【インタビュー・前編】安倍なつみ、「『レ・ミゼ』が、あまりにすごすぎて」
■ 「夢やぶれて ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より」
安倍:「夢やぶれて」は、「レ・ミゼラブル」の中の曲ですが、映画も舞台も好きで。実は最初、この曲は候補曲に入ってなくて、最後の最後の選曲の時にカラオケで歌ってみたらみんなが「入れよう!」ということになって。もともと同じく「レ・ミゼラブル」の曲である「オン・マイ・オウン」と「私だけに」は、2013年の本田美奈子.さんのコンサートで歌った曲だったので、入れることになっていたんです。それが、「ちなみに『夢やぶれて』はどうなんだろう?」とプロデューサーの方に言われて、「ちょっと入れて歌ってみようか」となって。「歌えるかな? たぶん歌えるとは思うんですけどね。」とか言いながら、入れて歌ったら、「これ、いい!」ってなって。「いろんな人が歌ってきてるけど関係ない、やっぱり曲がいいし、安倍さんの感情が乗っかることでまた違うものとして届くものがある」ということで。
── へえ。
安倍:ミュージックビデオもこの「夢やぶれて」で録りました。しかもこのビデオ用に、CDの録音とはまったく別の形で新たに収録したんです。しかも、東京フィルハーモニー交響楽団さんをバックに、生歌を、音と映像の同時収録でという、なかなか過酷な条件で録るという(笑)。さらに、オーケストラの方々がいらっしゃるので、何回も録り直しはできないとスタッフさんに言われて。
── (笑)
安倍:そんな経験初めてで。もちろん音が流れてる中で、リップシンクをとりながらパフォーマンスすることはありましたけど、音を録るなんてもう初めて。しかもクラシックホールでマイクを立てて。自分の中で「すべてが初めてだ、さあ安倍なつみ、どうする?」って(笑)。しかも横には指揮者の方、さらに反対側にファーストバイオリンの方がいて。そこからもうドキュメントだからカメラ回してますということで、「これはほんとにライブだ」と思って。だから、どこか演技してるような演じてるような感じもあるので、普通のライブのスタンスとはちょっと違いましたね。だからこそ、この(「レ・ミゼラブル」の劇中で「夢やぶれて」を歌う)ファンティーヌという役が自分の中で重なるというか、そういう瞬間もあって、こういうミュージカルなものって。
── コンベンションで拝見させてもらって、この曲を歌われたじゃないですか。ミュージカル・ナンバーを歌うと、なっちは瞳が変わるんですよ。
安倍:(笑)そうですか?
── うん。マイクの前に立った瞬間に瞳が変わって、歌い始めて、そして歌い終わって、一礼すると元のなっちに戻る。
安倍:(笑)
── だからファンティーヌ役になりきってるんだろうなと思って。
安倍:うん、そうです。ファンティーヌって、ほんとに苦しいじゃないですか、あんな想いをして。だからもうイントロが流れてくると、まるで自分がそういう想いをしてきたかのような苦しい気持ちになって。だからあの日(コンベンションの日)はMCが大変でした。切り替えが。引きずるから(笑)。
── そうそう。なんかあそこまで言葉が出てこなくなってるのって珍しいなと思って観てました。
安倍:もちろん緊張していたし、もうなんだかよくわかんない!(笑)。“どうしよう、誰かMCして! 代わりに誰か!”状態でした(笑)。
── しかもコンベンションだから周りも業界関係者しかいないですし。雰囲気から独特ですよね。
安倍:そうなんですよ! 始まる前とか、ほんとにシーンとしていましたしね。
── (笑)ですよね。10周年のバースデーライブの時とは違いますからね。
安倍:違いますね(笑)。バースデーライブでは、どっか私もゆるーい感じで出ていましたから。何か起きても大丈夫、みたいな。
── あと、ミュージカル女優の安倍さんとしてお聞きしたいんですけど、『レ・ミゼラブル』ってミュージカル女優の方々にとって、特別な作品なんですか? そういう意識はある? ない?
安倍:どうだろう。そこが目標という人もいっぱいいると思います。すごく繰り返し繰り返し世界中で上演されているし、私も観た時の衝撃は忘れられないし。作品自体が骨太で、誰が演じようと作品についてるファンがいるぐらい。『レ・ミゼラブル』って、それぐらいな作品なんですよね。映画も素晴らしかったし。私、初演の舞台が好きで。でも2013年から新演出に変わったんですね。でも、初演舞台の演出がどうしても観たくて、唯一やってたロンドンに去年行って、前から3列目で観たくらいなんです。
── すごい(笑)。
安倍:本当に素晴らしかった。ファンティーヌ役で、唯一、ひとりだけアジア人が出てるって知って。今日の出演キャストがバーッて書かれてるんですね、ボードで。ひとりだけアジア人、韓国の人でした。それも楽しみで観てたら、もう素晴らしすぎて。
── へえ。
安倍:実際のファンティーヌとは人種も違うけど、そういうのを超えて、大きな支持を得ていたし、私自身、グッときましたよ。しばらく席から、立ち上がれなかった。あまりにすごすぎて。もう他のミュージカルもいっぱいチケット取っていたんですけど、『レ・ミゼ』がずば抜けてすごかった。そのときの感動と衝撃が残っていて。もう、「はぁ~」ってため息しかでないくらいでした。その日、昼に観に行って、夜もミュージカルのチケットを取っていたんですよ。『リトルダンサー』だったかな。『マチルダ』かも。それを観ても、ぼーっとしちゃうぐらい、『レ・ミゼ』が、あまりにすごすぎた。もう、これだけでよかったって、思えるぐらい。
── へ、へえ。
安倍:そんなこともあって(笑)、まさか自分がこうやって形としてリリースする時がくるだなんて思ってもみなくて。
── ただ、やるせない曲ですからね。ストーリーに照らし合わせてみると。
安倍:確かに苦しいです。だからレコーディングの時、それは大変でしたよ。舞台のために作られたナンバーだから、舞台上で感情をむき出しで歌う人もいれば、いろんな人がいるんですけど。私もレコーディング中、涙が止まらなくなってしまい…。わからなくなるんです、加減が。いざアルバムや作品になった時に、聴いてる人が押しつけがましく感じるのもイヤだ、お涙ちょうだいもイヤだというのもあり、とても難しいんです。
── あー! それは、難しい。
安倍:レコーディングに入ると、その期間はちょっと過敏になったりするんですよ。気にならないことが気になってきたり、自分で判断ができなくなるんです。何をよしとして何がダメで。自分の気持ちとしては「よし、いけた!」というテイクでも、聴いてみると「ちょっと……あれ? 違う……」って思ったり。そのバランスというか、加減がわかんならなくなってしまい(笑)。だから何日かに分けてやらせてもらいました。ミュージカル・ナンバーというものは、どうしても感情のコントロールができなくなってしまうんです(笑)。だからこそ、余計にステージでやる時が難しいんですよ(笑)。
── ステージも難しい?
安倍:難しい。感情をコントロールしなきゃいけないし、でも感情を出したからそれが正解というわけでもない。まあ、ライブの時は、その時々の感情の高ぶりがあって、そうなった時はそうなった時で、いいかなとも思いますけど(笑)。
── いや、そうだと思いますよ。CDじゃなくてライブだし。
安倍:だからこそ、ライブでの私って、これからどうなっていくんだろうって、未知の世界なんです(笑)。やりながら見つけていこうかなとは思うんですけど。自分でコントロールするのがイヤなんですよね。なんか抑えるっていうか。
── いや、わかります、わかります。ライブだからいいんじゃないのかな。そのまま出せば。
安倍:ねえ。私もそう思うんですけどね。
→ インタビュー後編に続く
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◆安倍なつみ オフィシャルサイト(日本コロムビア)
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