TASCAM、高音質ステレオマイク内蔵で手軽にマルチトラックレコーディングが楽しめるMTR「DP-006」
TASCAMのDIGITAL POCKETSTUDIO 「DP-006」は、非常にコンパクトで電池駆動可能なマルチトラックレコーダー(MTR)。最大の魅力は、どこでも手軽に持ち出すことができること。そして、ステレオコンデンサーマイク内蔵で思いついたらすぐに録音ができることだ。
◆「DP-006」~拡大画像~
マルチトラックでのレコーディングというと、パソコンのDAWソフトを使うのがすでに一般的になっているが、「DP-006」のような単体機にも捨てがたいメリットがある。手軽に持ち出せる機動性もそうだし、電源ONですぐにレコーディングがスタートできるのも大きなアドバンテージだ。
パソコンを起動、オーディオインターフェイスやマイクを接続して、DAWソフトを起動する。ふと思いついたフレーズを残したいという場合にはこの時間が非常に長く感じるもの。単体機ならそんな一瞬のひらめきを逃さずにレコーディングすることが可能。しかも操作は非常にカンタン。40代以上の人ならカセットMTR並み、あるいはそれ以上にカンタン・手軽という説明でピンとくるかもしれない(TASCAMはカセットMTRの代名詞的なブランドだ)。
また、DAWソフトとの併用でより便利な録音環境ができ上がるのも見逃せない。「DP-006」を導入すれば、出先でのレコーディングにPCとオーディオインターフェイス一式を持っていくなんて面倒とはオサラバできるのだ。
■MTRとリニアPCMレコーダーの違い
「リニアPCMレコーダーやボイスレコーダーと呼ばれる製品と、『DP-006』のようなMTRはどこが違うの?」
そんな疑問を持つ人も多いかもしれない。リニアPCMレコーダーは24ビット/96kHzといった高音質の録音が可能で、TASCAMも多くの製品をラインナップしている。しかし、これらはあくまでも録音は一発勝負。発表会やライブなど完成品を録音=記録するものといった側面が強い。対するMTRは、録音ずみのトラックを聴きながらそれに合わせてさらに録音が可能、複数パートを使った楽曲制作のための機材という位置づけだ。
たとえば、バンドのデモテープのレコーディングを考えてみよう。リニアPCMレコーダーでの録音では、1人が間違ったらもう一度最初から録り直しになるが、MTRであれば各パートを個別に録音できるので、録り直しは 1人だけで済む。ほかにもこんなメリットがある。
1. バンドメンバーが同じ時間・同じ場所にいる必要がない
2. 複数パートを一人ですべてこなせる
3. 各パートのバランスは録音後に調整できる
かなりざっくりではあるが、これだけでもMTRの便利さがわかるはず。特にポイントとなるのは2つめ。バンドをやっていない人でも、ギターやウクレレのアンサンブルを一人でこなすこともできる、弾き語りならボーカルと楽器を別々に録音して完成度は高められる、といった点に魅力が感じられるはず。合唱だって一人でできるのだ。もちろん、作曲や練習にも役立てることができる。
■カンタン操作でレコーディング
▲トラック1~4にはそれぞれレベルとパンのツマミ、RECボタンを用意。インプット、マスターにもそれぞれツマミが用意される。液晶下の4つのボタンは表示内容により機能が変わるファンクションボタン。設定項目の調整にはDATAホイールを使用する。
▲背面には2つの入力端子(いずれも標準フォンジャック)、前面にはステレオコンデンサーマイクを配置。
▲左側面にはINPUT Aの切り替え(MIC/LINE-GUITAR)とヘッドフォン/ライン兼用出力(ステレオミニジャック)、ボリュームツマミ。右側面にはミニUSB端子とACアダプター端子が配置される。
少々前置きが長くなってしまったが、ここから「DP-006」でのレコーディング手順を紹介しつつ、その機能をチェックしていくことにしよう。
「DP-006」の基本スペックは、トラック数がモノラル×2トラック+ステレオ×2トラックの合計で6トラック。同時録音は2トラックまで可能。記録メディアはSD/SDHCカード(最大32GB)で、パッケージには2GBのSDカードが付属する。TASCAMの低価格MTRには兄弟モデルとして、8トラックでエフェクト内蔵、XLR入力端子やRCAピンジャック出力を備えた「DP-008EX」がラインナップされる(価格は1万円ほど上になる)。
「DP-006」を目の前にしてまず感じるのはその小ささ。幅はCDケースよりちょっと大きく、奥行きはちょっと小さい。ギターバッグのポケットなら余裕で入るサイズだ。重量は360g(乾電池込みで実測438g)。電源は、単3乾電池4本または別売りのACアダプターが利用できる。電池持続時間はアルカリ乾電池(EVOLTA)使用時で録音約8時間、再生約8.5時間。ニッケル水素電池(eneloop)使用時で録音約9時間、再生が約9.5時間。eneloopが使えるのはとても便利。多くの充電器は4本単位での充電となるので、乾電池が4本で済むのもちょっとうれしいところだ。
▲各トラックに用意されたRECボタンで録音対象のトラックを選択。一目瞭然のシンプルさ。パン、音量のツマミは小さいながらも調整しやすい形状。
実際のレコーディングでは録音ソースの設定も必要になるが、専用のボタンが用意されているので、操作に面倒なところはない。入力は背面に標準フォン端子が2つ(INPUT AとINPUT B)。それぞれ内蔵マイク、ギター/ライン、外部マイクの選択が可能。内蔵マイクとギター/ラインには3段階のおおまかなレベル調整(Low/Mid/High)があり、細かいレベル調整は操作パネル上のINPUT A、INPUT Bのツマミで行う。
録音先のトラックは1~4の4トラックで、トラック3とトラック4がステレオとなる。各トラックともソースを、INPUT A、INPUT Bまたは両者をステレオで録音(左右逆にすることも可能)から選択できるので、マイクやギターを接続しっぱなしでもOKだ。この選択にもASSIGNボタンが独立して用意されている。
▲INPUT SETTINGボタンではINPUT AとBのソースを個別に設定可能(写真左)。ここではAをギター、Bを内蔵マイクに設定。MODEはモニターモードの設定で、STEREOまたはMONO×2から選択。MONO×2にするとモノラル信号としてL/R両チャンネルから聴こえる。写真右はASSIGNボタンで呼び出す各トラックのソースの設定。ギターのみならつなぎ変えることなく全トラックに録音可能。
録音済みトラックのチェックは、停止(■)ボタンと「<<RTZ」ボタンで先頭に戻り、再生ボタン。音量やパン(左右の定位)が各トラックに独立して用意されているので、操作は非常に直感的だ。本体サイズが小さいのでツマミも小さいが、上部が狭まっている形状により回しにくということはなく、指の太い人でも問題なく操作できるはず。ゴム製ですべらず、回転にある程度のトルクがあるのも好印象だ。
録音時には内蔵メトロノームが利用可能。もちろん、これで録音トラックをつぶすことはないし、録音時のみ、再生時も鳴らすといった設定も可能。小節単位での時間表示はできないので、頼りになるのはこのメトロノームか録音済みトラックのみとなるが、テンポや音量も設定できるので、ガイドには十分だろう。リズムマシン機能がないのが残念だが、その分低価格で操作もシンプル。このへんの判断は録音する楽器や曲のジャンルによっても変わってくるところだ。
■高品質なステレオコンデンサーマイクを内蔵
録音ソースとして最初に試したのは内蔵マイク。コンデンサーマイクならではの、非常にクリアで、耳で聴いていた音がそのまま記録できるという印象。無指向性なのでマイクの向きをシビアにセッティングする必要はなく、リビングテーブルの上に置いて即録音OK。この手軽さはとてもうれしいところだ。ステレオ録音でも音の広がりは感じられるし、定位もわかる。セッティングでうまく音像をとらえたいところだ。
内蔵マイクのセッティングにうれしいのが、底面に用意された三脚穴の存在。デジタルカメラ用に販売されている安価な三脚を利用して、自由に向きが調整できる。貸しスタジオなどでマイクスタンドを利用したいという場合には変換ネジなどを用意すればいい(数百円で購入できる)。ツマミなどの操作をしやすくする、本体の液晶パネルを見やすい位置にセッティングするのにもこの三脚穴は有効だ。
▲底面には三脚穴を用意。自由な角度にセッティングが可能になる。電池ホルダーとSDカードスロットも底面。
なお、TASCAMのサイトには「DP-006」の内蔵マイクで収録したドラムやアコースティック・ギターの音が公開されている。音質はぜひそちらでチェックしてほしい。きっとそのリアルさに驚くはずだ。
■ギター、ベースの録音も可能
2入力のうちINPUT Aはギター、ベースの直接入力にも対応する。左側面にはMIC/LINE-GUITARの切り替えスイッチを用意。通常のエレキギター、ベースならGUITAR側に、プリアンプ内蔵のエレアコギターやアクティブタイプのエレキギターならMIC/LINE側に設定する。ギターと「DP-006」の間にエフェクターを接続する場合もMIC/LINE側でOKだ。レベル調整は前述のINPUT SETTINGで行う。
本機はエフェクターを内蔵していない。エレキギターの場合は別途エフェクターなりアンプシミュレーターなりが欲しくなるが、ギタリストならすでになんらかの機材を持っているはず。お気にい入りの機材をそのまま使えばよいだろう。ギター用のエフェクトを搭載したMTRはギタリストにとっては便利だが、それ以外の楽器のプレイヤー、ボーカリストにとっては使わない機能が機材の価格に上乗せされているということにもなる。そう考えれば、「DP-006」のエフェクト非搭載という割り切りも十分納得できるものだ。
逆に「ギター録音は、本物のギターアンプで鳴らしてやりたい!」という用途には「DP-006」でOKという言い方もできる。コンパクトな本機とギターだけを持って貸しスタジオで思う存分ギターレコーディング(アンプとマイクはスタジオ内のものを使用)。なかなか悪くない選択だと思う。
このほか、ギターに限らず、楽器の録音前にしっかりチェックしたチューニングには、内蔵チューナーが用意されている。「レコーディング先でチューナーを忘れた!」という失敗もない。
■独特のトラック構成とミックスダウンで柔軟な録音が可能
▲操作パネル上のREC MODEボタンでレコーダーモードを設定。MASTER RECでステレオマスタートラックに録音するモードになる。あらかじめIN/OUTボタンで出力範囲を設定しておくことで、前後の不要な部分を出力しないで済む。
▲トラック3、4はモノラルでの使用も可能。ステレオの場合はパンツマミが左右のバランスを調整するものとなる。
トラックバウンス機能というのは、各トラックの再生音をミックスバランスをとった上で、別トラックに録音する機能。カセットMTR時代には「ピンポン録音」と呼ばれていた機能だ。「DP-006」ではトラックがすべて埋まっていてもトラックバウンスが可能。これはデジタルレコーダーならではのメリットだ。
1~4トラックのミックス結果をステレオのトラック4に録音すれば、トラック1~3を空けることができ、新たに3パートの追加録音が可能になる。録音済みトラックを個別にキープしておきたいなら、ファイルエクスポート機能を使ってファイルとして残せばいい。エクスポートしたトラックのデータはファイルインポートでいつでも再利用が可能だ。
複数テイクを消さずに残したい場合にもこれらの機能は有効。「DP-006」は他社製MTRで見られるバーチャルトラックは存在しないのだが、その分考え方はシンプルで初心者でも把握はしやすいはず。操作が複雑になることもないので、この考え方もアリだなと実際に使ってみて初めて感じるようになった。なお、ファイルには英数字で自由に名前が付けられるので、わかりやすいファイル名をつけておこう。
■多彩なトラック編集機能、アンドゥも可能
▲MENUボタンから呼び出せる編集機能。図も表示されるので編集内容のイメージがつかみやすい。ちなみにメニューの階層は浅く、目的の操作が探しやすいのも本機の特徴。
・クローントラック(トラック複製)
・クリーンアウト(トラック削除)
・サイレンス(部分消去)
・カット(部分削除)
・オープン(無音挿入)
サイレンスは指定した範囲の音を消すもので、トラックの長さは変わらない。カットは指定した部分を前に詰めるので、トラックの長さは短くなる。本機に限らないが、内蔵マイク利用時に録音スタート・ストップで「カチッ」というボタンの操作音がどうしても収録されてしまう。これを消すために多用したのがサイレンス。録音時は余韻も含め最初と最後に空きを設け、バウンス前にはしっかり処理したほうがいいだろう(最初はこれに気づかずバウンスを繰り返し、録音終了時の「カチッ」が多数残ってしまった)。
これら編集機能利用時は、アンドゥ/リドゥも可能なので、失敗を恐れることはない。「DP-006」では、非破壊編集方式採用となっており、操作ミスやレコーディング時の演奏ミスもカンタンにリカバーできる。さらにアンドゥ履歴機能で何段階か前の状態を指定して元に戻すこともできる(履歴は電源OFF時にはクリアされる)。さまざまなアイディアにチャレンジすることを不安に感じる必要はないのだ。
■パソコンとの連携もOK
先に触れたファイルエクスポート/インポート機能は、パソコンとの連携にも威力を発揮する。本機をパソコンと付属のUSBケーブルで接続すると、SD/SDHCカードがドライブとしてマウントされ、保存されたファイルのやりとりが可能になる。専用ソフトのインストールが不要なので、出先で突然ファイルのやりとりが必要になった場合も困ることはない。
▲USB接続すると液晶表示は写真左の状態に変わる。本体の操作はできなくなり、パソコンからドライブとして見えるようになる(画面右)。エクスポートしたファイルはWAVEフォルダに保存される。インポート用のファイルはパソコンからここにコピーすればよい(使用できるのは非圧縮16ビット/44.1kHz、ファイル名は英数字のみ)。ソングのバックアップはBACKUPフォルダに保存される。
録音済みトラックをエクスポートしたファイルをDAWソフトに読み込めば、本体内ではできない多トラックを使用したミックスや、エフェクトの追加も可能。逆にパソコンで作ったオーディオファイルをコピーして、本体にインポートすることもできる。ソフトシンセなどで作成したバッキングをインポートしておき、「DP-006」本体だけを貸しスタジオや友人宅に持って行って楽器を録音。帰宅後そのトラックを再度DAWにロードしてミックスという一連の作業も無理なく行える。
また、ボーカル録音も宅録では意外とやりにくいもの(大きな声を出せない!)。カラオケ店でボーカルだけ録音なんてことも「DP-006」なら持ち出すのは本体だけでOK。内蔵ステレオマイクで、みんなでコーラス録りするのも楽しそうだ。
こんなふうに「DP-006」は、普段はDAWをメインで使っているという人にも新たな機動力を与えてくれる。なんなら野外でのレコーディングもできないことはない。
機能はシンプルだがその分価格は安く、アイディア次第でいろいろ使えるシーンは多い。MTRは使ったことがないという人もぜひチェックしてほしい。
<おもな仕様>
記録メディア:SDメモリーカード(512MB~2GB)、SDHCメモリーカード(4GB~32GB)
入力端子:INPUT A、INPUT B
コネクター:6.3mm(1/4")TS標準ジャック、アンバランス
入力インピーダンス:10kΩ以上、1MΩ(INPUT A:GUITAR 設定時)
規定入力レベル:-10dBV
最大入力レベル:+6dBV
ヘッドルーム:16dB
内蔵マイク:無指向性コンデンサーマイク x 2
LINE OUT端子:
コネクター:3.5mm(1/8")ステレオミニジャック※PHONES端子と同一端子
規定出力レベル:-16dBV
最大出力レベル:0dBV
PHONES端子:
コネクター:3.5mm(1/8")ステレオミニジャック ※LINE OUT端子と同一端子
最大出力レベル:15mW+15mW (THD+N 0.1%以下、32Ω負荷時)
USB端子:USB Mini-Bタイプ 4ピン、USB2.0 HIGH SPEED マスストレージクラス
電源:単三形電池4本(アルカリ乾電池またはニッケル水素電池) 、専用ACアダプター(TASCAM PS-P520、別売)
外形寸法:155(幅)×41.5(高さ)×107(奥行き)mm (突起部含む)
質量:360g(電池を含まず)
周波数特性:20Hz~20kHz、+1dB/-3dB (INPUT(MIC/LINE)- LINE OUT)
歪率:0.05%以下 (INPUT(LINE)-LINE OUT)
S/N比:81dB以上 (INPUT(MIC/LINE)- LINE OUT
◆DP-006
価格:オープン(オンラインストア価格 18,857円 税別)
◆DP-006 製品詳細ページ
◆TASCAM
◆BARKS タスカムチャンネル
◆BARKS 楽器チャンネル
この記事の関連情報
TASCAM、TVアニメ『逆転世界ノ電池少女』とのコラボ・ヘッドホンとヘッドホンスタンドが登場
TASCAMの12trレコーディングミキサー「Model 12」に新機能、DAWコントロール対応ソフト追加&モニター位置切り替え可能なファームウェア無償公開
ティアック、公式ストアにて『RECORDING THE MASTERS』オープン&リールテープのラインナップ追加
TASCAM、カラータッチパネルで直感的に操作できる次世代の8トラックハンドヘルドレコーダー「Portacapture X8」
ティアック、ユニバーサル式トーンアーム採用のターンテーブル「TN-350-SE」、ナイフエッジトーンアーム&外掛け式ベルトドライブの「TN-3B-SE」
ティアック、初音ミクのデザインを施したBluetooth搭載ターンテーブル「TN-180BT-MIKU」を2022年3月9日発売
カンタン操作でポッドキャスト制作、TASCAMから音声コンテンツ制作ワークステーション「Mixcast 4」登場
ティアックストアにてTASCAMブランドのマイクを試すことができる「モニター貸出キャンペーン」実施
TASCAMから『七つの大罪』コラボ・ヘッドホン8種&ヘッドホンスタンド2種