【インタビュー】ゴッホの休日、東横線・渋谷から横浜までの30分間の小さな人生を音にした電車サントラアルバム『トレイン』
■実際の風景が出てくることもあるし
■個人的な体験のイメージになってるところもあります
――東横線に乗ってる30分がそのまま映画になって、このアルバムがそのサントラというイメージなんですね。
たなか:まさにそうです。乗車時間もちょうど30分なんで。
――この30分間に、渋谷から横浜までのどんなものが表現されているんですか? 車窓の風景とか?
たなか:風景とリンクしてるのは間違いないです。あと今回、架空の登場人物を6人設定しているんです。僕は電車に乗ってる当事者として、聴いてる人が感情移入してもらう役で、その他の5人にも、仕事を抜け出した女の子とか、色々役を設けました。風景だけではなく物語の要素も加えたかったので、その登場人物の感情もイメージして投射したりしています。
――東横線に渋谷から乗ってこのアルバムを聴き始めると、音で表現したものがちょうど目の前に現れるところもたくさんあるわけですね。
たなか:そうです。たとえば1曲目なら渋谷から中目黒ですね。曲の最後でちょうど中目黒に到着して扉が開きます。そういう実際の風景が出てくることもあるし、自分の今までの個人的な体験イメージを表現した音になってるところもあります。
――曲中でテンポが変わることが多いし、止まったりまた加速したりというところもありますが、これは列車の速度とリンクしているんですか?
たなか:列車の速度もありますし、自分の気持ちが高ぶるところだったりもします。
――気持ちが高ぶるところって具体的にはどこですか?
たなか:たとえば1曲目なら、加速していく感じ、これから横浜に向かうよ、スタートしたよという感じですね。あと、多摩川を渡るところは、光と揺れの感じ、一気に開ける感じが好きなんです。そこでは登場人物のの眠っている子供にイメージを重ねて、エコーをかけて夢心地の感じで。あと、自分が住む日吉綱島付近はポップに楽しげにしました。
――急行に乗車している30分を表現しているので、トータルで30分という長さは変えられないし、駅や風景が登場してくるタイミングも決まってます。タイミングを合わせるのは大変ですよね。
たなか:難しかったですね。渋谷から横浜までビデオを撮って、それを見ながら尺を調整しました。漠然と駅をイメージして作ってあった曲を、タイミングを合わせて押しこんだりもしました。
――笛とかアコーディオンとか、アコースティックな、あたたかみのある楽器も多く使われていますね。
たなか:やっぱり路線に愛着があるので、懐かしさを感じるような、あたたかみとか手作り感とか、そういうところで楽器も選びました。結果的にですが、笛とか、音を色々重ねてるのは、それだけ思い入れのある駅のところが多いです。正直そんなに降りたことのない駅もありますが、そういうところはよくよく気付いたらあまり音を重ねてないですね(笑)。
――声とか語りもいっぱい入ってますね。ただ5曲目の「limited」は、ずっと誰かがブツブツ言ってるようですが、何を言ってるのかよく聞こえませんでした(笑)。
たなか:ああ、あれはよくわからなくて良いです(笑)。登場人物にある事情で焦っている社会人がいて、日吉で降りる前の気持ちの葛藤を表現してます。愛着とか関係なく、あくまで交通手段として電車を使っている人物を入れてみました。
――全体を通しての聴きどころ、注目してほしいところは?
たなか:最初と最後ですね。とくに最後のすべてを締めくくる感じはぜひ聴いてもらいたいです。横浜に向かっての盛り上がり、そして目的地に到着するという、皆それぞれ理由は違えど、電車に乗る目的を果たした感じ、そこですべてが落ち着くような、締めくくる気持ちを共有できたらいいなと思います。
――その最後の曲「e.p」は、静かにスタートして、それほどアップテンポでもないのにアルバムの中で一番盛り上がりますね。
たなか:それが終点到着前の登場人物全員の一体感というか、締めくくりの盛り上がりなんです。演奏者もパートごとに登場人物になりきってもらってるんですが、最初の渋谷のところではバラバラに好き勝手やっていて、最後はまとまって一体感が生まれる、という感じでやってもらってます。
――ここまで30分聴いてきてこそ、盛り上がれるというわけですね。
たなか:そうですね。通して聴いてもらうことに意味を持たせられたかなと思います。
――8曲それぞれのタイトルはどういうところから?
たなか:あんまり意味はないんですが(笑)、タイトルではっきりなにかを伝えるという感じではなくて、登場人物の気持ちに近い言葉を選んだんです。たとえば「escape」は会社から抜け出した女の子のことだし、「limited」は日吉の手前で一刻も早く降りたいと焦ってるみたいな感じ。7曲目の「なんとなく」は歌モノですが、これは登場人物ではなくて、そこに乗っている当事者としての僕がまさに“なんとなく”口ずさんでいるものなんです。
――出来上がったこのアルバム、実際に東横線に乗って聴いてみました?
たなか:はい。横浜に着いたときには、なにかすごい体験をしたように感じられました。ただ、これは万人が共感できるものではないのかなという気はしました。超パーソナルな僕の感情の起伏が音になってるものですから。聴く人によっては、なんでここで高ぶってるんだろうとか(笑)、ここでこの感じ?とか、違和感があるかもしれないですね。あくまで僕らの気持ちを東横線にゆだねているだけなので、登場人物が演じているものにふれてもらって、最終的に特別な感情が少しでも引き出せればいいかな、と。
――今後はどんな作品を作る予定ですか?
たなか:今は、男女間の言葉のやりとりをテーマに作ってます。朗読劇とか芝居っぽい感じです。淡々と会話が行なわれているところに音をつけたいなと。ただ、これはアルバムという形じゃなくて、ステージでやることなのかもしれないんで、アウトプットがどういう形になるのかはまだ見えてないんですけど。とにかく会話というところで音を表現したいと思ってます。
取材・文●田澤仁
「トレイン」
9月15日(日)発売
GOGH-0001 ¥1,575(tax in)
1.bell
2.escape
3.知らない
4.sheep
5.limited
6.sugar
7.なんとく
8.e.p
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