【インタビュー】カンターナ、ジャンルの垣根を越えたチェロ・バンドがロック名曲のカバーアルバムをリリース

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ドイツ出身、広島交響楽団で首席チェリストを務めるMartin B.Stanzeleit、ゆずやX JAPANなどのレコーディングにも参加し、関西フィルハーモニー管弦楽団首席チェリストを務める向井航、20世紀を代表するチェリストの巨匠・M・ロストポーヴィッチに師事した経歴もあり、新日本フィルハーモニー交響楽団に所属する弘田徹。そんな彼らがチェロという楽器の魅力をジャンルの垣根を越えて伝えるユニットCanthana(カンターナ)を結成。ロックカバーアルバム「CellMate」を作り上げた。ギリシャのゴシックメタルバンド・Elysion等、マニアックなバンドの楽曲から、オジー・オズボーン、果てはt.A.T.u.まで、チェロサウンドのマジックに驚愕の一枚。Martin B.Stanzeleitと向井航に話を聞いた。

■何がやりたいかっていうと、チェロが好きなんだよね
■好きな音楽をチェロで弾くっていう、それくらいの感じで


──まず最初にMartinさんに伺いたいことが。Martinさんはドイツから日本に来て音楽をやってらっしゃる。なぜ日本に興味を持って日本で音楽活動をしようと思ったんですか?

Martin B.Stanzeleit(以下、Martin):日本人って、すごく音楽が好きですよね。クラシックでも他のスタイルでも音楽好きで、すごい真面目だと思うんです。たとえば、クラシックのコンサートを観に来るにも楽譜を追いながら……とか。私たちより詳しいんじゃないかなって。そういうところが日本は面白い。

向井航(以下、向井):日本人は勉強が大好きだからね。ジャズはこういうものだとか、興味を持ったらそれについて勉強したいっていうのがあると思う。

Martin:今回僕らはクラシックの楽器でロックをやっているんだけど、どこからどこまでがクラシックで、どこからどこまでがロックなのかっていうことを考えてるわけではなく、楽器で何かを演奏することが好きなんですよ。

向井:そうなんだよね。何がやりたいかっていうと、チェロが好きなんだよね。好きな音楽をチェロで弾くっていう、それくらいの感じで。

Martin:ただね、自分の持ってる楽器で遊ぶんじゃなく、できたもののクオリティにはこだわる。ギターやベースでやると、何かに似てるって言われることがあるかもしれないけど、私たちは他に例えられないものをやっている。自分たちのイメージとか、頭の中にあるものをどうやって表現できるんだろう? っていうのが大きなステップだったんです。

──ヴォーカルをチェロに置き換えているような感じで、楽器が唄っているような音楽ですよね。

Martin:そうね。だからユニット名も「Canthana」。「カンターレ」という「唄う」という意味の言葉を使って考えたんです。

──お二人とも、チェロを選んだきっかけは?

Martin:チェロは5歳からやってるんですよ。両親がヴァイオリン奏者で、僕も最初は3歳からヴァイオリンをやってたんです。でも、立って弾かなきゃならないのが苦手だった。チェロは座ってできるのがいいなぁと。チェロの音域も好きだったし、実は3歳の時からチェロをやりたいって言い続けてたんですよ。でも手が小さいから5歳まで待ちなさいって言われて。

向井:僕の場合、まったく良い話じゃないんだけど、最初はピアノを習ってたんです。でも、男の子がピアノを習ってるのって、あんまりいいイメージがなくって。先生も怖いし、やめたいなぁと思ってて。練習しないと怒られるし、同級生のお母さんに習ってたもんだから、弾けなくて怒られるのも同級生に見られてるんですよ。

──それは気まずい。

向井:そう。だから、それがすごい嫌で、自分の親に「ピアノやめたい」って言ったら、「じゃあ、違う楽器をやってみたら?」ということになり。そんな時に、妹がヴァイオリンをやりたいって習い始めたので、レッスンを見に行ったんですが、すごい音で練習してるんですよ。「これはないわ……」と思ってたら、その先生の家にチェロが置いてあって。ヴァイオリンのレッスンを見てるのが退屈だったから、そのチェロをギターみたいに弾いて遊んでたら先生に見つかったんです。「これチェロって言うんだけど、面白いかい?」って言われて。子供心ながら気を使って「面白いです」と言ったら、「じゃあ、チェロの先生を紹介しようか」ってことになって。

──ピアノをやめる口実ができたわけですね。

向井:はい。行ってみたら、おじいちゃんの先生で、すごい優しくて、途中でお菓子とか出してくれるし、「これはピアノより全然いいじゃん!」と思って。

Martin:チェリストはそういう人が多いね。キツい話にはならない。

向井:そうそう。このおじいちゃんの先生なら大丈夫だと思ってレッスンを始めました。その先生はおしゃべりが多くて、あまり練習して行かなくてもそんなに怒らないし、いいじゃないと思って。しかも、その先生がすごく褒める先生で、「君は10年に一人の天才だね」っておだてるんですよ。子供って感違いするから、おだてに乗って練習もするようになって。でも実際、本格的にチェロを始めたと公式に自覚してるのは東京芸大の付属高校に入ってからです。うまく弾けるってカッコいいことなんだなと思って。それまでは遊びの延長でした。ロックのCDばかり聴いてましたからね。それに合わせてそれっぽく、チェロで弾いてみたり。高校に入ってからはクラシック音楽の格好良さがわかってきたかもしれない。

──なるほど、もともとロック好きだったんですね。だから今作『CellMate(セルメイト)』はロックアルバムになっている。

Martin:ロックは昔から3人とも聴いてたし好きですよ。私も高校生くらいの時にはロックスターになりたいと思っていました。バンドもやってたので、ロックに行くかクラシックに行くかって悩んだ時期もありましたから。チェロはね、私たちには奥さんとか彼女くらいの存在なんですよ。それくらいに自分の体の一部になってる感じ。だからこそ、この楽器で表現したいと思った。チェロって、イメージ的に歌と近いんです。自分の声、響きを見つけたら、曲に関わらず、それが自分のカラーになる。声を出すのと同じようにチェロの響きを出す。どんな曲をやっても、スタイルとか、自分の引き出しというのは意識していない。自由さっていうのがチェリストにはあるんですよ。

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