【インタビュー】カンターナ、ジャンルの垣根を越えたチェロ・バンドがロック名曲のカバーアルバムをリリース
■チェロは音域が広くて低い音から高い音まで全部出せる
■メロディもできるしリズム楽器としても音を出せるんです
──自由と言えば、今作も選曲の幅が広いですよね。
向井:選曲は主にMartinが考えてくれたんですよ。
Martin:そうね。曲のスタイルっていうより、私たちがやってる結果をイメージしました。ロックとかポップスとかにこだわらず、私たちに合うかどうか、そういうのを考えたんです。だからトンネルの中に居ても、ずーっと出口は見えてた。そこにたどり着くのは難しいんだけど。
──1曲目の「Sleepwalkers Dream」はオランダのシンフォニックメタルバンドDelainの曲だったり、2曲目「Far From the Edge」はギリシャのゴシックメタルバンドElysionの曲。他にもオランダのNEMESEAがいたり。Martinさんのアンテナの張り方は凄いですね。
Martin:もともとヨーロッパの人間だからね。日本だとイギリスとかアメリカの音楽が多いだろうし、他の国でどんなロックが聴かれてるかってそんなに知られてないと思う。でも面白い音楽がいっぱいあるんだよ。
──原曲と聴き比べてみるとすごく面白いですよね。例えば6曲目の「We Work in Bars」はthe chapのオリジナルはものすごくポップですが、チェロでやるとさらにスタイリッシュな格好良さが加わりますよね。
Martin:うん、この曲は遊び心満載の曲だね。
──シンフォニックメタルやゴシックメタルだとなんとなくチェロでやるイメージができるんですが、「We Work in Bars」やt.A.T.uの「Ya Soshla S Uma」みたいなポップスを演奏したときに、より化学変化を感じますね。アレンジはどのように作り込んでいったんですか。
Martin:チェロは弦楽器の中でも一番音域が広いんですよ。低い音から高い音まで全部出せる。メロディもできるし、リズムギターのようにリズム楽器としても音を出せる。チェロの音を柱みたいにして、低音で足りない部分はベースに補ってもらってとか、そういう考え方で作り込んでいきました。
──チェロが三挺あるというところで、それぞれの役割もあるんですか?
Martin:あります。メインを誰が弾くって決めることもあるし、一人がいろんなことをしなきゃいけないっていうのもある。バンドでやっているようなことをチェロで全部表現できるっていうのが私たちの特徴ですね。ギターと歌は違う人がそれぞれ担当するものだけど、私たちは両方チェロで表現する。
──弾き手によっても個性が出て来ますよね。曲の個性によって、こういう曲は誰がメインのほうが良いとか、そういうのもありました?
向井:ありますよ。曲によってメロディを弾く人を変えてますから。
Martin:同じ曲の中でも変えたりするしね。
──ヴォーカルがスイッチするように?
Martin:そうそう。チェロは声のような響きがあるから。同じメロディを二人が唄うみたいな響きが出て来るのも面白い。しっかり聴くと、ここは違う人が弾いてるんだろうなっていうのがわかる。
向井:まだCD一枚作っただけだけど、この曲では俺がメインで弾いてる曲だから、俺の曲っていうところもあるし、この曲なら、俺にバッキング任せろみたいなところもある。この曲はMartinに弾いてほしいと思った曲もあるしね。
Martin:最後に「To France」って曲があるでしょ。ちょっとケルティックな感じなんだけど、他の人に振ろうとしたら、「それはヨーロッパの人のほうがいい」って言われたんだよね。
向井:これは僕のイメージで、僕が弾くよりMartinが弾いたほうが良さそうだなって思ったんだよね。僕は「Dreamer」が自分の曲だと思ってる。オジー・オズボーン好きだし(笑)。
Martin:ははは(笑)、そうだね、これは合うと思った。
──もともと歌詞が乗ってたものがこうしてインストになると、イメージがさらに広がりますね。
向井:そう。歌詞を乗せると意味を持っちゃうからね。インストにすることによって、メロディだけを純粋に楽しむことができるから。それがインストの良さ。
Martin:音楽がしゃべるみたいな感じだもんね。
──ただ、このアルバムはインストでもBGMではない感じです。
向井:そこはロックにこだわったから。チェロっていう楽器を持ってロックをやるってことで、録り方にもこだわりました。例えば、テールピースのすぐ近くにマイクを近づけて録ったり。普通、チェロの音を録音するときは、そんなに近づけて録らないんですよ。だから、そんな録り方は初めて見た。他にもロックな音色にする工夫はたくさんしていて。そこからもうロックなんだなって。クリックを使ったものもあるけど、ほぼ使ってない曲もあるし、一曲を分けて録った曲もあるけど、最後まで一発で録ったものもあるし。これできるのか? っていうのもあって。まぁ、僕らはコンサートではつぎはぎして演奏しないわけだから、それができる自信があるっていうところも表現したかった。一発録りは大変だったけど、それはこだわりでしたね。
──録り方に関しては研究したんですか?
Martin:うん。いろいろ実験して。一枚作ってだいぶわかりました。こういうことをやってる人がいないから、前例がなくて作り込み段階からとにかく色々実際にやってみるしかなかった。
向井:試行錯誤はあったよね。
Martin:そこが面白いところでもあるんだけど、チャレンジですよね。
──そういう工夫を凝らした録音が、音にアタック感というか、生々しさを加えたんですね。それはBGMになるはずがない(笑)。
向井:生々しさを伝えたかったっていうのは大きいですね。
Martin:例えばヘッドフォンで聴いてみたら、すぐ耳元で生の演奏が聞こえるくらいのね。
向井:僕らが弾いてるときって、耳のすぐ横でチェロの音が鳴ってるわけだから、リスナーの皆さんにもその感覚を味わってほしかったんだよね。それは面白いなって。
Martin:ヴォーカルを録るときだってマイクの近くで録音するわけでしょ? それとちょっと似てるんだな。
──なるほど。納得です。最初に聴いた印象は、チェロの音が歌に聞こえるってことだったので。
向井:そうそうそう。クラシックで言うところの綺麗なアンサンブルっていうのは目指してない。より、人間的であるってところをやろうとしてるっていうのがあるかなぁ。
──だからこそ、三人のクセまでもが伝わって来る。
向井:そうなんです。曲のよってベースにしてもドラムにしても、この人にやってもらいたいっていうのもこだわりましたしね。
──東京、大阪、広島でのライヴが決定しているそうですね。
Martin:そうなんです。他にもいろいろ計画中です。僕らが本当に演奏しているところが見えるっていうのは面白いと思います。皆さんの目の前で、ゼロから料理を作るっていう感じです。
──アルバムを一枚作り終えたことでカンターナの個性もかなり見たんじゃないですか。
向井:見えたよね。
Martin:これはうまくいく、これはやめたほうがいいっていうのがちょっとわかってきた。だから次はオリジナル曲を作りたいです。曲の中でチェロが歌のような役割をしているというのはオリジナルでも続けていきたいと思ってます。
──三月からは新メンバーとして内田佳宏を迎え、ますます加速するCanthana。今後の動きに注目したい。
取材・文●大橋美貴子
『CellMate(セルメイト)』
4月18日(金)発売
Sherlock-8012
1. Sleepwalkers Dream(Delain)
2. Far From the Edge(Elysion)
3. High Enough(NEMESEA)
4. Dreamer(Ozzy Osbourne)
5. Young Girl(Bruno Mars)
6. We Work in Bars(The Chap)
7. Ya Soshla S Uma(All the Things She Said)(t.A.T.u.)
8. Tainted Love(Soft Cell)
9. Emissary(Firefly)
10. To France(Mike Oldfield)
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