【インタビュー】ゴッホの休日、東横線・渋谷から横浜までの30分間の小さな人生を音にした電車サントラアルバム『トレイン』
新しい音楽のカタチを探るコンセプト型音楽チーム、ゴッホの休日。彼らが第一弾として世に送り出す『トレイン』は、東横線急行の渋谷から横浜までの30分間をそのまま音楽で表現した作品だ。主宰者のけいすけたなかが、2013年3月の東横線渋谷駅地下化のニュースに感化され、過去の東横線への想いを形にしようと、アルバム制作を思い立ったのだという。旧渋谷駅閉鎖からちょうど半年後にあたる9月15日、全国タワーレコード他にてリリースされるこのアルバムについて、そして東横線や渋谷駅への想いについて、けいすけたなかに語ってもらった。
■東横線の地上渋谷駅が閉鎖されるので
■作品として残したいなと思ったんです
――“新しい音楽のカタチを探るコンセプト型音楽チーム”というゴッホの休日、いったいどんな集団なんですか?
けいすけたなか(以下たなか):メンバーは固定されていないんですが、もともとバンドをやっていたり、一緒に音楽に携わっていた人たちの集まりです。今は1曲単位でダウンロードするような文化もありますが、そうではなくて、1本の物語みたいにストーリー性があって、最初から最後まで全部聴いてひとつの作品になるようなもの、そういう音楽体験ができるものを作りたいと思っていたんです。それもバンドではなく、作品ごとにメンバーが変わってもいいと思ったので、こういう形になりました。
――では、何人でこういう編成、というような決まった形のバンドではないんですね?
たなか:そうです。ひとりが何かやろうと思ったときに、その目的に応じてメンバーを集めるんです。
――ゴッホの休日という名前の由来は?
たなか:そんなに深い意味はないんですが、響きもよかったので。あとからわかったのですが、ゴッホって、休みなくとにかく死ぬまでひたすら絵を描いてた人だったらしいんです。そういう人のリアリティのある生活ってどんなものだろうと思った。相反するイメージのある休日とゴッホの組み合わせは今思うと良かったんじゃないかと思ってます。
――2012年10月に発足ということですが、それからどんな活動を?
たなか:最初はドラムと僕の二人だけで、実生活をテーマに曲を作ったりしていました。たとえば去年引っ越しをしたので、それをテーマに引っ越し前の家と引っ越し後の家の曲、とか。
――ではゴッホの休日では初めから、何かのイメージを音で表現するという、抽象音楽をやる音楽チームだったんですね。
たなか:そうですね。しかもテーマは超パーソナルなこと(笑)。個人的な感情とか実体験とかを表現する作品を作りたいと思っていました。
――そして今回、東横線、副都心線の直通運転が開始されるのをきっかけに、『トレイン』の制作が始まったわけですね?
たなか:実はそれ以前から、東横線の音楽というのは作っていたことがあるんです。××駅から○○駅までの曲、とか。引っ越しのときと同じで、実際に電車に乗っているときに広がったイメージをそのまま具現化した音を作ろうとしていました。そのときはアルバムにするまでは考えてなかったんですが、直通運転の開始で東横線の地上渋谷駅が閉鎖されるというニュースを耳にして、作品として残したいなと思ったんです。
――東横線や渋谷駅には特別な想いがあるんですね。
たなか:東横線沿いで育ってきたんで、もちろん東横線そのものも好きなんですが、これまで一緒に過ごしてきた多くの人との思い出が東横線にはたくさん詰まっていて。大切な人って、その人のいる街ごと好きになるみたいなところがありますよね。駅ごとに思い出があるんで、そういうのを表現したいなと。渋谷の地上駅の閉鎖というのも、今までの思い出が壊されちゃうみたいに感じて、なんだか感傷的になってしまいました。
――新しい地下駅に生まれ変わることが、相当ショックだったんですね。
たなか:今まで目的地だった渋谷が通過点になってしまった。生活を変えられてしまって悲しいというか、なんか納得できない感じがあって。3月16日以降は、同じ東横線という名前であってもこれまでとは違うものになってしまったような。旧渋谷駅の雰囲気も好きでしたね。なんか落ち着くというか。始発駅ならではの雰囲気、たたずまい……。
――あの櫛形のホームとか出発してすぐの急カーブとか。風情ありましたよね。
たなか:そうなんですよね。その風情と思い出がマッチするんです。もう廃止になってからずいぶん経つんで、変わってしまったことをすんなりと受け入れている人も多いと思うんですが、自分としてはちょっとでもカタチに残したかったところがあります。
――アルバムとして仕上げるにあたって、完成形は最初からイメージできていたんですか?
たなか:全体がぴったり30分で、渋谷駅のこういう感じからスタートして、最後はこう締めくくる、そういうイメージはできていました。ただ、最初は全体で1曲にしようと考えていたんです。でもちょっと聴きづらいかなと思ったし、部分ごとに聴いてもらいたいところもあるんで、トラックを8つに分けました。
――そういう頭の中のイメージを、どのようにメンバーに伝えて曲を仕上げていったんですか?
たなか:ほぼセッションです。練習の時は僕はギターしか弾かないんですが、各パートになんとなくフレーズとかイメージを伝えて、合わせてみて、ちょっとずつ軌道修正していくという。少し音を重ねたりしたところもありますが、基本は一発録りなんです。その研ぎ澄まされてない感じも個人的には気に入っています。あと、僕はもう笑うしかないくらいギターが下手で(笑)。でも自分にしか鳴らせない音もあると思うので、そこは大事にしました。
――30分トータルで、イメージ通りの完成形になりましたか?
たなか:そうですね。最初から最後まで通して聴いて初めて意味が出てくる、そういう意味では成功したと思っています。実際に東横線に乗って聴いてもらうと特別な感じが味わえると思うんですが、家で聴いても感じるものがあるとは思います。
――あるテーマを曲で表現するというと、歌モノにして歌詞で表現する手もあると思いますが、今回は歌モノは1曲だけですね。
たなか:全体を映画みたいにイメージしていたんです。そのサウンドトラックが渋谷から終点の横浜まで流れる感じで。最後の前に1曲歌モノを入れたのは、主題歌というか、映画のエンドロールのときに流れる曲みたいなイメージですね。その後、集大成という感じで横浜での盛り上がりになるという。全然知らない人たちが乗り合わせてるけど、そこだけちょっとだけアットホームな感じになるのを表現しました。
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