【月刊BARKS つんく♂ロングインタビュー vol.2】シャ乱Qは常に未完成。「シングルベッド」秘話から反動としてのモーニング娘。

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つんく♂:その反動でモーニング娘。にはポジティヴな曲をいっぱい作ってあげようと思ったんです。

── そそっ、そうなんですか?

つんく♂:そうですよ。「ハッピーサマーウエディング」なんてまさにそう(笑)。絶対、結婚式の曲を作ってやろうと思って作りましたから。

── あの曲の裏にそんな秘話が潜んでいたとは(笑)。ではまたシャ乱Qの話に戻るんですが。シャ乱Qのサウンドに関してはつんく♂さん自身、どんな考えを持ってたんでしょうか。

つんく♂:僕はデュラン・デュランとかパワー・ステーション、アース・ウインド&ファイアー、クール&ザ・ギャングとかが好きだったんで、単純にそれを形にしたかった。だけど、はたけとかまこっちゃんは完全にこっち側ではないので、結果、シャ乱Q的な表現でしかできなかったんですけど。それでもまあよく頑張って「ラーメン大好き小池さんの唄」とかファンキーなのができたなとは思います。そこのフラストレーションもあって、モーニング娘。ではファンキーな曲を、「サマーナイトタウン」も「抱いてHOLD ON ME!」「LOVEマシーン」もそうだけど、16ビートの跳ねた曲、「ディスコってこうでしょ」っていうようなものを作っていったんですよ。レコーディングのときに踊りながら「コレコレコレ!」って(笑)。

── ぶはははははっ(笑)。

つんく♂:あれもシャ乱Qがあったからできたんです。

── ということは、シャ乱Qというのは、つんく♂さんがフロントマンとして音楽的に完全なるリーダーシップをとっていたのではなく、メンバーみなさんのエッセンスが混ざって生まれたバンド・サウンドだったってことですか?

つんく♂:そうですよ。だから常に“未完成”なんです。シャ乱Qはバンドだから。そこが面白いんです。「お前この曲で何がしたいの?」って。それが常にあって。大阪によくあるアジアンレストランみたいなもんです(一同、笑)。タイも中国も韓国もいっぱいあって、「なんなのこのチャーハンの味」っていう。

── その「なんなんこれ?」が、シャ乱Qにはいまだにある、と。

つんく♂:面白いんですよ。常に未完成だから。はたけははたけで理想型があるんです。それを俺にもやらせるから、アルバムのなかではたけの曲はいい曲が多いんです。俺は昔からいつもチャレンジするから、楽器弾くヤツらが「もう2度と弾きたくない」っていう曲がいっぱいある(笑)。当時、プロのミュージシャンが弾けばすぐに終わるものでも、アイツらがやるとすっごい時間がかかった。でも、それでできたものは滑稽で面白い。それがシャ乱Qなんですよね。それがバンドのよさなんです。

── つんく♂さん、バンドというスタイルが本当に好きなんですね。

つんく♂:好きですよ。バンドは無責任でいられるから。ハロー!プロジェクトは俺ひとりで音に関しては責任とらないといけないけど、バンドは何かあってもみんなそれぞれのせいにできるじゃないですか?(一同、爆笑)。例えば、曲が途中で止まっても、「まこっちゃんがちゃんとドラム叩かへんからやろ」って責任分散できるから楽です。ライヴやってても楽。つんく♂ソロでステージ立つ時はものすっごい責任感じるんですけど、シャ乱Qのときは少々失敗してもそれがバンドだしって。そういう気持ちの余裕はありますよね。

── シャ乱Qとしては今年「シングルベッド」を再録したり、8月末からは全国ツアーを開催と、本格的な活動が続くわけですが。

つんく♂:ま、それは25周年という区切りを迎えたことが大きいんです。東日本大震災の復興支援で被災地を慰問したとき、バスのなかで「25周年どうしようか?」という話をメンバーとできたからこその活動なんですけどね。

── では今年25周年を迎えるバンドからいま成功を手にしたいと思って頑張ってる若手バンドマンたちに向けて、つんく♂さんが何かアドバイスをするとしたら、どんなことをいってあげたいですか?

つんく♂:うちの事務所(TNX社)も何組かバンド抱えてやったけど。まず思うのは、いまの子たちは歌詞の書き方が下手。僕らもそうでしたけどね。僕も「シングルベッド」に出会うまで歌詞の書き方がわからなかったんです。歌詞風なことはそれまで書けてたとしても。いまバンドやってるヤツらで25、26、27歳のヤツなら金が欲しいとかいい車乗りたいとか、いいたいことあると思うんです。それが“この宇宙空間のなかで僕は~”とか。まあまあ前後にそういうのもあってもいいけど、「それだけじゃなくてここには核となる“こうだ”みたい一撃は出てこないんか?」って言っても……出てこないんですよ。俺らもそこがなかった。俺らも追い込まれて「シングルベッド」に出会うまでなかった。

── へぇ。

つんく♂:あれははたけの曲で、「歌詞どうしようか?」ってなって。よく「シングルベッド」は実体験ですかって聞かれるんだけど、俺はあんなにドロドロしていなくて。もっとあっさりしているんですね。僕の人生は。でも、当時の俺の心はあれぐらいモヤモヤしてたんで。「上・京・物・語」があった後、俺に対する評価はないってところで、将来もしバンドがダメで大阪帰って“スナックつんく♂”みたいなお店をやってたとしたら(笑)、近所の子らには「おっちゃんプロデビューしとったんやでー」って自慢しつつ、お店のお客さんとデュエットすれば「おー、元プロは違うわ」って言われ……で、“そのスナックでは最後にどんな曲を歌うんだろう?”っていうのをテーマに作ったんですよ。

── そうだったんですか。

つんく♂:当時の俺は世の中を凝視できなかったんですね。その頃はトレンディードラマの主題歌になれば大ヒットする時代だった。「ええな~。ウチらの事務所やレコード会社はそんなんせぇへんしなー。」って思ってたわけです。だから、テレビつけてて“チャカチャーン”(小田和正の「ラブストーリーは突然に」のイントロのギター)って聴こえてきたらチャンネル変えてたし(笑)、“たとえば~♪”(米米クラブの「君がいるだけで」)って歌声が聴こえてもそうしてた。だからか、カラオケスナックとか行って「バンドマンでしょ? 何か歌って」って言われても、その時期の曲は何も歌えなくて。当時、本当にテレビドラマ含めて流行りものは見てなくて、FMラジオ聴くのもそういう曲が流れてくるのが嫌だったから聴いてなかった。……っていう俺が“流行の唄も歌えなくて ダサイはずのこの俺”という(「シングルベッド」の)歌詞になってるんです。

── おぉー!!

つんく♂:そうやって追い込まれて、僕は歌詞の書き方に気づいていったんだけど。

── そこではどんなことに気づいていったんですか?

つんく♂:綺麗な言葉でいうと“遠くにあるものよりも近くにあることを描く”ってことです。当時の俺らは貧乏だったから、「ホテルの最上階にあるスイートルームのベッドはどうなってるんだろう。」って想像するわけですよ。でも、住んでいるのはいわゆる安いアパート。そこをしっかり見つめる目線が大事ってこと。実際そこの方がリアリティなロマンがあるはずだから共感する人も多いはず。例えば借金して買ったギターで俺は歌うんだ、でもいいいんです。そこにどれだけリアリティが詰まってるかなんです。ウルフルズの「ガッツだぜ!!」もわかりやすい言葉でパーンと入ってくるでしょ? 「バンザイ」の“ばんざい、君に会えてよかった”もそう。スタイルは違うけど(EAST END×YURIの)「DA.YO.NE」もいいとこ見つけたなって、当時、思ったし。それに対して、いまのバンドマンたちが書く歌詞には核となる言葉が少ないですねぇ……。

── なるほど。

つんく♂:俺の友だちでね、まだバンドやってて2年に1回ぐらい「これ聴いて」って送ってくるヤツがいるんだけど。やっぱり歌詞がダメなんですよ(笑)。きっと奥さんも子供もいるだろうに、歌詞からはまったく所帯とか感じなくて。そうなると(歌詞が)生きてる感じがしないんです。生きてる感じがしないとダメなんです。日本語で歌詞を書く場合は。

── では今後のシャ乱Qに関して、いま考えている展望を教えて下さい。

つんく♂:2013年、頑張ってシャ乱Qやって。その後は30周年に向かって何を準備していくかってことだと思うんですけどね。それぐらい、なんとなくでいいと思います、シャ乱Qは。だから、寄り道、脱線、多いに結構。喧嘩しようが何しようがいいんです。そこに何かを見つけられれば。やっぱ、義務とかでやっちゃダメなんです、バンドは。俺たちはメンバーを寄せ集めて作られたバンドじゃないからこそ、自分たちで自分たちが動かしたいように気持ちよく動かすべきだと思うんです。だから「バンドは毎年なんかせなあかん」って義務になるんじゃなくて、5年後でも10年後でもいいから、動きたいときに動けばいい。それだけだと思います。

(vol.3『最初は「まっさかサマーホリデー」って曲だったんですよ(笑)』に続く)

text by 東條祥恵
interview photo by ytsuji a.k.a.編集部(つ)

【リリース情報】
「シングルベッド」
2013年7月17日リリース
通常盤:
CD 1,050円
1.「シングルベッド」
2.蜃気楼 しんきろう
3.Come on!僕たちの未来
4.「シングルベッド」
5.蜃気楼 しんきろう
6.Come on!僕たちの未来

初回生産限定盤:
CD+DVD 1,680円
DVD付
・shibuya eggman 記者会見ダイジェスト
・シングルベッド
※ shibuya eggman より
・上・京・物・語
・いいわけ
・愛するということ
・ズルい女
※ 結成20周年記念武道館ライブより

◆つんく♂ オフィシャルサイト
◆シャ乱Q オフィシャルサイト
◆BARKSアーカイブス
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