【インタビュー・後編】安倍なつみ、「人生何が起こるか(笑)。自分でも驚いてる」
2014年、ソロ活動10周年を迎えた安倍なつみが、10月22日にアルバム『光へ -Classical & Crossover-』をリリースする。本作で安倍は、ミュージカルやライト・クラシックの名曲に挑戦している。
先に公開した前編に引き続き、アルバム『光へ -Classical & Crossover-』収録曲ひとつひとつに込めた想いを語ってもらった。
◆ ◆ ◆
■ 「カーネーション 〜NHK連続テレビ小説「カーネーション」より」
安倍:「カーネーション」は、椎名林檎さんの曲が好きで入れました。他にも何曲か挙げていたんですけど、今回のアルバムコンセプトからあまりにもかけ離れている曲は省かせてもらって。もう、椎名林檎さんの好きな曲、いっぱいあるんですけどね。今まで自分のソロのコンサートでも歌ったことがあったかな。この「カーネーション」という曲を聴くと、目に見えない命とか生きること、そういう大きなイメージが湧いてくるんです。もしかしたら林檎さんのもっている世界観とは違うかもしれませんけど、自分なりに聴いて感じたこのイメージを大事にして歌ってみたいと思いました。
── うん。
安倍:この曲の3拍子のリズムと独特の世界観。そこから私なりにキャッチした感情と音をストレートに出していこうと思いました。途中にハープの音が入ってくるんですが、その部分がとても印象的で。まるで、水面に水滴を垂らすと、そこから波紋がふわーって広がるようなそんなイメージ。それが最初から最後までずっと続く感じなんです。そのイメージを大事にして歌っていますね。
なんともいえず、繊細な曲です。
── なるほど。私は聴かせてもらって、安倍なつみというボーカリストは高音部分がとてもスウィートだなと思って。
安倍:スウィート?(笑)
── スウィート。“甘い”って言っちゃうと、「なっち、高音甘いな」って誤解されそうなんですけど。そうじゃなくて、とてもスウィートな響きがするなと思って。お菓子とかで流行りの希少糖みたいな。
安倍:希少糖(笑)。すごい表現ですね。おもしろい。
── (笑)やさしい甘み。
安倍:ダイレクトに甘いわけじゃなくてね(笑)。嬉しいです。
■ 「サリー・ガーデン〜風と少女〜」
安倍:これはもう優しく、子守歌を歌ってる感じで歌いたかったんですよ。私、生まれ育ったのが北海道なので、あの広大な自然などを思い浮かべたりもします。柔らかいイメージで、もうあんまり言葉言葉を切らないで、フレーズが全部繋がってるようなイメージ。クラシックの歌い方では多いのですが、聴いてるとあんまり言葉で区切らない。でも私は、リズムとかビートで切り癖があって。ブレスをいっぱいとる歌い方に慣れてました。でもそうじゃなくて、すっと流れていくような、最初から最後までひとつの風で、音に寄り添うような感じで歌いました。この世界観を大事にしながら。
── なるほど。私もこの曲を聴いた時にメモをとったんですけど、(メモを見ながら)“歌詞とメロディに寄り添う感じがする”って書いてます。
安倍:一緒ですね。嬉しいです。
── 歌から伝わりました。
安倍:大勢の人に向けて歌う感じではなく、すぐ目の前にいる子供だったり、身近な聞き手に向けて歌うような感じで、大切にひとつひとつの言葉を紡ぐように歌いました。
■ 「グリーンスリーヴス〜永遠〜」
安倍:この曲はもう、切ないナンバーなので、あんまり感情移入せず、シンプルに歌いました。あんまりこういう曲に自分の想いを入れ込みすぎると、“あれ……?”みたいなことになっちゃうので。「なっち、何かあったの?」みたいな(笑)。
── あははは。
安倍:“あれれ?”ってなるから(笑)だからこそ、余分な感情を削ぎ落として。なんかシンプルに歌った感じですね(笑)。
■ 「私だけに 〜ミュージカル「エリザベート」より」
安倍:この『エリザベート』というミュージカルは実は観たことがないんですよ。だけど、この「私だけに」は詞もメロディもすごく好きで。モーニング娘。の頃、ずっとそうだったわけではないけれど、やっぱり自分がやりたいこととは違う、でもやらなければいけないというところに、気持ちが重ならないまま、「……うーん」と思いながら時が流れていったようなことが続いた時期もあって。
── 周りから注目されたり、期待される職業はそうですよね。
安倍:この『私だけに』という歌は、主人公の王妃が、結婚して自由が奪われた世界にいて、だけど本当の自分は自由を愛していて、私だけにしかないものがあるのに、という内容なんです。「縛られた世界で苦しい想いもして、だけど私は私らしく生きたい」という大きな決断をする歌なんですよ。ほんとに大きなナンバーで。すごく自分の今までの経験も重なるし、フレーズのそれぞれがすごく心に響いてきて。この曲は、ほんとに自分に言い聞かせるように始まるんですよ。私はこういう人間だよ、でもこれだけは譲れない。語り口調で喋っているように歌が始まるんです。なんというか、「音符を上から当てている」ような感覚。この歌の主人公は、今まで自分が歩んできて得たもの、経験や、人生で出会ってきた人や、今ある自分の置かれている状況とか、さまざまなものを俯瞰で見ているんですよ。でも今の私は違う、みたいな。もうどこか決意があってこういうふうに歌っているので、よけい気持ちもそうなるし。
── いや、もう出だしの“いやよ”っていうところから、なっちの声が違う。
安倍:(笑)
── “大人ななっち”みたいな響きがしたんですけど、今、お話をうかがうと、それは強さというか決意というか。
安倍:そうなんですよ。決意の強さなんだと思います。
── 「グリーンスリーヴス」とか「サリー・ガーデン」とか、あのへんの声よりも10歳ぐらい年上みたいな。
安倍:そうですよね。なんか人生重ねている感じですよね。私の場合、1回その歌詞を読んでみるんです。その主人公の気持ちになって読んで、それから歌うと歌が少し変わるんですよ。
── なるほど。
安倍:メロディをそのまま歌ってもそれだけ。だけど1回、しっかり読み込んでから歌ってみると、ほんとに違う。これはミュージカルのある先生が教えてくれたやり方でした。そうか、歌おうとするからダメなんだって。不思議なことにキーに関してもそうで、たとえば“この部分はキーが高くて歌えない”って思っても、1回読み込んで、感情を捉えながら“がーっ”と歌うと、出ないと思っていたキーが出たりするんですよ。感情との一致というのがものすごい大事で、不安要素とか変な雑念が入ると声が出なくなってしまうんです。それぐらい繊細だから、ちゃんと気持ちを込めて歌えば、出るんですよ。ぐわーって(笑)。
── あははは。
安倍:そうそう(笑)。
── すごい軽く言ってるけど、すごいことだから。
安倍:いやいや(笑)。もちろん訓練も重ねなきゃいけないけど、ほんとにその「感情を込めること」がまずあるということは、とても勉強になりました。今回のアルバムでは、全編読み込んで、ぐーっとその世界に入ることができました。
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