力をチェックしてみた。

◆「DR-22WL」~画像~

■レコーダーをスマホで操作、どこが便利?

Wi-Fi接続でレコーダーをリモートコントロールすることの利点は、自由なマイキングが効率的に行えることだ。

楽器やヴォーカルを録音する際、マイクはプレイヤー/ヴォーカリストに向けることになるが、手の届く位置がベストとは限らない。立ち位置から離れた場所から狙った方がいい音になる場合が多いが、その場合はレコーダーの位置まで移動する必要がある。高い位置へのマイキングでは、操作のたびに下に下ろして画面を見ながら操作、設定が終わったらまた戻すのは非常に面倒だ。そして、たとえ手の届く、近い位置から狙う場合でも、マイクがこちらを向けば本体のディスプレイは逆さになりボタン操作もやりにくい。しかし、手元のスマホからコントロールできれば、こうした面倒はすべて解消できるというわけだ。また、ライブ会場での録音を行う場合でも、観客の手の届かない位置にセッティング、離れた位置から操作すれば安心して収録が行える。


▲iPhone/iPad、Androidからワイヤレスでリモートコントロールが可能。三脚を使うことで自由な角度にマイキング、画面が上下逆になってもスマホから操作できるので問題なし。

このほか、タッチノイズの問題もWi-Fi接続で解決する。マイク内蔵のレコーダーでは、録音中のレベル調整やボタン操作時の音がノイズとしてどうしても収録されてしまう。しかし、本体を触らなければこの問題は起こらない。もちろん、ワイヤードのリモコンでもタッチノイズの問題は解消できたわけだが、従来のワイヤードリモコンでは録音スタート・ストップなどの操作に限られ、フォーマットの変更などは本体での操作が必要だった。Wi-Fi接続のスマホからの操作ならこれらの設定も可能だし、大画面で直感的にコントロールできるというメリットもある。

こうした恩恵をもたらすWi-Fi接続。実際の使用方法を紹介する前に、まずはレコーダーとしての基本スペックをチェックしていこう。

■24ビット/96kHz対応、高音質X-Yマイクの搭載など充実の基本スペック

「DR-22WL」の本体サイズは、52.2(W)×155(H)×36.6(D)mmとしっかり握って確実に操作できる大きさ。他社製品には手のひらにすっぽり収まるようなより小さいレコーダーもあるので、このサイズはさほどコンパクトとは言えないかもしれないが、その分操作性は「DR-22WL」が上。バックライト付き液晶ディスプレイも情報量が多く、多機能性を十分に発揮できる仕様だ。


▲上部のマイクはX-Y方式。モニタリング用の音量調整ボタンは右側面、録音レベルのダイヤルは底面に配置。右側面には外部入力(ステレオミニ)、microSDカードスロット、MicroUSBコネクタが用意される。

本体上部のステレオコンデンサーマイクは「X-Y方式」と呼ばれるもの。単一指向性マイクを直角に配置することで、中央の音が小さくなる「中抜け現象」が起きにくい構造となっている。マイクを外側に向けた「A-B方式」がライブコンサートの収録や走行音の録音などの収録において広がりのある音が得られるのに比べ、「X-Y方式」はインタビューや楽器などの単一の音源の収録に適している。自身の楽器演奏を収録したいというユーザーにはこちらがベストだ。

収録される音声は非常にクリアで、聴いていた音が素直に録音されているといった印象。ソロ楽器のニュアンスの再現はもちろん、発表会やインタビューでのメモ収録でも発言者の位置がしっかり把握できる。さらに大音量でのライブステージでも音割れすることなく迫力のあるサウンドが収録できた。「大音量でも歪まないマイクユニット」「音圧125dB SPLの大音量を確実に捉える耐高音圧設計」というウリ文句がダテではない。

この高音質を生かして野外のフィールドレコーディングで使いたいという人も多いだろう。この機種に限った話ではないが、野外での収録では風切り音が気になるので、ウィンドスクリーン(風防)は必須。TASCAMからはオプションとして「WS-11」(オープンプライス)という製品が発売されているので、屋外で利用したい場合はこちらの購入も検討したい。

対応フォーマットは非圧縮のWAVとMP3。WAVのサンプリング周波数は44.1kHz/48kHz/96kHzから、量子化ビット数は16ビット/24ビットから個別に選択。おもに放送業界で使われるBWF(Broadcast Wave Format)にも対応する。MP3の場合は、サンプリング周波数は44.1kHz/48kHzのみで、ビットレートを32k/64k/96k/128k/192k/256k/320kbpsから選択することになる。記録メディアはmicroSD/microSDHC/microSDXCカードに対応、最大128GBのメディアが利用可能。4GBのmicroSDHCカードが付属するので、購入後すぐにレコーディングが楽しめる。

電源は単三乾電池×2。アルカリ電池とeneloopなどのニッケル水素電池が使用できる。録音時の電池持続時間はアルカリ電池で約17.5時間、ニッケル水素電池で約13.5時間(いずれも内蔵マイク使用時)と十分なものだ。また、MicroUSB端子からの給電も可能で、パソコンのUSBバスパワーでも動作、純正オプションとしてUSB対応ACアダプター「PS-P515U」も用意される。

冒頭で触れた自由なマイキングを可能にするのが、本体裏に設けられたカメラの三脚に取り付けられるネジ穴。カメラ用の三脚は非常に安価なものもあり、入手しやすいのがメリット(100円ショップにすら置いてある!)。高価で本格的な製品でなくても、自由な角度にセッティングできれば、音のクオリティアップへの第一歩が踏み出せる。また、このネジ穴と本体のコンパクトさを生かして、デジタルカメラでの動画撮影時の音質アップを図るのもいいだろう。

■シンプルでわかりやすいシーンダイヤルを装備

操作性では同社のリニアPCMレコーダーでは初となるシーンダイヤルに注目。デジタルカメラのモード切り替えダイヤルのような形で、8つのシーンに対応、それぞれのシーンに異なるセッティングをプリセットしている。詳細はTASCAMウェブサイトの製品ページの解説を参照してほしいが、「EASY」ならオートレベル機能が有効になり録音ボタン1発で録音開始可能(その他のモードでは、1度目で録音レベル調整のためのモニタリングがONになり、2度目の録音ボタンで録音スタートとなる)。ライブ録音向けの「LOUD」ならリミッターと40Hzのローカットフィルターが有効になり、初期録音レベルも低めにセッティングされるという具合。もちろん、フルに設定できるMANUALモードも用意される。

また、楽器の練習に便利な「PLAY FUNCTION」では、再生速度の変更やキーチェンジ、A-Bリピートが利用可能に。「DUB」は収録済みトラックの再生音に合わせて音を重ねられる多重録音の機能で、本体のみで音を重ねる「オーバーダブ」機能と、外部スピーカーから音を出力して音を重ねるエアダブ機能の2種類のモードを用意。1人でヘッドホンで多重録音するなら「オーバーダブ」、合唱などの録音には「エアダブ」を選ぶことになる。個別のトラックに収録するMTRと異なり、元の音に重ねて録音する(=元のトラックはそのまま残るが、後から録音した部分だけを個別に取り出すことはできない)ので、録音時にレベル調整をしっかりやる必要はあるが、手軽に多重録音ができるのは思いのほか楽しい。ギターの練習時にバッキングを先に収録してソロを重ねたり、PCから取り込んだカラオケに歌を乗せるなど、アイディア次第でいろいろな使い方ができそうだ。リバーブも用意されるので、気持よく演奏や歌の収録が進められるはず。なお、これ以上の機能を求める人、多重録音を本格的にやりたいという人は、4ch MTR機能を備えた「DR-44WL」がオススメだ。

シーンダイヤルで設定できない、フォーマットの選択や各種機能の設定におけるメニューの操作はディスプレイ下の4つのファンクションボタンで行う。4方向カーソルに比べるとちょっと直感的に使えるとは言いがたく、場面によって機能が変わるので最初は戸惑うことも多かった。それでもメニュー階層は浅く、タブ切り替えにより1画面に収まる項目も少ないのですぐに慣れる範囲と言える。後述のWi-Fi接続によるスマホからの操作で、それら不満の多くは解消できるだろう。


▲メニュー画面。4つのファンクションキーの左からタブ切り替え(右方向にのみ移動)、上下カーソル移動、ENTERで設定となる。タブは4ページで、各画面の項目数はスクロールする必要がない範囲に収まっている。

録音レベル調整には本体下部に専用のダイヤルを用意。回しきることがなくどこまでも回せるタイプで、可変幅が大きく細かい調整が可能。回すと自動的に液晶ディスプレイにインジケーターが表示されるので、レベルメーターを見ながら合わせることになる。録音中の操作ももちろん可能だ。左側面のヘッドフォン/ライン出力の隣にはモニターレベル用のボタン上下を用意。右側面にはMicroUSB端子、microSDカードスロット、外部マイク/ライン入力(エレクトレットコンデンサーマイク対応)が配置される。

■Wi-Fi接続はカンタン設定、カンタン操作


▲本体のWi-Fiボタンを押すと左の画面が表示される。ここでYES(ファンクションキーの左から2番め)を押すと、右の画面になり、SSIDとパスワードが表示される。
それではいよいよWi-Fi接続の手順をチェックしていこう。Wi-Fi接続では「DR-22WL」本体が親機となり、スマホ(タブレットも同じ、以下同)と1対1で接続されるので、アクセスポイントは不要。本体のWi-Fiボタンで接続を開始すると、SSIDとパスワードが表示されるので、スマホ側ではそのSSIDを選択し、パスワードを入力。接続が完了すると本体下部の青いLEDが点灯する。2回目以降の接続では、本体でWi-Fiボタンを押して、スマホでSSIDを選択するだけでよい。あとは専用アプリの「DR CONTROL」で操作することになる。

スマホアプリ「DR CONTROL」はiOS版とAndroid版がリリースされており、いずれも無料で使用可能。ただし、Android版は現在ベータ版で、後述のストリーミング機能やファイル転送機能など、一部の機能が実装されていない。それでもフォーマット変更や録音スタート・ストップ、頭出し用のマークを付けるといった録音の中心となる機能は備えているので、遠隔操作の魅力は十分に味わえる。


▲iOS版の画面。左は録音中のもので、少々反応が遅いがレベルメーターやピークの状態も確認できる。2番めは最もよく使うであろうINPUTの設定。録音レベルの設定のほか、ローカット、リミッターもワンタッチ。3番めはMENU画面。REC SETTINGを選ぶと4番めの画面に。フォーマット(WAV/BWF/MP3とビット数)、サンプリングレートなどが設定できる。非RetinaのiPhone 4では画面がくずれ設定できない項目もあった。


▲こちらはAndroid版。録音関連の設定のみで、ファイル転送などはまだサポートされていない。
本体での操作と比較するとスマホアプリの方が直感的に操作できるという印象だ。録音レベルはダイヤルをぐりぐり回すことなくスライダーでダイレクトに調整可能。ローカットフィルターやリミッターのON/OFFも設定できる。再生時は再生位置を示すスライダーを直接タップして任意の位置への頭出しができるのもなかなか便利だ。なお、録音時にはスマホ経由での音声モニタリングはできないので、ヘッドフォンを本体に挿して行うことになる(あくまでもスマホはリモコンなのだ)。本体との距離が離れすぎて、ヘッドフォンでのモニタリングができないという場合でも、入力音のレベルメーター、-12dBインジケーター、ピークインジケーターの表示はアプリの画面で確認できるので、録音開始前にある程度セッティングをつめておけばよいだろう。位置や角度を決め、ベストなマイキングのままで本体を動かさずに、スマホアプリでさまざまな設定で録音が試せるのはなかなか快適。これは頭では理解していたつもりでも、実際に試すまでは実感できなかった部分だ。


▲バッテリーが残っている状態でもWi-Fiが先に停止し、録音を継続する安全設定。
Wi-Fi接続で注意が必要なのは、通常の録音時よりも電力を消費するという点。バッテリー容量を示すインジケーターが3分の1になったあたりで「Low Battery Wi-Fi Off」と表示され、接続が切られてしまい、アプリからの操作や状態確認ができなくなる。その後も録音は続くので最悪の事態は防げるのだが、不安ならACアダプターなどの外部電源を用意しておきたい。

ちなみに今回、かなりヘタったeneloopでテストしてみたのだが、2時間ほどでWi-Fi接続が切れても、さらにその後5時間以上録音を継続することができた。あまりにも長持ちするため最後まで確認することはやめてしまったが、終了処理もしっかり行われファイルが消えてしまうことはなかった。この例からも通常の録音では電池の持ちをさほど心配することはないかもしれない。

また、テストした環境が原因かもしれないが、まれに接続が切れてしまうことがあった。スマホアプリ上の録音時間を示すカウンタが進まなくなり、レベルメーターも更新されなくなるという状態(この間も本体のLEDやスマホの無線設定を見る限り、Wi-Fi接続は確立されたまま)。これはアプリを再起動することで表示が復活するし、その間も録音は継続されクリティカルな状況にはならなかった。TASCAMではソフトウェアや本体のファームウェアの更新も何度か行っており、そのたびに安定度は向上してきているので、こうした問題は早々に解決されると思われる。

録音済みデータに関しては、Wi-Fi経由でのストリーミング再生が可能、さらに本体内のファイルをスマホに転送することもできる(両機能とも現時点ではiOS版のみ)。アプリ内にはSoundCloudへのアップロード機能があるので、「本日のライブを終了後に即インターネットで公開」といった芸当ができるのも本機ならではだ。24ビット/96kHzのハイレゾデータでは容量が大きく、ファイル転送に時間がかかるため、即時性を求めるならMP3が現実的な選択だろう。


▲Windows版の画面。ファイルを選択してCOPYボタンを押すだけのカンタン操作で転送が行える。転送時間は117MB(24ビット/96kHzで3分34秒)で4分程度だった。
配信用のMP3とは別に非圧縮のデータも残しておきたいという向きには、2種類のフォーマットで同時に録音する「DUAL FORMAT REC」の活用がオススメ。これは非圧縮のWAV(BFWも可)で録音しつつ、Wi-Fi転送用にMP3でも同時に録音することができるという機能だ。この際のWAVのフォーマットは16ビット/44.1kHzまたは48kHzまでとなる。上位モデルの「DR-44WL」では24ビット/96kHz対応、4ch同時録音を生かしてレベルオーバーを防ぐために録音レベルを抑えた録音も同時にできる「DUAL REC」機能を備えているが、フォーマット違いのみの「DR-22WL」も十分に役立つはず。両者を比較する際はこのあたりもポイントになると思われる。

スマホアプリのほか、Windows/Mac用にファイル転送専用のソフトウェアとして「TASCAM DR FILE TRANSFER」もダウンロード提供されている。接続設定はスマホと同様、Wi-Fiの接続先を「DR-22WL」本体に設定することで行う。こちらもハイレゾデータは時間がかかるのだが、本体とのケーブル接続やSDカードの出し入れをすることなく、パソコンにデータを持ってこれるのは便利だ。

■カンタン操作・高音質のレコーダー、キャンペーンにも注目

シーンダイヤルに代表されるシンプル操作で、24ビット/96kHzの高音質の録音が行える「DR-22WL」は、会議録音などのちょっとした音声メモから、楽器・ヴォーカルの録音、ライブ収録、フィールドレコーディングまで、オールマイティにこなせる実力を備えている。「操作がカンタンな方がいい」、でも「時には凝った録音もしてみたい」という人には実にぴったりなモデルだ。そして、Wi-Fi接続によりこれまでにない自由なマイキングができ、効率のいい録音環境が整う点も非常にメリットが大きい。さまざまな場面でこの機能があってよかったと思うことは多いはず。さらにメトロノームや、録音開始操作の2秒前からの音を録音できるプリレック機能など、今回触れられなかった便利な機能もまたまだたくさんある。リニアPCMレコーダーを初めて買うという人はもちろん、すでに所有しているがより便利な録音環境が欲しいという人は、ぜひチェックしてほしい。

この冬、TASCAMでは「DR-22WL」をはじめとしたレコーダーやオーディオインターフェイスを購入した人に、景品をプレゼントする「Get One Free キャンペーン」を実施中だ。「DR-22WL」とあわせて使いたいウィンドスクリーン「WS-11」や、キャリングバッグ、USBメモリーなどが景品としてラインナップされている。期間は2015年3月31日まで。各賞先着300名までなので、こちらも早めのチェックを。

製品情報

◆DR-22WL
価格:オープン(市場予想価格 17,800円前後)


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