【インタビュー】石川智晶、ミニアルバムは独自の世界を凝縮「リアルな部分と現実離れした世界を、ちょっと融合して歌詞は書いているんです」
3月5日にミニアルバム『前夜』をリリースする石川智晶。リリース後にはミニアルバムをひっさげての東名阪ホールツアーも予定されている。今回はミニアルバムへのインタビューを通して、彼女の世界観が持つ独自性の謎に迫った。
――多重コーラスに特徴的な発声、解釈の困難な幻想的リリックと、石川さんの楽曲ってあまりにも独特の世界観があるじゃないですか。その根源が何処にあるのか?というところから、どうしても伺いたいんですけれど。
石川:どうしてでしょうね? そこは何年やってもわからないところで、そういった世界観を作るために何か本を読んだり、映画を観たりっていう努力をしているわけでもないんです。むしろ家の中だけで創作が完結していて、楽曲作りで煮詰まったことも特に無い。
――外部から何かを吸収しなくても創作できるということは、それだけインナーワールドが豊かだってことですよね。
石川:うーん……私、仕事モードなら全然大丈夫なんですけど、基本的に人付き合いが得意じゃないんですよね。いわゆる普通の友達付き合いだったり、女子会とか女子トーク的なものが全くできないので、外にいると吸収するどころか、逆にストレスになるんです。私、洞察力が鋭いみたいで、他人の顔色や感情の変化に敏感に気づいては、その理由や経緯を想像しては納得して、実際それが正解だったりするんですよ。で、次の行動が読めたり、心の中がわかりすぎちゃうから、人と接すると疲労してしまう。だから、こういう不思議な歌詞を書いていても、決して不思議ちゃんなわけじゃなく、実はすごくリアリストなんですね。そのリアルな部分と現実離れした世界を、ちょっと融合して歌詞は書いているんですよ。アニメとか舞台とか、架空世界のために曲を書くことも多いけれど、そこにベッタリ合わせるんじゃなく、何かしら自分の意志を盛り込まないと納得できない。
――だから、よけいに不思議感が増すんでしょうね。
――つまり、石川さんのほうからは歩み寄らない。
石川:うん。そんなことをしても……むしろ“他人のことなんてわからないでしょう?”っていう、そこは私の中での最大の遠慮なんです。
――わかります。今作の『前夜』を聴いて最も強く感じたのが、世の中に蔓延する“人はわかり合えるはずだ”という欺瞞に対するアンチテーゼなんですよ。
石川:だって、そんなもの無いんですよ。もちろん人と人との間に強い繋がりっていうのは存在しうると信じているけれど、今の時代、それを培うのはとても難しい。基本的には“無い=0”だからこそ、1にできたときにありがたみを感じられるわけで、最初から“有る”ことを前提に話を進めるのは、ちょっと違うんじゃないかなって。それをどうにか表現したいとは思うんですよね。
――1曲目「青の中の青」の冒頭からして、“あの人の「悲しい」はわたしの「悲しい」にはならない”ですからね。絆だとか共感なんて、そこら中に転がっているものではない。
石川:そう、転がってない。日本って島国だから、万人が共感するとか想いを一つにすることをありがたがるのかもしれないし、そのほうが楽だけれど、とても私にはできなくて。そういう意味では、かなりの茨道を歩いてるんですよね(笑)。
石川:好きなアルバムを出したい、ってことですね。シングルを重ねてアルバムを出すとなると、普通でも2年くらい掛かるんですよ。しかも私の場合、いろんな会社から音源を出しているので、さらに時間が掛かってしまう。でも、ライブをするようになって、ファンの方々は音楽だけじゃなく、私の言葉だったり思考だったりっていう“私自身”を観に来てくださっているんだなと感じたから、今の自分を可能な限りリアルタイムで届けたい。小刻みでもミニでもいいから、とにかく短いスパンでガンガン出していこうって考えたんです。それで今回は他のリリースとは別に、自分のレーベルから1枚出すことにしたんですよ。
――じゃあ、収録5曲は皆、どれも近々に作られた曲ばかり?
石川:1曲目の「青の中の青」とラストの「前夜」は、舞台『戦国BASARA3 宴弐』(2013年11月公演)の主題歌として作った曲で、一番古いのがミュージカル女優の昆夏美ちゃんに作った「私は想像する」(2013年4月発売)のセルフカバーだから、全部2013年ですね。もう、かなりのリアルタイム。
――タイトルから察するに、その5曲目「前夜」がリードと捉えていいんですよね。
石川:いや、そういうわけでもなくて、なんとなくワードに惚れ込んでアルバムタイトルに選んだだけなんですよ。なんか思わせぶりな言葉じゃないですか? 受験で言えば合格発表の前夜だったり、運命が変わる岐路を前にした緊張感が、すごくある。
――曲自体はピアノやストリングスも交えた壮大なバラードですが、では、この曲では何の前夜を指しているんでしょう?
石川:「戦国BASARA」は戦国武将の物語なので、生きるか死ぬかですね。もしくは、私の中では“心を失くす=死ぬ”ってことなので、そちらの意味で捉えてもいい。今の時代、自分をやめても割と楽しく生きられるじゃないですか。ただ、同じ仕事/年齢でも、その人の精神力だったり志の高さによって、こんなに変わるんだなぁって思うことが最近多くて。結局、選ぶのは自分なんですよね。
――そうして揺るぎない己を持つことの強さを猛烈に感じたのが「青の中の青」なんですけれど、この“青”は何を象徴しているんでしょう?
石川:戦国時代なので皆、死ぬことに躊躇は無くて、ある意味すごくストイックなんですよ。そのストイックを極めて、どんどん心の中心に寄っていくと、蝋燭の青い焔みたいになるんじゃないかな……っていう感じですね。つまり、どんどんストイックに、どんどん綺麗になっていくということ。で、そこには抱えようのない孤独があるってことなんです。
――なるほど。「戦国BASARA」で青と言われると、つい伊達政宗か? と思いがちですが……。
石川:これは(石田)三成ですね。私、「戦国BASARA」では三成側の曲を書くことが多いんですよ。愚直に忠義を貫いて、手酷い裏切りに遭って……っていう、いわゆる馬鹿みたいなことを馬鹿みたいにやっている人物だけれど、それが崇高に見えることもあるじゃないですか。どうせなら徹底的に愚かに生きたほうがいいし、そうでなければ家康のようにズル賢く生きればいい。いずれにせよ、振り切ったほうがカッコいいってことを伝えたいんですよね。
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