【インタビュー】イディナ・メンゼル、「Let It Go」は運命の賜物、エルサの体験したことに耳を傾けようって思うわ
2014年、最も活躍したアーティストのひとりとして、イディナ・メンゼルを欠かすことはできないだろう。ディズニー映画『アナと雪の女王』で“雪の女王”エルサ役(声の出演)を演じ、自らが歌った主題歌「Let It Go」ではアカデミー賞最優秀主題歌賞を受賞、一気に世界的なスターダムに躍り出たアーティストだ。
◆イディナ・メンゼル画像、インタビュー映像
これまでにも『レント』や『ウィキッド』などの人気ミュージカルで活躍しトニー賞受賞経験も持つ彼女だが、「Let It Go」の大ヒットを経て、彼女の作品には大きな視線が注がれている。11月12日に発売となったクリスマス&ウィンター・アルバム『スノー・ウィッシズ~雪に願いを』には、日本だけのスペシャル・トラックとして山下達郎「クリスマス・イブ」英語カバーも収録されている。ゆったりとした壮大なミュージカル風アレンジに載せたイディナのカバー・バージョンは、ダイナミックなフェイクが新鮮な表情を生み出すオリジナリティ溢れるテイクとなっている。
大きな一歩を踏み出した2014年をイディナ・メンゼルはどのように捉えているのか。大ヒット「Let It Go」のオリジナル作品を歌う本人をキャッチ、インタビューを試みた。2014年10月8日、ニューヨークでの会話である。
──何歳くらいから歌を歌うようになったのですか?
イディナ・メンゼル:歌を始めたのは小さい頃。正確にいつだったかは思い出せないけど、いつも歌ってたわ。
──子供時代はどんな少女でしたか?
イディナ・メンゼル:子供時代、ね…(笑)。普通だったんじゃないかしら。私はまともに成長したし。ちょっとクレイジーな部分もあるけどね。ニューヨークのロングアイランドで育ったんだけど、舞台劇はたくさん観たわね。両親に連れられて、ブロードウェイ観るためにマンハッタンにはよく来てたの。でもそれから、私が15才の時に両親が別れて、すごく辛い思いをしたの。おかげで、自分の中のホリデイシーズン(=クリスマス&年末シーズン)に対する気持ちがすごく変わったわ。両親が一緒じゃないと、ホリデイを乗り越えるのって大変だから。だから、しばらくの間、ホリデイっていうと、なんだか悲しい気持ちになったりしていた。でも男の子を授かってから、彼の目を通して見つめることで、(ホリデイの楽しさを)再発見できるようになったわ。
──ミュージカル女優をめざそうと思ったのはいつ、どうしてですか?
イディナ・メンゼル:とにかくいつも歌っていたし、やりたいことはずっと歌うことだったから…。初めて観た舞台はミュージカル『アニー』で、その次に『ドリーム・ガールズ』を観たのね。劇場に座って、照明が落ちると共に序曲が始まって…。その瞬間に鳥肌が立って、ゾクゾクっとして、これこそが自分がやりたいことだって感じたの。
──ミュージカルのキャスト・レコーディング以外に、ご自身のオリジナルアルバムもリリースしていますが、きっかけは?以前からポップ・シンガーも目指していたのですか?
イディナ・メンゼル:いい質問ね。私、もともと歌は得意で、いろんなスタイルの音楽をこなしてたのね。だから逆に、自分にとってどんなサウンドが一番楽しいのか、そして聴いている人にとって、アピールがあって、共感できるサウンドはなんなのか、見い出すのに時間がかかったわ。小さい時はクラシックを歌ってたの。クラシック・ボーカルのレッスンを受けていたし。それから結婚式やバル・ミツワー(注:ユダヤ教徒が行う成人式的なセレモニー)で始終(シンガーとして)仕事するようになったから、いろんなタイプの音楽を学ぶことになったのね。マドンナやホイットニー・ヒューストン、アレサ・フランクリンやビリー・ホリデーとか、いろんなジャンルの音楽を知ることになったわ。それからオリジナルの歌を書くようになって。『レント』はそういった、それまでの経験が見事に集結した形になったのね。ミュージカル、しかもロック・スタイルのミュージカルだったわけだから。私にとって両方が一緒に楽しめる手段だったの。
──映画『Frozen(邦題:アナと雪の女王)』でエルサ役をやることになった経緯を教えてください。元々は『塔の上のラプンツェル』のオーディションがきっかけだったとか?
イディナ・メンゼル:そう、ディズニー映画『塔の上のラプンツェル』用にオーディションを受けたんだけど、その時に、ビートルズの「ブラックバード」を歌ったのね。(※少し口ずさむ)そこで、聞かれたのよね…何聞かれたんだっけ…とにかく、「ブラックバード」を歌ったんだけど、実はキャスティング担当の人が、私のオーディションの歌を無断で録音して、そのまま携帯に残してたの。結局、『塔の上のラプンツェル』で、その役はもらえなかったんだけど、その担当の人が録音を保存したまま、何度か聴いてたんですって。それで、『アナと雪の女王』の企画準備が始まった時に、彼女がそれを周りの人たちに聴かせて、「この子、この役にぴったりじゃない?」ってプッシュしてくれていたらしいの。
──ちなみに最初のオーディションからどれぐらい経ってからの話だったんですか?
イディナ・メンゼル:2年ぐらいしてからよ。
──映画『アナと雪の女王』は2014年日本最大のヒット映画、そして主題歌「Let It Go」も日本では最大のヒット曲です。エルサの役、そして「Let It Go」という曲は今やあなたにとってはどんな存在ですか?
イディナ・メンゼル:運命の賜物としか言いようがないわ、いろんな意味で。仕事はいつだって、自分にとって意義あるものを、と思ってやっているけど、この役がここまで成功するなんて思ってもみなかったわ。ディズニー映画だってことはもちろん分かっていて、それに参加することに関しても誇りに思っていたし、この歌もいい歌だってことは分かってたけど、これだけ幅広く、たくさんの人から反響があるとは思ってなかった。本当にありがたいことだわ。世界から毎日のように、小さい女の子や男の子があの歌を歌っているビデオが送られてくるの。そのおかげでしょっちゅう、エルサの体験したことに耳を傾けようって思うのよ。自分の中で、なぜだか自分は馴染めない、とか疎外感を感じさせるものこそ、時に本当に自分を特別な存在にするものなんだ、ってことを教えてくれるから。
──映画『アナと雪の女王』の中では雪と寒さの女王役を務めたわけですが…。
イディナ・メンゼル:氷と雪の女王だけれど、私自身は冷たい人間ではないのよ(笑)。少なくとも自分ではそう思っているわ。もちろん、ご機嫌斜めな日もあるけど。私は温かいし、デリケートなタイプなの。日本語だと、氷の女王とか雪の女王って聞いてどんな印象かは知らないけれど、英語だと、感情のない人、みたいな印象なの。でも本当は逆でしょ?エルサはすごく感情豊かで、ただ、自分の中から湧き出るパワーを止めることができなかったの。
──本当はどちらかというと情熱的で気性の激しいタイプですか?
イディナ・メンゼル:(笑)そうね、結構。でも、いろんな自分を抱えてるわ。誰だってそう、その日によって。みんないろんな面を持っているもの。でも、私はなかなか激しい部分もあるわ。ニューヨーク・ロングアイランドのユダヤ人家族の中で育ってきたから。言葉遣いが荒いことも多いし、話し声も大きいし、喧嘩も仲直りも激しいし。だからそう、熱いわね。しかも私、双子座だし(笑)。
──新作はご自身にとって初めてのクリスマス&ウィンター・アルバムですね。エルサ役のあなたが冬の歌を歌う、ということで注目が集まっている中、いよいよリリースされますが、今の心境は?
イディナ・メンゼル:2014年は私にとってすごく信じられないような一年だったの。素晴らしいことがたくさんあって。このアルバムは皆にぜひ気に入ってもらいたいと思っているけど、母親になるとね、今この時を見つめるってことを学ぶのよ。あと、小さい事は気にするな、いろいろ真に受け過ぎないように、って。だから、このアルバム作りは楽しんでやったわ。最近、物事のプロセスの方が大切に思えるようになったの。もちろん、いい物を作りたかったし、聴く人に何か感じてもらいたい、新しい形で私を知ってもらいたい、っていう気持ちはあったわ。でも、成功するかってことについては気にしないようにしている。だって、この1年は本当に素晴らしい年だったから。
──日本ではあまりなじみのないクリスマス曲もあるのですが、どんなところを聴いてほしいですか?
イディナ・メンゼル:ジョニ・ミッチェルの「RIVER」っていう曲をカバーしてるの。必ずしもクリスマスやホリデイ・シーズン用に書かれたものではないと思うんだけど、季節的にはその頃の曲で、私のお気に入りの歌のひとつなの。だからみんなにぜひ聴いてもらいたいわ。ぜひ、歌詞を聴いてもらいたい。彼女は史上最高のリリシストのひとりだし。他には何かしらね…どの曲が馴染みがあって、どれが馴染みがないのか分からないから…。
──例えば「DECEMBER PRAYER」は?
イディナ・メンゼル:あ、そうね!このアルバムには、オリジナル曲も入っているのよ。プロデューサーのウォルター(・アファナシェフ)と、私の友達のチャーリー・ミッドナイトと共作した曲で、「DECEMBER PRAYER」っていうタイトル。すごく自慢に思える曲なの。信仰や考え方に関係なく、誰にでも捧げられる曲で、みんなが久しぶりに家族と一緒に過ごしたり、心の平穏とか、安らぎや落ち着きを見いだせるこの季節に向けての私の願いを込めたものなの。
──大御所ウォルター・アファナシェフをプロデューサーに起用した経緯は?彼とはどうやって知り合ったのですか?
イディナ・メンゼル:知り合ったのは2年ぐらい前のこと。ウォルター・アファナシェフと仕事するのは昔から夢だったの。もう何年もずっとホイットニー・ヒューストンのアルバムを聴いていたし、彼はマライア・キャリーやバーブラ・ストライサンドとか、私が好きなアーティストをほとんどみんな手がけてきた人。だから彼と仕事するのは長年の夢だったのね。2年ぐらい前にやっと、一緒に歌を作る機会があったんだけど、アルバムを作るまでには至らなかったの。だから、今回の企画が上がった時、パーフェクトな機会だ!ってことになったわけ。彼は本当に素晴らしいピアノ奏者であり、アレンジャーでもあるのね。みんながもう何万回と聴いたことがあって、すごくよく知っているような曲でも、ちょっとなにか新しいものを加えて、みんなが気に入ってる部分は上手に残しつつ、新しい捉え方を提案してくれる人なの。
──ほかに収録曲の中でもお気に入りの1曲はありますか?
イディナ・メンゼル:いくつかあるけど…「SILENT NIGHT」は気に入っているわ。「SILENT NIGHT」の最後の部分に入れたボーカルは、新しい試みで好きなの。それと…なんか自分のアルバムの収録曲が、ひとつも思い出せないわ!(笑)ほかに何が入ってたっけ…?(笑)
──15曲あるので、かなりの数ですが…
イディナ・メンゼル:「Do You Hear What I Hear」は最初の曲だけど、あれは、ホイットニー・ヒューストン版を子供の頃、クリスマス時期になると何度も繰り返し聴いていたのね。だから歌っててすごく嬉しかったわ。…そもそもこういうアルバムを作る理由は、音楽自体が定番で、特別で、メロディーが秀麗だからじゃない?シンガーにとっては、すごくやる気が出るものばかりだもの。どの曲も愛情だったり、心から感情を込められるものだから。
──マイケル・ブーブレと共演してみてどうでしたか?
イディナ・メンゼル:マイケルのカリスマにはちょっと緊張しちゃったわ。でも彼はすごく気さくで、優しい人。彼と歌えたのも、私のキャリアにおいては大きな出来事だったわ。
──今回、日本だけのスペシャル曲ということで、山下達郎の「クリスマス・イブ」のカバーが収録されていますが、最初にこの曲を聴いた時の感想は?
イディナ・メンゼル:素晴らしい曲を耳にすると、思わず臆病になったりすることがあるのよ。(自分なりに)何か特別な物を加えたいって思ったりするから。でもたくさんの人が知っている曲だと、違うバージョンは聴きたくないって人もいるかもしれないし…それでも「自分らしさを持って、正直に心を込めて歌おう」って思い切るのよ。それで、ウォルター(・アファナシェフ)と一緒に、曲のエッセンスは残しながら私が入り込めるように新しいアレンジを考えたの。音階を変えて、楽器もちょっと変えたけど、美しい曲よ。
──実際にカバーして歌ってみてどうでしたか?
イディナ・メンゼル:(曲に)共感できなかったら歌ってないわよ。私は結構率直なタイプだから、何かピンと来てない部分があれば、表情や声に出ちゃうし、みんなも気付くはず。(無理に)フリをするのは得意じゃないのよ。
──この曲は、1983年にリリースされて以来、毎年クリスマス時期になると日本のシングルチャートTop100にランクインして、28年連続チャートイン記録中という、日本人にとって最大のクリスマス・ソングなんです…
イディナ・メンゼル:ほら、そういうこと!あの曲を聴いた時、「果たして私のバージョンを聴きたい人なんているかな…みんなこのバージョンが好きなんだから」って、正直思ったのよ。でもリリースされることになったし、誰か(私のバージョンも)楽しんでくれる人がいるのかも(笑)
──来日したことはありますか?
イディナ・メンゼル:まだ日本には行ったことないのよ。だから、2015年はできるだけ早く行ってみたいと思ってるの。
──近々来日の予定は?
イディナ・メンゼル:ええ、そうね。いろいろ案は出てるのよ。
──日本へ行ったら何に挑戦してみたいですか?
イディナ・メンゼル:うわー、逆に教えてほしいな(笑)。最初に行くべき場所はどこ?私はシンプルに、例えば東京に行ったら、街の中に座って、いろいろたくさんやらなきゃ、っていうプレッシャーなしに、美味しいお店に行って、ピープルウォッチングしながら、環境に身を委ねたいわ。旅行先で、全部いろいろ回ろうとすると、文化や人の様子を吸収することもなく、逆にパニックになったりするから。でも、一つやってみたいのは、あの山、有名な山があるでしょ?
──富士山ですか?
イディナ・メンゼル:そう、富士山だっけ?ほかにもある?みんなが登りに行く、一番高い山?あれはぜひ挑戦したいわ。
──では最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
イディナ・メンゼル:みなさん、こんにちは。イディナ・メンゼルです。いつも応援してくれて、そして私の音楽を聴いてくれて、ありがとう。ニューヨークまで舞台を観に来てくれた人たちに会うといつも、みなさんの国においでって言ってくれるので、行ける日を待ち遠しく思ってます。もうすぐ必ず行くからね!いつもラヴ&サポートを本当にありがとう!
インタビュー協力:Aiko Ishikawa
イディナ・メンゼル『スノー・ウィッシズ~雪に願いを』
WPCR-16123 \2,200(+税)
1.Do You Hear What I Hear
ドゥ・ユー・ヒア・ホワット・アイ・ヒア
2.The Christmas Song
ザ・クリスマス・ソング
3.Christmas Eve
クリスマス・イブ
4.Baby It's Cold Outside [Duet with Michael Buble]
ベイビー・イッツ・コールド・アウトサイド [Duet with マイケル・ブーブレ]
5.Have Yourself A Merry Little Christmas
あなたに楽しいクリスマスを
6.All I Want For Christmas Is You [feat.Kenny G]
恋人たちのクリスマス [feat.ケニーG]
7.What Are You Doing New Year's Eve?
ホワット・アー・ユー・ドゥーイング・ニュー・イヤーズ・イヴ?
8.December Prayer
ディセンバー・プレイヤー
9.When You Wish Upon A Star
星に願いを
10.Silent Night
きよしこの夜
11.River
リヴァー
12.Holly Jolly Christmas
ホリー・ジョリー・クリスマス
13.White Christmas [feat.Kenny G]
ホワイト・クリスマス [feat.ケニーG]
14.Mother's Spiritual*
マザーズ・スピリチュアル
15.Let It Snow, Let It Snow, Let It Snow*
レット・イット・スノー
*Bonus Tracks
◆イディナ・メンゼル・オフィシャルサイト
◆イディナ・メンゼル・オフィシャルサイト(海外)
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