【特集】上間綾乃、今の時代に伝えたい普遍的なメッセージを唄に乗せた新曲「ソランジュ」
■これまで私の中で唄うというのは沖縄の方言でした
■標準語で唄うのいうのはある意味チャレンジなんです
上間綾乃(以下、上間):おばあちゃんがやっていて、教室に通う姿を見て、楽しそうだなぁと思ったのがきっかけですね。でも、その前から、沖縄民謡とか音楽は日常にあふれていたので、すごく自然な流れでした。
上間:沖縄では三線と歌がセットなんです。必ず歌を唄いながら弾く。歌だけ、三線だけっていうのはないんです。だから、三線をはじめたときから歌も同時に。
上間:はい。19歳のときにとりました。
上間:早いほうだと思います。
上間:はい、しましたね。師匠に就いて。試験のときは試験の曲ばかり練習して。師匠は厳しかったですし、自分の思い通りに唄えなかったものが唄えるようになるまでには時間もかかったのでそれは大変でしたが、自分が好きなことをやっているので、ここを越えたら絶対唄えるようになる! と信じて頑張っていました。でも先生の免許をとったとしても、歌も三線も修行に終わりはないんですよね。完成はないからこそ、今でもまだ勉強中です。
上間:自分の中で“歌を唄う”となると、その言語は自然と沖縄の方言となっていました。でも、沖縄でも方言がわかる人はどんどん高齢化していって、今の世代の人で方言のわかる人は減ってるんです。だから、もっといろんな人に想いを伝えたいなと思ったときに、沖縄の方言だけで唄うとダイレクトに伝わる人数は限られるから、入り口を広げるという意味でも、標準語で唄うと、もっともっと繋がれることもあるんじゃないかなと。標準語で唄うのいうのはある意味チャレンジなんです。
上間:唄い慣れた沖縄の方言は違和感なく唄えるんですが、標準語と沖縄の方言とでは発音がぜんぜん違うので、唄うときの感覚はかなり違います。耳では標準語も聴いているんですが、自分が唄っているものを改めて聴き直すと、思っていたのと違っていたりするんです。方言のクセの発音が入ってしまったり。歌うことって、しゃべることともまた別なんですよね。
上間:そうですね。“ソラ”というのは“宇宙”を差すくらいの大きなサイズの“空”で、“ジュ”は“樹木”の“樹”。空に生える樹木で「ソランジュ」なんです。そのソランジュに生える葉っぱや花、つぼみが今生きている私たちの命。私たちの命のひとつひとつは、全部が大きな一つの木でつながっている。花は咲いて散るだけじゃなく、また土に返ってソランジュの養分になって、新しい芽が出てくるっていう、大きな命のサイクルを意味しているんです。
上間:手を離さずに歩きましょうとか、生きている中でたくさんの人の手と出会うけど、一期一会で一回しか会わない人もいれば、ずっと一緒にいるような大切な手と出会うこともある。そういう手は、楽しいときも苦しいときも絶対に離さず歩いていきましょうねっていうのが、この歌詞の内容ですね。「ソランジュ」はアルバム制作の作業の中で生まれたんですが、できたときに、“もうアルバムのリリースを待っていられない!”って思ったんです。これは早く世に出さなければいけないとスタッフみんなでワッと熱くなってシングルになったんです。
■一つ一つの言葉に魂が見えるんです
■だから唄うたびに深いところにグッとくるんです
上間:はい。作曲の都志見隆さんも一緒に。今までの私のこと、私のうたってきた唄のことも知ってもらって、今どういうことをしていて、こういう気持ちでいるっていうのをまずみんなで共有しました。その上で、何が生まれるか、何を生もうか、そして何よりも今、自分が生きているこの時代に何を唄おうかっていうのをみんなで頭をしぼって相談して。本当に一緒に生んだという感じです。
上間:うん。たとえば“一人じゃないよ”って言ってもらえたら、その時は勇気は出ると思います。でも、“それはわかるけど、結局、私は一人だよね?”って思っちゃうこともあると思うんですよね。一人じゃないって言ってあげても、そうはいかないことが世の中にはあるし、自分の力ではどうしようもないことが起きてしまうこともあって。その中で、“一人じゃないよ”って言ってあげるのとは別に、もうひとつの寄り添う気持ち…手を離さずに何があっても一緒に歩いていきましょうねっていう、そういう気持ち…手で繋がるっていうことを唄ったらどうかというのをみんなで話し合って。言葉自体も康さんは難しい言葉を使ってないから、スッと入ってくると思うんですが、その一つ一つの言葉に、魂が見えるんです。だから、唄うたびに、歌詞を見るたびに、聴くたびに、深いところにグッとくるなぁという印象を受けました。
上間:康さんは最初、都志見さんの書いたメロディを聴いて感動して泣いて、康さんが書いた歌詞を見て都志見さんが泣いて、それが私の手元に来たときに私も泣いて、スタッフも泣いて、レコーディングをしながら泣いて。PVのチェックをしたときも、見終わったあとにみんなシーンとなっちゃったんですよ。で、ひとしきり泣いたあと、改めてチェックしよう!って。言葉一つ一つに魂がある。人間も生まれてくるときは“おぎゃー”って、“生まれたよ!”って泣くじゃないですか。周りの人も泣きますよね。この「ソランジュ」自体も、生まれたときに産声を上げてて、一緒にいた人たちも泣いてて。泣きながら生まれてきた曲っていう感覚がすごくあるんです。今までも自分で書いたり、人に書いてもらったりって、生み出した経験は何度もあるけど、今までにない感覚がこの曲にはあって。だからこそ、早くシングルで聴いてもらいたかったんです。
上間:ホントにそんな感じですね。だからテンションが上がりっ放しでした。去年デビューして、今年はメジャーデビュー2年目なんです。それまではインディーズで動いてて、ギターの人と二人であちこち回ったりしていたんですが、そのときの足並みっていうのはゆったりというか、自分のペースだったんです。でも、自分でしか歩めない範囲っていうのもあって。メジャーになるとチームの人数も増えるし、協力体制もあるし、自分が行きたかった場所にも行けるっていう体制も整っている。人数は増えているのに、みんなの見ている場所、進む場所は同じで、一つのところに向かえているので、すごくいい感じなんです。
上間:私の場合は、民謡をスタートした7歳の頃はぜんぜん方言を知らなかったんです。だから、唄いながら勉強をしたり、先輩に聞いたり、自分で本を広げて勉強をしたりしました。話し言葉と歌言葉っていうのもまた違うものなんですよ。この歌詞は歌言葉なんです。だから、普通に話していても出て来ないような言葉づかいになってるんです。これは曲が先にあったんですが、曲から感じたインスピレーションで出て来たのが方言だったので、ウチナーグチでバーッと一気に書き上げました。
上間:ふふふ…ですよね(笑)。私の周りにはすごく強い芯を持った女性が多いんです。それは私の理想像でもあって。そういう芯のある強い女性が愛しい人を島から送り出すときに、寂しいけれど、私のつとめとして、この島を守ってますから、あなたは行ってらっしゃいっていうイメージなんですね。そういう肝の座った感じがすごく好きで、私の憧れも含めてこういう歌詞にしたんです。
上間:この曲はライヴでも唄っている期間が長かったから、そこで培ったものをレコーディングでもそのままぶつけたっていう感じです。
上間:はい。でも、ライヴでは盛り上がるのも好きだけど、しっとり唄うのも好きなんです。みんながノリノリになってくれたら面白いし、じっくり聴いてくれるのも嬉しいから。
上間:はい。東京と大阪で月に一回ずつ。沖縄民謡は私にとって、ずっと続けていくものでもあり、先輩たちから受け継いで自分が伝えて行くという使命もあるんです。だから、自分で作品として残したり、ライヴで唄って伝えてという他に、直接教えて伝承していくというのも大切なことだと思っています。私の原点ですし、ずっとやっていきたいことなんです。
上間:はい。もともと「ソランジュ」はアルバムの曲として作っていたので、この曲を芯にして、アルバムまで繋がっていったらいいですね。期待していてください!
取材・文●大橋美貴子