【インタビュー】谷山浩子、心をくすぐる演奏も歌もおしゃべりもすべてノーカットの40周年ライブ盤
■スランプの頃までは世の中にあるものにすごく影響を受けていて
■現場でも“売れる曲を書いて”と言われて混乱していたんです
▲『デビュー40周年記念コンサート at 東京国際フォーラム』【初回盤】 |
▲『デビュー40周年記念コンサート at 東京国際フォーラム』【通常盤】 |
谷山:はい。
──あとは80年代後半に、メロディ先行の曲作りに変わっていく時期とか。そういうのって、バイオリズムといいますか、突然やってくるものなんですか。
谷山:何なんですかね? その、スランプから抜け出したのは突然だったんです。ちょうど抜け出した直後ぐらいに、知り合いの人がやっているバンドのライブを聴きに行って、すごく面白くて、“あ、こういう曲好き”と思って、書く曲の方向性が変わったということがありました。それは橋本一子さんと出会った時で…いや、そのあとですね。その前だと、何か理由があったかな? ふと、という感じでしたね。
──そのスランプというのは、ずっと作ってきた曲のストックを使ってアルバムを何枚か作って、それがなくなったところで起きたことだったと思うんですけども。そこで新しいモードに変わっていくという。
谷山:あのトークで“それまでの貯金を使い果たして”って言ったんですけど、これって本当の貯金のことだと思われるかな?って、ちょっと思いましたけど(笑)。そういうわけではないです。そうですね…(しばらく考える)…ひとつには、自分がどういう人間で、どういうものが好きかというのが、まだはっきりわかってなかったのかもしれないですね。そのスランプの頃までは、10代が続いていたような感じで、世の中にあるものにすごく影響を受けていて、現場のディレクターにも“売れる曲を書いて”と言われたりして、混乱していたというのもあるんです。
──はい。
谷山:だから、たとえば…その頃だと、中島みゆきさん、山崎ハコさん、荒井由実さん、あとはその頃売れていた曲の影響もかなりあるんです。あと、それまでの日本のフォークの影響もあって。そういう曲を作るんだ、と思っていた節がありますね。
──ああ、はい、プロとして。
谷山:というか、自分だけのものというのがよくわかっていないので、そういうところに行ってしまうというか。ある意味、まだアマチュアだったのかもしれない。アマチュアの人は、まず自分の好きな人をコピーすることが多いですよね。その中に時々、すごく良くできちゃったものがあるという感じで。だんだんそれが、いろんな音楽を聴いたり、本を読んだり映画を見たりしながら、少しずつわかってきたのかもしれない。何が好きか?ということが。だから『時の少女』(1981年)に入っている曲は、それがかなりわかってきて作ってるんです。
──それはすごく思います。『時の少女』の曲は、それまでとはっきり違いますよね。
谷山:それでも、まだそれ以前の感じを引きずっていたんですけどね。まず詞があって、言いたいことを書いて、それに曲をつけるというやり方を踏襲していたんです。それはフォークの影響だったかもしれないですね。
──ああ~、なるほど。
谷山:まずメッセージがあるという。そういうことからも自由になったのが、『冷たい水の中をきみと歩いていく』(1990年)だったんです。気がついたんですね、“あ、このほうが自由にできる”って。言葉のほうが自由になるので、曲が先のほうがいいんです。曲があれば、言葉はそれに合わせることができるので。言葉があって曲を合わせるのは、不自由な感じになるんです。
──そうなんですね。
谷山:そこで、メッセージという形で伝えたいことに、ごりごりに凝り固まる必要はないということがわかってきて。それはきっかけがひとつポンとあったわけじゃなくて、じわじわとそういうふうになっていったという感じです。自分から出てくる言葉だったら、それは自分だから、何もアジ演説をする必要はないし。
──そうですね。
谷山:あの時代はやっぱり、メッセージ性の強いものにとても価値があったんです。その呪縛というものが、10代の頃からあったんじゃないかな。私が小中高校生の頃は、政治性の強い音楽や、あるいは生活から出てきた音楽や、私小説みたいなものが、価値のあるものだとされていたので。今でも憶えてるんですけど、10歳も20歳も年上のおじさんたちに“何か違うんだよな”って、若い頃によく言われていて。これから、酒とタバコでノドをつぶしたあとに、やっと本当の歌が作れるようになるんじゃないかな、みたいな(笑)。
──それは、困っちゃいますね。
谷山:本当にそう言われましたよ(笑)。複数の方に、それに似たようなことを言われました。“今の浩子じゃ、まだ「プカプカ」は歌えないよな”とか(笑)。で、今も歌えないという(笑)。
──歌えなくていいです(笑)。谷山さんとはぜんぜん違う世界じゃないですか。
谷山:今思うと、歌えなくていいと思うんですけど。あの頃は、年上の人からそんなふうに言われると、それが真実だと思うわけです。
──フォークソングの時代の考え方ですね、明らかに。そしてそこから徐々に、自分の好きなこと、できることをみつけていった。
谷山:はい。
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